2023年最高にハッピーなミュージカルコメディ『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レビュー
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部2023年最高にハッピーなミュージカルコメディ『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』観劇レビュー
間違いなく今年一番のミュージカルに出会ってしまった!というか今まで見たミュージカルの中でトップ3に入るくらいの感動作でした。華やかな舞台セット、個性的なキャラクターと演者のパフォーマンス、スピード感とテンポ感がとても心地よく、静と動のバランス、場面展開も絶妙で飽きさせないストーリー展開、笑顔と感動、愛と祝福を感じ「ミュージカルとはこういうものだ!」と体現するような作品でした。
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部
ややもすると舞台は好きだけど、「ミュージカルが苦手」という方もいると思いますが、そのような方にも観ていただきたい「本物のミュージカル」を堪能できます!実は私もミュージカルに苦手意識があった一人です。ミュージカルにおいて「歌やダンス」の場面は、華やかな盛り上がりや、登場人物の心情を表現する場面で大変重要な見せ場になります。しかし、作品によっては突然演者が歌ったり、踊ったりしているように感じ、せっかく物語に集中していたのに白けてしまう、台詞が聞こえづらく物語の内容がわかり辛い、歌やダンス、豪華な衣裳やセットに重点を置くあまり内容が薄く感動が少ない時があります。演者は乗っているのに、観客は引いてしまうような場合も多々あります。しかし、今作はストーリー自体が面白いのはもちろん、歌の構成、配分が丁度よく、歌詞も聞き取りやすく、導入が自然でスッと世界に引き込まれどんどん魅了されていきました。個性豊かな演者の素晴らしい歌声やノリノリのダンスに「歌やダンスの持つパワー」をダイレクトに感じました!自然と笑顔になり、思わずこちらも踊りたく様な高揚感で溢れます!
印象的で大好きなシーンがいくつもありますのでご紹介させていただきますね。
1. ギャングのシーン
大澄賢也さん演じるカーティスをボスとするギャング達は手下もみな個性的でポップさと可愛さ、陽気さがあり憎めない悪役でした。大澄さんのイケオジ姿がとてもお似合いでコミカルでキャッチ―なダンスは楽しかったです。
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部
2. 警察官エディが「ヒーローになりたい」と歌うシーン
廣瀬友祐さん演じるエディは少し頼りない面もある警察官ですが、ヒーローに憧れ決意し行動していく心情を歌詞とメロディに乗せ歌う場面は、真面目で誠実な彼の内に秘める思いが伝わり素敵でした。誰のなかにでもあるスター願望、ヒーロー願望を代弁してくれるようで心に響きました。
3. シスター・メアリー・ロバートが歌うシーン
細くて華奢で引っ込み思案なメアリー・ロバートが自分の殻を破るように歌うシーンは一歩踏み出す勇気をもらえるような場面でした。役を演じた梅田彩佳さんはなんと以前同作のオーディションを受けた経験もあり、昨年は観劇をしていたそうですが、今回はご縁があって出演に至ったとのこと。一番好きな役で、演じてみたいとも思っていたと舞台挨拶で仰っており、並々ならぬ作品や役への思いを感じました。
4. 法皇様の前で歌う日の前日、眠れなくてみんなで集まるシーン
大切な歌の披露前日に緊張して眠れないシスターがデロリスの周りに集まって語るシーンは微笑ましくて可愛くて、歌でみんなの心が繋がっているのがわかるようなシーンでした。
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部
5. 全然揃わなかった歌が少しづつ揃い始め、歌に自信のなかったシスター達が自信を持ち、楽しんで歌ったり踊るシーン
デロリス自身も自分の得意分野でみんなの役に立ち、居場所を見つけていく様やみんなの心が一つになっていくのがわかり、人が人によってどんどんいい方向に変わっていくのを見ることができました。
他にもお伝えしたい素敵なシーンが沢山ありますが、そちらは是非ぜひ劇場で見つけて下さいね。
主役のデロリスはもちろん、鳳蘭さん演じる厳格な修道院長と対極をなす太川陽介さん演じるゆるキャラのオハラ神父、個性豊かなシスターたちと、キャラ設定も一人一人の背景まで考えたくなるような魅力的な登場人物たちでした。シスター達は皆同じ服装をしていますが、年齢や性格も異なる個性が確立していて、大勢で舞台に出ていてもキラリと光るものがありました。キャラが立っていて、キャラクターブックが欲しいくらいです。なんだか、それは皆同じような恰好や仕事、生活をしているようでも「一人一人違った個性を持つ生身の人間」であることを表しているようでした。「誰かの脇役にならなくていい、みんな主役」というメッセージも感じ、こんなにも主要キャスト以外に注目したくなる作品はありませんでした。
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部
