
【インタビュー】劇団Q+第10回本公演『リア!リア!リア!』佐乃美千子(客演)×淺場万矢(客演) ×柳本順也( 劇団Q+主宰/演出) 座談会
劇団Q+第10回本公演『リア!リア!リア!』座談会風景
左から、淺場万矢、佐乃美千子、柳本順也
劇団Q+第10回本公演 『リア!リア!リア!』が6月4日から東京・新宿シアタートップスで上演される。
【あらすじ】
窓のない部屋で暮らす、絵本作家のマリア。
彼女は同居する姑や妹たちの世話をしながら、夜な夜なひとりで絵本を描き続けている。
心の支えは、一年前に仕事へ出かけたまま戻らない夫の帰りを待つこと。
しかし、外は激しい嵐が吹き荒れ、彼女の心にも不安が渦巻く。
そんなある日、突如として現れた見知らぬ人物たち。
夫の関係者だという彼らがもたらす秘密が、マリアの心を揺さぶり、彼女の運命を翻弄していく――。
上演に先駆け、客演の佐乃美千子と淺場万矢、劇団Q+主宰の柳本順也による座談会が実現。役者として、劇団の主宰として、常日頃感じていることや大切にしていることなどを語ってもらった。(敬称略)
「孤独を愛する」ということ
――劇団の主宰や俳優として活動する中で、「孤独だな」と感じることはありますか。
柳本 人それぞれだとは思うけれど、組織とか会社とか、トップにいる人は基本的に孤独なものだと思うんですよ。かつて知り合いの社長から、「まず孤独を愛したほうがいいよ」と言われたことがあるんですけど、今となってはすごくわかります。どんなに仲間がいて一緒にやっていても、最終的な判断をして責任を取るのはトップなので、結果として孤独になってしまうものなのだなと。
佐乃 トップではないけれど、俳優業をしているときに私は孤独を感じます。この役をどうにかこうにか出来るのは私だけだから、なんて考えちゃって。私も主宰をするんですけど、不思議と主宰の時に孤独を感じることはあまりなくて。たぶん私の周りには、私より優秀だったり、面白い人が多いんです。だから、私はすぐ、「力を貸して下さい!」って声に出すようにしてます。そうすると、手を挙げてくれたり、「じゃあ」って腰を上げてくれる。常日頃、人を信じて頼るのも大切だなって思っています。私にはその方が楽なんです。
柳本 助けを求められるかどうかは、元々の性格にもよる感じがしますけどね。
淺場 私は性格的に頼るのが下手なタイプで、この間も「孤独すぎてつらい」と泣いたりしたんですけど…(苦笑)。やりたいことはたくさんあって、「こうありたい!」みたいな目標もあるけれども、みんなが同じ思いだとは限らないと思うと、私の思いを求めすぎるのも違うのではないかという葛藤とかが結構あるんですよね。その結果、お金の計算とか各所へのやりとりとか、やらないといけないことは山ほどあって忙しいけれども、「でもまだ誰かに頼ることはできないな」と思ってしまって。主宰しているOffice8次元は今、構成員が増えた段階なのですが、作品を一緒につくるにあたって、私の価値観への共感の得方や情報共有の方法をもっと丁寧に進めていかないといけないなと思いつつも、タスクがいっぱいあるので、どれを優先的にやったらいいのか…戦いの日々です。
佐乃 最終的な判断は私だけど、他人の仕事ってやっぱり自分とは違うところが面白いから、私はすぐ「やってくれる?」って聞いちゃう。
淺場 助けの求め方がすごくお上手そうですよね。教えてほしい。
柳本 今までひとりでやってきたことと同じクオリティーを求めたうえで誰かに頼むって、最初は勇気のいるものだよね。頼んだ以上は、その人が出してきたものが自分が思っているより成果の低いものだった時に、「結局自分でやったほうが良かった」と思ってしまったらジレンマになるから。そういう思いにならない相手に本当の意味で任せられるようになると、それを当たり前として自分は自分の仕事をやろうという思考に変わるんだけど、そこに行くまではわりと大変だと思う。
佐乃 (柳本と淺場)2人は同じタイプですね。
柳本 でも僕より圧倒的に大変だと思う。プレイヤーでありながら、プロデュース業もやっていますよね?
