2019.8.5 

解明される事件の真実と、岡田将生が魅せる多彩な顔にゾクッとする 舞台「ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~」観劇レビュー



舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」 岡田将生、木村多江 写真提供:東宝演劇部
 

解明される事件の真実と、岡田将生が魅せる多彩な顔にゾクッとする 舞台「ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~」観劇レビュー

 
本作は、イギリスで最大の演劇賞とされる、ローレンス・オリヴィエ賞を受賞した、劇作家アレクシ・ケイ・キャンベルが描くサスペンスドラマの日本初演版。
演出は、第22回読売演劇大賞最優秀演出家賞や第69回文化庁芸術祭賞大賞など、多くの賞を受賞し注目を浴びる文学座出身の演出家・上村聡史が手掛けます。
そしてキャスト陣には、TV、映画、舞台など多方面で活躍する実力派が集結し、ウェルメイドな(二転三転する物語の最後に大どんでん返しが待ち受ける)戯曲の世界観を、重厚且つ繊細に彩ります!

ちなみに、タイトルの解説ですが、英語でBracken(ブラッケン)は植物のワラビ、Moor(ムーア)は原野や荒地を意味します。劇中では何十年も前に閉鎖され、今はワラビに覆い尽くされている炭鉱を「ブラッケン・ムーア(ワラビの野)」と呼んでおり、これは、近代以降、物理的・合理的という名のもとに人間が封鎖してきた精神性、神秘性を同時に表しているそうです。

 
舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」岡田将生、木村多江、峯村リエ 写真提供:東宝演劇部
 

物語の舞台は、1930年代のイギリス。裕福な炭鉱主のハロルド・プリチャード(益岡徹)とその妻、エリザベス(木村多江)の元に、ジェフリー・エイブリー(相島一之)と妻のヴァネッサ(峯村リエ)、そして息子のテレンス(岡田将生)が訪ねて来ます。
この両家、かつては家族同士で仲良くしていたのですが、10年前にプリチャード夫妻の一人息子だったエドガー(大西統眞、宏田力のWキャスト)が、ブラッケン・ムーアという荒野の廃坑に落ちて亡くなった事故をきっかけに疎遠になっていました。

エドガーの父、ハロルドは、堅物で少し取っ付きにくそうな、The・一家の大黒柱!という威厳のある強いオーラを纏った人。しかし物語が進むにつれて、真の感情、息子への愛が垣間見えます。鋭く周りを観察するように動く益岡さんの目が、時折呼ばれる『お父さん!』という声に反応した時、とても悲しげな目に見えて、厳しくも、良いお父さんだったのだろうな…と、描かれることの無い、過去の父と息子の姿を想像して胸が熱くなりました。

 
舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」益岡徹 写真提供:東宝演劇部
 

対して、エドガーの母、エリザベスは愛する息子を失った現実を受け入れられず、未だふさぎ込んだまま。目は開いていても、前は見えていない。手荒に扱えばすぐにでも壊れてしまいそうな儚さ。息子の死から立ち直らせようと周囲が力を尽くしても、『前を向くなんて無理』と、か細い声で返すだけ。木村さんの繊細な芝居が、静かに、でもドスンと重く、観客の心に強烈な息子への愛を訴えかけて来ます。

エドガーの親友だった青年、テレンスは、難しい長台詞を話しながら、座ったと思えば立ち上がり、あまり落ち着きの無い印象。(「岡田将生さんはどの椅子に座っても映えるなぁ」という楽しみ方は出来ました・・・笑) そんな、大人の男性へと成長を遂げたテレンスの姿を久しぶりに見て、エリザベスが亡き息子への思いを溢れんばかりに話し始めます。

 
舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」木村多江  写真提供:東宝演劇部

 
しかしその日から毎晩、うなされたテレンスの恐ろしい叫び声が、屋敷中に響き渡るようになってしまいます。なんと、亡くなった当時12歳だったエドガーの霊が、何かを訴えるためにテレンスに憑依していたのです。
この、“22歳の青年=テレンス”から、“12歳の少年=エドガー”になった時の、岡田さんの豹変ぶりが凄まじい!初日前会見で木村さんも話されていたのですが、まるで捨てられた子犬の様に潤った瞳と、優しく甘える声。膝から崩れ落ちるように座り込む姿は、心なしか本当の子供のように小さく見えました。
 
