
ロミオ(桐山照史)の不器用さに胸が締め付けられる! 人間味あふれる新しいロミジュリ『泣くロミオと怒るジュリエット』観劇レビュー
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
『泣くロミオと怒るジュリエット』観劇レビュー
『ロミオとジュリエット』(以下ロミジュリ)といえば演劇に興味がない人でもタイトルぐらいは知っていますよね!?
ウィリアム・シェイクスピア作品の中でもとても人気のある恋愛悲劇。この作品を作・演出の鄭義信さんが大胆に翻訳!
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
ロミジュリといえば、モンタギュー家とキャピュレット家の対立を描いた作品。とはいえどちらも貴族で、登場人物にもどこか気品があるし、後世にいろいろ翻訳された作品が幾つもあるけど、やっぱり“美”はあった。が、本作では舞台が戦後の港町、見た目(美術)からしておんぼろ、台詞にもあるように嫌な臭いが漂っている。そんな中に登場するジュリエット(柄本時生)は“ブス”(という設定)!登場のインパクトだけでも笑えるのに、ソフィア(八嶋智人)が関西弁で下ネタを臆せず捲し立てる。「もうこれはロミジュリじゃない(笑)」なんて思いながら、関西育ちの自分はゲラゲラと遠慮なく笑ってました。キャストは全員男性(オールメール)っていうのも、男子校のノリのような楽しさが舞台から伝わってきました。
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
大胆な翻訳という点で印象的だったのは、まずロミオ(桐山照史)が吃音症という設定。言葉を伝えるのがたどたどしいけど、ジュリエットに気持ちを伝えるとき、その不器用さに胸が締め付けられる!「頑張れ!」って何度も応援したのは自分だけじゃないはず。ジュリエットは“ブス”っていうだけでも相当なのに、ダメ男に貢ぐ癖があるという意外性(笑)。でもこのふたりの恋愛模様が、物語が進むにつれてただのギャグに見えなくなっていったのは、人の本質を真っ直ぐに描いた作品だったからかと。そして男が演じるジュリエットがちゃんと“可愛く”見えたのは、柄本さんが性別ではなく「ジュリエット」という人物を真剣に演じていたからだし、桐山さんもそれをまっすぐ受け止めて恋していたからこそ。演劇の力を改めて感じました!
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
大胆な点2つ目はベンヴォーリオの役割!これは原作を知ってるからこそ、グッときた部分。ロミジュリって原作で人によっては「?」ってなる部分があって、その1つがローレンスがロミオに届けるはずの手紙が届かない問題。それをベンヴォーリオの恋愛に絡めた展開にしたのが鳥肌ものでした。浅香航大さんの演技がまた素晴らしくて、葛藤や怒りが真っ直ぐに伝わってきて、思わず唇を噛み締めてました。そしてもう1つ、ティボルトの死に方問題。こんなに奥手で優しいロミオがティボルトを殺せる?って原作を知ってると思いますよね?本作ではティボルトの戦争帰りという設定がすごく効いていて、「そう来たか!」と死に方に納得。原作とは違うけど、その違いが新鮮でした!
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
『泣くロミオと怒るジュリエット』撮影:細野晋司
個性豊かなキャストが、しっかりとロミオとジュリエットを引き立てていたように思います。個人的にもテンションの上がるキャスティング。ローレンス役の渡辺いっけいさん、もともと合うと思っていたけど、「酒飲みの町医者」という今回の設定がまたピッタリ。八嶋智人さんは動きも体型も含めて“大阪にいそうなおばちゃん”感が絶妙(笑)。市川しんぺーさんと中山祐一郎さんのコンビも、ベタな関西演出にぴったりでした(出身は関東ですが…笑)。
笑いあり、切なさあり、ちょっと過激だけど人間味にあふれたこの舞台。『泣くロミオと怒るジュリエット2025』はただのパロディではなく、鄭さんの熱がびしびし伝わってくる新しい形のロミジュリでした!
(文:かみざともりひと)
Bunkamura Production 2025
『泣くロミオと怒るジュリエット2025』
【作・演出】鄭 義信
【出演】桐山照史、柄本時生、浅香航大、泉澤祐希、和田正人、
中山祐一朗、朴 勝哲、高橋 努、市川しんぺー、八嶋智人、渡辺いっけい ほか
【日程】2025年7月6日(日)~28日(月)
【会場】THEATER MILANO-Za (東急歌舞伎町タワー6階)
公式サイト
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_romeo_juliet/