
その危うさが、とにかく不穏で目が離せない 市川染五郎×デヴィッド・ルヴォーが描いた“新しい解釈” 舞台『ハムレット』観劇レビュー

ハムレット=市川染五郎 ©松竹/梅田芸術劇場
その危うさが、とにかく不穏で目が離せない 市川染五郎×デヴィッド・ルヴォーが描いた“新しい解釈” 舞台『ハムレット』観劇レビュー
囲み取材で演出のデヴィッド・ルヴォーさんは、「これは“現代版ハムレット”です」とはっきり言い切っていた。キャスト陣も、既存の『ハムレット』に寄りかからず、“新しい解釈”へ飛び込もうとしている空気がある。その意味は、開幕してすぐ理解することになる。

オフィーリア=當真あみ ©松竹/梅田芸術劇場
舞台上に広がるのは、これまで観てきた『ハムレット』とはまったく違う世界。LEDモニターに映し出される波や亡霊のような映像、不穏なノイズ音。もしタイトルを知らなければ『ハムレット』だと気づかないほど現代的だ。展開も驚くほどスピーディーで、馴染みのない言葉が飛び交うのに、不思議と“何が起きているか”は伝わってくる。感情のぶつかり合いが生々しいからだ。
そこへ登場するハムレット。ラフな現代衣裳にサッカーボール。この瞬間、「ああ、本当に“現代のハムレット”なんだ」と腑に落ちた。

前列左よりレアティーズ=石川凌雅、ハムレット=市川染五郎、後列左クローディアス=石黒賢、後列右ガートルード=柚香光 ©松竹/梅田芸術劇場
演劇人生30年、これまで本当にさまざまな『ハムレット』を観てきた。だが、市川染五郎さんのハムレットは、それらとまったく質感が違った。正直、かなり衝撃的だった。
これまで観てきたハムレットには、人情や忠義の延長線上に“復讐”があった気がする。けれど今回のハムレットは、“感情より先に知性が動いている”。父を奪われ、母を奪われた怒りや悲しみを抱えながらも、それを感情として爆発させるのではなく、頭で理解して動いているように見える。その危うさが、とにかく不穏で目が離せない。

左よりガートルード=柚香光、クローディアス=石黒賢 ©松竹/梅田芸術劇場
難解な台詞も、考えながら話しているというより呼吸のように自然に出てくる。若さゆえの真っ直ぐさが、ときに危うく映り、クローディアス側に思わず感情移入してしまう瞬間すらあった。狂気と知性が同居したハムレット。こんな解釈は初めて観た。

ガートルード=柚香光 ©松竹/梅田芸術劇場

ハムレット=市川染五郎 ©松竹/梅田芸術劇場
しかも驚いたのが、染五郎さんがまだ21歳だということ。舞台上では圧倒的な存在感を放ち、その若さすら武器になっていた。さらに、“歌舞伎役者が演じるハムレット”だからこそ生まれる説得力も面白い。『ハムレット』も歌舞伎も長い歴史を持つ古典。その所作の一瞬一瞬が、ときどき歌舞伎のようにも見えた。古典と現代の感覚が、不思議な形で融合していた。
この“現代のハムレット”という解釈があるからこそ、周囲の人物たちもより鮮明に浮かび上がる。

ポローニアス=梶原善 ©松竹/梅田芸術劇場

左よりオフィーリア=當真あみ、ハムレット=市川染五郎 ©松竹/梅田芸術劇場
當間あみさん演じるオフィーリアは、とにかく儚い。知性と狂気をまとったハムレットと並ぶことで、その純粋さと壊れやすさがより際立って見えた。
一方で、石黒賢さん演じるクローディアスも興味深い。単なる悪役ではなく、自分なりの正義や立場を持った人物として描かれている。だからこそ対立が“善悪”ではなく、人間同士の衝突として立ち上がっていた。

ホレイショー=横山賀三 ©松竹/梅田芸術劇場
そして何より印象に残ったのが、横山賀三さん演じるホレイショー。誰も寄せ付けないように見えるハムレットが、唯一心を許していたのは彼だけだったのかもしれない――そう思えてしまうほど、ラストシーンの余韻は切なかった。
古典でありながら、驚くほど“今”を感じる『ハムレット』。過去から受け継がれてきた戯曲が、現代の感性と出会うことでここまで新しい表情を見せるのかと圧倒された。公演を重ねながら、この作品がどう進化していくのかも楽しみでならない。
(文:かみざともりひと)
舞台『ハムレット』
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【演出】デヴィッド・ルヴォー
【翻訳】松岡和子
【出演】
ハムレット / 市川染五郎
オフィーリア / 當真あみ
レアティーズ / 石川凌雅
ホレイショー / 横山賀三
ポローニアス / 梶原善
ガートルード / 柚香光
クローディアス / 石黒賢
ローゼンクランツ / 吉田ウーロン太
ギルデンスターン / 竹森千人
浅野彰一 石原由宇 川原田樹 近藤隼 佐々木優樹 常住富大 伯鞘麗名 前東美菜子 水口早香 森内翔大
(オンステージスウィング)栗原功平 佐々木誠
MUSICIANS ミュージシャン
Conductor/Keyboard 江草啓太
Drums 堀越彰
Percussion 渡辺庸介
2026年5月9日(土)~5月30日(土)/東京・日生劇場
2026年6月5日(金)~6月14日(日)/大阪・SkyシアターMBS
2026年6月20日(土)~6月21日(日)/愛知・名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール

