
これぞミュージカルの代名詞『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レビュー
写真提供/東宝演劇部
あらすじ
破天荒なクラブ歌手デロリスは、殺人事件を目撃したことでギャングのボスに命を狙われるハメに。重要証人であるデロリスは、警察の指示でカトリック修道院に匿って貰うが、規律厳しい修道女たちからは天真爛漫なデロリスは煙たがられてしまう。そんなある日、修道院の聖歌隊の歌があまりに下手なのを耳にしたデロリスは、修道院長の勧めもあって、クラブ歌手として鍛えた歌声と持ち前の明るいキャラクターを活かして聖歌隊の特訓に励むことになる。やがて、デロリスに触発された修道女たちは、今まで気づかなかった「自分を信じる」というシンプルで大切なことを発見し、デロリスもまた修道女たちから「他人を信頼する」ことを教わる中で、互いに信頼関係が芽生え、聖歌隊のコーラスも見る見る上達する。が、噂を聞きつけた修道院にギャングの手が伸びるのも時間の問題であった・・・。果たしてデロリスは無事に切り抜けることが出来るのか?修道院と聖歌隊を巻き込んだ一大作戦が始まる!
映画『天使にラブ・ソングを…』を原作に誕生した本作は、笑いと高揚感に満ちたエンターテインメントの真骨頂。主人公デロリスが巻き起こす騒動と奇跡は、観る者を惹きつけ、気づけば音楽とともに弾むような幸福感に包まれていきます。
原作・ミュージカルともに、私は大好きな作品で、前回公演時(2023年)にも記事を書かせていただきました。実はその際、森さんは「体力的にも今回が最後かも」と語っており、私は“これが見納めかもしれない”という想いで、その姿をしっかりと焼き付けていました。だからこそ、今回の再演、そして森さんの続投を知った瞬間――「また会えるんだ!」という喜びが胸いっぱいに広がり、期待に胸を弾ませながら明治座へと向かいました。
本記事では、取材会の様子とあわせて、ダブルキャストそれぞれの魅力に迫る観劇レビューをお届けします。
主人公デロリスを演じるのは、2014年の初演以来6度目の出演となる森公美子さんと、宝塚歌劇団退団後初のミュージカルとなる彩風咲奈さん。
これほどまでに年齢、キャリア、佇まい、そして個性が大きく異なるダブルキャストには、出会ったことがありません。それぞれがまったく違うアプローチでデロリスという役に息を吹き込み、魅力を豊かに広げていました。 “別の魅力を持つ二人のデロリス”は本作の大きな見どころの一つです。
まず、森さんのデロリス。森公美子さんといえば『天使にラブ・ソングを…』――そう言っても過言ではないほど、その存在は作品と強く結びついています。登場した瞬間に客席に広がる“待っていました”という期待。その空気を軽々と受け止め、さらに上回ってくるパワフルでソウルフルな歌声、そして一瞬で視線をさらう存在感。まさに、この作品を牽引してきた貫禄がにじみ出ていました。
写真提供/東宝演劇部
一方で、彩風咲奈さんのデロリスは、まずそのシルエットからして観る者の目を奪います。オープニング、ステージに映し出される影だけで伝わる抜群のスタイル。やがてスポットライトを浴び、歌い踊り出した瞬間、舞台は一気に上質なショーの空間へと変わります。
前回公演でデロリスを演じた朝夏まなとさんにも通じる、“元宝塚トップスター”ならではの華やかさ。手足の長さを活かしたダイナミックな動き、ミニスカートにロングブーツを鮮やかに決める抜群のプロポーション。伏目がちな表情から指先まで美しく、しなやかな色香が同居しています。豪快でありながら、弾けるような笑顔には、チャーミングな魅力があふれています。また、まるで背中に羽が生えているかのように、かろやかな身のこなしや足上げも印象的です。
取材会で、彩風さんは、「時々男役の癖が出てしまい、抱き着くところを迎えてしまったり、歩幅が広かったりなどあったのですが、(宝塚退団後)初めての女性役がデロリスでよかったです。大胆な女性なので“女性ということ”を意識し過ぎず挑戦できました。」と語っていました。その言葉通り、枠にとらわれないデロリスを、のびやかに体現していました。会場の隅々にまで想いを届けるようなパフォーマンスに、気づけば心を奪われていました。
写真提供/東宝演劇部
