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【インタビュー】海乃美月、ミュージカル『ボニー&クライド』にて宝塚歌劇団退団後初舞台! 好奇心旺盛に、新たな世界へ羽ばたく
海乃美月
眩しいほどに朗らかで、清く、正しく、美しく、華やか。だけれども、意思の強い女性の役を演じると、唯一無二の色気を放つ女優、海乃美月さん。
2024年7月7日に惜しまれつつも宝塚歌劇団を退団。そしてこのたび、ミュージカル『ボニー&クライド』にて、退団後初舞台を控える海乃さんに、作品への意気込みを伺いました。
宝塚は、すべてを受け止めてくれる場所でした
――約13年間を過ごした宝塚歌劇団は、振り返ってどのような場所だったと感じますか。
自分の素を全部受け止めてくれる人達の中で、自分をさらけ出せるお芝居をさせてもらえていた環境はありがたかったなとすごく思います。私は本当に同期にたくさん甘えていたので、同期の存在がいかに大きな支えになっていたかということを、退団した今、改めて思っています。
――退団してから挑戦してみたことは何かありますか。
宝塚時代は、お稽古場の段階で役によって雰囲気を結構つくりこんでいくので、金髪の役であれば、お稽古の時から染めたりしていたんです。なので、自分のやってみたい髪色に挑戦する機会がほぼなかったんですよね。当たり前のように次の公演の役に合わせた髪で過ごしていたので、退団して早々に、ピンク色のポイントカラーを入れてみたりしました! あとは逆に、タイミングがあれば髪を切ってみたりしてもいいかな、と思ったりしています。
海乃美月
――私服には何か変化はありますか。
あまり華やかな服を着なくなりましたね。以前は花柄のワンピースとかをよく着ていましたけど、わりと落ち着いたかなと思いますし、パンツを履く機会も増えました。在団中もパンツを履いてはダメというわけではなかったのですが、あえて履かないようにしていたんです。男役さんが男役をつくりこんでいるのに、娘役がそちら側に寄るような服装をしてしまうと対比がなくなってしまうかなと思って、なるべく女性らしく見えるスタイルをしていようと心がけていたので、その変化はあるかなと思います。
自分で道を切り開く ボニーの生き方は魅力的
――ミュージカル『ボニー&クライド』への出演が決まった時は、どのようなお気持ちでしたか。
とても嬉しかったです。楽曲が好きだったので、もちろん難易度が高いのは重々承知ではありましたけれど、挑戦させてもらえることが嬉しくて。ボニーとクライドの生き様も、とても素敵だなと思っていました。彼らの犯す行動を肯定するわけではないんですけど、あの2人のたくましさ、時代を切り開いていった人達のエネルギーみたいなものにすごく魅力を感じます。
海乃美月
――ボニーは、どのような女性という印象ですか。
自分でやりたいことをちゃんと選択して生きている女性だなと思います。あまり周りの環境に縛られず、自分がいいと思ったものをチョイスしているボニーの生き方はすごくカッコいいなと。クライドと一緒に行くことだって、クライドに無理やり連れて行かれたわけではなくて、拒否するときはちゃんと拒否するし、自分が納得したから一緒にいることを選んだわけで、本当に自分の手で一個一個つかんでいるイメージがすごく強くて素敵だと思いました。それって簡単なことではないじゃないですか。生きていれば希望とは違う選択肢を選ばなければいけない時もあるし、諦めなければいけないこともいっぱいある。でも、ボニーはそういう生き方をしていないことが、カッコいい。自分がそうできていないと思うからこそ、ボニーの人生を歩めることはちょっと嬉しくて、すごく魅力を感じています。
――海乃さんご自身は穏やかな雰囲気ですけれど、宝塚歌劇団在団中から、意思が強めな女性の役を、結構やっていましたよね。
そうなんです。トップ娘役に就任させていただいてから多くなった気がして。それまでの持ち味と全然違うなとは思っていたんですけど、私自身、根底に気の強さとか、頑固なところがあるので、そこを見抜かれていたのかもしれません(苦笑)。
――戸惑うというよりは、新たな自分として受け止めていた形なんですね。
