新世界の神は救世主なのか。正義とは何か。『デスノート THE MUSICAL』観劇レビュー&囲み取材レポート

2003年から2006年まで「週刊少年ジャンプ」に連載され、これまでさまざまなメディア展開を遂げてきた人気漫画『DEATH NOTE』。ミュージカル版としては、2015年に日本で世界初演が開幕し、中毒性のある音楽と人間の深層心理までをも極限まで具現化させる演出により、瞬く間に観る人の心を掴んでいった。初演から10周年を迎える今回は、懐かしのキャストのカムバックや立場の違う役への転生、そしてフレッシュなニューフェイスが加わり、新しい伝説の幕が開ける。

【デスノート】
・このノートに名前を書かれた人間は死ぬ。 
・名前を書いた後、40秒以内に死因を書けばその死因で死ぬ。 
・死因を書かなかった場合は、全員が心臓麻痺で死ぬ。 
・死因を書いた場合でも、その詳細をさらに記載すれば、その通りに死ぬ。ただし、物理的に不可能な死に方は無効になる。 

本作に登場する、基本的な「デスノート」の記入ルールは、こんな感じでしょうか。
そしてこの物語は、暇を持て余した死神・リュークが、遊び半分で人間界に「デスノート」を落とすところから始まります。

※基本中の基本な物語を、このあと少し紹介します。まったくネタバレ無しで観劇されたい方は、またいつか戻って来てくださると嬉しいです。

それぞれが自分の世界に没頭しながら歩く雑多な街中で、落とされた「デスート」の存在に気がついたのは、夜神月(ヤガミ ライト)ただ一人。興味本位でノートを開いたライトは記載されたルールに驚き、試しにたまたま視界に入ってきた犯罪者の名前を記入。40秒後、その人物が死んだという緊急ニュースを見て「このノートで世界を変えよう」という大きな野望を抱き、人々は彼を「キラ(殺し屋=Killer より)」と呼び始めます。

主人公・夜神月はWキャスト。個人的な印象を語りますと、

加藤清史郎さんが演じるライトは、THE・真面目な優等生。言い方を変えれば柔軟性はあまりないタイプのように見えるけれども、妹がアイドルのライブに行きたいと言えばついて行ってあげるし、きっと勉強も教えてあげるような優しいお兄ちゃんなのだろうな、というのはどこか透けて見える感じ。そして、ノートを手にした後の覚醒スピードがだいぶ早いので、とにかくリュークが水を得た魚状態でキャッキャしているのが愉快でした(笑)。だからこそリュークとの“相棒”感もそこそこ強めな印象があり、もはや犯罪者がどうではなく、自分にとって不利益な相手の名をノートに書き出した時の高笑いが、少しリュークに似てる気がして、ゾワッとしました。

渡邉蒼さんが演じるライトは、大人と子供の間を彷徨う高校生特有の青さが残る雰囲気。警察庁刑事局長の息子であるという境遇に縛られて、努力の結果・優等生ポジションになっているような感じでしょうか。だからこそ最初はデスノートもある種おもちゃみたいなもので、好奇心で書いてはニュースになることを楽しんで、宿敵・Lに居場所を特定されれば、焦り、怒る。良くも悪くも“素直”なところが魅力的なライトだったように思います。それゆえにそばにいるリュークのテンションの振れ幅も凄まじく、常に“足元が不安定な橋をダッシュで渡っている”ような危なっかしさに、ドキドキさせられっなしでした。

ノートを落とした死神・リューク役は、浦井健治さん。初演と2017年に、身体の水分がすべて外に出ているのではないかと心配になった程、それはもう醜い姿で散っていった伝説の夜神月が、まさかのリューク役で降臨。とにかく好奇心旺盛でパワフル。浦井さんがご自身のラジオで「ライトとの共鳴を目指したい」とお話されているのを聴いたのですが、まさにライトと感情を共有し、共に笑い共に怒り、端から見れば“良き共犯者”に見える。かと思えば見捨てるときの冷酷さが強烈で、その高低差が本当に恐ろしかったです。

そういえば。リュークの大好物と言えばリンゴですが、私がゲネプロで拝見してから初日が開けてしばらくは本物だったものが、途中からレプリカに変わった模様。ゲネプロのさいは、とにかくよく齧るわ、吐き出すわで舞台上が欠片だらけになっていたのですが、さすがに衛生面などを考慮してNGになったのでしょうか。これも浦井さんらしい?リュークらしい?エピソードで個人的に好きです(笑)。