外身はテレンス、中身はエドガー。目の前で起こっている信じがたい出来事に、両家の人々は混乱。特に、二人の母親達。エリザベスは、正気か狂気かわからない程に真剣な眼差しで、エドガーの母として寄り添い、話を聞き、愛を伝えますが、ヴァネッサからしてみたら、例え憑依されていても身体は自分の息子。テレンスとエリザベスの異様な空気感を悟って、必死で息子を守ろうとします。
この様子を客席から観ていて、とても複雑な恐怖感を味わうと共に、“母親”という生き物の強さと弱さを見ました。

 
舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」岡田将生 写真提供:東宝演劇部

 
エドガーの霊に取り憑かれたテレンスは、プリチャード家のかかりつけ医であるギボンズ(立川三貴)でさえも手には負えず、やがて、家政婦のアイリーン(前田亜季)をも巻き込みながら、10年前、ブラッケン・ムーアで起きた知られざる事件の真相を明らかにして行くのですが、それは全て2幕のお話。
その全貌はぜひ、皆様ご自身で目撃していただきたいと思います。

全編を通して、セットは同じ屋敷のリビングですが、風や音、照明の使い方で、時に広くて暖かみのある部屋に、時に何かが出そうな不気味な空間に印象を変え、観ている間の体感が忙しい作品。加えて、けして明るい話ではありませんが、親子の愛・夫婦の愛など、総じて凄く“愛”に溢れた感動作だと思いました。

舞台「ブラッケン・ムーア」 写真提供:東宝演劇部
舞台「ブラッケン・ムーア」木村多江、益岡徹 写真提供:東宝演劇部

 
最後に、主演の岡田将生さんについて。
個人的なお話ですが、私は岡田さんを舞台で拝見するまで、「色が白くてスタイルが良く、親しみやすそうで可愛い方」というイメージでした。舞台に立つ岡田さんは、確かにそのイメージを裏切らない華やかさはありながら、映像で見ているよりも色んな顔を持っている方。本作に関しては、悩む姿さえも美しい。ずっと、苦悩しておいて欲しいくらいに・・・(笑)
そして、危うく吸い込まれてしまいそうな程の迫力がある。一度は、生で観て欲しい俳優さんのお一人だなと、本作で再確認させられました!

 

8月2日(金)から北千住・シアター1010で行われたプレビュー公演は既に終了。続いて、8月6日(火)から長野、愛知、静岡、東京、大阪で上演されます。
詳細は公式サイトで。

 
(文:越前葵)

このレビューを書いたのは

越前葵
えちぜん あおい|舞台・演劇は酸素。生きるために必要な要素のひとつ。趣味は、観劇・お城巡り・御朱印集め。劇団☆新感線の「髑髏城の七人」に影響されて、絶賛殺陣を習い中。

 


 
[PR]あなたの公演も『観劇レビュー』を掲載しませんか?
ご依頼はこちらへ!

 

 

公演情報

舞台「ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~」

【作】アレクシ・ケイ・キャンベル
【翻訳】広田敦郎
【演出】上村聡史

【出演】岡田将生、木村多江、峯村リエ、相島一之、立川三貴、前田亜季、益岡徹、大西統眞(Wキャスト)、宏田力(Wキャスト)

2019年8月2日(金)~8月4日(日)/東京・シアター1010 ※プレビュー公演
2019年8月6日(火)/長野・ホクト文化ホール
2019年8月8日(木)・9日(金)/愛知・日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
2019年8月11日(日・祝)/静岡・静岡市清水文化会館(マリナート)
2019年8月14日(水)~27日(火)/東京・シアタークリエ
2019年8月30日(金)~9月1日(日)/大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