物語の序盤、デロリスはクラブ歌手として確かな実力を持ちながらも、あと一歩届かず、どこかカーティスに依存している部分がありました。けれど、既婚者である彼との関係、パートナーとして大切にされない現実、そして高圧的な態度に、次第に違和感が募っていきます。
そして彼女は「彼は必要ない!私は独りでのし上がれる!」と決意します。前向きでエネルギッシュな彼女ですが、その奥には、幼い頃に怒鳴られ、否定され続けてきた過去がありました。それでも夢を手放さず、歩んできたデロリス。
「見返してやる」――その想いを乗せて歌い上げ「私は最高!才能に溢れている!100万ドルの宝石、それが私」と、高らかに歌う姿には、自らを奮い立たせるような強さと、誇りがにじみ、観る者に勇気を届けてくれます。
そんなデロリスは、決意を胸にカーティスのもとへ向かいますが、思いがけず殺人現場に遭遇し、目撃者として追われる身となってしまいます。物語と彼女の運命は大きく動き出します。そして、そんな彼女を保護することになるのが、警察官のエディ。実は彼は高校時代の同級生であり、かつてデロリスに密かな想いを寄せていた人物です。再会に胸を高鳴らせるエディとの関係も、物語の中で気になる要素のひとつです。
次々と状況が変わり、どこかコミカルに展開していく物語。ドタバタとしたリズムの中にも絶妙なテンポがあり、観る者を飽きさせることなく、引き込んでいきます。
そんな慌ただしい展開から一転、物語は厳粛な教会へと舞台を移します。静けさと緊張感が張り詰める空間――そこに突如として響き渡る、場違いなほどに明るい声。
ミニスカートにロングブーツ、ヒョウ柄のコートを羽織ったデロリスが、エディに連れられて現れます。その鮮烈な登場は、神聖な空気を一瞬で塗り替えるほどのインパクトを放ちます。
写真提供/東宝演劇部
彼女を目にした修道院長役の鳳蘭さんは、大きく目を見開き、その出で立ちに驚きを隠せません。厳かな世界と奔放な存在――その強烈な対比と落差が、この場面の魅力となっています。本来であれば決して交わるはずのないデロリスとシスターたちが出会い、少しずつ関係性を築いていく――その過程こそが、本作の大きな見どころのひとつです。
お酒やたばこ、スナック菓子やステーキまでも禁じられた修道院の生活に、当初はうんざりしていたデロリス。しかし彼女は、歌に自信のない聖歌隊のシスターたちを指導することになります。
写真提供/東宝演劇部
慎ましく、小さな声でしか歌えなかった彼女たちが、恐る恐るお腹から声を出し、やがて立ち上がり、歌い、踊り始めます。その表情と歌声には、次第に自信と力強さが宿っていきます。少しずつ声が重なり合い、喜びを分かち合う姿には、確かな一体感が生まれていました。
そのハーモニーは、まるで体の奥底から湧き上がる“生きる力”そのもののようで、胸を打たれます。厳かで心を洗うような美しい聖歌から、一転して躍動感あふれるHIPHOPナンバーへ。キラキラと輝くスパンコールの衣装に身を包み、のびやかに歌い踊るその姿は、シスター一人ひとりが主役のよう。背後に広がるステンドグラスと相まって、舞台はひときわまばゆい輝きを放ち、思わず涙がこぼれます。何度観ても、そのたびに心を揺さぶられる瞬間です。
写真提供/東宝演劇部
彼女たちの歌はやがて評判を呼び、経営が傾いていた教会にも活気が戻っていきます。寄付金は増え、ついには法皇の前で歌を披露することに――物語は大きな節目へと進んでいきます。
その前夜。緊張で眠れぬシスターたちが、自然とデロリスのもとへ集まる場面があります。静かな夜の中で交わる言葉とぬくもりに満ちた空気が、やわらかく広がります。
年齢も境遇も異なる彼女たちが、歌を通して結ばれ、少しずつ育まれてきた友情。その時間が確かに積み重なってきたことを感じさせる、穏やかであたたかなひとときです。
また、水玉や花柄といった可愛らしいパジャマに身を包んだシスターたちの姿も愛らしいシーンです。
個性あふれるシスターたちが登場する中で、ひときわ強く印象に残るのが、シスター見習いのメアリー・ロバート。前回に引き続き、梅田彩佳さんが演じています。
写真提供/東宝演劇部
彼女はシスターの中でも最も若く、従順で素直な存在です。これまで口答えもせず、外の世界を知ることもなく、欲しがることも願うこともせずに生きてきました。けれど、デロリスとの出会いが、彼女の内側に静かな揺らぎをもたらします。