※リューク、お願いだからやる気を出してもらって(笑)。床に寝ているか、俊敏に動いていることが多く、撮影経験の浅い私には結構しんどかったです(苦笑)。

もうひとりの死神・レム役は、濱田めぐみさん。初演と2017年に同役を演じた濱田さんが、8年ぶりにカムバック!嬉しい!ありがとうございます!(大声)。前回からさらにセリフの言い回しからして我々人間とは違う「死神」感が強くなり、静かに流れる時間への哀愁も強くなった気がしました。
レムはリュークとは対照的に、慈愛の心を持った死神。でもその慈愛こそが、ライトによって利用されてしまう弱点ともなってしまうのですが、それはぜひ劇場で。
とにかく何かしらのセラピー効果がありそうな濱田さんの歌声と、レムという役の親和性が本当に素晴らしいので、また出会うことが出来て嬉しかったです。

若者に大人気のアイドルでありながら、かつて両親を殺した犯人を裁いてくれたキラを崇拝する少女・弥海砂(アマネ ミサ)役は、鞘師里保さん。正直、私の中のミサのイメージよりも声がハスキーで大人っぽい雰囲気だったので、「新解釈だなぁ」と思いました。が、それもまた一興。諸事情あってレムが落としたノートを拾い、「第二のキラ」として動き出したミサの「ようやく生きる意味を見つけた」というピュアな瞳と希望に満ちた笑顔、そしてその裏に渦巻く「死」の香りというアンバランスさにグッと心臓を掴まれたような痛みを感じました。もしかしたらレムも、こんな気持ちだったのかな。

警視庁の刑事達からも一目置かれ、キラの存在を追う謎の名探偵・L(エル)役は、三浦宏規さん。まさに「天才と変人は紙一重」という独特のオーラを放つ青年。甘いものが大好きで、グミや飴などをいつも食べているところがチャームポイント。不思議そうに見つめていると、お菓子をわけてくれる気遣い(?笑)はできる子なのが可愛い。
常に猫背のまま芝居や歌をこなさなければいけない特殊な役ではありますが、バレエで培われたであろう身体能力の高さと肺活量で、見ていて苦しさが一切伝わってこないのがさすがでした。


※Lの独特な物の持ち方が好きすぎて、真似して二本指で電話に出ることにハマっていた時期があるのですが、本当に不便(笑)。この記事の向こう側にも、やってみたことある方、絶対いますよね…?(仲間探し)

「演劇は、時代を映す鏡である」とはよく言いますが、本当にその通りだと思います。SNSが発達し、誰もが自分の中で正当化した正義を大きな声で叫べる時代。そして誰もが人を救う神にも、裁く死神にもなれてしまう時代。それを残酷なまでにリアルに描き出されていて恐ろしくなると共に、原作漫画が発売された2003年には「未来の話だ」と感じていたこの物語に、私たちの現実がどんどん近づいていると思うと悲しくもなります。

私達の目にまだ見えないだけで、もしかしたら死神達がノートを落とす日は、明日かもしれません。その時、あなたならどうしますか。あなたが守りたい“正義”とは、何ですか。

ここからは、11月23日(日)に行われた、初日前会見の様子の一部をレポートいたします!
登場したのは、夜神月役の加藤清史郎さん、渡邉蒼さん。L役の三浦宏規さん。3人の仲の良い雰囲気を伝えるため、会話形式でお送りします。


左から、三浦宏規、加藤清史郎、渡邉蒼(敬称略)

ーーみなさん初共演ですが、お互いの印象はいかがですか。 

三浦 どうなんだろう。でも、仲は良いよね? 3人で楽屋一緒だし。

渡邉 そうですね。クリスマスソングが流れています。

加藤 (笑)。

三浦 150センチのクリスマスツリーを楽屋に飾っているんですけど、そこにみんなで1日1個オーナメントを買って飾っているんです。作品がグッと集中して重いテーマではあるので、裏では一緒に良いクリスマスを迎えられたらなと思っています。

加藤 なので仲は良いと思います(笑)。「印象」ではなくなっちゃったけど(笑)。

ーーでは、加藤さんから見て、渡邉さんと三浦さんはどのような方でしょうか。 

加藤 蒼は、お仕事とか役とか作品に対しての向き合い方が本当に真摯な人だなと思います。僕らは同じ役をやっているのでいろんな話をしたりするんですけど、蒼のおかげで膨らんだことがすごくあったなと思っています。一方、こちらの変な人は…。

三浦 どうも、変な人です(ニコッ)。

加藤 (笑)。ちゃらんぽらんな感じがするんですけど、根はすごく真面目というか、板の上で月とLとして対峙する場面が後半にありますが、その時のLの中で燃えている炎みたいなものがすごく伝わってきて、月にも火をつけてくれるような、そんな役者さんです。

