
圧巻の二役演技と心震える音楽ーミュージカル『フランケンシュタイン』囲み取材レポート&観劇レビュー
ミュージカル『フランケンシュタイン』が、4月10日(木)、東京建物 Brillia HALLにてついに初日を迎えました。
本作は、韓国で2014年に初演されて以来10周年を迎える人気作であり、韓国ミュージカル界を代表するヒット作のひとつ。日本では2017年に初演され、全キャストが一人二役を演じるというトリッキーな演劇的作劇に加え、壮大かつスピード感溢れる衝撃的なストーリーが大きな反響を呼びました。2020年に再演され、今回が日本では3度目の上演となります。
今回は、初演から続投となる中川晃教×加藤和樹ペアに加え、新たに小林亮太×島太星のペアが加わったダブルキャスト体制となっており、公演後半では組み合わせを変えての公演となります。キャストの組み合わせによって生まれる違いにも注目です。
本記事では、囲み取材でのキャストコメントと、新参加ペアの小林亮太×島太星による公演の観劇レビューをお届けします。
初日を迎えて――キャスト陣が語る『フランケンシュタイン』への想い(囲み取材コメント)
◆公演前の現在の心境
中川晃教
5年ぶりの再演ということで、『いよいよ今日という日がやってきた。』この気持ちが一番です。素晴らしいカンパニーの皆さん、クリエイターの皆さん、このチームなくして今日の初日はなかったと、ひしひしと感じています。感謝を込めて挑みます。
小林亮太
ゲネプロを終えて改めて思ったのは、『とんでもない作品だな』ということ。今回新たに僕らが参加して、“2025年版の新しいフランケンシュタイン”をお届けできればいいな~と思っています。
加藤和樹
ついに初日ということで、楽しみしかありません。今回5年振りの再演ということもありますし、小林君と島君を筆頭に新たに加わったメンバーもいますし、本当に新しく生まれ変わったフランケンシュタインをお届けできるのではないかなぁと思っております。
私自身この作品のファンであるため、先ほどこの2人のゲネプロを観て、『うわー、もう最高!素晴らしい。』また新たなアンリとビクターが生れたな!という、本当に歓喜に打ち震えております。
早くこれをお客様にお届けしたいと思っている次第でございます。
島太星
まずは、日本版フランケンシュタインに出演させていただくことは、とてもうれしいですし、アッキーさん、カズキさんが作り上げてきてくれたこの大切な作品を、明日からいい意味でぶち壊していけたら、、
いい意味というか新しい何かを、亮太君と僕は、今まで作り上げたこの素晴らしい作品に、『何かスパイスというものをお届けできるんじゃないかなぁ~』と、皆さんも楽しみに観に来てくださるんでしょうね?頑張ります。
(なぜ疑問形・・?と会場に笑いが起きました)
◆本作で大変なところは?
中川晃教
昨日のゲネプロでちょっと負傷しまして・・・
アンリが独房に入って、あともう少しで死刑になる最後の別れのシーンの激しく抱き合うシーンで、『僕の指と指が交通事故を起こして・・』突き指をしてしまいました。痛さにもがきながら「人間に合って怪物に無いものが心ではないか」と感じた時に、「怪物に対してビクターが酷いことをする」そこに伴う痛みや苦しさがこの作品のテーマの1つであると気づき、『この痛みはきっと必要な痛みなんだ・・』と、以前蜷川先生に言われたことを思い出しました。痛みもあるが、それを乗り越えるシーンなんだと思って、楽しみにしていただけたら・・。
小林亮太
今日ゲネプロを迎えるにあたって、昨晩悪夢を3本見まして・・・
3本仕立ての悪夢で、「今日が自分の中ですごく大きい日として考えていたんだなぁ~」と朝起きて思いました。
ちなみに一番うなされた悪夢は、カンパニーが大好きなのに、座組のみんなに追いかけられる夢で、今日一人一人に『おはようございます!よろしくおねがいします』と、あいさつして回ってからゲネに入りました。
加藤和樹
アンリ・怪物を演じた人にしかわからないと思いますが、布面積が少ないもんですから、服の下にはアザがいっぱいあり、見えない傷に打ち勝っていかなければいけない肉体的な大変さがあります。
島太星
役作りに当たって、私生活から孤独を体験したいと思っているが、毎日が幸せなんで・・・
『今日は孤独になりながら会場に来れた!』孤独になり、孤独になるような音楽を聴きながら『あっ、オレ孤独だ!オレ孤独だ!』と思って、楽屋に入りました。
同じ楽屋の和樹さんがいなくて『あっ!また、孤独が増えた!』と思ったら、和樹さんゲネがないのにすごく早く楽屋に入って来てくれて『孤独が1個消えちゃって』・・・。
加藤 えー、なんかごめん・・
島 日々、もっともっと孤独を見つけていかないといけない。日々の私生活に満足しちゃうとこの作品に悪影響を及ぼしてしまうので、『今日からみなさん、僕の孤独を探してください。』
加藤 自分で探すんじゃないの?
