
ネタバレ禁止の魅惑のミュージカル!! 『イリュージョニスト』観劇レビュー
撮影:岡 千里
コロナ禍で僅か5公演しか上演されなかった作品が…4年の時を経て、豪華キャストが再集結しフルバージョンで上演されます!
舞台は19世紀末、ウィーン。 栄華を極めたハプスブルク帝国の斜陽。
イリュージョニスト・アイゼンハイム(海宝直人)は、興行主ジーガ(濱田めぐみ)と共に世界中を巡業していた。
ウィーンでの公演中、偶然にもアイゼンハイムは幼い頃恋心を寄せ合った公爵令嬢、ソフィ(愛希れいか)と再会する。
だが、ソフィはオーストリア皇太子レオポルド(成河)の婚約者となっていた。
傾国の危機を救うために、過激な思想に傾倒する皇太子に対し、ソフィは心の内では疑念を抱く。ひそかに逢瀬を重ね、変わらぬ愛を確かめ合うアイゼンハイムとソフィ。皇太子は二人の間柄を疑い、ウール警部(栗原英雄)に偵察させる。ついに密会を知った皇太子は、怒りのあまり剣を手にソフィの後を追い…。
目の前に見えているものは果たして真実か? それとも虚偽なのか?
優美で上質な空間に、鮮やかですが、どこかぞわぞわ、ざわざわさが付き纏う独創的な世界観で妖しくも魅惑的なミュージカルでした。
冒頭、暗闇の中に浮かび上がる奥行のある重厚なセット、そこに鐘の音が鳴り響き、黒装束の人々が映し出されます…“何かが始まる予感”に思わず息をのみました。そこに「真実は虚しいだけだ」と歌う中年の男性が現れます…。音楽や曲調に合わせ場面設定が次々に変わり、飽きる間もなく物語が進みます。序盤から小出しにされるマジックや仕掛けにも目を惹きつけられます。瞬きする間もなく、目を見開いて一瞬も見逃したくないほどに引き込まれました。スリリングな展開にハラハラ息つく間もなく1幕があっという間に終わってしまいました。「えぇぇー!この後どうなるの?」と続きが気になり、後半も集中して観ることができました。
19世紀ウィーンの退廃的な空気を纏い、多くは赤、黒、白で表された世界はこの世の光と闇、そしてそのどれでもないあやふやな世界が表現されているようでした。赤色は派手な衣装以外に、血が花びらで美しく表現されたり、血しぶきのようにダイレクトな表現があったりと幅のある演出が秀逸でした。真っ黒な背景と真っ赤な血のコントラストが狂気の中に美しく描かれていました。黒装束や白装束の衣装は不気味さや清廉さを際立たせていました。
なかなか重苦しい内容と終始暗めの照明で物語が進むため、普通なら眠くなりそうなものですが、スピーディで謎が深まる展開と予測不可能なイリュージョンに常に頭はフル回転でボーっとしている暇はありません。そして今作の良さはトリックに頼った薄っぺらいショーではなく、物語自体が深く作り込まれていることにあります。一人一人の役柄の心情が丁寧に歌詞や歌唱シーンに反映されており物語に引き込まれました。歌に無駄な説明部分がなく、導入も自然で聞き取りにくい日本語訳もほぼなく、作品に集中できました。(原作が海外物の場合、日本語訳が音楽に乗せたときに無理やり感がある作品も多いので…)
撮影:岡 千里
また、主要キャスト5名の配役もぴったりで実力者揃いでした。
私は、主演の海宝直人さんの生の舞台を何度か拝見したことがありますが、特に今回の役は素敵でした。幻影師(イリュージョニスト)アイゼンハイムは奇術界の若きスター!奇想天外なマジックと饒舌で自信に満ちた姿で人々を魅了していきます。端正なお顔立ちにスッと伸びた背すじと身のこなしで燕尾服が良く似合いました。海宝さんのミステリアスで気高く美しい御姿と魅力的な声を存分に堪能できる素晴らしい役でした。特に、海宝さんの胸をえぐられるような演技や心に響く歌声、表現力と音域の広さには震えました。前半部分の終盤は茫然自失、生気を失った彼がどう立ち上がっていくのか⁉気になって仕方がありませんでした。
撮影:岡 千里
