西瓜糖 第10回公演『いちご』まもなく開幕 稽古場レポート&加納幸和・山像かおり・奥山美代子コメント到着
西瓜糖「いちご」西瓜糖第10回公演『いちご』が、2023年9月21日(木)~27日(水)、小劇場B1(下北沢)にて上演される。
今作は、劇作家・秋之桜子の戯曲を上演する演劇プロデュース集団として2012年に旗揚げした西瓜糖による初の寓話劇で、演出は花組芝居の加納幸和が務める。加納は、西瓜糖第2回公演『鉄瓶』(2013年)に出演、第7回公演『ご馳走』(2019年)では演出を手掛けており、昨年PARCOプロデュースで上演された秋之桜子脚本の舞台『桜文』(寺十吾演出、久保史緒里主演)にも出演している。
出演者には演劇集団キャラメルボックスの阿部丈二、マウスプロモーションの伊藤健太郎、花組芝居の原川浩明ら個性豊かなキャスト陣を迎え、現代に始まり戦時中まで時代を行き来しながら、少女の“ごっこ遊び”に端を発した不思議な物語が展開していく。
このたび、本番に向けて準備が進む稽古場のレポートと写真が到着した。
西瓜糖「いちご」稽古場写真 左から奥山美代子・黒川なつみ・山像かおり
この日の稽古は、時代は昭和40年頃、場所は東京にある場末のバー、というシーンから始まった。戦争を経験してきた女性たち(山像かおり、黒川なつみ)と、戦後生まれの女性たち(片渕真子、原愛絵)の対比がくっきりと浮かび上がるやり取りが繰り広げられ、そこに若い男(阿部丈二)が合いの手を加えながら賑やかに話は進む。
演出の加納幸和はセリフ一言、動き一つごとにじっくりと考え込み、綿密に演出をつけていく。動きや流れ、セリフのトーン等が不自然ではないかをとことん突き詰め、自らも役者と一緒に動きながら確認作業を重ねる。「こうやったらどうなるかな」と加納が提案し、それを役者がすぐにやって見せる、という繰り返しで徐々に方向性が固まり、ゆっくりだが確実に稽古シーンは先に進んで行った。
西瓜糖「いちご」稽古場写真 加納幸和
特に印象的だったのは、とあるシーンのいわゆる小ネタとして書かれている部分を、どのようにするか時間をかけて話し合っていたことだ。言ってしまえば話しの本筋とは関係のないネタの部分を、本筋と同じくらいの熱量を持って真剣に考えていたことに驚いた。「本質は細部に宿る」とよく言われるが、芝居でもやはり同様で、細部をおろそかにするとそこが綻びになることがある。花組芝居という団体を率いている加納だからこそ、全体を見ながら隅々にまで細やかに目を配ることができるのかもしれない。
今作は、奥山と山像が演じる「久子」と「多恵」が主軸になっている。時代が行ったり来たりするため2人は幅広い年齢を演じ分けており、年代ごとに異なる表情を見せる。奥山と山像以外の役者は複数の役を兼ねており、こちらもまた役ごとに様々なキャラクターで登場して、各役者の魅力をたっぷりと味わえる趣向も楽しい。
西瓜糖「いちご」稽古場写真 左から奥山美代子・原川浩明・伊藤健太郎
非常に複雑な構造の脚本で、あまり多くを語るとネタバレになってしまうが、とにかく様々なことが目まぐるしく変わる展開の物語だ。映像作品であれば編集で難なく見せることができるが、それをあえて舞台上で生身の俳優が、自身の演技はもちろん衣装や照明の変化でどのように見せるのか、ぜひ劇場で確かめてほしい。
軽井沢の別荘地で一人暮らす老女の森野久子。しかし怪我をしたことで、以前から高齢の母の一人暮らしを心配していた娘夫婦に引き取られることになる。 孫の麻衣に手伝ってもらい軽井沢の屋敷を片づけ始める久子。久子が大切にしている手作りのブローチがあり、誰が作ったか知りたがる麻衣。麻衣にせがまれ、久子は不思議な物語を話し始める。「その頃、私は久子ではなく、多恵だった。久子さんは私の憧れの人だったんだよ」
昭和40年終戦前の軽井沢で、二人の少女が始めたごっこ遊びが、大人たちを巻き込み、捻じれ歪んでいく・・・。
加納幸和(演出)
西瓜糖は、前回演出したときもそうだったのですが、「(大道具を変える事が難しい)小劇場でどうやるんだこれ」というくらい場面数が多くて、でも今回は舞台セットを置かない、と決まった段階で腹をくくって、空間を好きに使っちゃおう、と思って演出しています。その分、理屈抜きに自由にやれている感じはします。
これまでいろんな役者や演出家と組んでいろんなものを吸収した西瓜糖の2人が、今回は本当にいろんなことをやっています。だいぶカジュアルな作品なので、もしかしたら今までの西瓜糖とは違うと思って見に来ていただいた方がいいかもしれません。歌って踊るし、ドタバタコメディみたいなこともやるし、アングラみたいなこともやるし、それでいてきっちりとした会話劇になっていて、2人の魅力全開なところをぜひ見ていただきたいです。
山像かおり/秋之桜子(作・出演)
これまでの西瓜糖は、1つの舞台セットでしっとりとした愛憎劇、という方向性でしたが、10回公演の今回は、これまでやってきたことを踏襲するというよりかは、やったことのないものに挑戦したいという気持ちがありました。今年の六月、小劇場B1で加納幸和さん主宰の劇団「花組芝居」の『仮名手本忠臣蔵』の公演を拝見して、舞台セットがない空間でこんなおもしろい芝居が作れるんだと感動しまくり、「ああいうのをやりたい」と、今回は舞台セットをなくした芝居を秋之が書き始めました。
西瓜糖の2人(奥山・山像)がいろんな年代の役をやれたらいいなと思いながら本を書いたら、まるでおもちゃ箱のような作品になりました。これまで西瓜糖をやってきて、元々新劇畑だった私たちが様々なジャンルの演劇人と出会ったことで、いつの間にか吸収していたいろんなエッセンスが今作には出ています。何が出てくるのかわからないテーマパークのような、あるいはお化け屋敷のような面白さを見ていただけたらと思います。“寓話活劇ホラー”を楽しんでいただけると嬉しいです。
奥山美代子(西瓜糖代表・出演)
秋之の作品は旗揚げのときから一貫して、愛も憎も非常に濃いです。今作はこれまでとちょっと違ったことをしている作品ではありますが、形が変わっただけで、人に対する思いの強さはそのままなところが秋之の本の魅力だと思っています。
今回は演出を加納さんにお願いして、普通では考えつかないような素敵な仕掛けや、すべての出演者が輝ける場面を作っていただけています。本を読んだときにはこんなに役者が動く作品になるとは思っていませんでした。自分たちの芝居を「面白い」と言うのはちょっと恥ずかしいですが、稽古を見ていて「これは結構面白いんじゃないかな」と本気で思っています。皆様に楽しんでいただける作品をお届けできれば何より嬉しいです。
西瓜糖「いちご」
本作は9月21日から東京・小劇場B1で上演される。
詳細は公式サイトで。
http://suikato.blog.jp/
(文:西瓜糖 監修:エントレ編集部)
西瓜糖『いちご』
【作】秋之桜子
【演出】加納幸和
【出演】阿部丈二、伊藤健太郎、佐野陽一、原川浩明/
片渕真子、黒川なつみ、原愛絵/
奥山美代子、山像かおり
2023年9月21日(木)~9月27日(水)/東京・小劇場B1
公式サイト
http://suikato.blog.jp/