舞台『文豪ストレイドッグス 黒の時代』観劇レビューをお届けします。
『ヤングエース』で連載中、今年の3月には新作映画も公開、7月にパリで行われたJapan Expoでも上映。そしてアニメ第3期の製作も決定している今盛り上がってる『文豪ストレイドッグス』。
舞台版『文ステ』は昨年12月~今年2月に上演された第1弾に引き続き、第2弾は小説版『太宰治と黒の時代』からのアニメ第2期13話~16話のエピソードの舞台化です。
第2弾・・・と言っても前作からの続投メンバーは太宰と乱歩の2人だけ。前作には登場していなかったキャラクターの新キャストを迎え、本編からは4年前、”前日譚”としての物語です。
『生を棄てて逃げ去るのは罪悪だと人は言う。』
恐らく一般的に誤解されやすい点というのは、原作が人気の作品であるからといって舞台化(のみならず実写化)することと、作品の表現に対して演劇と云う媒体が向いているのかは別問題。これは演劇やアニメ、小説のどれが上とか下であるとか優劣があるとかではなく「それぞれの表現手段にとって得手不得手がある」ということ。演劇という手段は最終的には人間の身体そのものに帰結します。
そういう意味では「ファンタジーバトルアクション」であるところの文ストでは、例え映像技術などが発達していたとしても、「どんな異能力者とて人間」ならぬ「どんなにトレーニングして、周りのありとあらゆる技術がものすごく発達したところで結局のところ表現するのは生身の人間」です。
作画・CGや動画の技術が表現し尽くせる限り人間ではできない動きを作り出せるアニメや、読み手の想像力で補填しながら進められ、なおかつ見られたくないシーンの描写を意図的に見せないことが容易な小説などに比べると圧倒的にこの作品を実写で具現化することは容易ではないのでは?と思っていました。ええ、実際に観るまでは。
板の上に乗っている人は、全員観客から視られている。
でもそれを逆手に取る。
舞台上で広がっているのは、まぎれもなく舞台でしかできない「文豪ストレイドッグス」であり「黒の時代」でした。
アナログ×テクノロジー、古典×コンテンポラリーの化学反応
使っている表現自体は古典・それこそ日本の伝統的な演劇表現の積み重ね。
板の上は奥が高くて手前が低い、傾斜ががっつりの『八百屋』舞台。そして中央に回転舞台である『盆』。アンサンブルことストレイドッグスはいるけれどいないものとして扱うシーンはまさに『黒子』。そう、すごく要素的には歌舞伎などで本当に昔から使われているものなんです。乱歩が劇中で見得を切ってるところとかまさにある種歌舞伎的。
が、これだけで終 わらないのがそこは平成も終わりの2018年。ただの黒子じゃ無いコンテンポラリー黒子なストレイドックスは踊る!飛ぶ!踊る!!振付は前作に引き続きコンテンポラリーダンス界の雄・コンドルズメンバーのスズキ拓朗さん。中屋敷演出&スズキ振付は第1弾のみならず他作品でもタッグを組んでますが「人間そんな動きできるのね」といつ観ても驚かされます。
そんな、いやはやアナログ手段強し!であるところに、最新技術・映像のプロジェクションマッピングが加わると一気に舞台の空気が変わります。それぞれの技術を互いにに際立たせ、より効果的に舞台上で魅せる。かたや映像技術で表現していた「異能力」を別のシーンではすごく古典的な方法で表現していたりとどちらか一辺倒に傾くのではなくいい按配で表現。映像・スチールなどの画面越しだと映像優勢なのかな?と見えがちなのでこれに関しては実際に会場でご覧ください!
ーーしかし、日本の文学の考え方は可能性よりも、まず限界の中での深さということを尊び、権威への服従を誠実と考え、一行の嘘も眼の中にはいった煤のように思い、すべてお茶漬趣味である。(織田作之助『可能性の文学』)ーーー
前作にも引き続き、『ハイキュー!!』『半神』など漫画原作の舞台では比較的おなじみとなった演出担当の柿喰う客主宰・中屋敷さんが「演劇的な挑発を」ということを囲みのコメントでも強調されていましたが、その外連味のようなものがあるからこそ「文ステ」が2.5次元舞台である以前に舞台として魅力あるものに仕上がっているといち『文スト』読者である私も膝を打ちます。
『小説を書くことは人間を書くことだ。どう生きて、どう死ぬかを。』
そういえば、舞台美術は、全部小説のページや本の表紙を模したものでした。
小説や戯曲の上に存在する台詞という文字列を舞台上に読み起こせば、それは役者の口から発せられる台詞から人間の会話そのものになる。けれど、小説の地の文や台本のト書きはどうなるのか。
それは情景に、衣装に、キャラクターの出で立ちに、そしてどこにも含まれずどこにも属さないけれど、それらを全てを含んだ空気として観客の前に現れるのです。そして、描かれていない『行間』も。
「黒の時代」の物語に関しては私がここに書くまでもない話です。
ガンアクション、バトルシーン、もちろん見応えあります。ファンタジーと身体表現というのももちろん見どころです。原作より、よりコメディ要素な部分も加わっています。思わず観客も安吾と一緒に後頭部にツッコミ入れたくなるぐらいには。あるシーン、無いシーン、そしてアニメでも小説でも描かれなかった新しいシーンもあります。
でも、あくまでそれは織田作・太宰・安吾の3人が「机上のキャラクターであることを超えて、その空間に生きている人間である」からこその互いの距離感、空気感ありきのもの。
物語と並立して、彼らがまずここに存在しているからこそ成立している話です。
無論、台詞で描かれているところもあります。観客には見えませんがきっとト書きなどで描かれていたところもあるのでしょう。でもそれ以上に描かれていない行間について、織田作役の谷口さんが囲みでコメントされていた
「小説は人間を描くことだ。
演劇も同じで演劇を作ることは人間を作ることだ」
これに全てが集約されていると。
この舞台は一つの『解』であると言えるのではないでしょうか。
舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」撮影:阿久津知宏
もちろん、自分の中で完璧なままで留めておきたいのならば観ないというのも一つの手。作品に対する思い入れというものが強ければ強いほど「作品世界がどうなってるんだろう」「ちゃんと空気感とか出てるのかな・・・」と不安視する意見が出るのも当然です。「知っている」「読んだことがある」からこそのある意味、然るべき反応です。
だからこそ・・・だからこそ!「ちょっと2.5次元って・・・」「実写化ちょっと苦手なんです」と思っている人にこそ観ていただきたいかなと個人的には思っています。
もちろん、楽しみにされている方にも。
『織田君! 君は、よくやった。』
詳細は公式サイトで。
(文・藤田侑加)
舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」
原作:テレビアニメ「文豪ストレイドッグス」
演出:中屋敷法仁
作:御笠ノ忠次
協力:朝霧カフカ・春河35
キャスト
織田作之助:谷口賢志
太宰治:多和田秀弥
坂口安吾:荒木宏文
ジイド:林野健志
森鴎外:窪寺昭
エリス:大渕野々花
広津柳浪:加藤ひろたか
種田山頭火:熊野利哉
江戸川乱歩:長江崚行
2018年9月22日(土)~10月8日(月・祝)/東京・サンシャイン劇場
2018年10月13日(土)~10月14日(日)/大阪・森ノ宮ピロティホール
(c)舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」製作委員会
公式サイト
舞台「文豪ストレイドッグス 黒の時代」