
「元トップ娘役」が殺し屋に!?ミュージカル『破果パグァ』観劇レビュー

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
韓国で最もセンセーショナルな反響を呼んだミュージカル『破果パグァ』日本公演開幕!
韓国で最もセンセーショナルな反響を呼んだミュージカル『破果パグァ』。斬新で切なく、そして力強い物語。この舞台の原作は、韓国文学史上、前例のない“60代女性の殺し屋”を主人公に据え、ベストセラーとなった小説『破果』(著:ク・ビョンモさん)。ニューヨークタイムズによる「注目すべき本100選」にも選定され、日本だけではなく世界13ヵ国で翻訳され世界中で読まれる話題作です。
韓国本国では2024年3月に初演を迎え、観客の心を揺さぶる傑作として大きな反響を呼んだ本作の待望の日本公演が、3月7日に新国立劇場・中ホールにて開幕しました。
公開ゲネプロを拝見した観劇レビューと開幕前直前取材でのメッセージをお届けします。
開幕にあたっての意気込みコメント
浦井健治:
明日がいよいよ、日本の初日、初演です。ついに花が咲きます。花總さんの爪角役があまりにも魅力的で・・・
(花總さん:自分のこと言えばいいのにぃ~笑)
本当に袖中で見させていただいている時間は幸せの極みです。ここまで芸歴が長い・・・・
(花總さん:まだ私のこと言うの~笑)
花總さんが新しいチャレンジをここでまたするのか・・と、本当に先輩の大きな大きな背中に、大きな大きな翼が生えている姿を目の当たりにして、我々も精進しなければなと思いつつ、しっかりと食らいついていけるように、明日からお客様に届けられるよう頑張っていきたいと思います。
よろしくお願いいたします。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
花總まり:
ついに明日初日が明けるんだなぁ~ということで、結構ハードな公演なので、どっと今疲れが来てるんですけれども(笑)
明日初日2回公演なので、ここからがスタートだと思って、最後の千秋楽まで誰一人欠けることなく、まずは健康、元気、安全で、お客様に感動をお届けすることができたらいいなと思って、カンパニー一同取り組んでいきたいと思っております。
ぜひ一人でも多くの方に観に来ていただきたいと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
中山優馬:
日本初演ということで、とても貴重な作品だと思います。僕自身はミュージカル経験がそこまで多くないんですが、キャストみなさんの歌、音楽、演奏を聞いているのがとにかく気持ちよくて、感動します。
音楽のパワーや舞台装置、衣装など、五感全てで楽しめる作品になっていると思うので、みなさんをしっかりワクワクさせたいと思います。
熊谷彩春:
いよいよ、初日の幕が上がります。カンパニー全員で支え合い、試行錯誤を繰り返しながら今日まで辿り着きました。
全く新しいスタイルのミュージカルだと感じています。日本初演の本作が皆様の心にどう届くのか、今は緊張と期待が入り混じっています。
お楽しみいただけるよう全力を尽くして、劇場でお待ちしています!