公爵令嬢ソフィ役の愛希れいかさんは次期皇太子夫人に似つかわしい気品と美しさ、聡明さを持ち合わせてらっしゃり、役柄に説得力がありました。皇太子が見初めるのも、アイゼンハイムが忘れられず思い続けるほど魅力的なヒロインであるのも頷けました。以前、愛希さんを別の作品で拝見した時はボーイッシュな役柄で小顔際立つショートの髪形でした。そちらも役柄とマッチしていてお似合いでしたが、今回は更に美しさに磨きがかかり見惚れました。手足や首が長く、素晴らしいプロポーションなのはもちろんですが、内から発光するような透明感溢れる美肌に、淡く繊細なプリンセスドレスが良く似合い、特に首から鎖骨のラインが綺麗でした。また一つ一つの所作や姿勢も洗練されており、流石、元タカラジェンヌで娘役トップスター!と息をのみました。細い体から発せられる歌声と声量には驚きました。アイゼンハイムと再会した時、ソフィは皇太子と婚約しているため、初恋の彼を最初は拒否してしまいます。しかし本心は違ったようで、彼に会えたことが嬉しくてたまらない様子が可愛らしかったです。
回想シーンも含め、二人のシーンの美しいこと!めちゃくちゃに映えます!すべてのシーンが画になり、いろんな角度から切り取って残して額縁に入れて飾りたいくらいでした。照明で光っているのか、二人の存在自体が光っているのかわからない錯覚に陥る程輝いていました。海宝さんの甘いマスク…きりっとした眉毛に少し垂れた眼は反則ですね。あんな魅力的な眼で見つめられながら情熱的に愛の歌を歌われたら落ちない女性はいないのではないでしょうか?そりゃ、皇太子と婚約していても、恋心は揺れてしまいます。「すぐにあなたの腕へ~」「二人なら何も怖くない」「何もいらない」とお互いを求めあい歌うシーンは特に美しく幸せなシーンでした。だからこそ、この後の展開には胸が苦しくなりました。
身分違いでありながらも惹かれあい、愛を育みながらも引き離された二人。それでも長い間想い合い、10年の時を経てやっと再会を果たしますが、またしてもなかなか結ばれるのが難しい間柄に…あぁぁぁあ…じれったい‥‥あぁぁぁぁああああ…苦しい―!と、この二人の関係性や展開に悶えたり、苦しんだり…あわわわわ…とほころんだり、ときめいたり…えぇぇぇえ―と驚いたり、悲しんだり…最後まで感情がとてつもなく忙しかったです。先が読めない展開で、謎が謎を呼び考察が止まりませんでした。
撮影:岡 千里
アイゼンハイムの興行主ジーガ役の濱田めぐみさんは、凛とした姿が美しく、上品な存在感はショーの完成度を上げていました。アイゼンハイムにとって母のような存在で厳しくも優しく常に彼を気にかけている姿が印象的でした。途中仲違いし、苦しい場面もありますが、後半の二人の関係性にも注目です。
撮影:岡 千里
成河さん演じる皇太子レオポルドは、暴力的で支配的、プライドが高く、自分の権威のため手段を選ばない残酷な人間でした。圧迫感のある物言いで正にモラハラの極みであり、権化のような男でした。ただ、婚約者が、知らない男の写真をロケットにいれ大切に肌身離さず胸元に持っていたら、そりゃあいい気にはならないよね…と同情してしまう部分もありました。威厳を保つため、他者を攻撃する姿には哀愁を感じました。
撮影:岡 千里
栗原英雄さん演じるウール警部は、レオポルドから二人の偵察を命じられます。しかし、ただの手下に成り下がるのではなく、自分なりの正義や警官としてのプライドを貫き行動する姿には好感が持てました。だからこそ、その先の真実に辿り着いた彼は何を思ったことでしょう。
人は信じるものは自分で選び、真実は移ろいやすいものです。
あなたも真実かウソか魔法か、まやかしか?夢か現実か不思議な世界にどっぷり浸かりながら自分の目でお確かめ下さい!多くを語れず心苦しいですが…ネタバレ厳禁のため真相はぜひ劇場で!
(文:あかね渉)
ミュージカル『イリュージョニスト』
【スタッフ】
脚本:ピーター・ドゥシャン
作詞・作曲:マイケル・ブルース
原作:ヤーリ・フィルム・グループ制作映画「幻影師アイゼンハイム」
スティーヴン・ミルハウザー作「幻影師、アイゼンハイム」
演出:トム・サザーランド
【キャスト】
アイゼンハイム:海宝直人
皇太子レオポルド:成河
ソフィ:愛希れいか
ウール警部:栗原英雄
興行主ジーガ:濱田めぐみ 他
【日程】
◻︎東京公演
期間:2025年3月11日 (火) ~ 3月29日 (土)
会場:日生劇場(東京都)
◻︎大阪公演
期間:2025年4月8日 (火) ~ 4月20日 (日)
会場:梅田芸術劇場メインホール(大阪府)