エントレ読者の皆様、こんにちは!
楽劇座の五條なつきです。
演劇の世界は、作品創りやお稽古に時間がかかるというイメージがあります。
お稽古の拘束時間が長く、そのために学生時代は大好きだった演劇が出来ない…と悩んでいる社会人の方にもたくさん出会ってきました。
海外では、プロでなくてもアマチュアで演劇を創り、楽しんでいる方がたくさんいらっしゃると聞きます。
ところが日本では、普通に働いている方にとっては制作にかかる時間がネックになり、なかなか演劇の裾野が広がっていないのが現状です。
そのために、演劇を創る、舞台に立つのは特別な人だけ…という認識が出来上がっている気がします。それはとても勿体ないことです。
でも、ノウハウを掴めば企画から上演まで、短期間で公演を実現する事が可能です!
私の所属している劇団・楽劇座では、2012年から現在まで、毎月欠かさず舞台を上演しています。気がつけば私も80ヶ月以上連続で舞台に立っていました。しかも毎月違う演目です。
同じ演出家・出演者での連続上演記録としてはかなり珍しいようで、よく「どうやって毎月舞台を創っているの?」とお客様や演劇関係者の方から質問を頂きます。
楽劇座がどうやって短期間で舞台を創っているのかをご紹介すれば、舞台を自分でも創ってみたい、という方のお役に立てるのでは?と思い、今回は『毎月10日間で舞台を創っている私達の方法と心得について』というテーマで役者コラムを執筆させて頂く事にしました。楽劇座の舞台創作の様子をご紹介する事で、短期間で舞台を創る方法をお伝えしてみたいと思います。
短期間で舞台を創る方法が分かれば、他にお仕事をされている方でもお休みの日だけで舞台を創る事も可能です。おまけに拘束時間が減り、稽古場代も節約できる…といったメリットも生まれます。
舞台創りに興味があるけれど、時間がかかりそうでなかなか踏み出せない…という方のお手伝いが出来れば嬉しいなと思っております。今回もどうぞお付き合い下さい!
準備企画・脚本執筆・キャスティング
まずはどんな作品を上演するかという企画を決定します。そして企画が決定すると、脚本の執筆がスタート。
楽劇座の上演作品のほとんどは、演出も担当している関口純のオリジナル戯曲。前月の公演中~公演後に企画を決定し、2~3日で脚本を執筆。執筆が完了次第、出演者に脚本が配布されます。楽劇座では普段のお稽古がオーディションも兼ねているので、脚本完成と同時に配役を発表!(ごく稀に配役が未定の場合はお稽古を進めながら配役を決定するため、役者は2役以上を同時に暗記しなければいけないという恐ろしい事態になる事もあります。)
…という流れですが、普通はなかなかすぐに脚本を書いたり、キャスティングしたりという事は難しいかもしれませんね。
その場合、脚本はあらかじめ用意しておく(もちろんオリジナル作品ではなく既存の脚本を使うのもいいですね!ただしその場合、トラブルを防ぐために著作権や使用条件については必ず事前に確認しておいて下さいね。)、出演者を事前に探して声をかけておく…等の準備だけは早めに進めておくとスムーズにお稽古に入れます。
1)台詞を暗記
脚本を渡されると、役者は台詞を暗記してお稽古に臨みます。
楽劇座の場合、定期公演の作品の多くは3~4名の出演者・1時間半~2時間の上演時間という構成のため、ひとりひとりの台詞も多いのですが…3~4日間程でとにかく頑張って覚えます。役者的には1番苦しい時間です。けれども、ここが短期間でお稽古を進めるための1番のポイント。役者が台詞を覚えていないと脚本が手放せないため、なかなか演出が付けられません。数日で台詞が覚えられるか不安…という場合は、脚本を前もって準備するなどして必ずお稽古開始前に暗記をしておきましょう。
役者はもちろんスタッフのためにも、最初に脚本が渡された時に全員で集まって読み合わせ(座って台本を読む事)をしておく事がオススメです!脚本の内容を共有できたり、出演者ひとりひとりの個性(見た目、声質、癖などなど)が分かってお互いがやりやすくなったり、演出プランやスタッフプランが立てやすくなったり…と、脚本を立体化していく上での基礎情報が共有出来ます。
2)お稽古
演劇の世界では、大まかに言うと
読み合わせ(座って台本を読む)
↓
半立ち稽古(台本を持ちながら動く)
↓
立ち稽古(台本を持たないで動く)
の順でお稽古を進めるのが一般的です。
楽劇座では一般的な場合よりもお稽古期間が短いため、初回のお稽古では読み合わせ(座って台本を読むお稽古)を行いますが、半立ち稽古は飛ばしてすぐに立ち稽古(台本を離して実際に動くお稽古)に入るのが基本です。
お稽古では場面毎に演出を付けて頂いたり、台詞の追加・変更を行いながら作品を創っていきます。いわゆる「お稽古」というと皆さまが想像されるのはこの過程ではないでしょうか。
短期間で作品を創るために、楽劇座では立ち稽古に入る前、1番最初の読み合わせの段階ですぐに演出やテキ・レジ(「テキスト・レジ」。台詞の追加・変更をして台本を訂正する事)を行っています。最初に演出が付いて、役者が台詞を覚えていればすぐに通し稽古に入れますからね。通し稽古をしながら、より良い作品にするために更なる改良を加えていく…というイメージです。
お稽古と同時進行で照明・音響・衣装・制作などのスタッフ作業も進行していきます。また、舞台では役者が自分でメイクをする事が基本なので、ヘアメイクも役作りの一環として考えておきます。場合によっては早めに演出家に相談してチェックを頂き、改善点を確認しておきましょう。
また、楽劇座のミュージカル作品に関しては作・演出の関口純が音楽も担当しているため、お稽古の合間に作詞作曲編曲が行われます。ミュージカルの音楽というと時間をかけて作曲されている…と思われがちですが、関口の場合はあっという間で、なんと1曲5~15分で完成してしまう事がほとんど!作詞作曲が終了次第、お稽古と同時進行で編曲・音源の制作も行います。完成次第、役者に譜面や音源が渡されますが、たいていレコーディングの前日となります。お稽古開始時に脚本と音楽が同時に渡される…なーんて事は決してありません。なので役者はとても苦労しています(笑)
ちなみにレコーディングは本番1週間~5日前を目安に行います。レコーディングと同時期に歌唱指導もして頂き、更にこの頃に振付も決定!
