KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ライカムで待っとく』が5月24日(金)からKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>で上演される。
『ライカムで待っとく』は、アメリカ占領下の沖縄で起こった1964年の米兵殺傷事件を基に書かれたノンフィクション「逆転」(伊佐千尋著、新潮社・岩波書店刊)に着想を得て創作。
沖縄在住の若手劇作家・兼島拓也が書き下ろし、沖縄に出自を持つ田中麻衣子が演出を手掛け、KAAT神奈川芸術劇場プロデュースとして2022年12月に上演された。
短い上演期間にも関わらず、観客に大きな衝撃を与え、第30回読売演劇大賞優秀作品賞受賞、第26回鶴屋南北戯曲賞ノミネート、第67回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれた。
あめくみちこ、蔵下穂波、神田青といった沖縄出身の俳優陣に加え、中山祐一朗、前田一世、佐久本宝、小川ゲン、魏涼子が出演する。
演出は初演と同じく田中麻衣子が手がける。
雑誌記者の浅野は、60年前の沖縄で起きた米兵殺傷事件について調べることになったのだが、実はその容疑者が自分の妻の祖父・佐久本だったことを知る。調査を進めながら記事を書くうち、浅野は次第に沖縄の過去と現在が渾然となった不可解な状況下に誘いざなわれ、「沖縄の物語」が育んできた「決まり」の中に自分自身も飲み込まれていく……。
「ライカム」とは
かつて沖縄本島中部の北中城村比嘉地区に置かれていた琉球米軍司令部(Ryukyu Command Headquarters)の略。現在「ライカム」は地名として残っている。司令部があった近辺の米軍関係者専用のゴルフ場の跡地には、2015年「イオンモール沖縄ライカム」がオープン。地元民のみならず県外からの観光客も多く訪れる場所になっている。
「米兵殺傷事件」とは
1964年8月16日未明、宜野湾市普天間の飲食街周辺で、米兵2人と数人の沖縄人が乱闘し、米兵1人が死亡、1人が重傷を負った。沖縄青年4人(2人は徳之島出身)が普天間地区警察署に逮捕され、傷害致死罪で米国民政府裁判所に起訴された。事件は陪審に付された。
沖縄人に重罪を課そうとする米国人らが陪審員の多数を占め、評議は4人に不利な流れとなったが、無罪を主張する沖縄人陪審員・伊佐千尋の粘り強い説得で形勢は逆転し、傷害致死罪については無罪、傷害罪では有罪の評決に至った。しかし、同年11月の判決では3人に懲役3年の実刑(1人は猶予刑)という初犯としては重い量刑が下った。
殺傷事件と沖縄住民への差別意識が渦巻く陪審評議、その後の判決は米統治下に置かれた沖縄の過酷な現実を浮き彫りにしている。
作:兼島拓也 コメント
この作品を再演することができ、とても光栄です。初演から2年、ウクライナでの悲劇は未だ収束せず、あらたにガザ地区でも見るに堪えない事態が勃発し、心が苦しくなるばかりです。
私が住むここ沖縄は、相変わらず「決まり」が覆ることもなく、粛々と、そして堂々と、物事は進んでいきます。先日屋久島沖でオスプレイが墜落した後、同じ機体たちは1週間ほど何事もなく飛び続け、休憩に入りました。この文章が公開される頃には、優雅に、気持ちよく飛び回っているでしょう。
本土復帰50年というお祭りも終わり、変わらず嫌な方へと変わり続ける世界の中に、この作品が何かしらの影響をもたらしてくれたらと願いますが、まあ、どうなんでしょう。
演出:田中麻衣子 コメント
沖縄本土復帰50年の冬に上演した『ライカム〜』の再演です。兼島さんのセリフを先頭に、皆で、一層、熱気を帯びたものにしたいと思っています。歌って踊ってお酒を飲んで三線弾いて、集まっておしゃべりすることが大好きな登場人物たちを、ぜひ観に来てください。沖縄と神奈川、1964年と2024年、あっち側とこっち側、、突きつけられる現実を、劇場で体感してください。
本作は5月24日(金)からKAAT神奈川芸術劇場<中スタジオ>で上演。その後、京都、久留米、那覇で上演される。
詳細は公式サイトで。
(文:エントレ編集部)
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ライカムで待っとく』
【作】兼島拓也
【演出】田中麻衣子
【出演】中山祐一朗、前田一世、佐久本宝、蔵下穂波、小川ゲン、神田青、魏涼子、あめくみちこ
2024年5月24日(金)~6月2日(日)/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場 中スタジオ
2024年6月7日(金)・8日(土)/京都・ロームシアター京・サウスホール
2024年6月15日(土)/福岡・久留米シティプラザ 久留米座
2024年6月22日(土)・23日(日)/沖縄・那覇文化芸術劇場なはーと 小劇場