
世界初ミュージカル化!浦井健治×川平慈英が作り上げる 『最強のふたり』観劇レビュー
撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
実話を基にした名作映画『最強のふたり』
世界中で記録的なヒットを巻き起こしたこの作品が、この度、日本で世界初のオリジナルミュージカルとして上演されます。
今記事では、浦井健治さん、川平慈英さんら豪華キャストによって新たな命を吹き込まれた『最強のふたり』の観劇レビューをお届けします。
なお、お二人の共演は、2019年のミュージカル『ビッグ・フィッシュ』以来、実に6年ぶり。再びタッグを組んだお二人だからこそ生まれる、抜群の掛け合いにも注目です。
あらすじ
事故により首から下が麻痺し、車椅子での生活を送る大富豪フィリップ(浦井健治)。知性と財産に恵まれながらも、彼は深い孤独の中にいた。ある日、介護人の面接に現れたのは、学歴も経験もなく、刑務所を出たばかりのドリス(川平慈英)。常識外れで奔放な彼の態度に、周囲は戸惑うが、フィリップはその飾らない率直さに心を動かされる。
立場も価値観も、生きてきた世界もまったく異なるふたり。衝突を繰り返しながらも、次第に心を通わせ、互いの「孤独」と「希望」に触れていく――。
あらゆる“壁”を越えて紡がれる友情の物語を、ジャンルを越えた音楽とともに描く、笑いと涙のハーモニー。
私は原作映画が大好きだったこともあり、ミュージカル化が決まった際には、浦井健治さんにインタビューをさせていただきました。(別記事で掲載していますので、ぜひそちらもご覧ください。https://entre-news.jp/2026/04/539247.html)
その際、原作ファンならばまず気になるであろう、“年齢を逆転させた配役”についてもお話を伺いました。映画版では、大富豪フィリップは中年男性、彼を介護するドリスは若き青年として描かれているため、今回の配役は、情報だけを聞けば大胆なアレンジにも感じられます。私自身も最初に配役を知った時には驚きを覚えました。
しかし、いざ観劇してみると、その印象は鮮やかに覆されます。
川平慈英さんご自身が持つ、周囲をぱっと明るく照らすような“ハッピー感”が、そのままドリスという人物に重なり、舞台上でのびのびと自由に生きる姿は、もはや“演じている”のではなく、“ドリスそのもの”として存在しているように感じられました。ところどころでアドリブも飛び出し、川平慈英さんのエンターテイナーとしての魅力が遺憾なく発揮されていました。そして今回、年長者である川平さんが、前科を持ち、人生に迷いながら生きてきたドリスを演じることによって、この作品が持つメッセージにも、より深みが生まれていたように思います。
「人生はいつからでも始められる」「人は何歳になっても何度でもやりなおすことができる」――そんな希望が、単なる台詞ではなく、川平さんの存在を通して観客にまっすぐ届いてくるのです。だからこそ二人の交流は、年齢や立場を超えた友情としてだけでなく、“人生を再び動かしていく物語”として、より力強く胸に響きました。
撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
一方、浦井健治さんが演じるフィリップは、若くして成功を手にしながらも、不慮の事故によって身体が不自由になってしまった青年の悲しみや苦しみをより色濃く浮かび上がらせていました。本来ならば、これから先も自由に広がっていくはずだった人生。その未来を突然断ち切られてしまった喪失感や孤独が、浦井さんの佇まいから滲み出ており、胸を締め付けられます。だからこそ、ドリスとの出会いによって少しずつ心を開き、生きる喜びを取り戻し、人生を再生していく過程が胸に迫りました。
首から下が動かせず車いすに乗りながらの制約がある状況で、体や感情を大きく使って見せるのではなく、ふとした視線や声色で揺れる感情を表現する浦井さんの繊細なお芝居が光っていました。

撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
気高さの奥に深い孤独を抱えた浦井さんの静かな佇まいと、川平さんの太陽のようなエネルギー溢れる姿。その対照的な魅力がぶつかり合うことで、二人の間に生まれる友情や変化がより鮮明に立ち上がっていきます。
浦井健治さんと川平慈英さん、それぞれが持つ個性や空気感を最大限に活かした、この二人だからこそ成立する配役で、映画とはまた違う魅力を感じました。原作へのリスペクトを大切にしながらも、舞台ならではの新たな魅力を生み出しており、脚本・作詞・演出の板垣恭一さんの巧みさが際立っていました。

撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
また、原作ファンである私は、「あのシーンがこんな風に表現されるのか」と驚かされる場面も多く、原作との違いに新鮮さや舞台ならではの面白さを感じました。冒頭のカーチェイスのシーンや、原作の中でも強く印象に残る、パラグライダーで大空を舞う開放感溢れるあのシーンも、舞台でどう表現されるか注目です。単なる“原作の再現”に留まっていないからこそ、原作ファンも、原作を知らない方でも自然と物語の世界に引き込まれ、楽しめる作品になっています。
そして、ミュージカルならではの魅力として欠かせないのが、オリジナル楽曲の素晴らしさです。劇中では多くの楽曲が歌われますが、中でも心に深く残ったのが『風になろう』でした。事前インタビューで、浦井さんが「板垣さんが伝えたいメッセージが込められた歌」と語っていた一曲で、まさにこの作品の核となる想いが、詰め込まれているように感じます。
作曲・編曲・音楽監督を務める桑原あいさんによる軽やかに心へ届くメロディと、メッセージ性がありながらも決して押し付けがましくなく、優しくそっと背中を押してくれる板垣さんの歌詞が響き、聴いているうちに自然と勇気をもらえる楽曲でした。浦井さんの爽やかで美しい歌声と、川平さんのエネルギッシュな歌声が心地良く重なります。
『ケセラセラ』と共に、劇場を後にした帰り道、思わず口ずさみたくなるような親しみやすさもあり、ふとした人生の瞬間に思い出したくなる――そんな、“心に残り続ける一曲”になったように思います。

撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
今作は、わずか10人という少数精鋭のキャストで繰り広げられており、主演のお二人以外は、一人で幾つもの役柄を担いながら作品世界を豊かに彩っています。
ドリスの息子・アダマを演じた小野塚勇人さんは、川平慈英さん演じるドリスとの親子の場面では、長年のすれ違いや複雑な感情を抱えながらも、少しずつ互いに歩み寄っていく姿を細やかに演じていました。ぶつかり合いながらも、“どんな時でも味方でいたい”というドリスの不器用で深い親心が滲み、思わず胸が熱くなるシーンでした。一方、フィリップの義娘・エリザの恋人役を演じる際は一転し、コミカルで勢いのある芝居を見せ、先ほどまでとはまるで別人のような弾けた演技で客席を楽しませていました。

撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
紅ゆずるさん演じるイヴォンヌは、原作以上にキャラクターが際立っており、生真面目さやお堅い雰囲気が強調されているように感じました。しかし、そのきっちりとした佇まいの中にもどこかチャーミングな魅力があり、抜群のスタイルも相まって舞台上で存在感を放っていました。最初はドリスに対して「何この人!?」という戸惑いや警戒心を露わにしていたイヴォンヌが、物語が進むにつれ少しずつ心を開き、別れの場面では自然にハグを交わせる関係になっていたことにも胸を打たれます。
それは単に距離が縮まったというだけではなく、ドリスがフィリップだけでなく、その周囲にいる人々とも少しずつ信頼関係を築いていった証のようにも感じられました。人と人との繋がりが温かく広がっていく様子に、思わずグッときてしまう場面でした。
そして、このやり取りは原作でも特に好きだった場面のひとつだったので、舞台ならではの温度感を持って丁寧に表現されていたことが、とても嬉しかったです。

撮影: 岩田えり/ミュージカル『最強のふたり』製作委員会
インタビュー時に浦井健治さんが演者や作品を「まるで“パワースポット”のよう」と語っていた言葉通り、舞台上から放たれる熱量や幸福感が、観る者の心まで明るく照らしてくれます。
笑って、胸が熱くなって、観終えた後には少し前向きな気持ちになれる――そんなエネルギーと温かさを、ぜひ劇場で体感してみてください。
(文:あかね渉)
ミュージカル『最強のふたり』
■脚本・作詞・演出:板垣恭一
■作曲・編曲・音楽監督:桑原あい
■キャスト
川平慈英 / 浦井健治 / 紅ゆずる / 宮原浩暢 / 小野塚勇人
福田えり / 加賀谷真聡 / 宮野怜雄奈 / 元榮菜摘 / 菊池愛
■開催日程・会場
2026年5月1日(金)〜10日(日)
東京都 ヒューリックホール東京
2026年5月14日(木)〜17日(日)
大阪府 COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
2026年5月21日(木)
愛知県 御園座

