熱狂と感動の圧巻のステージ!ミュージカル『キンキーブーツ』観劇レビュー

撮影:岡千里 キセキミチコ

4月27日(日)、ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』が東急シアターオーブで開幕しました。
本作は、経営不振に陥った老舗靴工場の跡取り息子チャーリーが、ドラァグクイーンのローラと出会い、差別や偏見を乗り越えながら「ドラァグクイーン専用のブーツ工場」へと工場を再生していく姿を描いた、2005年公開の同名イギリス映画をもとにしたミュージカルです。

今回で日本公演は4回目。キャストが一新され、新たな『キンキーブーツ』の歴史がスタートしました。SNSでも注目度が高く、公演を待ちわびる声を多く目にしていた本作。公開ゲネプロにて観劇してきたレビューをお届けします。

事前予習と初観劇の高揚感

『キンキーブーツ』は以前からPRなどで目にしていたものの、実際に観劇するのは今回が初めて。そこで、事前にSNSで流れてきたキャストさんによる非公式の予習動画を視聴し、当日に備えました。
もちろん、事前知識がなくても充分楽しめる作品ではありますが、公式サイトのあらすじや背景を含めて予習しておくことで、ストーリーの理解度が格段に深まります。キャストさんの動画に感謝!

ただ、その中で提示されていた「ある問い」が自分の中で解決できず……。これはもう一度劇場に足を運ぶしかない、と思っています。

音楽と映像が心に残る理由

劇中の音楽も大きな魅力のひとつです。
特に本作はシンディ・ローパーさんが、全曲書き下ろした楽曲で、カッコよさも抜群です!
予習の一環として、事前に楽曲をチェックしていた際には、「なんとなくこういう曲調なのね」と軽く聴いていましたが、舞台の中で聴くと印象は一変。
ステージ上の演出やシーンと音楽が一体となり、その場面ごとに深く記憶に刻まれていきます。ふと思い出すと、頭の中でメロディーが流れ、思わす口づさんでしまいます。

ミュージカルの醍醐味はまさにここ。
視覚と聴覚、感情が一体となって心に残り、劇場での高揚感がふとした瞬間に、脳裏に再現される、そんな体験をさせてくれます。

シアターオーブでの驚きの導入演出

今回、シアターオーブでの観劇も初体験でした。
開演前のアナウンスが始まった際、これは劇場の案内なのか?それとも本編の一部なのか?と一瞬戸惑いましたが、すぐに演出の一環であることに気づき、その瞬間から『キンキーブーツ』の世界に引き込まれました。

この「導入」があるからこそ、安心して舞台全体を一緒に楽しめるのだと感じました。
一般的に舞台観劇の際は、「盛り上がりたいけど周囲の目が気になる…」「盛り上がっても良いものだろうか…」という観劇時のあるあるな不安を、あらかじめ演出の中で「一緒に盛り上がってね!」「笑ってね!」と教えてくれるので、安心して観客も一緒に盛り上がることが出来ます。まさに、2人を応援し、一緒にこのステージを創っている感覚になることができます。
導入時のこの演出は、観客との距離感を縮める、素晴らしい仕掛けだと感じました。


撮影:岡千里 キセキミチコ

観客の熱量に圧倒される!

本作で印象的だったのは、観客の熱量の高さです。
私はゲネプロでの観劇でしたので、満席ではない状況でしたが、それでも驚くほどの熱気でした!特にローラ登場時の「待ってました!」と言わんばかりの歓声と拍手は、他の舞台ではなかなか味わえない空気感でした。

そして、それに応えるだけの、キャストたちの魅力あふれるパワー。
派手な衣装から感じるエネルギーの高さももちろんありますが、一人一人から発せられるこのミュージカルへの想い。そして、囲み取材のコメントにもありましたが、最後の1ピースである観客からの熱量とが重なって、作品全体として、さらに高いエネルギーになっているように感じます。

キンキーブーツの世界観にどっぷりと浸り、観客も一体となって盛り上がることができるのがこの作品の魅力の1つだと思います。遠慮することなく、一緒になって盛り上がって観劇することをお勧めします!

撮影:岡千里 キセキミチコ

驚きの連続!ヒールで舞うキャストたち

そして、何より驚かされたのがキャストの皆さんの身体能力。あの高さのヒールを履いて、舞台上を自由自在に動き、歌い、踊る姿は圧巻です!

