2020.1.8  19

【演出家コラム003】どんな役者が求められるのか? 〜オーディションで失敗しない為の自覚・心構え編〜



演出家コラム3
【演出家コラム003】どんな役者が求められるのか? ~オーディションで失敗しない為の自覚・心構え編~
 

【演出家コラム003】どんな役者が求められるのか? ~オーディションで失敗しない為の自覚・心構え編~

 
 楽劇座の関口です。

 実は私、テレビドラマ等で活躍する“アイドル女優”のプロデュース業に従事していたことがありまして・・・以来、数千人に上るオーディションを審査し、有名無名問わず千人以上の演技指導を担当して参りました。まあ、具体的な名前や作品名こそ避けますが、今回はそうした経験から得た知見も含め、改めて“求められる役者像”について考えてみたいと思います。

 
 さて、あまり正直に言う人はおりませんが、正直なところ“役者の価値は客の数”と言っても過言ではありません。これは謂わば公然の秘密です。「あまり正直に言う人はおりませんが」と書きましたが、もしかすると「言うまでもない」ということなのかも知れません。些か乱暴に申し上げると“実力云々は二の次”という・・・少なくとも商業演劇的見地に立つならば、これがプロの世界だったりもする訳です(私がそう考えているかどうかはまた別の話)。
まあ、よく考えてみれば「面白い芝居やるから来て!」だけで2,000人収容のホールで一ヶ月も公演が打てよう筈はありません。世の中はそれほど善意に満ちてはおりませんし、そこまで暇でもないでしょう。そこで頼りの綱は“人気者”となる訳です。クリエイターを志している方には誠に残念な話ではあるのですが、大方の観客は人気者を観に来ると考えて差し支え無いでしょう。もちろん「演技力なんぞどうでもよい!」と言っている訳ではありません。ただ、演技力と集客力を秤にかければ集客力が勝るという意味です。

演技力 < 集客力 < 演技力+集客力 となります。

 
即ちベストは演技力と集客力を兼ね備えている役者となります。我ながらなんと当たり前なことを言っているのでしょう。そう、当たり前の話なのです。ですが、この当たり前のことを当たり前に考えられる人が如何に少ないか! 即ち商品価値を上げるということについてです。

でも、先ずはそれ以前、オーディションを受ける際に注意すべき事柄について。謂わば心構え、演者としての自覚・準備編です!

 

オーディションのお話・・・演る人と観る人の境界線についての覚書

 最近、オーディションで審査をする機会が増えていたりするのだが、役者、しかも舞台役者を目指している子たち(「子」とは言っても18~30歳)ですら著名な劇作・演出家の名前はおろか、大劇場で主役を務める役者の名前すら知らないという・・・昨今、演劇界がそうした壊滅的?な傾向にあるのはどうやら間違いなさそうである。
「誰なら知ってるの?」と尋ねれば、人気声優かテレビの人気者の名前(それも20歳前後の最新の人気者のみ)が出て来る有り様。仕舞いには友人が出演しているものを除けば、いわゆる2.5次元以外の芝居は観たこともないの由。もちろん、友人の出演する舞台や2.5次元がイケナイと言っている訳ではない。だが・・・そこで、こんなお話は如何でしょう?

 
<とあるオーディション風景 >※実話です。

オーディション受験者「将来、帝劇の舞台に立ちたいんです!」

審査員(私)「へえ〜、ミュージカル好きなんだ。どんな作品が好き? レミゼ? ミス・サイゴン? エリザ?」

オーディション受験者「???」

審査員(私)「だって、帝劇といえば東宝ミュージカルでしょ?」

オーディション受験者「へえ、そういうのやってるんですね・・・」

 
 