武田真治:
とんでもないものが出来上がりました。これで花總さんが演劇界のショーレースに入らなきゃ嘘だと思います。みなさまには全く新しい物語を体験していただけると思います。
60代の女性が主人公のハードボイルドアクションミュージカル。新しいダークヒーローの誕生に立ち会えて光栄です。
劇場でお待ちしています。
幕開け―静寂の中に宿る、殺し屋の美学
幕が上がると、まず目に飛び込んでくるのは20年前。トウの父親が暗殺される場面の回想から始まります。
薄暗いステージに光の演出がひそやかに灯り、静かで幻想的な空気が客席を包みます。「暗殺者の物語」と聞いて想像していたような、緊迫感や派手な立ち回りとはまるで異なる、とても静かな幕開けです。
その静けさこそが、本作の世界観を象徴していたのかもしれないと振り返ってみて感じます。
続いて、中山優馬さん率いるエージェンシーゼロのシーンへと切り替わります。黒の衣装をまとったキャスト陣が切れ味鋭い群舞を披露し、一気に場の温度が変わります。
その現実離れした疾走感は、まるでアニメの世界をそのまま舞台に落とし込んだような感覚、あるいは、ミュージカルの枠を超えた「ショー」を観ているような、そんな不思議な高揚感を感じました。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
花總まりさん―「娘役トップ」というイメージを超えた、圧巻の爪角
今回の観劇で、最も鮮烈な驚きをもたらしてくれたのが花總まりさんです。宝塚のトップ娘役というイメージのまま観劇した私は、その第一声から良い意味で裏切られました。
爪角を纏う花總さんの声は、想像よりずっと低く、そして凄みがありました。華やかさとは異なる、静かで鋭いカッコよさ。それでいてセンターで歌い上げるソロシーンでは、客席を余すところなく支配する圧倒的な存在感を放ち、流石!の一言でした。歌声は、どちらかというと宝塚の男役を思わせるような力強さがあり、宝塚の男役出身の方ではなく、娘役トップだった花總さんにこの役を託した演出の意図が、とても興味深く感じました。
また、本作では舞台演出に階段が頻繁に登場します。花總さんということもあり、宝塚の大階段を自然と脳裏に浮かべてしまうのは、きっと私だけではなかったと思います。それが偶然か必然かはわかりませんが、花總さんがその階段を駆け上がるたびに、独特の説得力と美しさを感じました。
一方、爪角のシーンは華やかさだけで彩られているわけではありませんでした。特に序盤、年を重ねた爪角が愛犬・無用とともに静かに孤独な日々を送る場面では、プロの暗殺者とは思えないほどの柔らかな空気が漂います。そしてリュウを想う場面では、その強さの裏に隠された深い情愛がにじみ出ています。暗殺者であることを忘れさせるような優しさと、殺し屋としての凄みが同居する爪角というキャラクターを強くそして、儚く体現できるのは、花總さんだからこその説得感なのだと感じました。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
浦井健治さん―スマートさの奥に垣間見える、もう一つの顔
浦井健治さんを生で観るのは今作が2作目。私の中では、どうしても『劇団⭐︎新感線:薔薇とサムライ』での煌びやかなシャルル王子のイメージが先行していましたが、デスノートに続いて本作を観て、あのシャルル王子こそが「異色」だったのかもしれない、と思い始めています。
第1幕では、独特の強烈さよりも洗練されたスマートさが際立ち、落ち着いた存在感で物語を支えていきます。しかし第2幕に入ると、どこかデスノートの「死神リューク」を彷彿とさせるような妖しい翳りが顔を覗かせ、「やっぱり浦井さんだ」と膝を打つ場面がありました。個人的には、浦井さんには強烈なキャラクターを期待してしまうところがあり、第1幕でのスマートさには、少し物足りなさを感じてしまったのも正直な感想です。
観劇が終わってから物語を通してのメッセージを考えると、第1幕の静かなトウも非常に重要だったと感じますが、初見で気づくのはなかなか難しい・・・。

『破果パグァ』オフィシャル
中山優馬さん―若さと鋭さが輝く、エージェンシーの司令塔
中山優馬さんは、言うまでもなくやっぱりカッコいい!!