公式サイト
舞台「ブラッケン・ムーア~荒地の亡霊~」

プレイガイドで検索
ぴあicon ローチケicon イープラス

最近の記事

ミュージカル ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド
長谷川寧が演出 ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』2024年2月に帝国劇場で上演
ブロードウェイ・ミュージカル『トッツィー』
山崎育三郎がドロシー・マイケルズ役で出演 ブロードウェイ・ミュージカル『トッツィー』2024年1月から日生劇場ほかで上演
GANMI×宝塚歌劇OG DANCE LIVE『2STEP』
客席も立って騒いで GANMI×宝塚歌劇OG DANCE LIVE『2STEP』に沸き立つ会場/東京公演が開幕
公演中 05月26日(金) 〜 06月04日(日)
東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』
人気演目 5年振りの再演 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日から東京芸術劇場 シアターイーストほか各地で上演
公演日程 09月01日(金) 〜 11月05日(日)
『俺たちのBANG!!! ~大劇場を占拠せよ~』
芝居と迫力のパフォーマンスで劇場を席巻!少年忍者・初単独公演『俺たちのBANG!!! ~大劇場を占拠せよ~』観劇レビュー
公演中 05月06日(土) 〜 06月17日(土)
『BACKBEAT』撮影:岡千里
戸塚祥太、加藤和樹らが出演 ビートルズ創成期の青春物語を描いた『BACKBEAT』東京公演が5月24日(水)に東京建物 Brillia HALLで開幕
公演終了 04月23日(日) 〜 05月31日(水)
ゲキ×シネ『薔薇とサムライ2 -海賊女王の帰還-』8月4日(金)から映画館で全国公開
古田新太・天海祐希 ゲキ×シネ『薔薇とサムライ2−海賊女王の帰還−』8月4日(金)から映画館で全国公開/この冬 Blu-rayが発売
演劇グッズ専門店「観劇三昧ラボ」
演劇グッズ専門店『観劇三昧ラボ』が5月13日(土)から下北沢でオープン
骸骨ストリッパー『RAIKA』
【予告動画あり】脚本・NON STYLE 石田明 歌とダンスとアクション満載の超古代マンガ活劇! 骸骨ストリッパー『RAIKA』5月25日(木)から新宿・スペース・ゼロで上演
公演終了 05月25日(木) 〜 05月28日(日)
CCCreation Presents舞台『桜姫東文章』
欲望と裏切り、悪意と偶然が狂い咲く! 三浦涼介、鳥越裕貴、平野良らの出演舞台『桜姫東文章』が5月3日にスペース・ゼロで開幕/上演は5月10日まで
公演終了 05月03日(水) 〜 05月10日(水)
KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』
翼を捨てた元天使が人間を救う戦いに挑む 福田悠太主演 KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』がサザンシアターで開幕
公演終了 05月01日(月) 〜 05月28日(日)
パフォーマンスユニットTWT『SANADA XI』
真田十勇士を描いた青春群像時代劇に荒井敦史、黒澤美澪奈、水原ゆき、丸山敦史らが参加 パフォーマンスユニットTWT『SANADA XI』6月9日から吉祥寺シアターで上演
もうすぐ 06月09日(金) 〜 06月18日(日)
劇団チャリT企画「Wの非劇」チラシ画像
スキャンダルに揺れる芸能事務所を舞台に複雑な人間模様を描いた痛快悲喜劇 劇団チャリT企画『Wの非劇』下北沢 駅前劇場にて5月17日から上演
公演終了 05月17日(水) 〜 05月21日(日)
せたがやこどもプロジェクト2023『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』
「子どもたちに劇場空間を存分に感じてほしい」18歳以下の観客を無料招待/せたがやこどもプロジェクト2023『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』8月11日から世田谷パブリックシアターで上演
公演日程 08月11日(金) 〜 08月20日(日)
左から演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)、鳥越裕貴、井坂郁巳
脚本・加納幸和(花組芝居)、演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し) 原作・鶴屋南北 舞台『桜姫東文章』 丸尾丸一郎・鳥越裕貴・井坂郁巳インタビュー
