Office8次元は、日本文学の美を追求する新進気鋭演劇ユニット。
7月11日(木)より、谷崎潤一郎が描き出す耽美な世界『春琴抄』を原作とした『春鶯囀(しゅんおうてん)』が開幕。谷崎の美しい日本語を活かしつつ、現代ならではの価値観を取り入れた新作として上演する。
上演に先駆け、演出の寺十吾、脚本の堀越涼(あやめ十八番)、主演の淺場万矢にインタビューし、作品を通して届けたい思いを聞いた。(敬称略)
誰かの“生きる力”になる演劇を
――今回はなぜ、谷崎潤一郎の『春琴抄』を題材に選ばれたのですか?
淺場 どの時代においても、生きづらさを感じている人っていると思うんです。私はこのOffice8次元という演劇ユニットでは、生きづらい人とか、居場所を探している人にとって、「ここに居ていいんだ」と思えたり、「もう少し生きていたい」と思ってもらいたいと思って演劇をつくっている節がありまして。
そんな中で、『春琴抄』という作品は、春琴と佐助が、お互いがそこにいたから存在できたということがあって、お客様に2人の関係性を観て、「私ももう少しここにいてもいいかもしれない」と感じてほしいなと思っているんです。
昨今はかなりSNSや噂話に左右されがちな世の中だと思うんですけど、そういうものに影響されない春琴と佐助の関係性にとても魅力を感じています。
あとは、私、視力が両目とも2.0あって、ずっとすごく見えているんですね。だからこそ、言葉を選ばずに申し上げてしまうと、見えない世界というものに“関心”があるというのも理由ではあります。『春琴抄』には「見えないからこそ見える美しさがある」というテーマが佐助を介してあるんですけれど、そういう世界を描いてみたいなと。それには劇場空間で上演できるということがすごく大きくて、寺十さんがお上手な暗闇演出がとても活きてくるし、お客様もその暗闇を擬似体験できると思うので、そのすべての思いとマッチしたのが『春琴抄』だったという感じです。
春琴と佐助の息子・仙之助が見せる新しい世界
――原作に詳しくは登場しない、春琴と佐助の息子・仙之助は、どのような構想で生まれた人物なのでしょうか。
堀越 「二次創作をしてください」と言われているように僕には見えたんですよ。「春琴と佐助の間の三男一女について、何も語られないけど、どうした?」って。
寺十 その三男一女のこともそうだし、それ以前に、春琴と佐助が複数の子どもをもうけるほど関係を持っていたのかというのがわからないところがグロテスクですよね。恋愛関係というより、そもそも家族に近いような感覚だったわけでしょ? それで子どもが生まれる度に里子に出し、というのが一番えげつないなって。
堀越 たしかに。
寺十 だからこそ今回は仙之助という名の、春琴と佐助の子どもの存在がすごく活きてくると思います。佐助が春琴からどういう扱いを受けていたかという事実を彼は知っていて、両親の間に何があったのかということを見抜く、推理することは非常に際どいことだけれども、鋭く邪推に聞くことができるのは仙之助しかいないんですよ。仙之助の感性から春琴と佐助の関係を見ると、「いわゆるハラスメントっぽい行為しか2人を結ぶ方法は本当になかったのかな…」とか思って。何を美学と感じるかは人それぞれだけど、2人の関係を美化して見せていいのか迷ったりもしました。
淺場 「手厳しい折檻みたいなことを美しく描いてしまうと、それを肯定しているように見えてしまうのではないか」という疑問がキャスト内であがりましたね。みんなでディスカッションをして、その中で寺十さんが、春琴が佐助に向かって石を投げてしまったりすることは決して当たり前ではないとおっしゃっていたのが印象的です。
寺十 何か乱暴なことをして人を傷つけてしまったときって、やってしまったほうもやっぱり怖いと思うんだよね。目の前にいる人に血を流させてしまったという恐怖からくる癇癪というものがあると思うわけ。一瞬、「やってしまった…」と思うんだけれども、どこか怖さが反転して引くに引けない状況になり、余計に激昂してしまう。そういうことが日常的に何度も繰り返されて、春琴と佐助の間に独特の関係性が築かれていったという感じなのかなと。小さい子ども同士でもよくあることだと思うんです。ケンカをしてどちらかが相手をぶってしまったとき、お互いにショックを受けて、両方が泣き出す。そういうやりとりが繰り返された結果、別の誰かが春琴に乱暴をされても、佐助の反応は、「まぁそうでしょうな」くらいのテンションに収まるようになってしまったのかなと。
淺場 「気をつけなされ」くらいで。
堀越 普通の感覚ではなくなってしまうんですよね。
~寺十さんの演出、堀越さんの脚本、オーディションでのキャスティングについては、劇場で販売のパンフレットにて掲載!~
左から、寺十吾、淺場万矢、堀越涼
――劇場にいらっしゃるお客様にメッセージをお願いします。
堀越 シアター風姿花伝という劇空間にとても似合う作品だなと感じています。堀越の脚本、寺十さんの演出に照明や音楽も相まって、どのような世界観が生まれるのかとても楽しみですし、お客様と一緒に楽しめたらいいなと思っています。
寺十 淺場さんが立ち上げた場所なので、柿喰う客にいるときとはまた違う、“淺場が選んだ淺場の姿”を見てほしい。あとは今回のコラボがどういう結果になるのか、ぜひ楽しみにしていてほしいなと思います。
淺場 私が「やりたい!」と思って走り出したけれども、もちろん私ひとりのものではなくて、関わってくださるみんなのものであるべきだし、稽古を通してだんだんこの『春鶯囀(しゅんおうてん)』と今回の座組のことをみんなが愛してくださっている空気感が本当に幸せです。もう私出なくてもいいかなと思うくらい(笑)、座組のみんなのことを大好きになっているので、お客様にも愛していただけたら嬉しいですし、「こういう演劇が観られるなら、まだまだ世の中捨てたもんじゃないな」「まだまだ生きていたいな」と思っていただけるような作品になっていたらいいなと思います。
取材に伴い稽古場を少し見学。演出と演者が一体となってひと場面ごとに意見を出し合い、とても丁寧に演劇づくりが行われていると感じた。
あえて多用される暗闇演出の中で、美しくも耽美的な言葉が静かに紡がれ、生演奏の三味線が身体に染みる。また新しい没入体験に心がゾクゾクした。
本作は、7月11日(木)より、シアター風姿花伝にて上演される。
公演の詳細は公式サイトで!
https://www.8jigen.com/shunouten/
(撮影・文:越前葵)
Office8次元プロデュース公演 近代日本文学新説上演
『春鶯囀』
【原作】谷崎潤一郎『春琴抄』
【演出】寺十吾
【脚本】堀越涼(あやめ十八番)
【出演】
鵙屋春琴 : 淺場万矢
温井佐助 : 斉藤 悠(Kotabeya)
鵙屋春琴(青年期) : 米倉ゆい
温井佐助(青年期) : 浅川眞来
鶯・天鼓 : 木下祐子(ハイトブの会)
鶯・落葉 : 松本真依(幻灯劇場)
雲雀・夕顔 : 尾崎京香
春松検校 : 函波 窓(ヒノカサの虜)
美濃屋利太郎 : 三尾周平
鴫沢てる : 歩夢
男 : サトモリサトル(ダダ・センプチータ)
鵙屋安左衛門 : 熊野善啓
鵙屋しげ : 勝平ともこ
アンサンブル : 中山朋文 前田倫 佐藤楓恋
【日程】
2024/7/11(木)~15(月・祝)/シアター風姿花伝
11日(木) 19:00★
12日(金) 13:00/19:00
13日(土) 13:00/18:00
14日(日) 13:00/18:00
15日(月・祝) 13:00
★…初日割引