2/7初日!舞台『ノンセクシュアル』-稽古場レポート- 上演は横浜赤レンガ倉庫にて
2025年2月7日(金)~12日(水)、横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホールにて上演される舞台『ノンセクシュアル』の稽古場レポートが届いた。
稽古初日から間もない某日。
日当たりのいい窓際に一列に並べられた椅子には、全出演者が思い思いの場所に座り、和やかな雰囲気で談笑していた。ギフティングで差し入れられたチョコクロを食べるキャストの姿もあり微笑ましい。
別の稽古場から漏れ聞こえてくる物音に、演出家:鯨井康介が「気にせず、集中していこう!」と、手を叩く。
稽古は、2つのシーンをそれぞれのチームが交代で作っていくという形で行われた。
【コツメカワウソVer.】
加藤ひろたか、松村龍之介、小柳心、立道梨緒菜、神里優希
稽古が始まり、鯨井がフロアを歩いてみせて、軽く動線指導。そして役者が動き出す。
瑛司役の加藤が、浮かない表情でベッドらしき場所にひっくり返る。部屋にやってきた侑李役の小柳とのコミカルなやりとりが始まり、稽古場内に笑いが起きる。緊張感のあるシーンが多い本作品の中でも貴重な、ほっと安らげるワンシーン。そして蒼佑役の松村が現れる。まっすぐに瑛司を見つめるその視線は、正面席の観客からしっかりと見えるように演出されていた。
ひととおりのシーンが終わると鯨井が演者の隣に立ち、ひとりひとりの台詞について掘り下げていく。前後のつながりが難しい突飛な会話も、キャラクターのバックボーンを交えながらその心情を丁寧に紐解いていく。
「なんて高度な台詞なんだ!」と嘆く小柳。
鯨井が「Grooveを大切に」と言って、チームが交代となった。
【カモノハシVer.】
星元裕月、新井將、小柳心、立道梨緒菜、神里優希
星元の瑛司はよく動く。静かな空気感をもって心情を伝えていた加藤と、身振り手振りを大きく使って感情をあらわにする星元は、とても対照的だ。同じ物語、同じ結末でありながら、両者が導き出す先には、確実に異なる「解」が存在するのではないだろうか。続いて登場した新井の蒼佑によって、更に色濃く感じられた。佇まいも眼差しも、どこか達観したような冷静さをもつ松村とは違っていた。凍り付くような一場面が終わり、鯨井が立ち上がり、
「この形、すごく良かった」
と、星元瑛司の所作の解釈を褒める。そこにプラスのリクエストを演出として投げかける。そして「瑛司は可愛いって言われるの大好きなの」「喋ってるうちに自分でどんどん怖くなっていっちゃう」と、鯨井が瑛司の行動の根拠に新しいエッセンスを提示すると、星元の演技もまたひとつ深みが出た。
別のシーン稽古では立道演じる塔子と、神里演じる秀樹が登場。それぞれが瑛司に対して電話越しに感情をぶつけるシーンだ。お互いに見えないはずの電話の相手との心の距離を、演劇ならではの移動や目線で作り上げていく。
「あそこもったいないよ。なんで目をそらした?」
「目線まだ、彼に集中したい。まだ終わってない」
などの鯨井のコメントはステージ上を立体的に使い、台詞の長さと移動距離の歩幅や速さも具体的に提示する。
二人の距離感が、その心理状態と力のバランスを物語る大切なシーンだ。
この作品の稽古において、台本はまるで楽譜のようだ。そこから伝えたい感情の深淵を、身振り手振りで次の動作へと繋ぐ。褒め方と引き出し方、呼吸のタイミング、そして「その時を楽しみにしているよ」という信頼のスタンス。
受け取る加藤と松村は真剣だ。張りつめた空気の中、「次のシーンをどこからやりたい?」という鯨井の質問に「電話のシーンから」と誰かが答えると、「電話です!電話です!」と、おどけて空気を和ませる。
動きを正確になぞる加藤。そのテイクの一部始終を、口をあんぐり開けたり、眉を顰めたりしながら真剣な顔芸を見せながらで演出をつけていた鯨井が、シーンが終わった瞬間に「怖っ!」と言った。そして「楽しかった!またやろう」と。
