人生は賭けの連続。運命の女神が見せる、夢の先は。ミュージカル『ガイズ&ドールズ』観劇レビュー
ミュージカル『ガイズ&ドールズ』人生は賭けの連続。運命の女神が見せる、夢の先は。ミュージカル『ガイズ&ドールズ』観劇レビュー「映画を観ているみたい!」
開幕早々、私が抱いた感想です。舞台なのに、映画みたい。まずオープニング映像がフィルム映画のようでオシャレなのですが、その先も、確かに圧巻のパフォーマンスが行われているのに、良い意味で重厚すぎず、身構えなくてもスッと馴染んでくるクラシカルさ。気がついたらもう目の前は、人々の活気で溢れる1930年代のNYの街並み。
井上芳雄&浦井健治
物語は、“空に届くほどの高値を賭ける男”ゆえに“スカイ“と呼ばれる超大物ギャンブラー(井上芳雄)が賭博仲間のネイサン(浦井健治)から賭けを申し込まれるところから一気に動き出します。
日々、クラップゲーム(※サイコロ2つの出目を競うゲーム)に明け暮れるネイサンは、次の賭博代と自分の婚約者に渡すプレゼント代を必要とし、スカイから賭けで資金を得ようと計画。「どうしようもなさすぎる!」という私の心の声は置いておいて…(苦笑)、ネイサンが提案した賭け、それはーー。
“今から指名する女を、明日までに落とせ”
プレイボーイのスカイは、その賭けに自信ありげにのります。が、ターゲットとなったのは、清楚で堅物な救世軍のサラ(明日海りお)。美しい歌声と朗らかな微笑みを浮かべて歩く姿は聖母のようで、ふわっと周りの空気を変える不思議な魅力を感じます。つまり、どう見てもギャンブルとは無縁の女性。「これは確実に勝った」とばかりに嬉しそうにニヤニヤと笑うネイサンと、予想外の指名に目を丸くするスカイの対比も面白く、大きなドラマが始まるであろうとドキドキします。
井上芳雄&明日海りお
指名通り、サラの伝道所を訪れ、彼女をどうにか食事に誘おうと巧みに口説くスカイ。その言葉選びに、彼の経験豊富さと頭の良さ、そしてスマートな大人の余裕が感じられて本当に危険だなと(笑)。最初は救済を求めてやってきたのだと信じていたサラも、だんだんと彼の異変に気がつき始め、強引な誘いをしなやかにかわしていきます。まったく違う世界で生きてきた2人の運命的な出会いは、観客をハラハラドキドキさせる化学反応を起こしていきます。物腰柔らかなスカイと、凜とした雰囲気のサラ。この凸凹感も、なんだかキュン!
浦井健治&望海風斗
そして、カップルといえばもう1組。ネイサンと、その恋人・アデレイド。彼女はナイトクラブの看板ダンサーですが、なんとネイサンに14年間も結婚をじらされ中。演じるのは昨年の4月に宝塚歌劇団を退団したばかりの望海風斗さん。在団中はどちらかと言えばギャンブラー方面で大活躍だった方なので、そこからのアデレイドはコケティッシュさの刺激が結構強めかも。宝塚時代を知るみなさま、頑張ってください(笑)。
とにかくアデレイドはネイサンのことが大好き。「クラップゲームはもうやめて!」と言いつつも、自由奔放に生きるネイサンが彼女は好きなのだろうし、どんなに彼に翻弄されても、負けずに我が道を突き進む姿が素敵。なんならネイサンのほうがアデレイドにうまく転がされて戸惑っているように見えるのも、このカップルの可愛らしいところ。
演者の持ち味が素晴らしく発揮された作品は数多くありますが、本作は特に役と演者が嬉しくなるほどマッチしているなと感じます。
井上芳雄
井上芳雄さんの独特の包容力と紳士感。サラへのストーカーまがいのアプローチも軽やかな身のこなしでむしろクスっと笑えてしまうし、ネイサンに見せるイタズラっぽい顔は、わかる人にはわかるいつもの井上・浦井コンビという感じでエモーショナル。
浦井健治
演じようによってはだいぶヤバイ奴になりかねないネイサンですが、浦井健治さんの無邪気な魅力が遺憾なく発揮され、顔の表情が豊かで愛嬌もあって、悔しいほどに憎めない。結婚する勇気はないけれど、アデレイドのことは本当に大切な存在だということが随所で伝わってきます。
明日海りお
明日海りおさんは、ギャップの塊。上品なたたずまいはもちろん、お酒を飲んでしまったあとの弾けっぷりもまたいい。といいますか、酔っ払ったお芝居が上手すぎてビックリ(笑)。可愛らしさの中にたまに覗くハンサムさが、明日海さんらしくて最高です。
