「障子の国のティンカーベル」は野田秀樹が25歳の正月に3日間で書き上げた一人芝居。
2014年には毬谷友子と奥村佳恵の2バージョンで上演された作品。
7月12日(日)から東京芸術劇場で上演中の本作を早速観劇してきた。
とても一人芝居とは思えない豊かな舞台
一人芝居というものをあまり観たことがなかったので、内心どうやって広い舞台の空間を埋めていくのだろうかと興味津々だったが、この作品に関してはそんな心配はまるで必要無かった。というか、観終わった後の感覚として「一人芝居だと思えなかった」からだ。
せりふを話すのは毬谷友子さん一人だけ。パフォーマーとして共演している野口卓磨さんはまるでしゃべらない。なのに、このお芝居には登場人物がかなりたくさん登場する。毬谷さんがそれぞれの人物を演じ分けているのだが、これがとても見事だった。ピーターパンを演じているときは、まさに少年になり、ティンカーベルを演じている時にはまさに妖精になっていたのだ。
きっと、これだけ見事に演じ分けられたのは演出の素晴らしさもあるのだろうが、やはり毬谷友子さんの俳優としての腕のなせる業なんじゃないかと思った。エントレが稽古前に行ったインタビューの時に「面白いものを作って、これを観た人が『私も挑戦してみよう』ってなるようにしたい」と毬谷さんが話されていたのを思い出した。この舞台を作ることは俳優や演出家にとってはかなりの『挑戦』になるんじゃないかと思うが、この舞台に触発される方もきっといるに違いない。
舞台を彩る、音楽と歌
もうひとつ、この舞台の素晴らしかったのは音楽と歌だった。椎名林檎さんが音楽を手掛けているとのことで、ポイント、ポイントでいい音楽が流れていた。これもインタビュー時に毬谷さんが話されていたことだが、野田秀樹さんが毬谷さんに向かって『でもね、これ音楽が大事だから、音楽をすっごい面白い人に書いてもらわないと、面白くないかもしれない』と言ったらしいのだが、さすが、ばっちりハマっていた。また、これも俳優の腕なわけだが、毬谷さんの歌声もステキだった。
人と人形の“人でなしの恋”
人と人なら普通の恋だが、人形は人ではないので、“人でなしの恋”になるわけだ。つまり、登場人物のピーターパンと日本人形の曳子(えいこ)の恋のことなのだが、このストーリーも面白い。ピーターパンのことを好きなティンカーベルにとっては面白くないわけだが、観客席から観ていると、この人と人形と妖精の“人でなし三角関係の恋”が切なくて、目が離せなかった。つまり、とても面白かった。
東京芸術劇場の担当者によると「若干枚数だが当日券を出す予定」とのことだった。当日券でも4,000円とリーズナブルなので、学生さんや若い社会人も観に行ってみると面白いと思います。後々、観たことを自慢できる類のお芝居だと思うので。
(文:森脇孝/エントレ 観劇日:2015年7月15日 夜公演)
公演情報
舞台「障子の国のティンカーベル」
【作】野田秀樹
【演出】マルチェロ・マーニ
【出演】毬谷友子
【パフォーマー】野口卓磨
2015年7月12日(日)~20日(月・祝)/池袋 東京芸術劇場シアターウエスト