テーマは自然と入ってくるので、楽しさ優先でいいんじゃない? ミュージカル「キンキーブーツ」観劇レビュー
ミュージカル「キンキーブーツ」舞台写真小池徹平&三浦春馬 ミュージカル「キンキーブーツ」観劇レビュー骸骨ストリッパー
のかみざとです!
エンタメ好きを公言しているのにミュージカルが苦手というチグハグな人間ですが、この作品は大好きなシンディ・ローパーが全曲手掛けているということで(しかもトニー賞☆)、行かせていただきました。
注目はやっぱりローラになるよね!でも・・・
今回どうしても取りざたされるのはローラ役を演じる三浦春馬さんでしょう。そりゃそうだ! 180cm近くある綺麗な顔立ちの彼が、ド派手な衣裳を身に纏いドラァグクイーンを演じるんだ。それだけでも十分興味が沸く! …いや、綺麗だけじゃない。先の写真もご覧になりましたか? 筋肉隆々でしょ?(笑) そりゃまぁ、ダンスもキッレキレ! でもこの体が後にローラの生き様に説得力を生んでくるんですが、それは置いといて―
もう1人の主人公チャーリーを演じる小池徹平さんが出てきたときの印象は、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックス! ナチュラルかつコミカルな演技は、男の自分が観ていても好感の持てるかわいらしさがありました。とはいえ、それだけでは成立しない難しい役どころを熱演。
そりの合わない主人公2人が徐々に理解しあっていくバディ感は、生唾もんです(表現が下品ですいません)。
ソニンさん演じるローレンは、工場で働く普通の女の子のように見えますが、喋り出したと思ったらとっても個性的で面白い! どう個性的かというと表現が難しいんですが、たぶんですよ、たぶん彼女はシンディ・ローパーを演じているんですよ。歌い方や仕草もさることながら、 あのマイウェイ感はシンディ・ローパーのPVを観ているような錯覚に陥りました。
個別に上げたらキリがないんですが、ローラのお仲間のエンジェルスは、舞台全体の空気感をグッと変える力があり自ずと観ていました。マヂでカッコいいです!
三浦春馬さん以外のキャストにも目を奪われるはず!
冒頭の作りから丁寧で上質
始まって5分観ただけで、上質な作品であることがわかります。
冒頭は絵本のページをめくるように“工場が開かれ”、瞬時にイギリスの靴工場へと引き込まれました。優しい音楽にのせて主人公チャーリーとローラの生い立ちや、作品の主軸となる【靴】の存在が、言葉で説明されずとも自然と入ってくる。靴(人)にはそれぞれの人生があるんだなと…
序盤にこれだけ丁寧に仕上げられると、この先はもう期待しかなかったです(笑)
前半でチャーリーの父親が亡くなり、彼には不幸や悩みがたくさん起こるんですが、ここでは絶望には落ち入りません。この物語は知っているのです。別れの後には出会いがあることを。
そうです! 開始から約16分後にみんなが待ち焦がれていた“あの人”が現れます。
顔を隠していても誰だかわかります(笑)
圧倒的な存在感
ローラが姿を現したときには、待ってましたとばかりに歓声と拍手が巻き起こりました! いや、不思議とそういう雰囲気にさせられてました。好きなアーティストのライブに行って、開演時間に伴奏が始まったらとりあえず叫びますよね? そんな感覚。
これはもうミュージカルや演劇ではなくエンターテイメントショー! ブロードウェイかと錯覚させられたぐらい! こんな高揚感は映画『メジャーリーグ2』で石橋貴明さんがスクリーンに出たとき以来(映画館で歓声と拍手はそうそうない)。
真っ赤な照明で衝撃的に登場したローラは、筋肉を見せつけ力強さをアピールする。ドラァグクイーンとしてたくましく生き抜くためには、女性らしさではなく“強さ”が必要なのかと想像させられる。ローラとエンジェルス達によるキレのあるダンスは、ピンヒールを履いて踊っていることを微塵も感じさせない安定感。
なにより忘れてはいけない、ここにきてガッツリ攻めてきたシンディ・ローパーのサウンド『Land of Lola』&『Sex Is in the Heel』は、観劇後についつい口ずさむほど印象的なサウンド。何度か流れるんですが、シーン毎に切なくなったりかっこよく感じたりします。それは劇場で体感してほしい!
キンキーブーツ誕生の瞬間は必見!
たくさん見所があるけど、ネタバレが強くなるので控えます。が! 一幕終了間近、キンキーブーツが誕生し、工場のベルトコンベアを使ってのアクロバティックというか、ユニークな演出にはドキドキハラハラ! 工場の従業員もエンジェルスも巻き込んで、観客を楽しませることに重きを置きつつ、“歩く”ということをうまく表現されていて脱帽。これはライブで感じないと意味がない! このシーンを観るためだけに大枚はたいても損はない!
テーマよりも、楽しさ優先でいいんじゃない?
【差別や偏見】がテーマ、なんて言葉でまとめてしまうと重たくなってしまうし、おかまタレントの高感度が高い現代の日本にとっては、過去の出来事のようにも感じます。
先にも書きましたが、前半のチャーリーの回りで起こる不幸を軽めに表現しているのは、二幕で起こる“自分との闘い”が、人生に置いてもっとも難しいことを伝えるためだったんだなと後々わかりました。自分に勝つことが、世界を変える、ってことを明確に主張してます。
この作品、すごくわかりやすくて、なんなら先読みできちゃいます。ただね! それを凌駕する演出があり、色彩豊かで視覚的な楽しさもあり、シンディ・ローパーのサウンドが気持ちを盛り立ててくれる。内容わかってても、何度も観たくなる作品に仕上がってます。テーマは自然と入ってくるので、楽しさ優先でいいんじゃない?
観劇後に思いました。
自分はミュージカルが苦手だったわけじゃなく、好みのミュージカル作品に出合ってなかっただけなのかもしれない、と。同じようにミュージカルが苦手だと思っている方々にぜひ観てもらって感想を聞きたいです。
そうそう、大事なことを忘れてました!
みなさん、この作品はおとなしく観るようには創られてません。劇場に着いたらブロードウェイに観に来たつもりでノリノリで楽しんで下さいね。その方が500倍楽しめますから!!
(文:かみざともりひと)
ミュージカル「キンキーブーツ」
【脚本】ハーヴェイ・ファイアスタイン
【音楽・作詞】シンディー・ローパー
【演出・振付】ジェリー・ミッチェル
【日本版演出協力・上演台本】岸谷五朗【訳詞】森雪之丞
【出演】小池徹平 三浦春馬 ソニン 玉置成実 勝矢 ひのあらた 飯野めぐみ 白木美貴子 施鐘泰(JONTE)
穴沢裕介 森雄基 風間由次郎 森川次朗 遠山裕介 浅川文也 佐々木誠 高原紳輔 中村百花
丹羽麻由美 舩山智香子 清水隆伍 加藤潤一 他
【公演日程】2016年
東京公演:7月21日(木)~8月6日(土)新国立劇場中劇場
大阪公演:8月13日(土)~8月22日(月)オリックス劇場
東京凱旋公演:8月28日(日)~9月4日(日)東急シアターオーブ