 このちょっとした小話の様な実話を解説すると、このオーディション受験者は、どうやら帝劇で催された著名な男性アイドルグループが出演する舞台を観て(しかも帝劇観劇はその1度だけ)、「◯◯君(某アイドル)と一緒に舞台に立ちたい!」と思ったというだけの話。まあ、流石にこんな調子でやられると「これはどうしたものか」と呆れるのを通り越して、もはや途方に暮れてしまいますが、これが現実なのもまた事実。
ちなみに、この様な自称・舞台役者志望者が“審査員の目にどう映るのか?”といえば、良く言って“凡庸”、辛辣な表現を用いれば“ダメな人”とでも言ったところでしょうか。これを読んでいる役者志望者諸君には呉々もこのような事がない様、日々、是れ勉強!に勤しんで頂きたいものだと切に願う次第であります、ハイ。

 
 それでは当世演劇事情に詳しければ良いのか?と言えば必ずしもそうとは言えない。問題はそこではないのだ。例えば“宝塚ファンあるある”で「エリザベートなら最初から最後まで全役一人で演れます。歌も台詞も完璧に入っています!」というのがある。だがオーディションでそんなことを言われても「ああ、そうですか・・・」としか言いようがない。第一、私は「エリザベート」の作者でもなければその作品の演出家でもない。それに何より、そのオーディションは「エリザベート」のキャストオーディションではない! まあ、そんな人に限って、目下何よりも優先して取り組むべき筈の台詞(オーディション課題)を出鱈目に覚えている場合が少なくない。

 そう、かつてこんな人もいました・・・とある事務所の応募書類に「僕は世界一の俳優を目指します! でも世界一は無理です。何故ならジョニー・デップがいるからです。ジョニー・デップは~」と、憧れの大スターに対する熱い思いを延々と綴る青年。この「ジョニー・デップは~」の後には、テレビや雑誌で連日垂れ流される映画公開前お約束の“大スターを賛美する宣伝文句”が延々と続きます。
ちなみに世界一の映画監督はティム・バートンだそうです。これでこの話がいつ頃の話なのか大体推測出来るってもんです。ちなみにその青年、オーディションにはジョニー・デップのグランジファッションを真似た出で立ちでやって来たのですが・・・残念なことに、彼のボロボロの靴はグランジ云々というよりも、“今時珍しく貧乏な青年”という記号価値しか審査員たちにもたらさなかったのは言うまでもありません。残念!

 

 しかし、このジョニー・デップ大好き青年は、私たちにある種の示唆を与えてくれている様に思うのです。この青年は何故、会ったこともない異国の大スターにここまで傾倒するのでしょう? そもそも彼はジョニー・デップの何を知っているというのでしょう? そもそも、私たちが会ったこともない人物を“スター”として認識し、その人柄までをも知った気になれるのはどうしてなのでしょうか? 

 

観客に於けるイメージの消費について

 私たちは“スター”を映画、テレビ、雑誌、インターネット等での、謂わば“スターのコピー(複製)”を通して初めて“スター”として認識します。すなわち“スター”とされる人物のイメージ(写真や動画、エピソード)が様々なメディアで拡散され、人々に共有される訳です。
しかし、それはまたこうも考えられます。イメージが人々に共有されることでスターは“スター”になるのだと。そしてその人々に共有されたイメージ(もはやオリジナル不在のコピー)こそが当の“スター”を創り出し、更に更なるコピーを創り出す。

要するに“スターとされる人物”に先行してイメージとしての“スター”が一人歩きしていく。これを擬似現実と呼ばずして何と呼ぼうか? すなわち、世間一般で広く思われている様な「優れた人間であるが故にその才能が認められ、瞬く間に評判が評判を呼び、成るべくして “スター”となった」(←まあ、これ自体イメージに過ぎないとも言えるのだが・・・)という話を額面通り受け取ってはいけないというお話。
いわゆる “スター神話”の否定である。そうしてここに “スター”は“イメージ”そのものであり、観客(演劇に限らず、テレビの前の視聴者も含む。当然、アイドルファン等も含まれる。)はその“イメージ“を消費しているのだという構図が出来上がる。そして演者は、観客に読み取られるべき記号=イメージ=擬似現実として機能する。   

