爪痕なんかじゃダメだなんだ! NODA・MAP「足跡姫」観劇レビュー
野田地図 舞台「足跡姫」より爪痕なんかじゃダメだなんだ! NODA・MAP「足跡姫」観劇レビュー
【中村勘三郎へのオマージュ】として書かれた『足跡姫』、最近は芸人さんが「爪痕を残す」なんてよく言ってますが、爪痕なんかじゃダメなんです。爪痕はせいぜい蚊に刺された時に十字にして残す程度。
人は2本の足で道なき道を歩いて道を作り、それが自分の生きた証に繋がる。
タイトルを見たときに、まさか足跡が“芸術”になるなんて夢にも思わなかったですけど、ピッタリのタイトルです。そして宮沢りえさんがいきなりストリッパーだなんて!演劇もまだまだ捨てたもんじゃないですね!(笑)
言葉のマジシャン野田秀樹
手品は目の前でコインが消えた時に、“消えた”!と信じ込ませてくれる。
野田さんの言葉は、同じ音の言葉が、実はもともと意味を持って繋がっていた言葉なんじゃないかと思わせてくれる。
昭和の親父が「虫は無視」と飛びきりのギャグを放っても、きっと何事もなかったかのようにスルーするでしょう。これが野田マジックになれば、虫=無視という方程式を、巧みな言葉でこじつけて笑いを誘い、いつしかそれは事実として成立させてくる。
その言葉のマジックの連続が、だんだんと観ている側に新たな真実をはらませ感動を呼ぶ。この手法が野田作品から無くなったら、「それはゴーストライターだ!」とツッコミいれますね。
難解だったとしても、二度観ればいいだけです!
でもね、自分が演劇を学ぼうと勉強を始めて最初に立ちはだかったのが、野田さん率いる夢の遊眠社でした。
岸田國士戯曲賞作品『野獣降臨』を見た時に、全くといっていいほど意味が分からないのに泣いていて、「東大の創る芝居なんか理解できるもんか!」と拗ねた感想を持ったのを憶えてます(笑)その後、ビデオや脚本を何度も見るうちに「そういうことか!」とようやく意味が分かり始めたわけです。
“野田作品は難解”という印象がしばらくあったけど、年々わかりやすくなってきましたね。特に近年は、野田さんの頭の中の世界というより、足跡姫だったりMIWAのように個人を描いた作品を、“人”を通して想いや考えを伝えてくれるので共感しやすい。
なので今回、自分は冒頭から何度も切なくなっちゃいました。同じ芸の道を歩む者として、残らない芸術(舞台)の儚さや、舞台上はあくまで虚構でしかないことを、節々に言葉で散りばめてくるもんだから何度も頷くし、結果泣いちゃいますよ。
とはいえ!ラスト辺りは難解かもしれません。
わかんなかったら二度観ればいいだけです!
何かを見落としている可能性があるだけ。
謎が解けたときに、また作品の新たな魅力に気付きます。毎日当日券も販売されているようなので。
最後までオマージュ
舞台美術や照明は歌舞伎的でした。当然花道はあるし、美術の絵も歌舞伎座の緞帳っぽい。照明はいつもの野田地図より平面的だったような気もする。
スペクタクルな演出で圧倒させることが多い野田さんの演出も、今回はしっかり言葉を天に向けて届けたのかな、という印象でした。…はい、ラストのことです。宮沢りえさんと妻夫木さんのラストシーンは、忘れたくても忘れられない想いの詰まった素敵なシーンでした。もう一度観たい!
最後に
裸で駆けてく古田さん、池谷さんの穴落ちも大好きでした!(エントレ動画にアップしちゃったので何度も観たい人はそこから)
「(ストリッパーは)脱ぎ続けた先になにがあるんだろう…」と宮沢りえさん扮する出雲阿国が呟きますが、心の中で『魂と骨が残るんだよ』と応えた骸骨ストリッパーかみざとが今回レビューを担当しました。前口上が後ろにきたのは足跡姫の冒頭に合わせてみました、あしからず!
(文:かみざともりひと)
NODA・MAP 第21回公演「足跡姫」~ 時代錯誤冬幽霊 ときあやまってふゆのゆうれい ~
【作・演出】野田秀樹
【出演】
宮沢りえ 妻夫木聡 古田新太 佐藤隆太 鈴木杏 池谷のぶえ 中村扇雀 野田秀樹
秋草瑠衣子 秋山遊楽 石川朝日 石川詩織 大石貴也 上村聡 川原田樹 末冨真由
鷹野梨恵子 手代木花野 土肥麻衣子 西田夏奈子 野口卓磨 野村麻衣 花島令 福島梓
本間健太 前原雅樹 松崎浩太郎 的場祐太 モーガン茉愛羅 吉田知生 吉田朋弘
2017年1月18日 (水) ~3月12日 (日)/東京・東京芸術劇場プレイハウス