舞台『あのよこのよ』

SUPER EIGHT安田章大主演舞台『あのよこのよ』観劇レビュー!

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

舞台の満開の桜と、舞い散る桜吹雪を見ながら「亡くなった大切な人」に思いを馳せ「今を生きている」ことについて改めて考えました。丁度、観劇した日が遅めの桜がやっと咲いたかと思ったら、既に散りゆく時期でもありリアルと物語が重なり、より心に残る舞台となりました。

まず、冒頭シーン。軽快で賑やかで奇妙な音楽、何ともぞわつく残酷さ、ユーモラスさが混雑した世界観と主演の安田章大さんの全力の演技に引き込まれました。

私は今まで、安田さんの舞台はほぼ全部観劇していますが、個人的には1番わかりやすく面白かった舞台だと感じました。作・演出が青木豪さんなので内容は一筋縄ではいかず一癖も二癖もありますが(笑)先が読めない展開が次々と起こり、色々と思いを巡らせるのが楽しく、自然と物語に入り込めました。そして、最後全てのつじつまが合い、タイトルの「あのよこのよ」が繋がった時、何とも言えず自然と涙がつたいました。

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

作品自体は難しいことを考えずに楽しめますが
「あのよこのよ」と言うタイトル通り、物語は「このよ」と「あのよ」が交錯し進んでいきます。「何が今で、何が今じゃないのか?」「何が本当で、何が本当じゃないのか…?」と色々なことを考えさせられました。ユーモアが散りばめられ、ファンタジーとコメディが融合した切なくも温かい不思議な世界でした。そして、ふわふわする部分もありながら、サイコで過激、切れ味鋭いダークで毒のある風刺が描かれており、青木さんらしさを感じました。アングラと大衆演劇の良いとこどりのような作品でした。

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

安田さんはもちろんのこと、魅力的な役者さんが多く登場されていますのでご紹介しますね!
まずは安田さん演じる主人公の浮世絵師 刺爪秋斎が立ち寄った居酒屋の亭主 又一郎(村木仁)と妹・フサ(池谷のぶえ)の存在。村木さんと池谷さんお2人の軽妙なやりとりが人情味があって物語全体の雰囲気を温めているようでした。そして、最も印象的だったのが、この兄妹の亡くなった父ロクさん(市川しんぺー)。幽霊の浮かばれない気持ち、心情を切なくもユーモラスいっぱいに演じられていて、娘との気を遣わない親子の会話や、やりとりを観ていると私も亡くなった父のことを思い出しました。そして、劇中、何度も「会いたいなぁ」と思いました。私の父は急病で亡くなったのでフサさんのお父さんと同じように「死ぬつもりが無く亡くなっていて、もしかしたら死んだ感覚がないまま彷徨っていたりするかな?私たちを心配して近くにまだいるのかな?」と考えたりもしました。裸足でペタペタ歩く頼りない後ろ姿だったり、子どもを思う親の気持ちに胸が締め付けられました。

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

舞台ステージは作り込まれたところと、良い意味でチープな部分もあり吉本新喜劇さを感じました。例えば、血しぶきの演出など、リアルに描くとグロテスクな表現になる部分も「痛快コメディ」とあるように残酷な部分もコメディらしさが残るような魅せ方で、苦手な方も毛嫌いせずに観れるのではないかと思います。また、PARCO劇場の客席は傾斜があり舞台が見やすく、ストレスなく観劇できました。

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

安田さんは今作に関するインタビューで、「板の上で死んでも良いと思ってる」と仰っていましたが、その通り、舞台上では全力で歌い踊る姿が印象的でした。そのスタンスは昔からだと考えられますが、今回はそれに加え、激しい殺陣のシーンが何度もあり、跳んだり跳ねたり走り回ったりと…大病や手術を経験したとは思えぬアクロバティックな姿に驚かされました。
もしかすると、役者 安田章大の演技には、やや熱苦しさや、力みを感じる部分もあるかもしれません。(今回の役がせっかちで勇み足である部分もあるので)しかし、その姿や言葉からは「全力で生きている」「生」のエネルギーを感じるのです!劇中「俺の生き死には俺が決める!」という台詞がありましたが、大病や大手術を経験し「今を生きる」安田章大だからこそ演じられる役、伝えられる言葉なのではないかと感じました。

今回の脚本は青木さんが安田さん主演で当て書きされたオリジナル作品なだけあり、台詞やお芝居は安田さんの良さが存分に活かされている内容でした。安田さんの人間臭い部分と人情溢れる「痛快コメディ」の相性は抜群で、ご本人が好きだと仰る「においのあるお芝居」を体現されていました。また、アーティスティックでクリエイターな部分も浮世絵師という役柄にぴったりで、印象的な衣装やアイテムを着こなしていました。

また、青木さんが脚本を書く際に安田さんの健康(目からの光の刺激)を気遣い、色眼鏡を使う設定を考えて下さったことには、末永く板の上で生き続ける「役者 安田章大」を見続けたい身としては感謝を述べたいです。健康に配慮しながらも彼の個性を活かした今回の役柄は流石としか言いようがありませんでした。(安田さん特別アイテムである「色眼鏡」は物語で大きな意味を持ってきますので是非ご注目下さい。)

舞台『あのよこのよ』舞台『あのよこのよ』撮影:田中亜紀

余談ですが、観劇した4月15日は私の故郷である熊本を2度も襲った熊本地震の中日でした。沢山の方が突然この世を去り、残された人も大きな悲しみに暮れたその日にこの舞台を観たことに、何かの「縁」を感じました。今を生きたくても生きられなかった人の分まで私も今日を精一杯生きようと改めて決意しました。

文明開花の音がする明治初期の混沌とした時代。新しい時代の幕開けに喜びや迷い、不安と様々な思いを持ちながら懸命に生きる人々の姿は、令和の過渡期にいる現代の私たちにも通じる部分があります。ぜひ、「生」の舞台に出会い、感じて下さい!

(文:あかね渉

公演情報

舞台『あのよこのよ』

【作・演出】青木豪

【出演】安田章大
潤花 池谷のぶえ 落合モトキ 大窪人衛 村木仁 南誉士広 三浦拓真 川島弘之 益川和久 岩崎祐也 鈴木幸二 
市川しんぺー 中村梅雀

【日程】
2024年4月8日(月) ~ 4月29日(月祝)
東京・PARCO劇場

2024年5月3日(金祝) ~ 5月10日(金)
大阪・東大阪市文化創造館 Dream House 大ホール

公式サイト
https://stage.parco.jp/program/anoyokonoyo

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