島 孤独を求めています
島さんの真っすぐでちょっと天然な回答もあり、囲み取材は終始笑いが絶えず、カンパニーの仲の良さを感じる和やかな時間となりました。
圧巻の舞台『フランケンシュタイン』が描き出す人間の本質
前作や中川晃教×加藤和樹ペアのゲネプロを観劇していないため、違いについてお伝えすることはできませんが、結論から言えば、「本当に素晴らしい舞台を観た」と、満たされた気持ちでいっぱいになる公演でした。舞台演出、物語、キャストの演技すべてにおいて圧倒され、安易に感想を語るのことをためらうほどの衝撃を受けました。
ストーリーは非常にテンポ良く、オーケストラの演奏と歌唱によって、冒頭から一気に物語の世界に引き込まれました。
物語の舞台は19世紀ヨーロッパ。死者を蘇らせる研究に没頭する科学者・ビクター・フランケンシュタインが“怪物”を誕生させるところから始まります。そこには何とも言えない独特の雰囲気があり、狂気を感じながらも、造形美や、人と人との友情の美しさを感じることが出来、『フランケンシュタイン』の世界が濃密に広がっていきます。
アンリとビクターの出会いは、戦場でビクターがアンリの命を救ったことから始まり、二人には固い友情で結ばれました。しかし、殺人事件に巻き込まれたビクターを救うために、アンリは無実の罪で命を落とすことになります。この時にアンリが歌う楽曲(君の夢の中で)が何とも切なく、そして、愛に満ちたアンリの想いを表現していて、「セリフではなく歌だからこそ響く」という改めてミュージカルの魅力を感じるシーンとなりました。
ビクターは大切な友を救いたい一心で、自分の研究の成果を注ぎ込み、アンリを生き返らせます。しかし、そうして誕生したのは、アンリの記憶を失った“怪物”でした。怪物は、自らのおぞましい姿を恨み、自らを誕生させたビクターに復讐を誓うことになります。
ビクターの想いとは裏腹にお互いに辛い思いを背負い、2幕では、怪物として苦悩しながらも生きる姿を島太星さんが熱演します。
真っすぐなアンリとは打って変わり、苦しみや恨みを抱え、孤独の中で生きながら、どこかにアンリが持っていた優しさや、アンリであれば抱くであろう悲しみを湛えた演技が印象的でした。
観劇後の囲み取材では天然で初々しい印象だった島さんが、舞台上ではアンリと怪物を堂々と演じており、そのギャップには正直驚かされました。
一人二役の妙技に注目
本作品は、メインキャスト全員が一人二役を演じていましたが、当初同じ方が演じていることに気が付かないほど、そこには別のキャラクターとしての命が宿っていました。
ビクター・フランケンシュタインを演じている小林亮太さんは、人間同士を格闘させるギャンブル闘技場を営む悪党ジャックという、生命創造の研究に没頭する若き天才科学者とは、対照的ともいえる存在を巧みに演じ分けていました。ビクターを演じている時は、生命創造が善であると信じ、希望を抱き真っすぐに進む姿を力強い歌と共に演じていましたが、ジャックは軽薄で、人をギャンブルの道具としか思っていないかのような姿でした。
花乃まりあさんは、ビクターを一途に思い続ける婚約者のジュリアと、怪物にほのかな想いを寄せる闘技場の下女のカトリーヌの二役を演じています。
ジュリアはいわゆるお嬢様タイプであり、カトリーヌとはまったく対照的な人物像。それぞれ異なる魅力を持つ役柄ですが、どちらにおいても花乃さんの伸びやかな歌声が印象的でした。
特に、ジュリアとして怪物と対峙するシーンでは、その繊細な表情の演技がひときわ心に残りました。
鈴木壮麻さんは、ビクターの良き理解者であるルンゲと、ピエロのような派手な衣装をまとった闘技場の召使いのイゴールという対照的な二役を演じました。
ルンゲは少しコミカルな動きも交えつつ、シリアスな場面が続く中で心を和ませてくれる、まさにオアシスのような存在でした(笑)。
観劇中、イゴールが鈴木壮麻さんだとは気づかないほどの変身ぶりにも驚かされました。
松村雄基さんは、ジュリアの厳格な父のステファンと、ギャンブル闘技場に出入りする守銭奴のフェルナンドの二役を担当。
守銭奴の冷酷そうな表情と渋さが相まって、とても存在感があり、格好良さを感じる演技でした。
