2017.6.8

劇団鹿殺しの半自伝的ドキュメンタリー演劇!「電車は血で走る」観劇レビュー


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劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子
劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子
 

劇団の業を詰め込んだ、限りなくノンフィクションに近い音楽劇

劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子

「鹿殺し」という物騒な名前の集団が、いかにして大阪で産声をあげ、どれだけの人間の人生を食いつぶし、16年の活動を続けて来たか。「劇団」という電車が今走っているレールは、途中下車していったかつての仲間たちが敷いてくれたものであり、彼らの血を動力に、自分たちは前に進み続ける…。

そんな決意と鎮魂の念に溢れたこのお芝居は、小劇場界を飛び出して快進撃を続ける劇団鹿殺しの半自伝的ドキュメンタリーであり、劇団を去っていった幾人もの仲間たちへの感謝と恨み(!)、そして、そういった感傷を超えて自らとすべての観客の背中を押す応援歌…ただのエンターテインメントではない、”本物”の怨念と執念と情念が渦巻く、危うく儚い極上の音楽劇でした。

 

圧巻の生演奏!鹿殺し劇団員による「楽隊」と、丸尾丸一郎さん思い出の「阪急電車」

劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子

トランペット、サックス、小太鼓、大太鼓、アコーディオン…開演と共に鳴り響く「楽隊」の演奏は、まず、物理的な音圧で心臓を鷲掴みにしてきます。

鹿殺しでは、「劇団員は必ず何かの楽器を演奏できないと作品に出演できない」そうで、彼らが奏でるオリジナルの楽曲は、毎公演ファンが楽しみにしている特色の一つです。

ですが今回、この「楽隊」が、ただのバックバンドという存在にとどまりません。あずき色の衣装に身を包んで客席を練り歩く彼らは、脚本の丸尾丸一郎さんが大好きだという「阪急電車」を模しており、観客を乗せて、物語の「虚構と現実」「過去と未来」を往復します。

同時にそれは「鹿殺し」という劇団そのものとして、このお芝居がフィクションとドキュメントの間を行き来する「複線」の構造を作り出していきます。

 

劇団の原点となる作品群への、愛と痛みに満ちたオマージュの数々!

劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子

物語の舞台となる、大阪・豊中の「鹿野工務店」は、「宝塚奇人歌劇団」の所有する劇場でもあり、丸尾丸一郎さんが実際には継ぐ事のできなかった「家業」と「演劇」を共存させるファンタジーな空間として設定されています。

カブキロックス風の衣装に隈取(くまどり)姿、ロック、ファックを連発しながら「蒲田行進曲」や「熱海殺人事件」(に良く似たお芝居)を次々上演する”かつての”仲間たち。

とんでもないボリュームと熱量で繰り返される劇中劇は、本人達も”劇団のルーツ”と公言してはばからない、つかこうへいさんや唐十郎さん、劇団☆新感線へのオマージュに溢れています。

「夢を追いかける」という甘美な響きの裏側で、メンバーの脱退や、社会的な引け目、将来の不安に苦しむ、工務店社員達のエピソードは、そのまま、劇団鹿殺しのドキュメントであり、彼らが乗り越え、捨て去った過去として、観客に共有されます。

それら愛しい記憶に対する、彼らの思い。失いながら前に進むということを選択したからこそ、今ここでこの物語を上演できている。その痛みと喜びを一身に感じずには、観ることのできないお芝居です。

 

菜月チョビさんの歌声と、劇団という名の血で走る電車

劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子

座長・菜月チョビさんの歌う声音はとても切なく、行ったこともない架空の大阪・豊中と、知るはずのない”かつての仲間たち”に対して強烈なノスタルジーを抱かせます。

「♪君と出会った各駅停車 君とバイバイした急行 握りしめた片道切符」

「♪覚えてますか? 電車はいつも 君の血で走っている」

このリフレインを聞く度、どうしてこんなに胸が苦しくなるのか…。それはここに込められたチョビさんの思いが、彼女の演劇人生、ガチの痛みに由来するからだと思います。よく「体重の乗った作品」という言い方がありますが、この曲には、清水の舞台から体重計に飛び降りたぐらいのヘヴィーさがあります。

チョビさんは、この作品を「劇団の名刺代わり」と言ってるみたいですが、こんな血まみれの名刺をもらってしまった観客は、一体どんな気持ちで劇場を出ればいいのでしょうか…。

 

どうかしてるぜ、鹿殺し!2演目を同期間に同キャストで同時上演!

劇団鹿殺し「電車は血で走る」舞台写真 撮影:和田咲子

劇団鹿殺しが実際に経験してきたエピソードと、阪急電車で実際に起こった事故、そしてフィクションの少女にまつわるファンタジーが交錯し、観てるといい具合に頭が混乱してくる今公演ですが。

なんと、同一世界線上の続編「無休電車」も、同期間に同キャストで同時上演するそうです。1本だけでも、あんな大変そうな舞台を2本同時って…。控えめに言って、どうかしてます。無茶だし、クレイジーです。興行として、もっと楽なやり方があるはずなのに、どうして。

 
そんな疑問は、愚問です。「電車は血で走る」を最後まで観た人に、そんな馬鹿げた質問をする方はいないでしょう。だって、この公演は「鹿殺し」という劇団が、「鹿殺し」という劇団としての強度を測るため、自らに課した試練であり、挑戦だからです。この苦難を乗り越える事には、きっと、彼らにしかわからない、彼らだけの理由があるのです。

僕ら観客は、ただ席に座ってその戦いを見届けるしかありません。

頑張れ、鹿殺し!

血で走れ、鹿殺し!

負けるな、僕らの鹿殺し!

ポッポー!

 
このレビューを書いたのは

イトウシンタロウ
劇作家・演出家
「個性的な女子」をフィーチャーした作品制作を行う創作団体「NICE STALKER:ナイスストーカー」主宰。
公式サイト:http://nice-stalker.com

 

公演情報

劇団鹿殺し「電車は血で走る」

劇団鹿殺し2017本公演~電車二部作 同時上演~
「電車は血で走る/無休電車」

作/丸尾 丸一郎
演出/菜月チョビ
音楽/オレノグラフィティ×入交星士

出演
菜月チョビ/丸尾丸一郎/オレノグラフィティ/橘 輝
鷺沼恵美子/浅野康之/近藤茶/峰ゆとり/有田杏子/椙山さと美
メガマスミ/木村さそり(以上、劇団鹿殺し)
矢尻真温/野元真佳/前田隆成/常住富大/須田拓也
小澤亮太/今奈良孝行/他

東京公演:2017年6月2日(金) ~18日(日) 本多劇場
大阪公演:2017年6月23日(金)~25日(日) サンケイホールブリーゼ

公式サイト
劇団鹿殺し「電車は血で走る」

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