「そこを育ててみよう。素敵でした」。そして
「シングルの皆さん、もうひとパターンありますよ!」
と、エールを送った。
稽古場で一番動いていたのは、ほかならぬ鯨井だった。
「演出家の前には長机があるものでしょ? でも、俺の机どかされちゃったんです。どうせ動くからって」
と、冗談交じりに言っていたが、そのエピソードも頷ける。
本番はステージの両脇にも客席が設置される。鯨井は正面からだけではない立体的な動きを生み出すために、どちらのチームでも場所を変えながら演技を見守った。その口からは、先程とはまた異なる言葉がポンポン飛び出してくる。床に座りながら手元の台本で台詞を読み返し、そこから流れ込んでくる行間の感情を、身振り手振りで想像しながら説明する姿は、まるでオーケストラの指揮者のようだった。
この日の稽古を見学して強く感じたことは、舞台『ノンセクシュアル』の最初の熱烈なファンは、人間 鯨井康介ではないだろうかということだ。
その愛と執着が導く先に、まだまだ掘り起こされぬシーンがある。その全貌が明らかになる公演本番をゾクゾクしながら待ちたい。
STORY
「例えばラッコって大好きな貝を食べようとお腹に乗せて叩きつけるけれど、あれって失敗しないのかなって」
バンド「ネメシス」のボーカルの藤木瑛司は、恋人の富永秀樹の家を訪れている。
「失敗したら内蔵破裂しそうだと思わないか?」
「命にかかわるな」
「そう命がけ。失敗したら死んじゃうかもね。でも叩かずにはいられないのがラッコ。そして失敗するやつは広い地球にはいると思う」
「……何か重大な失敗をしたの?」
自分が何か失敗して謝ろうとしていることも察して水を向けてくれた。そう捉えた瑛司は元カノである浅井塔子と寝てしまったことを秀樹に告白した。
さざなみが引くように、秀樹は急速に手が届かない場所へと去ってしまった。
新聞記者である浅井塔子と再び関係をもったのは、ちょっとしたことだった。
野外イベント会場に塔子を見つけた。控えのテントで仕事だと言い張っていたが、その日のイベントにバンド個別取材はなかった。
打ち上げにも出ずにホテルの部屋へと戻った。塔子と寝てしまった後、秀樹のことを思い出した。黙って同時に付き合うのはさすがにルール違反だった。瑛司は今、秀樹と付き合っていることを告白する。最初にあっけにとられていた塔子は冗談かどうか何度も確かめて、最後には瑛司を罵って出て行った。
ふたりの恋人に去られた瑛司は、恋愛したい気持ちと面倒さに辟易する感情の間で揺れながら数日、作詞に没頭していた。
「遺伝的背景および環境要因の寄与に着目したカモノハシとカワウソの行動生態学上の比較」を研究テーマにする大学院生、秋野侑李はアセクシュアルで、瑛司の想いはまったく理解できない。人を性的に愛することはないが、他人周りに“興味”という形での情は深い侑李にも、同情も相手にもされない日々。
そんなある日、塔子から連絡が来た。家に入れる気になれず、山下公園で瑛司は塔子の話を聞く事になった。
そこで、喪服を着ていた村山蒼佑と出会う・・・
詳細は公式サイトで。
ノンセクシュアル NON-SEXUAL
(文:Zu々 撮影:NORI 監修:エントレ編集部)
舞台『ノンセクシュアル』
演出:鯨井康介
上演台本:潮路奈和
-出演-
【コツメカワウソVer.】
加藤ひろたか(藤木瑛司役/ダブルキャスト)
松村龍之介(村山蒼佑役/ダブルキャスト)
小柳心(秋野侑李役)
立道梨緒菜(浅井塔子役)
神里優希(富永秀樹役)
【カモノハシVer.】
星元裕月(藤木瑛司役/ダブルキャスト)
新井將(村山蒼佑役/ダブルキャスト)
小柳心(秋野侑李役)
立道梨緒菜(浅井塔子役)
神里優希(富永秀樹役)
2025年2月7日(金)~2月12日(水)/横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール
公式サイト
舞台『ノンセクシュアル』
公式X(旧twitter)
@non_sexual_2025