朝夏まなとさんは、ビクターを陰ながら支える姉のエレンと、夫のジャックを尻にしき、怪物をも手なずける闘技場の女主人のエヴァを熱演。
穏やかな表情でビクターを見守るエレンの優しさも印象的でしたが、華やかさと力強い歌声が際立つエヴァの存在感には圧倒されました。
そして忘れてはいけないのが、リトル・ビクターとリトル・ジュリアの存在です。
可愛らしいふたりが物語の要所で登場し、作品に深みを加えるとともに、登場人物たちの心の揺れをより一層引き立てています。
ぜひ、その愛らしさと存在感にも注目してみてください。
音楽が語り、光が導く“生の迫力”
―劇場でしか味わえない臨場感に酔いしれる
正直、私はこれまでミュージカルが少し苦手でした。「なぜ急に歌うのか?」と違和感を覚えることがあったからです。しかし『フランケンシュタイン』ではそれが一切なく、セリフではなく“歌だからこそ伝わる感情”を存分に感じることができ、舞台の世界に没入することが出来ました。
そして、この舞台の魅力を深めているのが、オーケストラの存在と美しいライティングです。キャストさんの歌やお芝居自体も本当に素晴らしいものでしたが、そこにさらに深みや彩を付け加えているのが、オーケストラやライティングの存在でした。生演奏による音は、耳だけでなく心にも響き、キャストの表情とともに音の「感情」までも感じ取ることが出来ました。
ライティングに関しても、「一体いくつの照明を使っているのだろう?」と思うほど繊細に設計されており、場面ごとに色彩と空気が変わり、物語の世界観を補完していました。その美しさに、思わず見とれてしまうシーンも数多くありました。
この生演奏と照明の演出が織りなす美しさは、生でしか感じることが出来ないものです。ぜひ、ご自身の目と耳で劇場にて体感いただきたいです。
キャストの絆が生み出す舞台の魅力
囲み取材の際、加藤さんが稽古中に手料理を振る舞ったエピソードなども紹介され、お互いをリスペクトし合いながらも非常に仲の良さが伝わってきました。
公開されたゲネプロの動画を見ただけでも、中川晃教さん×加藤和樹さんペアと、小林亮太さん×島太星さんペアの演技の違いを感じ取ることができます。さらに、後半ではビクターとアンリの組み合わせも変わり、キャストの組み合わせによって、どのような化学変化が起こるのかが、非常に楽しみな舞台です。
ぜひ、複数回劇場に足を運び、違いを感じてみてください。
タイミングを逃すと、観ることが出来なくなる組み合わせが出てしまう可能性もあるため、早めに劇場に足を運んでいただくことをお勧めします。
SNSでの評判も非常に良い本作品、ぜひ、皆さんの目と耳でその魅力を確かめてください。
※カーテンコールより
(文・撮影:松坂柚希)
ミュージカル フランケンシュタイン
Frankenstein
〈出演〉
ビクター・フランケンシュタイン/ジャック
中川 晃教/小林 亮太(Wキャスト)
アンリ・ヘュプレ/怪物
加藤 和樹/島 太星(Wキャスト)
ジュリア/カトリーヌ
花乃 まりあ
ルンゲ/イゴール
鈴木 壮麻
ステファン/フェルナンド
松村 雄基
エレン/エヴァ
朝夏 まなと
ほか
音楽:フランドン・リー
脚本/歌詞:ワン・ヨンボム
潤色/演出:板垣 恭一
訳詞:森 雪之丞
音楽監督:島 健
振付:黒田 育世、当銀 大輔
オリジナルプロダクション:ワン・ヨンボムプロダクション
製作:東宝/ホリプロ
◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2025年4月10日(木)~4月30日(水)
会場:東京建物 Brillia HALL
【愛知公演】
公演日程:2025年5月5日(月)~5月6日(火)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
【茨城公演】
公演日程:2025年5月10日(土)~5月11日(日)
会場:水戸市民会館 グロービスホール
【兵庫公演】
2025年5月17日(土)~5月21日(水)
会場:神戸国際会館 こくさいホール
公式サイト
Frankenstein 2025