ーー渡邉さんから見て、加藤さんと三浦さんはどのような方でしょうか。 

渡邉 清史郎くんは人としても俳優としても、何回人生を歩んで、何個目や耳を持って過ごしているんだろうかと思いますね。

加藤 それは蒼くんにもまったく同じことが言えるんですよ。さっきだって…。

渡邉 ねぇ、僕は清史郎くんの良いところを話そうとしてるのに(むすっ)。

加藤 わかった(笑)。仲良いんですよ?(笑)

渡邉 こうやってすぐに褒めてくれるんです。それは作品の良いところに対しても。『デスノート』という作品は、醜くて、哀れで、でもいとおしい“人間”という姿を描いているんですけれども、そういう“人間”に対する解像度みたいなものが清史郎くんはすごく高くて、お話しながらいつも勉強させてもらっています。
宏規くんは、大好き。いつも気遣ってくれるし、僕が緊張していたりするとすぐに感じ取って救ってくださる印象があって、それもさりげなくやってくださるのがすごくカッコよくて大好きです。

三浦 ありがとうございます。恐縮です(照)。

ーーでは三浦さんから見て、二人の月の違いは、どのように感じていますか。 

三浦 違いはめちゃくちゃあるんですけど、大前提としてすごいです。人としても役者としても成熟されているというか、人として2人ともちゃんと自立しているんですよね。自分がやるべきことや作品への向き合い方がすごく真摯で、舞台演劇に対する真摯な愛をすごく感じるので、こちらも学ばせていただくことはたくさんありますし、すごいなと思って見ていますね。


※「それぞれの印象は?」という質問に、顔を見合わせて照れていたのが可愛いお3方でした。

ーー最後に作品への意気込みをお願いします。

三浦 カンパニー全体の熱量みたいなものが初日に向けてどんどん高まっていって、ただ舞台に向き合うだけではない、いろんなことを考えながら作品に向き合っているので、そういう思いをぜひお客様には受け取っていただきたいと思っております。

渡邉 舞台上に『デスノート』という作品の壮大な世界観が広がるのと同時に、今の現実的な社会がつくりあげられているなという印象があります。そしてミュージカルということで、フランク・ワイルドホーンさんの楽曲が後押しをしてくださり、本当に素晴らしい作品になっていますので、ぜひ劇場でお会い出来たら嬉しいです。

加藤 “人間”というものを感じていただけたらすごく嬉しいなと思っています。『デスノート』という作品を通じて、観終わった後に「今この世界で生きている自分って…」と考えるきっかけのようなものを持って帰っていただけたらそれ以上のことはないかなと思いますし、そう感じていただけるように、夜神月として泥臭く生き抜いていけたらなと思いますので、楽しんでいただけますように。

本作は、東京・東京建物 Brillia HALLで上演されたのち、大阪、愛知、福岡、岡山でも上演されます。
詳細は公式サイトで!
https://horipro-stage.jp/stage/deathnote2025/

(写真提供:ホリプロ 写真撮影・文:越前葵

公演情報

『デスノート THE MUSICAL』

【原作】 「DEATH NOTE」(原作:大場つぐみ 作画:小畑健 集英社 ジャンプコミックス刊)
【音楽】フランク・ワイルドホーン
【演出】栗山民也
【歌詞】ジャック・マーフィー
【脚本】アイヴァン・メンチェル

【出演】
夜神 月(Wキャスト): 加藤清史郎/渡邉 蒼
L:三浦宏規
弥 海砂: 鞘師里保
夜神粧裕:リコ(HUNNY BEE)
死神レム:濱田めぐみ
死神リューク:浦井健治
夜神総一郎:今井清隆

俵 和也 石丸椎菜 岩橋 大 大谷紗蘭 小形さくら 尾崎 豪 上條 駿 川口大地 神田恭兵 咲良 田中真由 寺町有美子 照井裕隆 藤田宏樹 増山航平 町屋美咲 松永トモカ 望月 凜 森下結音 安福 毅 德岡 明* 森内翔大*
*(スウィング)

【東京公演】2025年11月24日(月祝)~12月14日(木)/東京建物 Brillia HAL(豊島区立芸術文化劇場)
【大阪公演】2025年12月20日(土)~23日(火)/SkyシアターMBS
【愛知公演】2026年1月10日(土)~12日(月祝)/愛知県芸術劇場 大ホール
【福岡公演】2026年1月17日(土)~18日(日)/福岡市民ホール 大ホール
【岡山公演】2026年1月24日(土)~25日(日)/岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場

公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/deathnote2025/

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