“富屋食堂”で紡がれた愛の記録~「Mother~特攻の母 鳥濱トメ物語~」観劇レビュー

16年の時を超えて再び開幕した感動の物語

鹿児島県南九州市知覧町郡に実在した「富屋食堂」を舞台に、特攻隊員たちから”母”と慕われ、戦後「特攻の母」と呼ばれた鳥濱トメの半生を描いた作品「Mother~特攻の母 鳥濱トメ物語~」が3月19日(水)~新国立劇場 小劇場にて開幕しました。
本作品は鳥濱トメ役を大林素子さんが演じた2009年の公演が初演となっており、以来16年間にわたり再演され続けているロングラン作品です。
しかし、コロナ禍の影響でしばらく公演を行うことが出来ず、今回は約3年ぶりの待望の公演となります。

プロデューサーはペナルティ・ワッキーが務め、自らも出演し、主演の鳥濱トメ役は、浅香唯さんが演じています。
その他、ジャングルポケット・太田博久さんや安藤美姫さんなど豪華キャストが舞台を彩っています。

初日を迎えた出演者たちの想い

最初に公演後に開催された取材会でのコメントをご紹介します。

2013年からキャストとして出演し、今年初めて出演とプロデューサーを兼任したワッキーさん(プロデューサー・出演)は、
「本日、初日を迎えました。1年ほど準備を進めてきた作品がようやく形になり、喜びとともに緊張もありますが、やはり一番は嬉しさが勝ります」と語っていました。
ちなみに、ゲネプロの出来は100点とのこと!

浅香唯さん(鳥濱トメ役)は
「ゲネプロを終えましたが、非常に緊張しまし、反省点も多くありましたので、修正をして本番を迎えたい」と話されていました。

太田さん(ジャングルポケット)は
ワッキーさんに誘われて舞台を観劇したのがきっかけで、今回のキャスト参加となったことを語り、「初めてのゲネで絶対に泣いちゃいけないところで泣きそうになっちゃって、違うことで気持ちをそらそうと思った。いよいよ来たなという感じがすごく、取り肌が立つものがあった。ゲネでは、まだちょっと満足しきれないところもあったので、本番までに自分なり修正し、皆さんに迷惑をかけないように頑張りたいと思います」と述べました。

安藤美姫さんは
「普段は言葉を使わずに表現することが多いのですが、今回はセリフのある演技。新たな挑戦として臨みました。この舞台は実の弟と娘もお世話になったことがある思い出のある舞台で、ワッキーさんからお声がけいただいたときは本当に嬉しかったです。浅香唯さんをはじめ、キャストの皆さんに支えられながら、しっかりとメッセージを伝えられるよう頑張ります」とゲネプロを終えての想いを語りました。

また、ワッキーさんは、新しく加わった2名のキャストについて、「僕がキャスティングしました。二人とも、舞台に対する熱い想いを持っていて、役を見事に演じてくれています。今回の出演が実現して嬉しいです」と2名への想いを語りました。

さらに、浅香唯さんは安藤美姫さんの出演について、「一番最初にお会いした時は、『世界の安藤だ!』と思い、お芝居をされることはピンと来ていなかったのですが、実際に演技を拝見すると、その演技力に圧倒されました」とコメントしました。

舞台裏の秘話

舞台稽古中の裏話として、「足がきれいすぎる」と何度も注意されたことを安藤さんが明かしました。浅香さんやワッキーさんがそれも個性だと言ってくれたが、やっぱり毎回言われるので、そこはめちゃくちゃ練習した!と話していました。
※個人的には、お辞儀もとても綺麗で、さすが!「世界の安藤」と思っていました。

舞台『Mother』が伝えるもの

本編のレビューに入る前に、鳥濱トメさんの功績について、触れたいと思います。

鳥濱トメさんは、太平洋戦争末期に特攻隊員たちを精神的・物質的に支えた「特攻の母」として知られる女性です。彼女は鹿児島県知覧町(現・南九州市)で食堂「富屋食堂」を営み、出撃を控えた特攻隊員たちに食事を提供し、心の拠り所となりました。

戦後、トメさんは戦争の悲劇を伝えるため、特攻隊員たちの遺品や記録を保存し続けました。彼女の努力は後に「知覧特攻平和会館」の設立につながり、多くの人々が特攻隊員たちの思いを知る場となっています。トメさんの生涯は、戦争の悲惨さを語り継ぎ、「命の尊さ」や「平和の大切さ」を後世に伝えることに捧げられました。