私はヒールで歩くことすらままならないので(苦笑)、本当に尊敬の眼差しで見入ってしまいました。普段ヒールに慣れていないであろう男性キャストたちが、あのパフォーマンスをしていると思うと、その努力と技術に感服せずにはいられません。

そして、今回のチャーリーとローラを演じるキャスト陣は、皆さん高身長で、なんと平均身長は185cm!でかい!(笑)。
そこに、さらにヒールの高さが加わるので、舞台での存在感も格別です。
一番高いヒールはなんと、12㎝もあるそうです…。

感想の中に、時々『チャーリー大きいね!』というコメントを発見するのも、納得です。

多様性を描く深いテーマ

華やかなステージとは裏腹に、本作が扱っているテーマはとても深く、現代社会でも頻繁に起こる課題が描かれています。

「多様性」と一言で言っても、それは表に表現される違いだけでなく、価値観や思想も含まれます。
本作は、靴工場という小さな社会を通して、私たちに「受け入れること」や「変わること」について考えさせてくれる作品です。

特に終盤、チャーリーが発した言葉には「今それを言う!?」とヤキモキしつつも、現実とはそういうものだよね…と腑に落ちる感覚がありました。

「自分らしく」や「自分のあるがままを受入れる」ことも、もちろんとても大切なことです。しかし、それに加えて、このミュージカルが伝えてくれる「自分が変われば世界も変わる」「ありのままの他者を受け入れる」というメッセージは、自分ではなく相手が主体となっており、より深く観客一人ひとりの心に深く響くものになったと感じます。

エンジェルスが魅せる!個性あふれるパフォーマンス

忘れてはならないのが、「エンジェスル」の存在です。
ローラの圧倒的な存在感はもちろん素晴らしく、登場のシーンは勿論のこと、白いドレス姿で登場された際には、あまりもの美しさに、目を奪われてしまいました。

ですが、私の中での“推し”は、ローラを引き立てる存在でもある「エンジェルス」の皆さん!

キレのあるダンスは言うまでもなく、一人ひとりが個性に溢れ、キラキラと輝いていて、本当に魅力的です。
彼女たちの存在があるからこそ、ローラの魅力がより際立ち、ステージ全体が華やかに輝いているのだと感じました。

ぜひ皆さんも、自分の“推しエンジェル”を見つけてみてください!

撮影:岡千里 キセキミチコ

Wキャスト制で広がる舞台の魅力

私が観劇した回は、チャーリー役:有澤樟太郎さん、ローラ役:松下優也さん、ローレン役:清水くるみさんの組み合わせ。
Wキャスト制を採用しているため、キャストが変わることで舞台の印象も大きく変化します。メインキャストはもちろん、エンジェルスも複数パターンあるので、何度観ても新しい発見があるのも本作の魅力。

「組み合わせ違い」もぜひ楽しんでいただきたいです。


撮影:岡千里 キセキミチコ

小さな“告白”をひとつ

最後にこっそり告白すると…清水くるみさんは他の作品でも拝見していて注目していたのですが、今回の舞台で登場された瞬間は正直わかりませんでした(汗)。
声を聞いて「あ!くるみさんだ!」と気づくという…

さらに、ローラは基本的には派手な衣装に派手なメイクですが、男性の姿で登場されたときは、完全に別人に見えてしまうので、一瞬誰からなくなってしまう…という、ちょっとした混乱も観劇の醍醐味ですね…(笑)。

終わりに

『キンキーブーツ』は、観終わったあとに勇気をもらえるだけでなく、心のどこかに小さな問いかけを残してくれるミュージカルです。
華やかでパワフルなステージの奥にある深いテーマを感じながら、ぜひ劇場でその世界に触れてみてください。

(文:松坂柚希)

公演情報

ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』
Kinky Boots

〈出演〉
チャーリー・プライス
東 啓介・有澤 樟太郎(Wキャスト)

ローラ/サイモン
甲斐 翔真・松下 優也(Wキャスト)

ローレン
田村 芽実・清水 くるみ(Wキャスト)

ニコラ
熊谷 彩春

ドン
大山 真志

ジョージ
ひの あらた

ほか

脚本:ハーヴェイ・ファイアスタイン
音楽・作詞:シンディ・ローパー
演出・振付:シェリー・ミッチェル
日本語演出協力・上演台本:岸谷五朗
訳詞:森 雪之丞

主催:アミューズ・フジテレビジョン・サイライズプロモーション東京
企画・製作:アミューズ

◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2025年4月27日(日)~5月18日(日)
会場:東急シアターオーブ

【大阪公演】
公演日程:2025年5月26日(月)~6月8日(日)
会場:オリックス劇場

公式サイト
ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』

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