自らの人生を「空っぽだった」と語り、「知らなかったふりはできない。助けて、教えて欲しい」と、デロリスに求めます。しかし「それはあなたが決めることよ」とデロリスは優しく諭します。誰かに導かれるのではなく、自分で選び取ること――その一言が、彼女の背中をそっと押します。
やがてロバートは、「扉を開けるのは私」と、自らの意思で新しい一歩を踏み出す決意を固めます。これまで生きてこなかった人生へと足を踏み入れようとするその姿は、怖さや不安を抱えながらも、健気で、思わず見守りたくなるような強さを秘めていました。
終盤、ギャングに追われたデロリスが教会へ戻ってくる場面。修道院長が彼女を帰そうとしたその瞬間、ロバートは「嫌です!」と声を上げます。
本来であれば、上司に意見することなど許されない立場。それでも彼女は、「仲間であるデロリスと一緒に歌いたい」と、自らの想いをまっすぐに伝えるのです。
これまで人の顔色をうかがい、周囲に合わせて生きてきた彼女だからこそ、その震える声には確かな強さが宿っていました。か弱さの奥に秘めた意志が、はっきりと形を持った瞬間でした。
自信を持てずにいたロバートが、まったく異なる人生を歩んできたデロリスと出会い、新たな価値観に触れていく。その出会いは彼女にとって衝撃でありながら、同時に世界を広げる光でもあったのだと思います。
そのロバート像を、梅田彩佳さんは見事に体現していました。内に秘めた感情と成長を丁寧にすくい上げ、まっすぐで純粋な姿を表現していました。
誰かのために尽くし、慎ましく生きること――それもまた、美しい在り方です。そうした存在があってこそ、社会は成り立っているのも事実でしょう。
けれど本作は、そのどちらも否定しません。ただ一つ提示するのは、「自分で選び、自分の意思で生きること」の大切さ。
シスターたちは修道院での生活に誇りを持ち、幸せを見出しています。だからこそ、その生き方もまた尊いものとして描かれています。その上でなお、“与えられた価値観”ではなく、“自ら選び取る人生”へと踏み出すことの意味を、静かに、しかし確かに伝えてきます。
写真提供/東宝演劇部
また、「1人でスターになる!」と言っていたデロリスですが、一緒に歌いたい仲間ができ、自分を受け入れ、必要とされる居場所を手に入れ彼女自身も変わっていきます。
年齢も、容姿も、歩んできた道も異なる人々が出会い、やがて心を通わせていく。人種や背景を越えて繋がっていけるというメッセージも、本作は伝えているように感じます。
ここまで登場人物一人ひとりが鮮やかに輝くミュージカルは、そう多くありません。思わず、その輪の中に自分も加わりたくなる――そんな気持ちにさせてくれる作品です。
そしてクライマックス。命を狙われ、銃口を向けられるデロリスを、シスターたちが次々に盾となって守る場面。重なり合うその姿は、言葉を超えた愛と友情の象徴のように胸に迫ります。その瞬間、自然と涙がこぼれていました。
修道院長を演じる鳳蘭さんは、森公美子さんと同様、長年にわたり本作を支えてきた欠かせない存在です。宝塚歌劇団出身ならではの確かな実力と品格に、ユーモアをたっぷりと添え、その存在感で作品の魅力を一段と高めていました。
鳳さんのコメディエンヌぶりと、太川陽介さん演じる大らかで明るいオハラ神父、そして森さんが長年積み重ねてきた空気感が絶妙です。間の取り方や言葉の掛け合いは軽快で、思わず笑みがこぼれる場面も多く、心地よい安心感に包まれます。
写真提供/東宝演劇部
エディもダブルキャストで、石井一孝さんと廣瀬友祐さんが演じています。
石井さんは長年この役を担ってきただけあり、“くどさ”を活かしたアプローチで観客の笑いを誘います。暑苦しく癖の強いエディ像も、人の良さが滲み出ていました。
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一方、前回公演に続き続投となる廣瀬さんは、すっかりエディ役が板についた印象。汗っかきなキャラクターを存分に楽しんでいる様子も伝わり(客席に汗をまき散らすようなサービスも、思わず笑ってしまうポイントです)、どこか不器用でありながらも真っすぐで、デロリスを一途に想い続けるエディの姿には、思わず応援したくなる魅力があります。
彼女のためにチーズステーキを用意しておいたり、「君は絶対にスターになる!」と背中を押す言葉をかけたり――そのさりげない優しさの一つひとつに、彼の誠実な人柄がにじみ出ています。
