「タンゴ・冬の終わりに」観劇レビュー/アルゼンチンタンゴのメロディが紡ぐ夢と現実のはざま
舞台「タンゴ・冬の終わりに」舞台写真 撮影:引地信彦(Nobuhiko Hikiji)寂れた映画館でアルゼンチンタンゴのメロディが紡ぐ夢と現実のはざまを共に体験する愛憎劇
清水邦夫書下ろし、蜷川幸雄演出パルコ劇場で1984年に初演された「タンゴ・冬の終わりに」が30年ぶりに行定勲による演出でパルコ劇場に蘇った。
三上博史演じる突然の引退を表明した人気俳優・清村盛。
彼の生家である寂れた映画館を舞台に虚実入り乱れるドラマが繰り広げられる。
人気俳優としての人生の業 色濃く演じる
人気俳優としての人生の業を色濃く演じる三上博史。神経質でプライドの高い元名優の苦悩を全身で演じきる熱量が見るものを圧倒する。
彼を慕う才気あふれる若手女優・水尾を演じるのは倉科カナ。若く美しい女優の秘めた情熱と愛情を余すことなく表現していた。
その二人の関係を支えるのが主人公の妻・ギンを演じる神野三鈴。人間関係の要となって献身的な愛とエゴを静かに確実に演じた。
そして、水尾の夫・蓮を演じたユースケ・サンタマリアはその三者の間で翻弄される男を彼らしいシニカルな演技で盛り上げた。
微妙なバランスが全編を通して非常に魅力的に舞台をつくっていく。
舞台「タンゴ・冬の終わりに」舞台写真 撮影:引地信彦(Nobuhiko Hikiji)
特筆すべきはメインキャストの言葉の紡ぎ方。30年前に書かれた清水邦夫のセリフを時代背景と共にイキイキと明瞭にテンポよく刻んでいく。
その言葉たちがタイトルであるタンゴのリズムとなり、その音楽が鳴ってない場面においても、奥底でなり続けているような錯覚すら覚えるほどに観るものを舞台に引き込む。その声の響きはまるで一本のオペラを観劇しているかのようですらあった。
また、行定勲が描く老いゆく人気俳優の苦悩、夢と現実が入り乱れる世界感は見ている側に主人公の体験を観客にも追体験させる。時が経つにつれて、まるで自分も夢の世界の住人であるかのように感じさせる舞台であった。
本作は9月5日(土)からパルコ劇場で27日(日)まで上演。
その後、大阪、金沢、福岡、愛知、新潟、富山、宮城でも上演される。
(文:平岡基 観劇日:2015年9月4日 ゲネプロ)
公演情報
舞台「タンゴ・冬の終わりに」
【作】清水邦夫 【演出】行定 勲
【出演】三上博史 倉科カナ 神野三鈴岡田義徳 有福正志 有川マコト 小椋 毅
河井青葉 青山美郷 三浦翔哉 梅沢昌代
ユースケ・サンタマリア 他
2015年9月5日(土)~2015年9月27日(日)/東京 パルコ劇場
この後、大阪、金沢、福岡、愛知、新潟、富山、宮城でも上演