自分に合わせた役をいただくというよりは、男役さんに応じてかなと思っていました。相手役さんがより魅力的に見える女性像はこう、という役なのかなと思っていることが多かったですね。あとは顔立ちのせいか、結構クールに思われることも多いので、それを活かすために、どちらかというとニコニコタイプではない役どころが多かったのかなと、個人的には思っていました。
海乃美月
――今回外部の舞台に出演するにあたって、どなたかにアドバイスをいただきましたか。
『ボニー&クライド』の出演が決まった時に、ブランチ役の有沙瞳ちゃんが連絡をくれて、「宝塚と違うところがいっぱいあるので、なんでも聞いてください!」と言ってくれたんです。なので、とりあえずは彼女に、「何を着て行ったらいいの?」など基礎のところから教えてもらい、言われたままで飛び込んだ感じです。でも、無理矢理今までの自分から変えようと思わずに、自由に、なるべくしっくりくるものでやろうとは思っています。とにかくカンパニーの皆さんがあたたかいので、自然体で過ごさせてもらっています。
ダブルキャストだからこそ高まる、役の深み
――海乃さんといえば、同期の方にセリフのイントネーションを監修してもらっている、というエピソードもあると思うのですが、今回のお稽古場ではどうされているのですか。
そうなんです(笑)。今回はもはや、自分から率先して聞くようにしています。相変わらず自分では気がつけないので、「私、イントネーションが変なので教えてください」と伝えて、みなさんに甘えています。すでに何ヶ所かあったんですよね…。例えば、「〇〇顔」って言うとき、私は「〇〇顔↓」と語尾が落ちちゃうんです。それを「〇〇顔↑」だよ、上がるんだよ、と教えてもらったりしています。
――宝塚歌劇団のお稽古場と、今回のお稽古場の違いは、どのようなところに感じますか。
演出家の方によって方法は違うのかもしれないですけど、今回の瀬戸山(美咲)さんの演出は、私が宝塚ではやったことのないやり方です。立ち稽古をする前に、場面ごとにみんなでディスカッションをするんです。それはすごく新鮮でしたし、やりやすいなと感じています。
宝塚の場合は、一気にすべてのシーンをとりあえず通すからこそ、全体の流れを理解した上で固めていけるので、お芝居の組み立てはしやすかったなと思います。どちらの方法も良いところがあるなと思いますね。
――ダブルキャストの方がいることで、役の深みが増すこともありそうですね。
そうですね。自分で本読みをしたり調べて感じたものとは全然違うものを(桜井)玲香ちゃんがやっていらしたり、お話をしながら、「そう解釈するんだ」と思うこともあって刺激的だなと思います。どちらかの意見が間違っているということではもちろんなくて、お互いに教え合いながらお稽古させてもらっています。感覚の違いでこんなにもひとつの台本の読み方が変わるのだというのを知ることができて、すごく楽しいです。
――もっとお稽古が進むと、自分の役を客観的に通しで見られるようになるのも貴重ですよね。
本読みの時点で客観的に作品を見られるってありがたいなと思いました。はじめは、ダブルキャストはちょっと心配だなと思っていた部分があったんです。お稽古の回数が半分になってしまいますし、その中で同じクオリティのものをつくっていく必要があると思うと結構プレッシャーだったんですけど、徐々にその心配は薄れてきました。
海乃美月
――クライド役の柿澤勇人さん、矢崎広さんの印象はいかがですか。
第一印象では、柿澤さんは緻密に役づくりをする方で、矢崎さんは感覚的にお芝居をつくられる方かなと想像していたんですけど、お稽古場に入ってみると矢崎さんは、史実をしっかりと調べて設定とかも細かく考えて演じていて、柿澤さんは、お芝居の流れやリズム、感情をとても大切にされる方で、自分の中の軸をすごく持っていらっしゃる印象を受けて、勝手に想像していた感じと違ったなと思いました。
――相手役が男性になったことで、お芝居の感覚に変化はありますか。
