事実は小説より奇なり?憎めないクライムコメディ!/青年座「フォーカード」観劇レビュー
青年座「フォーカード」 左から大家仁志、増子倭文江、横堀悦夫、野々村のん 撮影:坂本正郁鈴木聡×宮田慶子×青年座!
事実は小説より奇なり?憎めないクライムコメディ!
昔、ああしていたら、ああしていなければ自分の人生はこんな風になっていなかっただろう。もう一度人生をやり直せたら・・・。
過去を振り返ることはきっと誰しもあるだろう。この作品はそんな思いを見事に笑いに昇華した気持ちのいい作品だった。
青年座「フォーカード」 左から横堀悦夫、大家仁志、増子倭文江 撮影:坂本正郁
4月15日より紀伊國屋ホールにて始まった青年座第221回公演「フォーカード」の初日を観劇。脚本は劇団ラッパ屋で活躍する鈴木聡、演出は青年座の宮田慶子というコンビによる舞台は、人間への愛情に満ちたものだった。
ぎっしりの客席に開演前からエンターテナーが流れる。その軽快なメロディーが全編の作品の色をよく表しており、舞台に明かりがつくとそこは古びたなんだか懐かしい気持ちにさせられる喫茶店が現れる。
青年座「フォーカード」 左から横堀悦夫、増子倭文江、野々村のん、大家仁志 撮影:坂本正郁
喫茶店の中の客たちはそれぞれ様々な思惑を持ちながら会話している。
それをまるで評論家のように観察しているのが主人公の一人、神崎由佳里(野々村のん)である。やがて客たちが去り、入れ替わりにずっと昔の劇団の養成所時代の仲間達がやってくる。
谷義人(横堀悦夫)は会社の社長ながらその経営は芳しくなく、中込彰(大家仁志)は離婚の慰謝料に悩まされ、神崎由佳里もまた借金を返すために働く日々。
かつて養成所の最強の『フォーカード』と呼ばれながら、誰一人大成することなく、日常に埋もれている彼らの元に、フォーカードのリーダーでありマドンナであった横山千鶴(増子倭文江)から、かつての思い出の喫茶店で会おうと誘われたのだ。彼女はそこでみんなの演技力を活かしてある人物をペテンにかけ、大金を手に入れないかと持ち掛ける。
青年座「フォーカード」 左から山野史人、野々村のん、横堀悦夫、名取幸政、増子倭文江 撮影:坂本正郁
各々、犯罪には加担したくないといいながらも、その再会を機に再び過去の演劇に燃えていた時代を思い出していく。昔を思い出しながらああでもないこうでもないと犯罪計画を立てる姿は非常にほほえましく思えた。
喫茶店のオーナー榎本治郎(名取幸政)とウェイトレス小池仁美(小暮智美)はそんな4人の様子に小気味よく絡み、4人の無邪気な大人たちの様子を際立たせ笑いを誘った。
ともすれば、詐欺というシリアスな話になりそうな題材ながら、どこか憎めない人間模様が中高年層には共感をもって迎えられるであろう内容だった。
また、4人の詐欺計画の横で、喫茶店で起きる客の不倫と喧嘩、会社の上司と部下の人間関係、高齢者問題など、詐欺計画などより深刻な問題をさらりと描きながら『事実は小説より奇なり』という言葉を感じさせた。
本作は4月24日まで紀伊國屋ホールにて上演されるので、疲れた日常生活にちょっと過去の自分を思い出しながら、笑いの中にその思いを解放してあげるのはどうだろうか?
詳細は公式サイトで。
青年座 舞台「フォーカード」公式サイト
(文:平岡基)
公演情報
青年座 舞台「フォーカード」
【作】鈴木聡
【演出】宮田慶子
【出演】
増子倭文江 横堀悦夫 中込彰 大家仁志 野々村のん 名取幸政 小暮智美 五味多恵子 小豆畑雅一 有馬夕貴 那須凜 高松潤 尾身美詞 山野史人
2016年4月15日(金)~4月24日(日)/東京 紀伊国屋ホール