ミュージカル作品は楽しくて大好きですが、ハードスケジュールになりがちなので、慣れないうちはストレートプレイのものを創る方が安全です。
3)総仕上げ
これまでお稽古してきたお芝居の最終仕上げに入ります。全体のバランスを整え、演出を変更したり、台詞を更に追加・変更する事も。
音響・照明などのスタッフも最終確認をしてリハーサルを行います。
楽劇座の場合、本編の他にミニコンサートや朗読劇を同時上演する事も多いのですが、そうった同時上演企画がある場合もたいてい本番前日~3日前で仕上げていきます。
もし、トークショー等本編の他に企画しているものがあるのであれば、遅くともこの時期には確認しておくと安全ですよ。
4)ゲネプロ→本番
本番前日もしくは当日に実際の公演と同じ衣装を着てメイクを行い、本番と全く同じ状態で作品を通すゲネプロを行います。
最終的なダメ出し(ダメなところを演出から指摘して頂き、直す事)を確認して、いよいよ本番です!
ただし楽劇座の場合、最新の時事ネタを盛り込んだ公演だと本番直前、もしくは公演期間中でも台詞が追加になる事もあるので役者としては油断が出来ません(笑)
楽劇座では、こんな流れで毎月の公演を実現させています。もちろん制作期間中に毎日お稽古がある訳ではありません。レコーディングや各種打ち合わせも入りますので、実質的なお稽古日数は3~5日ぐらいといったところでしょうか。全ての過程を出来るだけ短時間で行えるように、役者は台詞覚えやお稽古にどれだけ集中出来るかが毎月試されます。
期間が長くても短くても、舞台創りをスムーズに行うために、私はいつもこんな事を心がけています。
☆ 脚本を事前にしっかり読み込んでおく事。
脚本の構造を理解すれば演出の意図が掴めるので、演出家に言われた事をすぐ理解できます。
☆「出来ない」は禁句。「出来る」と信じる事。
出来ないと思ってしまったら絶対に出来ません!
☆ 読み合わせの時から本息(本番と同じように台詞を言う事。座っていても力を抜かない!)でお稽古をする事。
最初から立って動いた時をイメージしておくと、すぐに立ち稽古に入れます。
☆ 台詞覚えや1度付いた演出の確認等、出演者が次のお稽古までに準備できる事は確実にクリアしておく事。
同じダメ出しを何度も受けている時間がもったいない!
☆ 普段から色々な事に興味を持って、調べたり体験したりしておく事。
特に本を読むようになってから、脚本の理解が深まりました。
☆ そして何より作品創りを楽しむ事!
もちろん私達も慣れるまでは大変でした。最初は「短期間で舞台を創るなんて無理!」と思っていたんです。実際に楽劇座が連続上演を開始した当初は20~30分程の短くシンプルなストレートプレイを上演していましたが、現在は2時間のミュージカルを上演出来るまでになりました。新人が入ると皆びっくりするのですが、今ではこのペースで舞台を創るのが当たり前になっています。
私が役者なので特にそう感じるのかもしれませんが、短い期間で効率よく舞台を創るには役者の努力が必要不可欠です。
どんなに素晴らしい脚本演出があっても、最後にお客様の前に立つのは役者です。せっかく足を運んで下さったお客様に楽しんで頂くためにも、お稽古期間が短かったとしてもクオリティの高い舞台に仕上げるために、役者である私は、いつも自分の責任が大きい事を忘れずにお稽古に参加する事を心がけています。
お仕事をされている方で最初から急にハイペースでの創作が難しい、という方でも休日を利用して効率よく舞台を創る事は可能です。
「時間がかかるから舞台は難しい」「仕事があるから演劇を諦める」と思い込んでしまうのは、すごく勿体ない事だと思います。
海外のように多くの人が演劇を創る事を楽しめる環境が日本でも整うといいのですが…。
最後に、楽劇座の関口純の言葉を紹介させて頂きたいと思います。
「演劇人にとっては舞台が晴れの日になってはいけない。日常にすべきだ。」
短期間で公演出来るようになると、確かに舞台は特別な「晴れの日」から「日常の一部」になりました。
もっともっとたくさんの方に「演劇」の楽しさを知って頂ければ嬉しいです。
今回は「役者コラム」という事で役者目線から短期間で創作する過程について書かせて頂きました。
もちろん、公演の際に重要な他の要素(創作に関わるスタッフさんのたくさんのお仕事や集客)もたくさんあります。そちらについても、もっと深く触れたかったのですが長くなってしまうのでまた別の機会にご紹介出来れば嬉しいです。
今回もお読み頂きありがとうございました!
その6 》緊張しても大丈夫!審査員から見たオーディション面接の受け方
(文:五條なつき ※文章・写真の無断転載を禁じます)