公演終了 05月03日(水) 〜 05月10日(水)
キノG-7公演no.5『満ちる』
映画監督の父と娘の愛憎を描く 竹内銃一郎の演劇企画 キノG-7公演no.5『満ちる』5月11日からTHEATRE E9 KYOTOにて上演
公演終了 05月11日(木) 〜 05月15日(月)
舞台『GISKE-ギスケ-』
日産コンツェルン総帥・鮎川義介の激動の生涯を描く 舞台『GISKE-ギスケ- アルプス山脈の見果てぬ夢』5月18日から恵比寿・シアター・アルファ東京で上演
公演終了 05月18日(木) 〜 05月22日(月)
『エンジェルス・イン・アメリカ』撮影: 宮川舞子
舞台『エンジェルス・イン・アメリカ』第一部「ミレニアム迫る」が新国立劇場 小劇場で開幕
公演中 04月18日(火) 〜 06月10日(土)
『関西演劇祭2023』
11月に大阪で開催される つながる演劇祭『関西演劇祭2023』 出演団体の二次募集が開始/締め切りは5月8日
帝国劇場『Endless SHOCK Eternal』
世界でも類を見ない2作同時上演に挑む 作・構成・演出・主演 堂本光一『Endless SHOCK』『Endless SHOCK -Eternal-』が帝国劇場で上演中
公演終了 04月09日(日) 〜 05月31日(水)
『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』
18年間の集大成!Snow Man主演・演出の舞台『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』観劇レビュー
公演終了 04月08日(土) 〜 04月30日(日)
リーディング音楽劇『ジャングル大帝』
福田悠太、辰巳雄大、越岡裕貴、松崎祐介がレオ役で出演 リーディング音楽劇『ジャングル大帝』6月4日、5日に東京建物 Brillia HALLで上演
もうすぐ 06月04日(日) 〜 06月05日(月)
『ドクター皆川~手術成功5秒前~』
皆川猿時×荒川良々の最強タッグ! 生と死の重みがまったくない医療コメディ『ドクター皆川~手術成功5秒前~』10月12日(木)から本多劇場で上演
公演日程 10月12日(木) 〜 10月29日(日)
『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』
9人の汗の結晶 ― Snow Man初演出『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』開幕/4月19日からはライブビューイングも
公演終了 04月08日(土) 〜 04月30日(日)
劇団☆新感線『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』ポスタービジュアル
特典映像は三宅健らのキャスト座談会! 劇団☆新感線『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』Blu-rayが11月28日に発売/4月13日から予約受付スタート
公演終了 03月10日(金) 〜 05月01日(月)
俳優に“相手に反応する”ということを一番に求めたい 演出家鈴木裕美による俳優のためのワークショップ
俳優に“相手に反応する”ということを一番に求めたい 演出家・鈴木裕美による俳優のためのワークショップ/エントリーの締切は4月16日(日)
公演終了 05月06日(土) 〜 05月14日(日)
ミュージカル『サンキュー・ベリー・ストロベリー』撮影:SCOPE/齋藤清貴
真弓孟之 舞台初主演ミュージカル『サンキュー・ベリー・ストロベリー』4月5日に東京芸術劇場シアターイーストで開幕
公演終了 04月05日(水) 〜 04月30日(日)
歌舞伎町劇場が2023年10月にオープン
次世代型の大衆演劇場・歌舞伎町劇場が2023年10月にオープン 豪華劇団がそろい踏み公演ラインナップが明らかに
オペラ「アイーダ」(c)田中亜紀
数々の舞台衣裳を目の前で楽しめる 初台アート・ロフト『時空をこえて-Across Time and Space-展』が4月5日から新国立劇場オープンスペースで無料開催
公演中 04月05日(水) 〜 08月31日(木)
舞台『ブレイキング・ザ・コード』
亀田佳明、水田航生、岡本玲らが出演 稲葉賀恵 演出舞台『ブレイキング・ザ・コード』が4月1日(土)にシアタートラムで開幕/上演は23日(日)まで
公演終了 04月01日(土) 〜 04月23日(日)

 ≫もっと見る
 

編集部ピックアップ!

エントレがおすすめする他の舞台



Copyright 2023 Village Inc.