普段は厳かで神聖な教会で慎ましく生きるシスター達が弾けるように歌ったり踊ったりする姿はふり幅が大きく、生き生きとして底抜けに明るくてハッピーで思わずこちらも笑顔になりました。心が洗われるような聖歌を聞いたかと思えば、心躍るような魂の叫びもあり、一人一人の歌声が重なり、どんどんパワーアップしてくる様は解き放たれたようで力がみなぎっていました。そもそも、シスター達も嫌々シスターという仕事をやっているわけではなく、「シスターは最高!」と仕事が好きで、誇りをもって取り組んでいる姿も描かれており、売れない歌手であるデロリスも「私の人生絶好調よ!」と胸を張って生きています。悲壮感がなくて「自分の居場所や人生は自分自身で決める、自分で選べる」という強いメッセージ性も物語全体から感じ、仲間との出会いや愛と絆、歌の力、人間の強さを見ることができます。
舞台ならではの会場全体を使ったドタバタ感や疾走感、客席を巻き込んだ演出、圧倒されながらも時にうるうるしたり笑ったり…こんなにも愛とパワーに溢れたミュージカルは初めてでした。クライマックスの「歌は祈り」「祈りは歌」という修道院長の台詞に、「歌」が持つ大きな役割を感じ、神聖で安らかな気持ちにもなりました。観終わった後、信じているこの世界は愛に包まれているし、愛に満たされた幸せな気持ちでした。
私は朝夏さんバージョンを拝見しましたが、すぐに「おかわり観劇」したいくらいで、ダブルキャストである森公美子さんバージョンも観たい!という気持ちになりました。森さんと言えば『天使にラブ・ソングを』と言われるほど代名詞化されているだけに、今ま
で観ていなかったことが悔やまれるほどです(足掛け10年ほど今作に携わっているとのこと)。ダブルキャストの多くは似たような演者のキャスティングが多いですが、森さん朝夏さんは二人とも破天荒なクラブ歌手デロリスの雰囲気をまといながらも全く異なる個性をお
持ちなのでどのように表現されるのかが楽しみです。また、森さんは舞台挨拶で「体力面も考えるとデロリスを演じるのは今作で最後かもしれない」とのことで貴重な出演作となる可能性もあります。森さんは最後に「愛の深さを感じミラクルが起こります!」と力強く仰っていました。
今作の核となる圧倒的な音楽の数々は、「リトル・マーメイド」「アラジン」「美女と野獣」など、ディズニー映画の名曲の数々を手掛けたアラン・メンケン作曲、ミュージカル化のために全て書き下ろしたミュージカル・ナンバーは本作の大きな見どころです。そ
して『ダンス オブ ヴァンパイア』『ヘアスプレー』など、盛り上がれるミュージカルを手掛けてきた山田和也さんが演出をされています。ぜひ2023年最高にハッピーなミュージカルコメディを劇場でご覧ください!
◎おかわり観劇後の追加レビュー(※12月4日に追記)
あまりにも良かったので東京公演千秋楽におかわり観劇へ行ってきました!!(森公美子さんversion)
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』写真提供/東宝演劇部
出演者1人1人がステージ上でスポットライトを浴びて、自分の人生を生きてる姿が最高にカッコ良くて心震え…2回目なのに涙が出ました。
やはりW主演である朝夏まなとさん、森公美子さんが演じられるデロリスはそれぞれに魅力があり、違いを楽しめました。(どちらも観て良かった!)
朝夏まなとさんはキラキラ太陽みたいに皆を元気にするような笑顔!抜群のスタイルとキレのあるダンスは自信たっぷりなデロリスという主人公にぴったりで華がありました。
森公美子さんは圧倒的な存在感とsoulfulな歌声で会場中を魅了し、柔らかで包み込むような笑顔に安心感がありました。
コメディセンスと温かみは彼女のお人柄を感じました!
東京千秋楽、込み上がる思いがあり、森さん本人も何度も泣きそうになったと仰っていました。演者の皆さんが作品自体を愛して、本当に楽しそうに輝く姿に笑顔がこぼれました。
なんと公演後のカーテンコールはアンコールの拍手が鳴り止まず3度も出てきて下さいました!正に、感動の嵐!周りのお客様からも「すごく良かったね!」「面白かった〜」という声が聞こえてきました。
改めて、1人でも多くの方にこの感動を味わって頂きたいなと思いました!
(文:あかね渉)
ミュージカル『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』
【原作】タッチストーン・ピクチャーズ映画「天使にラブ・ソングを…」(脚本:ジョセフ・ハワード)
【脚本】シェリ・シュタインケルナー&ビル・シュタインケルナー
【音楽】アラン・メンケン
【歌詞】グレン・スレイター
【追加脚本】ダグラス・カーター・ビーン
【演出】山田和也
【出演】
デロリス・ヴァン・カルティエ:森公美子、朝夏まなと
エディ:石井一孝、廣瀬友祐
カーティス:大澄賢也
シスター・メアリー・ラザールス:春風ひとみ
シスター・メアリー・ロバート:梅田彩佳
TJ:泉見洋平
ジョーイ:KENTARO
パブロ:林翔太
シスター・メアリー・パトリック:柳本奈都子
ミッシェル:河合篤子
ティナ:福田えり
オハラ神父:太川陽介
修道院長:鳳蘭
坂元宏旬、常住富大、山名孝幸、中野太一、天野朋子、岩崎亜希子、桜雪陽子、大竹萌絵、神谷玲花、輝生かなで、北川理恵、柴崎咲子、須藤香菜、千葉由香莉、豊田由佳乃、湊陽奈、吉田彩美
2023年11月5日(日)~29日(水)/東京・東急シアターオーブ
2023年12月6日(水)~10日(日)/大阪・梅田芸術劇場 メインホール
2023年12月23日(土)・24日(日)/静岡・静岡市清水文化会館(マリナート)