 
 ここで何よりも大切なポイントは、観客がこうした擬似現実に気付いていないという点である。気付いてしまうと魔法は解けて、可愛さ余って憎さ百倍。感じの良い、いわゆる “良い人”が売りの人気タレントが「不倫」というレッテルを一度でも貼られようものならその反動は言わずもがなである。“裏の顔”だなどと言われてしまうが、そもそも我々はその人の何を知っていたというのだろう? 最初から裏も表もないのだ。だって我々は擬似現実を見ていたのだから。実際にそのタレントに会ったことがある場合でも、私たちはそうした擬似現実を通してその人物を見ているに過ぎない。

 そして、この”擬似現実を如何に創るか”こそがプロデュースの仕事と言って良い。であるとすれば、「オーディションで審査員は何を見ているのか?」についてはこの様に説明することが出来よう。それがキャスティング・オーディションであれば、技術(役者であれば演技力)は言うに及ばず、それに匹敵、もしくはそれ以上に重要なポイントとしてイメージ(擬似現実=タレント性)が挙げられるだろう。
また、芸能事務所等が所属タレントを選ぶオーディションであれば、擬似現実を構築出来そうな人材であるか否か(将来、売れそうか否か)が一つの鍵になると言えよう。

 
 上記、オーディションの実例で語られた様々な人たち・・・2.5次元限定の観劇愛好家、エリザベート完コピの宝塚ファン、ジョニー・デップ大好き青年・・・彼らはまさにこうしたイメージの受け渡しに於ける観客側の視点に立っていると言って良い。しかし、オーディションで選ばれるのは“演者”であって“観客”ではない。ここに純粋なる彼らの悲劇が存在するという訳です。よく「悲劇は喜劇」などと申しますが、まさに滑稽と言わざるを得ない。逆もまた真なり。そう、こうして彼らにとってのオーディションは見事「喜劇は悲劇」となるのです。お疲れ様でした! “青春”という名の黄昏時の夕日にも似た終焉。

 

 余談ではありますが、かつて某放送局系の会社で音楽プロデューサー(作曲家としての顔)なんぞをやっていた際、NTTグループ某企業との共同事業で歌手のオーディションが開催されました。そのオーディション会場に見た目がとても美しい女の子がやって来ました。顔もスタイルもピカイチでした。ですがその彼女、実技披露、即ち歌の審査の際、あろうことか歌詞カードを見ながら歌い始めたのです。審査員全員が呆れたのは言うまでもありません。もちろん彼女は不合格となりました・・・めでたしめでたし。賢明な皆様は呉々もその様な事なき様、お気を付けあそばせ!
 

 

 さて、ここまでお読み頂いたにも拘らず「で、何をすればいいの?」と仰る方に一言。

 もし、あなたが十代の若者で、かつ美少女ないしは美少年ならばいざ知らず、そうでもないのだとすれば、1.いっそ諦める 2.少しは頭を使ってみる のどちらかをお勧めします。

 要するに、先ずは “当たり前の事を当たり前にやる!”これに尽きます。非常識(個性と言って良いレベルの“ちょっとした外し”)は常識の上に成り立ちます。

 
 さて、こうして最低限の社会性(人間性?)が担保された後、作法と技術(演技力)についてのお話に入るのですが・・・些か長くなり過ぎましたので、今宵はここまで。技術編(正確には、“技術は時に身を助けるかも?”編)はまた別の機会に。

              Good luck.

 
 


 
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(文:関口純 ※文章・写真の無断転載を禁じます)

この記事を書いたのは

関口純
劇作・演出・作曲家。楽劇座芸術監督として7年間で100作品以上の演出を担当する。曽祖父は新劇の演出家、祖母はギタリスト、父は新劇プロデューサー、母は女優という芸術一家に生まれる。幼少期よりピアノ、十代の頃より音大教授に作曲を師事。その後、クラシックからポップス、劇音楽に至るまで幅広い分野でミュージシャンとして活動する傍ら、劇作・演出家の津上忠氏のもとで演出の研鑽を積む。日本テレビ音楽(株)顧問(サウンドプロデューサー)等を経て、現職。

 

 

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