
苦くて甘いドタバタラブミュージカル『ロマンティック・アノニマス』観劇レビュー
本作はフランスを舞台にした、シャイな男女のロマンティックコメディで、2010年に公開されたベルギーとフランス合作映画「Les Émotifs Anonymes」(邦題「匿名レンアイ相談所」)を原作としたミュージカルです。2017年にイギリス・ロンドンで初演され、日本初上演となります。なお、原作映画は今年Netflixで「匿名の恋人たち」としてドラマ化もされています。
今記事では、観劇レビューをお届けします。
ミュージカル『ロマンティック・アノニマス』撮影:あかね渉
あらすじ
ジャン=ルネは、家業であるチョコレート工場を受け継ぎますが、時代に取り残され、経営に悩んでいます。彼は内向的な性格ゆえに人とのコミュニケーションを避けており、日々のルーティンに縛られ孤独な生活を送っています。
そんな工場の求人に、才能はあるが自分に自信のないアンジェリークが応募してきます。ジャン=ルネは彼女を雇い、2人は惹かれ合いますが、互いに内気な性格から関係を深めることができません。工場の経営難が深刻化する中、ジャン=ルネが取る選択とは……。
冒頭のステージ演出では、ラッピングされたような大きな鏡に、まず観客の姿が映し出されます。そこからヒロインのアンジェリークがチョコレートを作るシーンへと移り変わり、一気に物語へと引き込まれます。
また、最初の台詞がフランス語で語られる演出も、「なんて言っているんだろう?」と観客の興味を引きつける仕掛けとなっており、その巧みさが光ります。
撮影:あかね渉
今作は、初めて観る人でも迷うことなく物語に入り込める、わかりやすい構成が魅力です。
良い意味で敷居が高くなく、気軽に楽しめる間口の広さを持ったミュージカルだと感じました。物語の中心にいるのは、不器用な二人。その姿がとにかく愛らしく、気づけば引き込まれ、そっと応援したくなります。
主演のジャン=ルネ役を務めるのは、アイドルグループKEY TO LITで活動し、近年ミュージカルでも活躍する岩﨑大昇さん。2024年には『ニュージーズ』での主演を務め、舞台以外にもドラマやバラエティ番組でも活動の幅を広げています。
ジャン=ルネは、内向的な青年です。しかし、若くして父から家業を継ぎ、社長という立場を担うことになります。そのため、「威厳があり、理想的な自分」であろうと振る舞っています。
AIの指示に従い日々の行動を決める姿は、現代的な人物に映ります。迷いを抱えるたびに答えを委ねるその在り方にはどこか危うさも感じられますが、一方で、立ち止まらずすぐに行動へ移す点には、真っ直ぐさと素直さが滲みます。AIが指示する内容は「運動をしましょう」「食事に誘ってみましょう」など多岐にわたります。その姿は、岩﨑さんにより、コミカルに演じられます。そして、その行動こそが、偶然にも二人の距離を縮めることになります。
撮影:あかね渉
勇気を出してアンジェリークを食事に誘った初めてのディナーシーン。ジャンは緊張のあまり大量の汗をかき、悟られないように何度もトイレに立ち、気持ちを整えようとします。この場面は特に注目です!スマートに振る舞おうとする表の顔と、焦りからあたふたと崩れていく内面とのギャップ。その末に、思わず驚くような行動に出てしまう不器用さも含めて、どこか痛々しくもありながら目が離せない魅力となっています。
岩﨑さんのファンの皆さんには、グレーのスーツを着こなした爽やかな若社長の姿から、ピンクのギンガムチェックのエプロン姿まで、そのビジュアルの変化もお楽しみいただけます。
二代目社長として、父から受け継いだ伝統あるチョコレート会社を守ろうと孤独に奮闘する姿や、社員とのコミュニケーションに悩む様子も、どこか健気に映り、思わず見守りたくなります。岩﨑さんの繊細さ、穏やかさ誠実さが溢れる人物像を豊かに表現されていました。
撮影:あかね渉
ヒロインのアンジェリーク役には、吉柳咲良さん。2017年に『ピーター・パン』に抜擢されて以降、俳優業のほか、声優、歌手として多方面で活躍しています。
アンジェリークは、“天才ショコラティエ”と称されるほどチョコレート作りの腕は群を抜いているものの、極度のあがり症で他者とのコミュニケーションを苦手としています。
緊張が頂点に達すると、思わず気絶してしまうほどで、どこかクスッと笑ってしまう一面もあります。しかしその裏で、彼女自身はそんな自分に悩み、苦しんでいます。
撮影:あかね渉
そんな中、彼女は同じような悩みを抱える人々が集う自己開示の場に参加します。
それは彼女にとって、大きな勇気を伴う一歩でした。
自助グループの仲間と出会い、自分の悩みや背景を話し、自らをさらけ出したことで、孤独で閉じこもっていた毎日から、少しずつ世界が広がっていきます。
さらに、一度は自分には向いていないと口にした営業の仕事にも向き合い続けたことで、やがて自身の才能であるチョコレート作りへと繋がっていきます。その過程も丁寧に描かれています。
