製作委員会『すべてイーロンのせい』に出演する小野哲平・松崎眞二と、作・演出を手がける小谷陽子にインタビュー取材し、本作への意気込みを聞いた。
―― まず、製作委員会について教えてください。小谷
大学卒業後に小劇場の演劇や映像で役者をやっていたんですが、30代ごろになってくると、周りの人たちがプロデュース公演をやり始めるんです。
小野 なるほど。そうですよね。
小谷 それで『私もやんないとダメかな・・・』という強迫観念みたいなものがあって、プロデュース公演をやりました。「面白かったよ、2回目はいつやるの?」という声を頂いたので劇場を探し始めて、脚本を書いて演出して・・・という流れで2010年に製作委員会を立ち上げました。
製作委員会『メイン通りの妖怪』2022年12月に上演
―― 製作委員会という名前はどういう意図で付けたんでしょうか?
小谷 映画のエンドロールを見ていると最後に『なんとか製作委員会』って出るのが多いじゃないですか。シンボリックな感じだし、とりあえずコレを付けておくか、という。『わかりにくいから変えてくれ』っていうことを言われたりするんですが、もう10年以上もやっているので、いいかなと思っています。
小谷陽子
―― これまでにはどんなお芝居を作ってこられましたか?
小谷 基本はコメディを念頭に置いていますし、最初に出て頂いた役者さんたちの年齢層が高めだったこともあって30代、40代以上の人を集めてやることが多いです。私は端役を書かないように意識していて、みんな同じくらい重要で、誰か一人でも欠けたら成立しないっていう話が多いです。やると大変なんですけれども・・・。
―― 松崎さんは何度も出演されているそうですね。
松崎 はい。今回で5度目の出演になります。たまたま最初に製作委員会に出させてもらった舞台が一般募集だったんです。そこで年齢層が40代から50代を募集しているのを見てそれは勉強にもなりそうだから是非出てみたいと思ってオーディションを受けたんです。その時のお芝居も内容が濃くて、普段生きていく中で触れることができないような内容だったのでとてもいい経験になりました。
製作委員会『メイン通りの妖怪』写真右が松崎眞二
―― 小野さんは初めての出演ということですが。
小野 僕は過去作を観たことがなかったのでオファーを頂いて出演を即決できなかったんですが、脚本を読ませてもらったらすごく面白くて! 役も魅力的でやりがいがあると思ったので出演させて頂くことになりました。ただ、脚本に登場する内容が知らないことだらけで・・・。
―― 都内のメールオペレーターの事務所で働く人たちを描いたお話ということですが、脚本を読んでいかがでしたか?
松崎 第一印象は『なんだ、これは!?』でしたね。一回読んだだけでは理解できないことが多くて。メルオペ の話なんですが、僕もこういう仕事があることを初めて知りましたし新鮮でしたし、勉強になりました。
製作委員会『すべてイーロンのせい』稽古場より
小谷 メルオペ って2種類あるんですよ。マッチングアプリのサクラか又は援デリの打ち子。このお話でいうメルオペ は後者の方ですね。援デリの打ち子はTwitterでアカウントを作り、裏アカ女子を装って『彼氏に振られたんで、すごく寂しいです。誰か慰めてください。』というように演じます。そのツイートを見て連絡をくれた男性と会う約束をするのがお仕事です。実際に会うのは【キャスト】と呼ばれる別の人で、うまく会わせられて、お金のやり取りができたら【事務所】、【打ち子】、【キャスト】で分けるというのが仕組みです。
コロナ禍の時は飲食店が閉まっていてバイト先がなくなったことで、このメルオペ事務所で働くという人が急増しましたね。感染の危険もなく、寝泊りできる事務所もあったので。今も他の仕事をしながら、メルオペ事務所で働くという人もいます。合う合わないもあるかと思いますが、複業として両立させやすいとは思います。
製作委員会『すべてイーロンのせい』稽古場より
―― 小野さんは、脚本を読んでいかがでしたか?
小野 最初に思ったのは『これって演劇になるんだ。斬新だな!』ということでした。物語ありきではなくて、人が集まるところに物語ができるというか。あと、小谷さんのこの分野にかける熱量や知識量がすごいですよね。このメルオペっていう仕事は、先ほど小谷さんもおっしゃった通り、ひとつのセーフティネットになっているんですよ。住むところがなかったり、年齢層が高かったりする方には仕事がなかなか見つからないので。多少ブラックな匂いのする仕事ですけれども、不思議なことに、登場人物たちはゲームをしているような感覚なんです。そこがまた面白いなと。
製作委員会『すべてイーロンのせい』稽古場より
―― コメディであり社会派ということでしょうか?
松崎 どちらとも捉えられる作品ですね。
小谷 コメディかと言われたら、私はコメディだと思っています。その中で、メルオペのやるせなさっていうのを出せたらいいかなって思っています。メルオペって完全出来高制なので、一個の予約にかける執念がすごいんですよ。
小野 彼らにとっては、生きるか死ぬか、ですからね。
小谷 予約はしたのに現地に相手が来ないということも多いので・・・。当て(打ち子が実際にキャストと客を会わせる)の場面は、打ち子の喜怒哀楽が詰まっているようなシーンだなと思います。
松崎 心理戦のような要素もあってスリリングですよね。
製作委員会『すべてイーロンのせい』稽古場より
―― 稽古をしていて、どんなところが面白いですか?
松崎 このメルオペのお仕事の仕組みが巧妙で面白いので、それを説明している会話もとても面白いんです。現代劇なのに、今まで言ったことがないせりふも沢山あって、それも楽しいですね。
小野 メルオペっていう仕事を聞いた時、恐いお兄さんたちがパソコンに向かってカタカタと何かを打ち込んでいる姿を想像するかもしれませんが、実際はそうではなくて。事務所に集まった人たちが疑似家族のように和気あいあいとやっているのを監視カメラでのぞいているようにお芝居で観られるっていう感じですね。普通のなんでもない人たちが生活のためにやっているっていうギャップが面白いんじゃないかなと思います。
製作委員会『すべてイーロンのせい』稽古場より
小谷 演劇をあんまり観たことがない人にも観に来てほしいですね。特に若い人に。この「すべてイーロンのせい」は若い人にとっては「ああ、なるほど」と思えるところも沢山あると思うし、若い人が劇場にくる間口に製作委員会がなれるといいなと思っています。
松崎 SNSをやっていて、なんだかいかがわしいアカウントにフォローされたことってあると思うんですけれど、そのアカウントの先にあるものが何なんだろう? これに返信したらどうなるんだろう? ・・・っていうのの 一つの答えがこの舞台にありますので、ちょっと興味を持ってしまった男性諸君は是非劇場まで足をお運びください。
製作委員会『すべてイーロンのせい』左から小野哲平・小谷陽子・松崎眞二
公演の詳細は公式サイトで。
http://seisakuiinkai.com/
(撮影・文:森脇孝/エントレ)
製作委員会 第14回公演「すべてイーロンのせい」
オフぱこ募集のその先へ〜
【作・演出】小谷陽子(製作委員会)
【出演】江戸小染 小野哲平 川渕嘉那 木村もえ(おしばいかむぱにゐ) 酒本大(お茶か炭酸水) 佐藤宏枝(P.M.9production) 柴田恵子 松崎眞二
2024年3月28日(木)〜3月31日(日)/東京・アトリエファンファーレ高円寺