【インタビュー】Office8次元プロデュース 鳴らして楽しむミュージカル『セロ弾きのゴーシュ』吉田能×ヌビア 音楽家対談

吉田能、ヌビア

Office8次元がプロデュースする、鳴らして楽しむミュージカル『セロ弾きのゴーシュ』が4月2日、3日に東京・三鷹市公会堂 光のホールで上演される。

子供たちは無邪気に、大人たちは童心に返って物語に没入できる“参加型ミュージカル”公演。
上演に先駆け、劇中の楽曲を制作し、また舞台上での生演奏を担当する吉田能(ピアノ)、ヌビア(チェロ)にインタビューし、『セロ弾きのゴーシュ』という作品の魅力や、今回の公演への意気込みを語ってもらった。(敬称略)

“好きなこと”が誰かを変えるきっかけを作る

――『セロ弾きのゴーシュ』という題材について、どのような印象や感想を持たれていますか。

吉田 主人公のゴーシュは、最初はすごく思考の凝り固まった人だけれども、動物達との出会いによって変わっていくんですよね。でも動物達は決して、ゴーシュを助けようとしていたわけではないじゃないですか。ただ好きなことを自分達の都合でゴーシュにぶつけたけれども、彼は変わっていった。それって、僕らがやっていることと同じだと思うんです。ただ好きなことをやって、お客さんも好きなように受け取って、それが何かの変化につながるのだと思うから、この『セロ弾きのゴーシュ』はすごく真実をついているお話だなぁと思って、好きな作品です。観る人達にとっても、そういう経験になったらいいなと思います。

ヌビア 『セロ弾きのゴーシュ』といえば、セロ(チェロ)なので、僕にとっては昔からとても大事な作品でした。でも、宮沢賢治の作品の中ではちょっと特殊な立ち位置だと思うんですよね。やっぱり『セロ弾きのゴーシュ』を語る上で必要になってくるのは、ゴーシュの独奏曲である『印度の虎狩(いんどのとらがり)』だと思うんですけど、今までいろいろな団体が上演したものを観ても、どうも自分の中で納得がいなかくて。というのも、あの曲は音楽家の葛藤とか苦しみとか怒りとか、かなりドロドロとした感情が出てくるものだと思うけど、あまりドンピシャなものがないなと思っていたんです。そんな時にOffice8次元さんにお話をいただいたので、「ちゃんと感情を落とし込んだ曲を作りたいな」と思いました。良い機会をいただけて、うれしいです。

『印度の虎狩』は、ゴーシュ同士のケンカ

――舞台上では、ヌビアさんは“第二のゴーシュ”のような形で、ゴーシュ役の竹内黎さんの動きに合わせて『印度の虎狩』を披露しています。演奏のさいは、どのようなことを意識されているのですか。


ヌビア

ヌビア 主演の竹内黎くんを対等なゴーシュ同士だと信じて、ぶつけにいったような感覚です。僕が全力で弾く『印度の虎狩』に対して、「君はそれをどういうふうに受け止めてくれるんだい?」と黎くんに訴える感じで、もはやケンカをしに行っていたと言ったほうがいいかもしれない。僕の中では、“心を合わせる”みたいな美談的な話ではなくて、「俺はこうするけど、どうすんの!」と挑発する感じというか。別に馴れ合いをするような曲でもないですし、ゴーシュの怒りパワーが弱まってしまう気がしたので、とにかくふたり2人でスパイラルを生みながら、螺旋のように盛り上がっていくようなイメージで、2024年の公演では出来たような気がしています。

――竹内さんはヌビアさんの演奏動画をひたすら見て、練習されたようです。

ヌビア かなり練習されていましたよね。なんなら本物のチェロもちょっと弾けていましたし。

吉田 音出たの!?

ヌビア 出たんですよ。普通、初めてチェロを触る人は音が出せないんですけどね。才能しかないなぁと思って、今回は練習用に僕のチェロを一台貸し出しの予定なんです。「研究のために、どうぞ」って。

吉田 すごい!

ヌビア よりよいゴーシュに、一緒に高め合っていけたらいいなと思っています。


吉田能、ヌビア

吉田 それでいつか、「ヌビアさんいらないです」ってなったらどうする?

ヌビア え、たしかにー!

吉田 「あの、ヌビアさんすみません、僕弾けます! 『印度の虎狩』ってこうですよね!」って(笑)。

ヌビア あはは(笑)。さすがにそれはどこかのコンクールに出たほうがいい!(笑)

吉田 さすがにそうか(笑)。

波長が合う相手とセッション出来るのは貴重

――ぜひこの場をお借りして、お互いの「すごいな」と思うところをお話していただきたいのですが、いかがでしょうか。

吉田 えぇ~!(笑)

ヌビア (笑)。

吉田 まず演奏技術が本当に素晴らしいんですよ。作品を作ることに対してものすごく真摯な方で、全幅の信頼を置いているミュージシャンなので、ご一緒出来てうれしいなと思います。あとはやっぱり、純粋に楽しそうだしね!