結構違いますね。自分のスタンスが変わったような感覚があります。宝塚にいた頃は、「海乃美月という娘役が演じている役」という感覚だったんですけど、今はその「娘役」という肩書がないので、だいぶ素の自分に近い感覚のまま役に向き合っているような感じがあるんですよね。そこが自分自身の変化としては大きいです。ちょっと言葉で説明するのは難しいのですが…。自分の中で「宝塚の娘役」に対するイメージが強くあって、立ち方、寄り添い方、話し方など、「自分の理想の美しい娘役像」の上に役が成り立っていたというか。今はそれがないという変化はすごくあります。もちろん、女性の演じる男性とリアルな男性は違うなとは思いますけれど、そこに対して戸惑いがあるかと言われたら、意外とそうでもないことに自分でびっくりしています。それよりもスタンスが変わっていることのほうが不思議な感じがしますね。
また新しい『ボニー&クライド』を
――東京での公演ののちは、大阪、福岡、愛知でも公演が行われますが、地方での生活は楽しまれるタイプですか。
なるべく楽しみたいと思うタイプです。でも私、宝塚にいた頃は2回しか全国ツアー公演に行ったことがなくて、1回目はいろいろなところを回ってご当地のものを食べたりしていたのですが、2回目はそういう事が出来る時期ではなかった(※2022年)んですよね…。
――なるほど。あまり食に積極的なイメージではなかったのですが、意欲的であることはわかって少し安心しました。
「これ!」と決めたものをずっと食べている感じ(笑)。なので、いろんな場所に行っても、「これ食べたい!」と思ったら買って食べてみて、美味しかったらまた食べて、みたいな。今回は、大阪、福岡、愛知、美味しいものがある土地ばかりなので、楽しみたいと思います。
海乃美月
――最後に、ミュージカル『ボニー&クライド』を楽しみにしているお客様にメッセージをお願いします!
魅力を言い出したらキリがないのですが、まずは楽曲が本当に素晴らしいものばかり。しかも全部同じような感じではなく、一曲一曲印象が違って組み立ても素晴らしいので、素敵に歌えるように頑張りたいなと思います。あとは今回、作品の世界観を象徴するようなセットになるようです。閉鎖的な世界で窮屈な思いを抱えて生きるボニーやクライド達の思いをを表現したセットの中でお芝居をすることで、舞台上の人物がそれぞれの人生を全力で生きることには変わりはないんですけれど、お客様の作品の見方捉え方も変わるかもしれません。これまでとはまた違う魅力を持つ、新しい『ボニー&クライド』になりそうです。お稽古を重ねていくごとに、お客様からはどう見えるのか、感じていただけるのかを考えて、お芝居をつくっていけたらいいなと思っています!
とてもしっかり者のお姉さんのように見えて、実は周りが手を差し伸べたくなるような、甘え上手な部分もある。そのギャップも魅力的な海乃さん。取材中、「新しいところに飛び込むのはワクワクする!」「変に着飾らず、自然体で挑みたい!」と笑顔でおっしゃっていたのも素敵でした。
2025年5月にはディナーショーの開催も発表済み。これからのご活躍も、楽しみです。
ミュージカル『ボニー&クライド』の詳細は公式サイトで。
https://www.tohostage.com/bonnie_and_clyde/
ヘアメイク:小澤桜(MAKEUPBOX)
スタイリング:宇田川純子
撮影:田中亜紀
文:越前葵
ミュージカル『ボニー&クライド』
【脚本】アイヴァン・メンチェル
【歌詞】ドン・ブラック
【音楽】フランク・ワイルドホーン
【上演台本・演出】瀬戸山美咲
【出演】
クライド・バロウ(Wキャスト): 柿澤勇人/矢崎広
ボニー・パーカー (Wキャスト):桜井玲香/海乃美月
バック:小西遼生
ブランチ:有沙瞳
テッド(Wキャスト):吉田広大/太田将熙
エマ:霧矢大夢
シュミット保安官:鶴見辰吾
石原慎一/彩橋みゆ 池田航汰 神山彬子 齋藤信吾* 社家あや乃* 鈴木里菜 焙煎功一 広田勇二 三岳慎之助 安田カナ
*(スウィング)
【東京公演】2025年3月10日(月)~4月17日(木)/シアタークリエ
【大阪公演】2025年4月25日(金)~30日(水)/森ノ宮ピロティホール
【福岡公演】2025年5月4日(日)~5日(月・祝)/博多座
【静岡公演】2025年5月10日(土)~11日(日)/東海市芸術劇場