世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司

ピンターならではの《間と沈黙》にシビれる! 世田谷パブリックシアター 舞台「管理人」観劇レビュー

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

世田谷パブリックシアター 舞台「管理人」観劇レビュー

開場20周年の記念イヤーに様々なラインナップを届けてきた世田谷パブリックシアターが満を持して届ける、「管理人」。
世界の演劇界に多大な影響を及ぼしたノーベル文学賞受賞の鬼才ハロルド・ピンターの代表作を、近年数々の演劇賞を受賞し話題の演出家、森新太郎氏が手掛けます!

「不条理劇の大家」と称されるハロルド・ピンター。閉ざされた空間の中で追いつめられて行く不条理を、“間”を多用しながら、恐怖感や滑稽さを漂わせて描く独特の作風は「ピンタレスク」と呼ばれるほど。

「管理人」は、ある兄弟と老人の三人芝居です。1959年に執筆され、1960年に初演されるやいなや、ピンターに名声がもたらされた今作。英ロンドンのナショナル・シアターが1998年に発表した「20世紀の英語で書かれた戯曲」ランキングで第9位を獲得するなど世界的にも高い評価を得ている作品ですが、日本ではあまり上演されていない作品なのだとか。

そんなピンターの世界に酔いしれる「管理人」観劇レビューを青年座On7の尾身美詞がお届けします。

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

この「管理人」は、ある部屋を巡った物語です。
ガラクタで溢れるゴミ屋敷、そこに住むガラクタを集めてきてしまう兄アストン(忍成修吾)とゴミを処分してこの部屋をキレイにリフォームしたい弟ミック(溝端淳平)。そして兄にガラクタ同然で拾われて来た老人デーヴィス(温水洋一)の3人芝居です。
仕事をクビになり帰る場所をなくした、ホームレスのデーヴィス。この大雨の中、なぜか連れて来られた部屋の1室。
なんとかこの部屋で眠りたいと、あの手この手で部屋に居座り、ベットまで確保したデーヴィス。
ところが、翌朝、部屋の主である弟ミックが部屋に現れ、不審者扱いされ部屋から追い出されそうになる。
またあの手この手で居座り、ついには、兄と弟両人からそれぞれ別々にこの家の「管理人」になることを提案される。

「管理人」という地位を手に入れたデーヴィスの態度は次第に変化していきー。

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

「不条理」といわれるこの作品。不条理な言葉が羅列され、意味は分からないのだが、感覚的に作品の本質的な意味を感じられるので、難しいけれど、難しくない!
ガラクタ同然で拾われてきた男が、その部屋で兄弟の間で自分の居場所を見つけ、管理人となっていく。
閉塞感、うっくつとした感じ、変わらない日常の繰り返しの中で少しづつ変化していく人間関係。
どんどん立場が変わり、態度や関係性が変化していく様がはっきりと見て取れてとても面白い。

また、実際に何を管理する訳でもないのだが、「管理人」という言葉の持つ力。「管理」する「人」…
この言葉から漂う、何とも言えない威力が想像力を刺激して、とても面白い感覚を味わいました。

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

舞台美術が素晴らしい!舞台中央奥の窓。この「窓」にまつわる話も沢山出て来るのでとても象徴的なのですが、窓を中心にして、放射線状に広がる感覚の部屋。
天井の壁紙は剥がれ…さらに雨漏りが。その雨漏りの場所にはバケツが吊るされ、ポタポタと水がたまっている雨音が部屋中に響き渡ります。雨漏りの湿った、なんともいえない匂いが客席にまで漂ってくるよう。
この作品の、閉塞感や息苦しさ、永遠に続く日常のなんとも言えない感覚を、この部屋を見ているだけで感じられます。
そして、部屋中に溢れるガラクタは、どう見ても意味のないものばかりなのに。薄汚れて放り出されたものを、大切に、大切に集めてしまうアストン。そのガラクタたちは、いつの間にか自分自身のようにも感じられ…なんとも言えない気分になるのでした。

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

3人の役者さんは、三者三様。
怯えたような探るような、とにかく低い低い立場から、高圧的な態度まで、卑屈で皮肉なデーヴィス役の温水洋一さん。態度が変化していく様が見事!とても見応えがありました。「俺には仕事があるんだ!シッドカップへ行ったら!!」そう言いながらいつまで経っても行動には移さない…そして、足が悪いので、靴に異常に執着し、靴のせいにして行動に移さない。…変わらない日常に嘆き不満を言いながら、かといって何をするでもなく今のままが良いとグズグズする。見ていてとても嫌な気分になるのですが、うん…なんとも人間らしい…。

青年アストンは、礼儀正しく丁寧な応対で姿勢も終始まっすぐ。小股で歩きます。とても誠実なのだが、口数も少なく何を考えているのか分からないちょっと不思議な男。とても几帳面で繊細で柔らかい、その絶妙な雰囲気を漂わせる、忍成修吾さん。
中盤のアストンの告白のシーンは、とてもとても繊細で印象的で。なぜ、彼がこんななのか、ということが分かると衝撃。アストンが、なぜ、プラグを直したいのか。なぜゴミを集めてきてしまうのか。という彼の行動に胸が苦しくなります。
弟ミックは、兄とは打って変わって世間を知る現実主義な男です。過剰に言葉で攻撃をするのですが、溝端淳平さんのパワフルさや言葉の可笑し味に、客席からは笑いが。そう、不条理の元々の英語は「ばかばかしい」ということ。この滑稽さもミソ!なのです。

《ピンターといえば、“間と沈黙》

世田谷パブリックシアター『管理人』撮影=細野晋司
世田谷パブリックシアター『管理人』 撮影=細野晋司

ピンターの作品といえば、間と沈黙!そうです。この作品の注目すべきは…間と沈黙です。

何を考えているのか??聞いているのか、いないのか????
舞台上にいるのは2人だけだからこそ、その絶妙な駆け引きが面白く、その繊細なやりとりと空気感がものすごい緊張感を生み…目が離せない、ドキドキする時間が随所に現れます。

おおお!いまの絶妙な間!!!
ぉおぉー!!この緊張のある、無言の時間……からの、この台詞!!しびれるー!!!そんな時間が、物語が後半にいけばいくほどどんどん効果的になっていき、グサグサと突き刺さっていきます。

“間”は無言の時間ではなく、究極にそれぞれの思いが渦巻く時間です。その言葉ではない丁々発止がたまらない。
この絶妙な間も体感していただきたいです。

閉塞感、うっくつとした感じ、変わらない日常…
日常の行き詰まりが、ひいては人生の行き詰まりに見え、その繰り返される日々の窮屈感に、モヤモヤした気持ちになる。それが舞台上に広がるゴミの山を通し、自分に跳ね返ってくる感覚で。終演後は、なんだかモヤッとイヤな気分になったのだが、それもこの作品の醍醐味でしょう。

ピンターワールドを体感しに、シアタートラムまで!12月17日までです!

(文:尾身美詞

公演情報

舞台「管理人」

作= ハロルド・ピンター
翻訳= 徐賀世子
演出= 森新太郎
出演= 溝端淳平 忍成修吾 温水洋一

2017年11月26日(日)~12月17日(日)/東京・シアタートラム

公式サイト
舞台「管理人」

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