花總さん、浦井さんが醸し出す渋みや落ち着いた存在感のなかで、中山さん演じるユンが率いるエージェンシーの鋭さと若さが際立って映え、舞台に彩と動きを与えています。舞台全体のバランスのなかで、中山さんが担うエネルギーは非常に重要であり、アンサンブルの皆さんとのキレのあるダンスも必見です。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
武田真治さん―二つの顔を纏う、圧倒的な二役
武田真治さんは、爪角の初恋の相手リュウと、カン博士の二役を演じています。舞台での武田さんを拝見するのは初めてで、最初はそれと気づかなかったほど、役に完全に入っている感じがしました。
リュウは、声も立ち居振る舞いも、全身から滲み出る渋みが際立ち、とにかくカッコいいです。かたやカン博士は、声のトーンから滲み出る誠実さと温もりが印象的で、リュウとは全く異なる人格をみごとに演じ分けています。武田真治さんについても、良い意味で今までのイメージを裏切られた感じがしました。

『破果パグァ』オフィシャル
熊谷彩春さん―若き爪角が宿す、迷いながらの強さ
若い頃の爪角を演じた熊谷彩春さんは、澄んだ歌声でステージに独自の輝きをもたらします。
ソロで歌い上げる場面は、花總さんにも引けを取らない堂々たる存在感があり、舞台を力強く支配します。そして暗殺者として戦うシーンでは、機敏なナイフさばきが映え、カッコよさが際立ちます。
『破果パグァ』オフィシャル
聴きどころ・見どころ
歌をしっかりと聴かせる演出が随所に光る本作。花總さんも浦井さんもソロで歌い上げる楽曲が多く、歌声の力で感情を揺さぶる場面が続きます。ファンには堪らない時間だと思います。
個人的に特に心に残ったのは、トウが爪角への想いをしっとりと歌い上げる「俺をおぼえてるか?」。切なさと温もりが溶け合う一曲でおススメです。
そして見逃せないのが、花總さん×熊谷さんの現在と過去の爪角が交差するデュエットシーンです。二人の声が重なり合う美しい旋律に、思わず息を止めて聴き入ってしまいます。
また、花總さん×浦井さんのデュエットも、短いながらも耳を奪われる濃密な時間です。
対決シーンも本作の大きな見どころのひとつ。
中山さん×浦井さんのシーンは、目にも止まらぬ二人の動きが息を呑む緊張感を生み出します。一方、浦井さん×花總さんの対決シーンはドラマティックな演出が効いており、まるで絵画の中の一場面のような美しさがあります。しかし、一方で二人のダイナミックな対決も観たかったなぁ~とも感じ、意見が分かれるポイントだとも感じました。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
舞台演出―光と空間が生み出す、重層的な物語の世界
光の使い方が全編を通じて秀逸だと感じました。派手さを廃しながら、光の演出が場面の感情を的確に彩っていきます。全体にクールでシンプルな演出が貫かれており、舞台の世界観を静かに支えています。
もうひとつ注目すべきは、階段を活用した二段構成の演出です。二つのシーンを同時進行で見せることで、物語に立体的な奥行きが生まれています。
回想シーンとして爪角やトウが客観的に見ているのか、同じ時間軸で動いているのかを視覚的に理解することが出来ます。ただし、シーンが並列で進む分、初見では状況の把握に少し時間がかかることもありました。
複数回観ることで、その重層的な構造の妙をより深く味わえるのではないかと思います。

撮影:『破果パグァ』オフィシャル
まとめ―強さの裏に宿る、孤独と優しさの物語
爪角、トウ、リュウ、三人が三様の孤独を抱えながら、その強さの奥にひそやかな優しさと他者への想いを宿している物語であり、単純な暗殺者と親を殺された子供の復讐の物語ではない深さがあります。
ストーリ展開としては、場面説明的の様なシーンも多く、小説を映像として観るような感覚を覚える部分もありました。私自信は原作を読まずに観劇したので比較はできませんが、原作を事前に読んでいると、物語の理解がより深まるかもしれないと感じました。
しかしそれ以上に、何度でも劇場に足を運んで、この作品の世界に繰り返し浸ってほしい!と感じた深みのある物語を力のあるキャストの皆さんが演じているミュージカルでした。
ぜひ、劇場で『破果パグァ』の世界を楽しんでください。
(文:松坂柚希)
ミュージカル『破果パグァ』
◻︎翻訳・訳詞
高橋亜子
◻︎演出
一式隆司
◻︎音楽監督
甲斐正人
◻︎出演
花總まり 浦井健治 中山優馬 熊谷彩春
秋野祐香 大泰司桃子 東倫太朗
新井海人 今村心音 コイタ奈央美 下道純一 志村倫生
中西彩加
*蛭薙ありさ 矢澤梨央 *若林佑太 渡部又吁 (五十音順 *スウィング)
武田真治
◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2026年3月7日(土)~23日(日)
会場:新国立劇場 中劇場
【大阪公演】
公演日程:2026年3月27日(金)~29日(日)
会場:梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】
公演日程:2026年4月4日(土)〜5日(日)
会場:久留⽶シティプラザ ザ・グランドホール
□公式サイト
ミュージカル『破果パグァ』公式