豪華キャストが見せた新たな一面

芸人、歌手、スポーツ選手——舞台上には私の知っている彼らではない別の顔がありました。

この舞台の主演の浅香唯さんと言えば、歌手のイメージが強く舞台のイメージを今まで持っていませんでした。でも、テレビドラマと言えば、もちろんあの作品「スケバン刑事」ですよね。
今回の舞台では、そのどちらの印象でもなく、鳥濱トメさんご本人かのように感じるほど、優しさに溢れた表情をされていました。特攻の方々に慕われ、愛され、そして、彼らの心の支えになっている、トメさんそのものでした。

一番驚いた、というか意外だったのは、ワッキーさんでした。もともと真面目な性格であることは何となく感じていましたが、登場シーンから、今までテレビで観てきた彼とは全く違う表情で、圧倒されてしまいました。後半になると登場シーンも増え、その姿は特攻隊隊長として特攻隊を背負っている者の姿であり、この舞台への想いを背負いカーテンコールで挨拶をした、プロデューサーとしての覚悟を持ったワッキーさんの姿と重なるものを感じました。

そして、安藤美姫さん。浅香唯さんもおっしゃっていたように安藤さんと言えば、「世界の安藤!」私も、舞台でのイメージは全くありませんでした。
前半はしばらく登場シーンがないが、やはり登場されたときの姿は凛とした立ち姿で、目立つわけではありませんが、やはり世界の舞台で戦ってきた人ならではのオーラを放っていました。

ジャングルポケットの太田さんは、とてもキーとなるような役どころでしたが、初めての舞台とは思えないほどの演技力で、引き込まれてしまいました。

「日本人全員に観て欲しい」舞台

本作を観劇し、一番の想いは、「日本人全員に観て欲しい」素直にそう感じた素晴らしい舞台でした。

個人的な話になりますが、私は、戦争の話が正直苦手で、怖くて避けてきていました。
特攻の話なども日本人として知るべきだとは思いながらも、怖さが勝り触れることが出来ずに今日まで来ました。

今回は、様々な縁が重なり、舞台を観劇することになりましたが、本音は、気持ちを持って行かれるのではないかと、少し心配をしていました。

しかし、この舞台は真実として伝えるべきことはしっかりと伝えながらも、戦争に対する恐怖ではなく「愛」を感じることが出来るストーリーになっています。
最後の最後のメッセージまでを含めて、私のように目を背けてしまってきている人にこそ、観て欲しい舞台だと心から感じました。

テーマソングに込められたメッセージ

実は、前半ではなんでこの曲なんだろう・・って、私は思っていました。

現代の曲としてあまりにも皆が知っている曲で、この時代のストーリーに対して、少し矛盾のように感じていました。しかし、ラストその曲が歌入りで流れますが、その時に、「あ、だからこの曲が選ばれたんだ・・・」と、歌詞からのメッセージと完全に一致しました。

笑いあり、涙あり

最後に補足ですが、とっても心が温まる感動のストーリーですが、「そうだった!吉本興業だった!」と思い出させてくれるような、思わず笑ってしまうシーンもあります。

最後に

世界ではまだ戦争が行われていて様々な想いが巡りますが、人の温かさや、家族を思う気持ちに触れ、周囲への関わり方を振り返るきっかけにもなりそうです。

毎公演、挨拶があるのかはわかりませんが、終演後のワッキーさんの挨拶は本当に素晴らしく、心が動かされるものでした。
細かく言葉を控えていなかったため、表現は違ってしまっているかもしれませんが、この舞台を多くの人に届けることで、戦争の無い世界を作っていく。
そんな思いで、16年この舞台が続いていて、これからも続けていく。ワッキーさんの覚悟を感じるとても力強いメッセージでした。

すでに、舞台のチケットは完売してしまっていますが、オンラインでの配信がありますので、ぜひ、多くの方に配信チケットを手にしていただきたいと思います。

なお、観劇の際には必ずハンカチ、またはタオル!を忘れずにご準備ください。

(文・撮影:松坂柚希)

 

公演情報

アース製薬100周年 presents『Mother~特攻の母 鳥濱トメ物語~』

特別協賛:アース製薬株式会社
脚本・演出:藤本一朗
プロデューサー:ワッキー(ペナルティ)

〈出演〉
鳥濱トメ:浅香唯
久保田利雄:ワッキー(ペナルティ)
金山文博:太田博久(ジャングルポケット)
久保田喜美子:安藤美姫

協力:吉本興業
企画・制作:株式会社エアースタジオ

◻︎公演日程
公演日程:2025年3月19日(水)~3月23日(日)
会場:新国立劇場・小劇場

□配信チケット
料金:3,000円
販売期間:3月21日(金)17:00~3月29日(土)12:00
※視聴可能期間
B班:3月22日(土)13:00~3月29日(土)23:59
A班:3月22日(土)18:00~3月29日(土)23:59
配信チケットURL:https://airstudio.zaiko.io/item/370197

公式サイト
http://www.airstudio.jp/index_2025mother.html

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