
王と生贄の恋の道のりは? ミュージカル「贄姫と獣の王〜the KING of BEASTS〜」観劇レビュー
「贄姫と獣の王〜the KING of BEASTS〜」©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
王と生贄の恋の道のりは?
ミュージカル「贄姫と獣の王〜the KING of BEASTS〜」観劇レビュー
ミュージカル「贄姫と獣の王〜the KING of BEASTS〜」が3月14日(金)から東京:天王洲 銀河劇場で、3月28日から大阪:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演されました。
現実離れした、美しい世界観と進んでいく物語が舞台上で役者さんたちにより、煌びやかに表現されていました。
「贄姫と獣の王」とは
『花とゆめ』という漫画雑誌に2015年に読切作品が掲載され、その後、2020年22号まで連載された少女漫画作品です。
コミックとしては、海外展開もされており累計発行部数は230万部を突破しています。
また2023年4月にはアニメ化もされており、今回満を持して舞台化されました。
煌びやかな舞台
今回、王宮が物語のメインということで、舞台装置や演出には王宮の荘厳さを感じさせる工夫が細部まで施されていました。
原作では動物であるキャラクター達も俳優の衣装や演技によってリアルに、かつ視覚的に華やかに表現されています。
そして、今回の公演の見どころとしては、なんといってもミュージカルの一番の見せどころである歌唱シーンです。
どの役者さんも本当に実力があり、ミュージカルの中心となる歌唱シーンでは、各役者が高い歌唱力を発揮されていました。
使われている楽曲はたくさんありましたがどの歌もそのシーンで物語に色を加えていて、明るい晩餐会のシーンでは明るく恋を語る曲を、物語で重要なシーンでは重厚感のある力強い曲が用いられるなど、音楽が物語に厚みを与えていました。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
各出演者について
今回主演の「レオンハート」を演じるのは「加藤大悟」さんです。
魔族の王としての威厳と人間の姿になった際の内面の葛藤という、相反する要素を繊細に演じ分けておられました。
王として登場するシーンでは堂々とした立ち居振る舞いと重厚な声で、まさに「王」と呼ぶにふさわしい存在感を発揮されています。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
一方、人間の姿になったときには、心の迷いや過去に対する悩みなど、レオンハートの内面の複雑さを表情の変化や声のトーンを用いて巧みに表現されていました。
特に歌唱シーンでは、芯のある力強い歌声でキャラクターの感情を乗せて歌い上げ、私も物語の世界へと引き込まれていました。
また、人間の姿になっているときは王としての自身の存在に葛藤している姿を王と姿の時とはまた違った表情でみせていただきました。
その演技の切り替わりがキャラクターの葛藤とリンクしてして伝わり本当に素晴らしかったです。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
次に紹介するのはヒロインの「サリフィ」を演じている「久家 心」さんです。
魔族の国「オズマルゴ」に生贄として差し出されながらも、自らの運命に立ち向かう強さと明るさを持ったヒロイン。
久家さんはその明朗な性格と芯の強さを、豊かな表情と可憐な歌声を通して丁寧に表現されていました。
彼女の登場するシーンには、舞台全体が明るくなるような柔らかな空気感があり希望や前向きな感情が伝わってきました。
特に明るく恋心を歌い上げる楽曲の場面では観客の心を軽やかにし、また、悲しみや葛藤に直面する場面では、細かな所作を通じて感情の揺れを表現し舞台全体に深みを与えていました。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
次に紹介するのがオズマルゴ国の宰相を務める「アヌビス」を演じている「福井巴也」さん。
王の側近を務めているアヌビスはレオンハートを王と慕い、冷静沈着でありながらも王への強い忠誠心を内に秘めたキャラクターです。
福井さんはそんなキャラクターを説得力を持って演じておられました。
時にレオンハートとぶつかり合う場面では、激しい感情を露わにしながらもどこか抑制の効いた表現がなされており、キャラクターとしての深みをより一層際立たせていたのが印象的でした。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
次に紹介するのはオズマルゴ王直属の近衛隊の隊長を務める「ヨルムンガンド」を演じている「京典和玖」さん。
