4人で繰り広げる珠玉の韓国ミュージカル『ラフヘスト〜残されたもの〜』開幕直前取材&観劇レビュー
ミュージカル『ラフヘスト』製作委員会【撮影:オノデラカズオ】
2024年第8回韓国ミュージカルアワードで作品賞、脚本賞、音楽賞の主要3部門を総なめにした作品!韓国の物語は目を引く個性的なキャラクターと奇想天外なストーリーも多いですが、今作は静かな中に誰もが感じたことのある人間の様々な熱い感情や淡い思い出を辿るような作品でした。
今作はエッセイスト、評論家、西洋画家であり、京城(現在のソウル)、東京、パリ、ニューヨークと世界中を舞台に、1930年代を生きたキム・ヒャンアンの人生に基づいて描いたオリジナル・ミュージカルです!韓国を代表する芸術家と称された詩人イ・サンと韓国抽象美術の先駆者キム・ファンギ。この二人を夫に持った彼女の人生を辿りながら、誰かと出会い、恋をし、愛し合い、人生を共にし、泣き笑い、全力で生きた時間や記憶を共に感じることができます。劇中に“Les gens partent mais l’art reste ~人は去っても芸術は残り”という印象的な台詞が出てきますが、今作のテーマやメッセージが詰め込まれているように感じました。
芸術とは、時代を超えて誰かが残した記憶であり、作品はその時の感情や感動を形にし残したもの。もし、作品に共感し共鳴するのであれば「誰かが生きた記憶」を感じているのかもしれなと思いました。
ミュージカル『ラフヘスト』制作委員会【撮影:オノデラカズオ】
主演には数々のミュージカルや舞台経験豊富なソニンさんがヒャンアン役で初めて韓国ミュージカルに出演され、今回は俳優だけでなく、訳詞にも挑まれています!ヒャンアンの夫 ファンギ役にはダンスボーカルユニットLeadで活動し、様々なミュージカル作品にも出演する古屋敬多さん。
詩人のイ・サン役を、ミュージカルで活躍する相葉裕樹さんが、イ・サンと恋に落ちる若き日のヒャンアンを山口乃々華さんが演じます。
本作はbelle wavesシリーズの作品で、舞台作品のもつ言葉、音楽、身体の美しさを体験する波を広げることを目指してavex live creative とconSeptが共同企画するプロジェクトです。
ミュージカル『ラフヘスト』制作委員会【撮影:オノデラカズオ】
役者4人とシンプルな舞台セットでありながら、物足りなさを感じない充実感を得られたのは、その4人の役者が紡ぐ言葉と空気感が素晴らしく心地よく伝わってきたからだと考えられます。
まず、冒頭のソニンさんの存在感と温かくも芯の強さを感じる歌声にすぐに引き込まれ、物語の世界に誘われました。のちの夫になるイ・サン、キム・ファンギとの出会いやお互い惹かれあう過程が丁寧に描かれており、好感が持てる内容でした。読んでいる小説から二人が意気投合し一気に距離が縮んでいく様子、初々しくもじれったい散歩デート。わくわくする瞬間がありながらも不安になったり、文通で心を通わせたり、心を紐解いて言葉にして伝える様子など、ソニンさんが開幕直前取材で「(今作は)人生の楽しかったこと、苦しかったこと、時間を体現し、自分の中に投影できる作品」と仰っていた通り、私自身も自分の中に残る思い出と物語をリンクさせられるような瞬間があり、なんともノスタルジックな気持ちになりました。
ソニンさんは訳詞として今作に関わっているとのことで、取材の際「作詞をするときは苦労というよりは、楽しくて仕方なかった!自分の訳詞を実際に歌ってくれて嬉しかった。また、音楽と言葉、語感について考えられるようになった。」と仰っており、作詞家としての一面をのぞかせていました。
芸術家ファンギ役の古屋敬多さんは爽やかなルックスと伸びやかな歌声、情熱的でありながらも温かな人柄が役柄にぴったりでした。
ミュージカル『ラフヘスト』制作委員会【撮影:オノデラカズオ】
イ・サン役の相葉裕樹さんは自由ながらも詩人らしいアプローチや告白は独特の魅力があり、実力のある演技と歌声で演じられていました。
若き日のヒャンアンを演じた山口乃々華さんは弾むような歌声とはつらつさがあり、不安な中でも、愛する人と一緒にいたいという気持ちで一歩踏み出すパワー溢れる姿が印象的でした。
ミュージカル『ラフヘスト』制作委員会【撮影:オノデラカズオ】
直前の取材会でも4人の仲の良さや信頼関係が築かれている様子が伝わってきて、それぞれの恋人同士のシーンが多かったのですが、二人でいるだけで毎日が彩られ、二人でキラキラした夢を語り、満ち溢れるようシーンは特に素敵でした。
また、台詞で「感嘆符」や「疑問符」が出てきたり、独特の言葉回しや言葉あそびがあり、心に残る台詞がいくつもありました。
4人が魅せる芸術的で温かな世界をぜひ劇場でお楽しみください。
(文:あかね渉)
ミュージカル『ラフヘスト』
【演出】稲葉賀恵
【日本語上演台本】オノマリコ
【訳詞】オノマリコ、ソニン
【翻訳】宋元燮
【音楽監督】落合崇史
【美術】香坂奈奈
【照明】松本大介
【衣裳】半田悦子
【音響】岡田 悠
【ヘアメイク】高村マドカ
【振付・ステージング】平原慎太郎
【歌唱指導】今泉りえ
【演出助手】藤倉梓
【舞台監督】竹内彩、弘中勲
【出演】
ソニン / キム・ヒャンアン役
古屋敬多 / キム・ファンギ役
相葉裕樹 / イ・サン役
山口乃々華 / ピョン・トンリム役
2024年7月18日(木)~28日(日) /東京・東京芸術劇場シアターイースト
※ チケット好評を受け、期間限定アーカイブ配信・完全受注生産にてDVD化も決定!
アーカイブ配信期間
2024年7月28日(日)15:00 ~ 2024年8月4日(日)22:00