アンジェリークを演じた吉柳さんは、実直な佇まいが印象に残り、ピュアな人柄がにじみ出ています。そのまっすぐな想いは歌声にも表れており、やさしくも芯のある響きで、役の心情を丁寧に届けてくれます。
また、緊張のあまり戸惑い、あたふたとする様子も愛らしく、コミカルな場面では思わず頬が緩みます。一方で、自分の弱さと向き合う場面では繊細な感情の揺れを感じさせます。
撮影:あかね渉
ぎこちなかった二人が、次第に気持ちを通わせ、少しずつテンポを合わせていく過程も見どころのひとつです。
一方で、内気な二人でありながら「そこは早いんかい!笑」と思わず心の中でツッコミたくなるような流れもあり、くっついたり離れたりする絶妙な距離感が物語に軽やかさを与えています。
後半には、二人の距離が一気に縮まるドキドキする展開も用意されており、なかなか進まない二人の関係を周囲の社員たちが後押しする様子も印象に残ります。BARで汗だくになりながら飲むシーンなど、人間味あふれる場面も魅力のひとつでした。
二人に共通しているのは、“欠点”や“悩み”を抱えていることです。
迷い、立ち止まりながらも、それでも変わりたい、進みたいと、もがき続けます。
最初はそれらを隠し、孤独に生きていた二人ですが、自分と向き合い、一歩ずつ行動に移していきます。
すれ違いや失敗を重ねながらも、周囲の助けを借りて、やがて欠点や悩みを“個性”として受け入れ、自分らしく生きていきます。
そして互いを補い合う、かけがえのないパートナーへと成長していく――その姿には、思わず勇気をもらえます。
撮影:あかね渉
本作は、“生きづらさ”を抱える二人の物語でありながら、不器用さや悩みを抱えて生きる“すべての人”へと届く作品だと感じました。
クライマックスでは、それまで部屋に閉じこもり、会話だけで繋がっていた内向的な自助グループの仲間たちが、まるで自分のことのように二人を応援し、実際に行動へと移す姿に胸が熱くなります。
出演者は全9名。場面ごとに役柄が目まぐるしく変化し、整理して観ないと追いつかないほどのスピード感があります。
一方で、個性豊かなキャラクターとお洒落な衣装の数々が視覚的にも楽しませてくれます。
主演の二人を除く7名は、絶え間なく衣装と役を切り替えており、そのエネルギーにも圧倒されました。
撮影:あかね渉
特に、花乃まりあさんは、元宝塚トップ女優らしい気品と確かな歌唱力を持ちながら、本作ではこれまでにない弾けた一面を見せています。以前、川島如恵留さんの主演舞台では、ヒロイン役を演じシリアスな場面も多かったですが、今作では、その振れ幅の大きさに驚かされました。
フリルのワンピースに身を包み、まるでアイドルのように決めポーズをする姿は非常にキュートで、新たな一面を垣間見ることができました。
撮影:あかね渉
また、芸人のこがけんさんは、お金持ちで派手なマダムから、ほとんど台詞のない男性役まで幅広く演じ分け、そのキャラクターの差も見どころのひとつです。
撮影:あかね渉
他にも、勝矢さんやダンドイ舞莉花さんなど実力あるミュージカル俳優さんも活躍されています。
キャスト同士のやり取りや作品全体の空気、チームとしての一体感は、回を重ねるごとにさらに深まっていくであろう、そんな期待を抱かせる作品でした。
題材がチョコレートということで、作品自体もそうですし、雲や月、色とりどりの傘が使用された演出は、可愛らしくメルヘンな世界観を作り上げており、眼にも華やかです。


さらに、劇場内に漂うチョコレートの香りが作品世界への没入感を高め、観客をやさしく包み込みます。(また、味覚でも楽しめるかもです…♪)
目で見て、耳で聞いて、そして香りも楽しめる――五感で味わうミュージカル!ぜひお楽しみください!
(撮影・文:あかね渉)
ミュージカル『ロマンティック・アノニマス』
原作:映画「Les Émotifs Anonymes」(ジャン=ピエール・アメリスおよびフィリップ・ブラスバンド脚本)
脚本:エマ・ライス 歌詞:クリストファー・ダイモンド
演出:スコット・シュワルツ 音楽:マイケル・クーマン 振付:アディ・チャン
キャスト
ジャン=ルネ:岩﨑大昇 アンジェリーク:吉柳咲良
マグダ / ブリジット / ドクター・マキシム:朴路美
ルド / ロワゾー / レミ:勝矢
スザンヌ / ミミ:花乃まりあ
セールスマン / ピエール / フレッド:上野哲也
ヤングウーマン / アプリの声 / ウィロー:ダンドイ舞莉花
メルシエ / もごもごエモティフ / マリーニ:こがけん
ファーザー / 受付係:大谷亮介
【日程・会場】
2026年3月1日(日)〜24日(火)
東京都 東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
2026年4月1日(水)〜5日(日)
大阪府 東京建物 Brillia HALL 箕面(箕面市立文化芸能劇場)
公式サイト
https://www.tohostage.com/romantics/