望海風斗
望海風斗さんは、アデレイドによってコメディセンスが大爆発。一番笑いをかっさらい、観客をメロメロにしていたと思います。プリプリと歩く姿もベリーキュート!そして、望海・明日海といえば、宝塚歌劇団の同期で、音楽学校予科生時代の同室、退団時「生まれ変わってもまた一緒にやろう(要約)」と誓った盟友。この2人が再び舞台に立ち、息ピッタリの掛け合いを見せてくださるなんて…(涙)。感激です。
田代万里夫&木内健人&竹内將人
そのほかにも、田代万里夫さん演じる、いつもナイスなナイスリー・ナイスリー・ジョンソンは、明るい笑顔とちょっと脳天気な感じが魅力的。出演作を観るたびに全然別人な田代さん、本当に多彩な方です。そして、食べ物をモグモグしながらの話し方が可愛すぎるので要注目(笑)。
ソロはもちろん、ラスティー役の木内健人さん、ベニー役の竹内將人さんとのトリオでのナンバーもかなり印象的で、ただでさえ帰り道につい口ずさみたくなるインパクト大のナンバーばかりの中で、重要な名場面を多く担当していたと思います。
石井一孝&瀬下尚人
井上芳雄、明日海りお ほか
石井一孝さんが演じるブラニガン警部は、登場するだけでピリッと緊張が走るような出で立ちなのに、ナイスリーの曲に合わせて案外ノリノリで歌ったりしていて、1度見たら気になってしまうキャラクターの1人ですし、後見人としてサラを見守る、林あきらさん演じるアーヴァイドの優しくも伸びやかな歌声に引き込まれ…など、とにかく盛りだくさん!時間が足りないので泣く泣くこの辺にしておきますが、本当は全キャストを細かく語りつくしたいくらいです。
井上芳雄 ほか
ひと場面ひと場面がとにかく華やかでアクロバティック。セット転換もオシャレな工夫が多く、ただの物語ではなく、その場所に実際に生きている人々を観ているのではないかと思うほど、自然でリアルな街の演出。何度観ても新たな発見がありそうな気がします。
井上芳雄&明日海りお、浦井健治&望海風斗
さて、お話を物語に戻して、スカイとサラのデートの行方、14年間婚約したままのネイサンとアデレイド。この2組のカップルの運命がどう転ぶのか、言いたい、言いたくてたまらないけれど、そこはぜひ劇場でドキドキしながら笑いながら見守ってほしいと思います!
井上芳雄&浦井健治 ほか
人生はある意味、賭けの連続。私たちも日々、いろんな選択をして生きています。そしてその1つの選択が、大きく人生を変えることがある。いいことばかりとは限らないけれど、そのスリルを少しは楽しんでみてもいいんじゃない?というメッセージを、受け取った気がします。“求めよさらば与えられん”
本作は、帝国劇場にて上演中。7月9日(土)まで上演された後、福岡・博多座でも上演されます。
詳細は公式サイトで!
(文:越前葵)
舞台『ガイズ&ドールズ』
原作:デイモン・ラニヨン
音楽・作詞:フランク・レッサー
脚本:ジョー・スワリング、エイブ・バロウズ
訳詞・日本語台本:植田景子
演出:マイケル・アーデン
振付:エイマン・フォーリー
出演:
スカイ・マスターソン:井上芳雄
サラ・ブラウン:明日海りお
ネイサン・デトロイト:浦井健治
ミス・アデレイド:望海風斗
ナイスリー・ナイスリー・ジョンソン:田代万里生
ベニー・サウスストリート:竹内將人
ラスティー・チャーリー:木内健人
ハリー・ザ・ホース:友石竜也
ビッグ・ジューリ:瀬下尚人
カートライト将軍:未沙のえる
アーバイド・アバーナシー:林アキラ
ブラニガン警部:石井一孝
青山航士、荒川湧太、井上真由子、岡田治己、伽藍琳、輝生かなで、工藤広夢、後藤裕磨、酒井航、塩川ちひろ、篠本りの、シュート・チェン、鈴木万祐子、富田亜希、中嶋紗希、永松樹、焙煎功一、橋田康、福永悠二、藤森蓮華、本田大河、Macoto、松島蘭、松田未莉亜、吉田彩美、米澤賢人、茶谷健太
2022年6月9日(木)~7月9日(土)/東京・帝国劇場
2022年7月16日(土)~29日(金)/福岡・博多座
公式サイト
https://www.tohostage.com/guys_and_dolls/
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