ヌビア 楽しいですね~! 「音楽」って、「音を楽しむ」と書くじゃないですか。だから僕は、まず自分が楽しくないと出来ないなというのが常にあるんです。だから今の吉田さんの言葉は、すごくうれしいです! そして吉田さんの起こすエネルギーの強さというのは僕の中にはない種類のものもあって、「こういう相手とセッションしたいんだよなぁ」と思わせていただける相手には、なかなか出会えるものではないよなと思っています。


吉田能、ヌビア

吉田 同じ方向を見ているような気はするけど、微妙にタイプが違うのが面白いよね。表現って、突き詰めるとフェチズムだと思うんですけど、僕はそこが結構大雑把なんですよ。「この辺に撃っておけばいいでしょ!」くらいのノリで一撃を放つけれど、ヌビアさんは繊細に「きっとここだ」と音を置いていく。その違いが、良いコミュニケーションを生んでいるのかなと感じたりしています。僕が雑に荒らした場所を、ヌビアさんが更地に戻して話し合いを進めてくれるというかね。

ヌビア 大雑把だと言いますけど、でもそれは言い換えれば全体を見たときの攻撃バランスをすごく考えてらっしゃるということだと思いますよ。僕は欲張って、「もっといけるだろ」と攻めすぎてしまうことがあるので、舞台構成としての視野の広さは必要だなといつも思っています。

吉田 でもこんなに波長が合って楽しくセッション出来ることはレアなので、こういう舞台で叶うのはうれしいです。

――パーカッションを担当される熊谷太輔さんの印象はいかがですか。

吉田 なんなら熊谷さんが一番わんぱくじゃないですかね。

ヌビア あの人は超わんぱくだと思いますよ。


吉田能

吉田 「それはさすがに」と思うことがヌビアさんにはないけど、熊谷さんにはある(笑)。でもだからこそ居てほしいんですよね。僕らにはない提案を積極的にくれるので。

ヌビア 単純にリズム感がいいとかテクニックがどうという軸ではないところで語る方ですよね。

吉田 持っている手数がそもそも多いし、その中で、「まだもうちょっと遊べない?」みたいなエネルギーがある方だと思います。劇中で使う擬音とかも、結構ストレートだし(笑)。

ヌビア ありましたね、カーテンの音とか(笑)。僕らは何か別のもので代用したくなってしまうけど、熊谷さんは素直だから、「いや、そこはカーテンレールでしょ!」って。

吉田 悔しいけど、そりゃ本物のほうが良いってなるんだよね(笑)。面白いです。

さらにエキサイティングな公演を目指して

――最後に、今回の公演への意気込みを教えてください!

吉田 舞台には、本番に生まれる奇跡のようなものがあると思います。稽古場でグッと作り上げた先にお客さんとのセッションがあるといいますか、会場にいるみんなでよりクオリティの高いセッションをすることを楽しみたいと思っています。2024年公演よりもさらにエキサイティングな『セロ弾きのゴーシュ』にしたいなと思います!

ヌビア 今、セッションという言葉が出ましたけど、僕も舞台はセッションがメインだと思っているんですよね。演者とお客さんとのコミュニケーションの連鎖、セッションという名の会話によってエネルギーの爆発が生まれることが舞台の魅力だと思います。特に『印度の虎狩』は、本当は自分ひとりで弾く用に作ったものだったけれど、公演のパワーによって予想外の高まりが生まれたと前回感じたので、今回もすごくワクワクしています。僕ら音楽隊達のコミュニケーションがキャスト達に伝播し、そしてお客さんに必ず届くものだと僕は信じているので、2024年よりも大きな波を作れたらいいなと思っています。観た人の観劇史に残る作品になればうれしいです!


吉田能、ヌビア

公演の詳細は公式サイトで!
https://www.8jigen.com/goshe2025/

文:越前葵

公演情報

Office8次元プロデュース
鳴らして楽しむミュージカル『セロ弾きのゴーシュ』

【原作】宮沢賢治『セロ弾きのゴーシュ』
【作詞・脚本】葛木英
【演出】淺場万矢
【作曲】吉田 能(あやめ十八番)/ヌビア

【出演】
竹内黎(龍宮城)、関根翔太(演劇集団キャラメルボックス)、安川摩吏紗、吉井翔子(Office8次元)、桃菜、廣川三憲(ナイロン100°C)
露詰茉悠、本村ゆうか

楽団員(50音順)
淺場万矢 尾﨑愛 大日方絢子 千布幸奈 露詰茉悠 利根川凜 楡井華津稀 橋本薫子 丸山穂葉 溝部梨花 本村ゆうか 山本耀

【日程】
2025年
4月2日(水) 19:00
4月3日(木) 13:00 /17:00
三鷹市公会堂 光のホール

公式サイト
https://www.8jigen.com/goshe2025/
チケットお申し込みはこちら!
https://t.livepocket.jp/t/goshe2025/

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