ミュージカル『町田くんの世界』

川﨑皇輝が届ける、優しい物語――ミュージカル『町田くんの世界』観劇レビュー

ミュージカル『町田くんの世界』

本作は、安藤ゆきさんによる、2015年から2018年まで別冊マーガレット(集英社刊)で連載された累計発行部数140万部を超える人気漫画をミュージカル化した作品です。

演出を手がけるのはウォーリー木下さん。東京2020パラリンピック開会式やミュージカル『チャーリーとチョコレート工場』、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』など、幅広いジャンルを手がける演出家です。本作で第49回菊田一夫演劇賞を受賞されました。

主演・町田一役は、2024年の初演から続投となる川﨑皇輝さん。ヒロイン・猪原奈々役も、長澤樹さんが続投します。

あらすじ
物静かでメガネ。そんな外見とは裏腹に成績は中の下。アナログ人間で不器用。なのに運動神経は見た目どおりの高校生、町田一(はじめ)。
弟と妹4人と一緒にまもなく出産する母に寄り添う町田くんは家族全員から愛されている。
人間が好きで、その言葉と行動でみんなを変えて行く町田くんは、周りの人たちは気付いたら好きになってしまうような「人たらし」。

ある日、授業中に怪我をしてしまった町田くんが保健室に行くと、そこに授業をサボっていた同級生の猪原さんがいた。

猪原さんは彼の傷の手当てしてくれたにも関わらず、「私、人が嫌いなの」と言い放ちその場を去る。町田くんは彼女がなぜ周囲を拒絶しているのかが気になる。
それから間もなく、町田くんは猪原さんが街中でナンパされているところに遭遇する。思わず駆け出し「僕の大切な人なんです」とナンパを阻止する町田くん。「大切な人だよ。クラスメートだ」と紛らわしい言い方だけど、まっすぐに心配してくれる町田くんを猪原さんは強く意識し始める。
二人の距離は徐々に縮まっていくのだが…。

ミュージカル『町田くんの世界』

私は原作漫画のファンであり、2024年の初演は残念ながら観劇できなかったため、今回が待望の初観劇となりました。

ポスタービジュアルが公開され、川﨑皇輝さん演じる町田くんを見た瞬間、「まさに町田くんだ!」と思わず声が出たほど、その再現度の高さに心をつかまれ、公演を心待ちにしていました。

そして、実際に観劇すると、眼鏡をかけた清潔感のあるビジュアルだけでなく、佇まいや話し方、透明感があり、ぬくもりのある演技、あらゆる人を温かく包み込み、誰もが虜になってしまうナチュラルボーンな人たらしぶりまで、まさに「町田くん」そのもの! 期待していた以上に、原作から飛び出してきたような姿に心を奪われました。

普段はアイドルとして舞台に立つことも多い川﨑さんですが、今作では、スターならではの華やかさや輝きを放って舞台に立つというより、そのオーラを消して、“町田くん”としてそこに存在しています。彼なくして、このミュージカルは成り立たないのではないかと思うほど、川﨑皇輝さん以外の「町田くん」は想像できないくらい、まさに町田くんでした。続投したのも納得ですし、ぜひ次回も川﨑さんで観たい!と思うほどです。

ミュージカル『町田くんの世界』

ヒロイン・猪原さん役の長澤樹さんは、最初は「人が嫌いなの」と言い放つクールな印象から、町田くんに惹かれていく可愛らしい部分まで、繊細な心の機微を丁寧に表現されていました。

主演の川﨑さん演じる町田くんの完成度が高かったことに加え、長澤さん演じる猪原さんとの関係性や物語全体も、原作の世界観を壊すことなく大切に描かれており、原作ファンとしてとても嬉しく感じました。
さらに、音楽が加わることで、感動的なシーンがより立体的に描かれ、まっすぐ心に届いてきました。

ミュージカル『町田くんの世界』

冒頭、「この世界は本当は真っ白だ……」という言葉とともに、爽やかな音楽と色鮮やかなセットのもと、物語が始まります。

目まぐるしく場面が変わっていきますが、まるで漫画の一コマ一コマを映し出すように、内容は漫画の1巻からそのまま描かれている部分も多く、原作の流れや内容を大きく変えることなく、違和感なく物語が進んでいきます。

ミュージカル『町田くんの世界』

オムニバス形式で進み、大きなセット転換はありませんが、階段を使った回転するセットをうまく利用し、躍動感あふれるシーンが表現されています。
鶴岡政希さん演じる西野くんが出る回では、恋するウキウキ感やドキドキ感がダンスシーンで表現されていて、個人的にも好きな場面です。
家族団らんのシーンには独特の印象を受けましたが、「こんな表現方法もあるんだ!」という発見もありました。

ミュージカル『町田くんの世界』

ミュージカル『町田くんの世界』

周りのキャスト陣がさまざまな役柄を演じているのも、舞台ならではだなと感じました。特に湖月わたるさんや大月さゆさんは、宝塚のイメージが強いだけに、お母さん役や英子先生、カズミちゃん役の自然な佇まいには驚かされました。あまりにもナチュラルで、最初はお二人だと気づかないほど(笑)。

町田くんの優しさは、家族や環境の影響も大きいのだと感じます。おばのカズミちゃんと町田くんが描かれる回も好きなエピソードの一つ。幼い頃にカズミちゃんから受け取った優しさが、今の町田くんをつくった一部なのだろうな。そして今度は、町田くんが受け取った優しさが、カズミちゃんや関わる誰かを包む優しさになっている。そこに、優しさの連鎖と、成長を感じました。

これといって大きな事件は起こらないけれど、日常のささやかな瞬間や風景、そして町田くんの一言に、ほっと心が和み、温かくなります。

「君がいてくれてよかった。」
「不安な時に傍にいることはできるから」
「嫌になるまで好きでいていいんじゃないかな?」
「何を幸せとするかはその人の自由だよ。」
「ゆっくりいこうよ。」
「友達だから」

たくさんの印象的なシーンや言葉がありますが、いつでも真っすぐで、濁りのない町田くんの言葉や優しさが、心にしみてきます。否定せず、受け止めて、向き合ってくれて、言いづらいことも伝えてくれる。そんな『町田くんの世界』に触れていると、すごく純粋に人を愛して、恋したくなります(笑)。
ただ、町田くん自身は、まだ「恋すること」についてよくわかっておらず、不器用な部分があります。それが猪原さんをもやもやさせたり、混乱させたりする原因でもあるのですが(笑)。でも、少しずつ少しずつお互いが影響し合い、「気づき」を得ながら、それぞれが変化していく過程も見どころです。

そんな町田くんを軸に、物語ではさまざまな「愛のカタチ」や「好き」が描かれ、人とのつながりを大切にしています。そして、観終わる頃には、とげとげして、なんだか荒んでいた心まで、柔らかく、優しくなってしまうようです。

人は毎日、いろんな人と出会い、言葉を交わします。その一瞬、一言でも、人は変わるから。だから私も、優しい人でありたいし、誰かに良い影響を与えられる人間でいたいなぁと思えました。是非、このぬくもりを劇場で感じて下さい!

(文:あかね渉

公演情報

ミュージカル『町田くんの世界』
演出:ウォーリー木下
脚本・作詞:ピンク地底人3号
音楽・作詞・演奏:和田俊輔

町田くん:川﨑皇輝
猪原さん:長澤 樹
氷室くん:神里優希
栄さん:原田真絢
さくら:礒部花凜
英子先生:大月さゆ
ひかり:浜崎香帆
吉高:岩橋 大
西野くん:鶴岡政希
母さん:湖月わたる
健一:吉野圭吾

スウィング:伊藤里紗 小嶋開太

キーボード・コンダクター:和田俊輔
ヴァイオリン:金子由衣/河邊佑里
ピアノ・キーボード:ヤマザキタケル
ドラムス・パーカッション:矢尾拓也/歌川菜穂

期間:2026年7月7日 (火) ~ 7月30日 (木)
会場:シアタークリエ(東京都)

公式サイト
https://www.tohostage.com/machidakun/

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