劇団桟敷童子『オバケの太陽』

清濁併せ呑んで咲き誇るひまわりの美しさ/劇団桟敷童子『オバケの太陽』観劇レビュー

劇団桟敷童子『オバケの太陽』
舞台写真 撮影:梶原慎一 提供:劇団桟敷童子

「炭鉱三部作」の第一弾

結成16年、中堅劇団の集団力を試す挑戦が今月から始まった。「炭鉱三部作」と題して、12月まで連続して再演する試み。3作品は別々に発表されたが、2人の姉と弟・ハジメの物語という点で共通している。10月の第一弾は、2011年の『オバケの太陽』。両親を亡くして大人になった元(ハジメ)と、彼と同じ境遇の少年・範一とのひと夏の出会いと別れの物語だ。

桟敷童子は民話・伝説に材を採った物語、人力で駆動し展開する巨大なセットなど、スケールの大きさが魅力だ。劇団主宰者である東憲司の故郷・筑豊を舞台にした作品が3作連なることで、年代記のようなより壮大な世界観が出体することだろう。劇団の持ち味を体感するには絶好の機会となる。

舞台を彩るもう一人の主人公

劇団桟敷童子「オバケの太陽」
舞台写真 撮影:梶原慎一 提供:劇団桟敷童子

本作の舞台を文字通り彩る美術はひまわりだ。倉庫を改装して造られた広い劇場空間には、舞台前面はもちろんのこと、客席側の壁まで無数のひまわりが咲き乱れる。1970年代、石炭から石油へと変化するエネルギー政策とは対照的に、変わることなく温かくおおらかに咲き誇るひまわり。かつて石炭産業で賑わった町の盛衰を見守り続けるひまわりは、もう一人の主人公だ。そこには、人間の苦しみや悲しみの結晶と語られる、石炭を採掘した炭鉱労働者と家族の想いが凝縮されている。

ひまわりを介して交流する元と範一は、今となっては忘れ去られた者たちの象徴として描かれる。池下重大が演じる朴訥な元と、終始首をかしげながら珍妙に語る大手忍による範一。似たもの同士の二人が時におかしくやりとりしながら進む劇展開から、歴史に埋もれた存在と時代が浮かび上がる。

ひまわりに託したメッセージ

劇団桟敷童子「オバケの太陽」
舞台写真 撮影:梶原慎一 提供:劇団桟敷童子

劇中、ひまわりは毒を吸収するという旨の台詞がある。震災から3ヵ月後の初演当時、放射能で汚染された土壌にひまわりが有効、という話を思い出しながら観劇した。確かに、時代の推移に伴って打ち捨てられる人々が出てくるのは止められない。しかし、それに抗ったり受け入れていく人間を通して、忘却してはならない人と人の絆の重要性が手渡される。

清濁併せ呑みながら、変わることなく太陽に向かって咲き誇るひまわりの美しさ。この姿から観る者が様々なイメージを喚起させられたからこそ、震災後においては生への希望を感じさせられたのだ。

あの日から時が経った現在では、復興に名を借りた国土強靭化と新安保法制といった、再び「強い」国を目指して諸個人を置き去りにして突き進む時代への静かな抵抗のように感じられた。

他にも、効果的に差し挟まれる音楽や、大量に降り注ぐ黄色い花吹雪、そしてラストに登場する巨大な機関車など、演劇ならではの仕掛けが詰まっていた。

劇団桟敷童子「オバケの太陽」
舞台写真 撮影:梶原慎一 提供:劇団桟敷童子

この後、11月の『泥花』、12月の『泳ぐ機関車』と上演は続いていく。『泥花』は1950年代を舞台にし、父の死と姉弟の少年時代にスポットを当てた物語だ。戦後史の一断面を垣間見られることを期待して、来月も足を運びたい。

劇団桟敷童子 公式サイト

(文:藤原央登

公演情報

劇団桟敷童子『オバケの太陽』
【作】サジキドウジ 【演出】東憲司 【美術】塵芥

【出演】
池下重大 板垣桃子 原口健太郎 稲葉能敬 鈴木めぐみ 外山博美 川原洋子 桑原勝行 山本あさみ もりちえ 新井結香
椎名りお 大手忍 深津紀暁 升田茂石黒光(演劇集団円) 尾身美詞(劇団青年座)

2015年10月23日(金)~30日(金)/すみだパークスタジオ(倉)

劇団桟敷童子 公式サイト

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