淺場 そうですね。
柳本 だから、どこかは誰かに任せる、ということを作品によって上手い具合にできるといいのかもしれないですね。
淺場 どういうふうに作品をつくっていきたいのか、それによってスタッフィングを考えることは大事だなと思いましたし、「孤独を愛する」って良い言葉だなと。孤独はつらいものだと思っていましたけど、愛していこうかなという気持ちになりました。素晴らしい助言、ありがとうございます。
――柳本さんに伺いたいのですが、作品をつくる上で大切にしていること、心がけていることはありますか。
柳本 劇団Q+は社会人劇団としてスタートしているので、つくりたい作品があるというより、やりたい人達と何をするかという思考だったんです。ここ最近、俳優部と社会人部というふうに役割をわけて、その時々でメンバーを変えて公演するというスタンスになっていますが、それ以前は基本的に出演者は固定で、その人達がどういう性質でどういう役に合うのか合わないのかが関係なく存在していたんです。「今いる人達で最高の作品をつくるには、どうしたら良いのか」というのを楽しみたいという感覚はずっとあるかなと思いますね。
あとは場をつくるのが好きなので、出て行きたい人は出て行けばいいと思っているし、来た人とは一緒に遊んで、集まったメンバーでどうするかというのをずっとやっている感覚なんです。お客さんも巻き込んで、「一緒に楽しい経験をしませんか?」みたいな。
淺場 柳本さんは、劇団が先にあったうえで演出家になられているので、レアなパターンですよね。
柳本 そうかもしれないですね。だからこそ、役者ひとりひとりが持つ葛藤だったり衝動だったりユーモアだったりというのを丁寧にすくい上げていきたいし、お客さんにそれを共有したいというかね。こちらがお客さんに何かと見せるというよりは、お客さんと一緒にこの場を共有して、お互いを肯定してあげたいという感覚に近いというか。言葉にすると難しいですが、とにかく、やっている側のことも観ている側のことも肯定してあげたいんです。
淺場 とても愛情深いなと思います。
「あなたはひとりじゃないよ」と言える空間に
――今回の作品には“嵐”が登場しますが、それは、「目に見えない困難」や「悲しみ」などの暗喩でもあると思います。そういうものに対して、演劇や芸術を通して提供できるメッセージはどのようなことだと考えていらっしゃいますか。
淺場 私は少年院や刑務所で慰問公演を行うことがあるんですけど、公演後に感想文をいただくんですね。それを読むと、ちょっとした家庭環境の違いとか、自分が思っている人生ではなくなってしまったことへの悲しみとかによって、ふいに犯罪者側に立ってしまった人が結構いるんだなと思うんです。どうしても、もともと性根が悪いみたいなイメージを持ってしまいがちだったんですけど、実際に少年院や刑務所で舞台に立ってみると、泣きながら観てくれる人とかもいて、「この人はどうして罪を犯してしまったんだろう」と心が痛むことも多くて。だからこそ、「世の中がバックアップできることは何かないのかな」ということをずっと考えながら芝居をやっているし、自分が10代の頃、演出家に激しく怒鳴られて何も出来なくなってしまった経験があるからこそ、なるべく「イエス」と言うことを大切に演出をしていくことは心がけています。その人に合う演技方法を探して、マイナスをマイナスにしないというのは大事にしたいことですね。
佐乃 私も、「あなたはひとりじゃないよ」と言ってあげることは大事かなと思っています。苦しみって人それぞれ持っているもので、現実世界ではすごく共有しづらいものという前提があると私は思っているんですね。だけど演劇という媒体であれば、「ひとりじゃないよ」と言ってあげられるし、名前がつけられないような感情的な何かに寄り添ってあげられるのではないかなと思っています。
柳本 世の中にはいろんな人がいて、2人がおっしゃってくれたように、苦しんでいたり、うまくいかなくてもがいている人がたくさんいるけれども、生きていれば悲しいことがあるなんて当たり前なわけですよ。それが人生なんで。でもそういう感情は直接言いにくいし、恥ずかしいとも思うかもしれないけれど、「大丈夫だよ」と肯定してあげられるのが演劇かなと思います。先ほども少し話したように、僕は観に来てくれたお客さんとそういう思いを共有したい。苦しくて外れたいと思うならそれでいいし、一緒にいたいならいればいいんだよ、という空間であること。そして、そういう感情を共有できれば演劇の役割は十分ではないかと思います。
本作は、6月4日(水)〜6月8日(日)まで、新宿シアタートップスにて上演されます。
公演の詳細は公式HPで!
https://www.gekidan-q.com/nextstage/
(文:越前葵)
劇団Q+第10回本公演
『リア!リア!リア!』
【作】弓月玲
【演出】柳本順也
【出演】
柳本璃音、佳乃香澄、北澤小夜子、藤咲優希、河本百華
佐乃美千子、淺場万矢
宮坂公子、塩入慶音、小鹿原睦実、鈴木貴大、明里多香世、夢叶、加藤史枝、笹良まゆ、神野紗瑛子、松崎貴浩、吉井翔子
【日程】
2025年6月4日(水)〜6月8日(日)/新宿シアタートップス
https://www.honda-geki.com/tops
※一部ダブルキャスト
A(Team Anima)/N(Team Nocturne)
2025年
6月4日(水)A 19:00
6月5日(木)N 19:00
6月6日(金)A 14:00/N 19:00
6月7日(土)N 13:00/A 18:00
6月8日(日)A 12:30/N 16:30
公式サイト
https://www.gekidan-q.com/nextstage/
チケットのお申し込みはこちら!
https://j-stage-i.jp/Q/