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エディが「ヒーローになりたい」と歌い上げるナンバーは、バックダンサーの若者たちやホームレスのコーラスが織りなすハーモニー、鮮やかな早替えの演出も相まって、ひときわ印象的な場面となっています。最後はどこか儚さが滲み、エディの心情を映し出す一曲となっています。
松村雄基さん演じるカーティスは、ギャングのボスという悪役でありながら、憎めない魅力を放っています。ストライプのスーツに黒シャツ、真っ赤なネクタイ、整えられたひげ――そのダンディで洗練された佇まいは、“イケオジ”という言葉がしっくりきます。
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また、3人の子分たちもユーモアと愛嬌にあふれ、単なる悪役にとどまらない親しみやすさを感じさせます。“愛すべき悪者”として物語にアクセントを加えていました。
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ラストは、味方も敵も関係なくキャストが一体となり、客席も巻き込みながら、笑顔と手拍子に包まれて一気に盛り上がります。劇中には客席降りの演出もあり、ギャングやシスターたちが通路を駆け抜け、目を合わせ、軽やかに踊る――その距離の近さに、思わず頬が緩んでしまうほど。
最後の挨拶では、メアリー・ロバート役の梅田さんが、デロリスから贈られた紫のロングブーツを身にまとって登場する姿にも、ぜひ注目してほしいポイントです。
そして終演後には、振り付けのレクチャーとともに「みんなで歌おう、踊ろう!」というお楽しみの時間も。ペンライトやグッズを手に、一体となって楽しめるひとときは、この作品ならではの醍醐味です。拍手と歓声が渦のように広がり、劇場全体が熱気に包まれます。
明治座といえば、取材会でも森公美子さんが語っていた通り、お弁当やカフェ、食堂のグルメ、そして充実したお土産売り場も大きな魅力。開演前、幕間、終演後――観劇の前後までも、その余韻を途切れさせることなく楽しめるのが嬉しいところです。
森公美子さんと彩風咲奈さんのコラボによるフードやグッズも展開されており、劇場全体が作品の世界観に染まっています。外に掲げられた幟(のぼり)をモチーフにした人気の「のぼりタオル」も、その高揚を持ち帰れる一品。中でも私が目を引かれたのは、彩風さんのサインが刻まれた「まい泉ポケットサンド」。ファンの方は、ぜひお見逃しなく。
ミュージカルの代名詞――『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』。
幸福感溢れる感動を、ぜひ劇場で味わってみてください。
(文:あかね渉)
『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
音楽 アラン・メンケン
歌詞 グレン・スレイター
脚本 シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
追加脚本 ダグラス・カーター・ビーン
映画原作タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
演出 山田和也・鈴木ひがし
出演
デロリス・ヴァン・カルティエ(Wキャスト):森公美子/彩風咲奈
エディ(Wキャスト):石井一孝/廣瀬友祐
カーティス:松村雄基
シスター・メアリー・ロバート:梅田彩佳
TJ:岡田亮輔
ジョーイ:施 鐘泰(シ ジョンテ)
パブロ:山崎大輝
シスター・メアリーパトリック:柳本奈都子
ミッシェル:河合篤子
ティナ:家塚敦子
シスター・メアリー・ラザールス:保坂知寿
オハラ神父:太川陽介
修道院長:鳳蘭
【日程・会場】
2026年3月25日(水)〜4月21日(火)
東京都 明治座
2026年5月5日(火・祝)〜7日(木)
大阪府 梅田芸術劇場 メインホール
2026年5月15日(金)・16日(土)
長野県 サントミューゼ 上田市交流文化芸術センター 大ホール
2026年5月23日(土)・24日(日)
宮城県 仙台銀行ホール イズミティ21(仙台市泉文化創造センター) 大ホール
2026年5月29日(金)〜31日(日)
愛知県 愛知県芸術劇場 大ホール