ヨルムンガンドは王直属の近衛隊の隊長を務めるほど強く、また兵士としての誇りも大切にしており「強く、気高く、美しい。」
そんな言葉がピッタリなキャラクターです。
京典さんはそんなヨルムンガンドを端正な佇まいと精密な所作で、誇り高き武人として見事に体現されていました。
特に戦いの場面や、王に忠誠を誓うセリフの一つひとつには芯の強さがにじみ出ており、信頼と安心感を与える演技が印象的でした。
また、所作の美しさ、身体表現のキレなど多角的に演技の質の高さが感じられました。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
ここからは敵側のキャラクターを紹介します。
まずは、「フェンリル」を演じている「白柏寿大」さん。
フェンリルはこの舞台では最初の敵です。
幻狼王国の第十二王子でありながら、幼少期にあることがきっかけで国を追われその原因の一端であるレオンハートを恨んでいるというキャラクター。
白柏さんはこの複雑な背景を持つキャラクターを、力強くかつ繊細に演じておられました。
序盤では堂々とした敵役としての冷たさや狂気を感じさせる一方で、物語が進むごとに垣間見える彼の孤独や過去への想いを細やかな演技で丁寧に表現されていました。
アクションや歌唱シーンでも高い表現力を発揮し、敵ならではの強い魅力を放っておられました。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
次に紹介するのはフェンリルの部下「グレイプニル」を演じている「松田岳」さん。
フェンリルを王にすべく忠誠を誓っているフェンリルの右腕のキャラクターです。
冷静さと忠義の間に揺れる人物像を静かに、しかし強く演じられていました。
言葉数の少ない役柄ながらも、その佇まいからはフェンリルに対する一途な思いと深い信頼が感じられ、立ち居振る舞いや表情だけで信頼関係の深さや心の奥にある思いを伝えていたのが印象的でした。
派手な見せ場こそ多くはありませんでしたが、だからこそ一つひとつの所作が際立ち、舞台全体に静かな緊張感を与える役割を果たしていました。
©友藤 結・白泉社/「贄姫と獣の王」舞台製作委員会
最後に紹介するのは最後の敵になる「セト」を演じている「矢田悠祐」さん。
セトは生まれが複雑でレオンハートの影に隠れて生活をしていました。
しかし、レオンハートの過去を知り、王座を奪おうとするキャラクターです。
矢田さんはその複雑な内面を静かな怒りや悲しみを織り交ぜながらリアルに演じていた。
特に、レオンハートと自分の過去が明らかになっていく中で見せる表情の変化や、感情が爆発するシーンでの演技は胸を打つものがありました。
クライマックスでのレオンハートとの対峙や、自身の正義を貫こうとする姿には説得力があり、物語の終盤を強く印象付ける要素のひとつとなっていました。
全体的な注目ポイント
全体を通して、煌びやかな世界観はそのままにキャラクターごとにしっかりとスポットライトが当たりしっかりとストーリーが紐解かれていた舞台でした。
序盤から世界観に一気に引き込まれるセットと照明、幻想的な演出、そして何より俳優たちの熱演によって、まるで異世界に足を踏み入れたかのような没入感を味わうことができました。
また、今回の舞台の大きな魅力のひとつは“音楽”です。
楽曲はすべて、キャラクターの心情や状況に深く結びついていて、特にソロ曲やデュエットは、ストーリーとシンクロするように感情の波を生み出していました。
中でもサリフィとレオンハートが心を重ねていく場面は、劇場の空気を一瞬で変えてしまうような力強さと美しさがあり、歌い手としての力量が高いキャストが揃っていたからこそ成立する、音楽と芝居の融合された舞台でした。
終演後のキャスト紹介においても、各キャストに合わせた音楽演出がなされるなど、細部へのこだわりが随所に見られる素晴らしい舞台でした。
STORY
人間を寄せつけない瘴気漂う禁忌の世界。
そこにはかつて人間を喰らい支配した異形の眷属と魔族を統べる王がいる。
異形の眷属の王の99番目の生贄として
捧げられた少女・サリフィは、
供儀の夜、何者も寄せ付けない
孤高の王・レオンハートの真実の姿を知る。
ひとりぼっちの少女と孤高の王の隠された心が触れあい、
二人の運命は大きく動き出す。
詳細は公式サイトで。
https://stage-niehimekob.jp/
(文:河内友美)
ミュージカル
「贄姫と獣の王〜the KING of BEASTS〜」
【原作】友藤結「贄姫と獣の王」 (白泉社・花とゆめコミックス)
【脚本・演出・振付】上島雪夫
【出演】加藤大悟、久家 心、福井巴也、京典和玖、今牧輝琉、永利優妃
白柏寿大、松田 岳、小嶋紗里、古田伊吹、矢田悠祐
2025年3月28日(金)~2025年3月30(日)/梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