日常を切り取るバカリズムの真骨頂『ノンレムの窓』観劇レビュー

 

舞台版『ノンレムの窓』堂々開幕!

皆さん、最近夜はいかがお過ごしでしょうか。よく眠れておりますでしょうか。

深い眠りを意味する言葉、「ノンレム睡眠」。その名を冠したドラマをバカリズムさんが阿部裕之さん、竹村光司さんと共に脚本家としてペンを取り、オムニバス形式で作成しました。それが『ノンレムの窓』です。(2022年から作成された本作はhuluで過去作がご覧いただけます。)今回はそんなドラマが舞台となって、やって参りました。

 

日常をそっとすくい上げる脚本の魅了に迫る

『ノンレムの窓』は1本が最長でも約50分。基本的にショートショートとして作られています。特質すべきはその題材。日常のひょんなことから、かけ離れた出来事まで幅広く扱っています。私が一番面白いと思う点は、日常のことに疑問を呈している点です。

街中の子供から、またはお子さんがいらっしゃる方はご自身のお子さんから「なんで!?」という疑問を聞いたことがある人は多いと思います。まだ物事を知らない子供は納得するまで突き詰めるからです。しかし、大人になれば考えなければならない事象は膨大になり知識も増えていきます。すると、単純な疑問を持つことって減るかと思います。私はこれを仕方ないことだと思いつつも、一種の諦めのようにも感じています。

そんな当たり前に「?」を投げ、フィクションとして昇華する、かつ面白い。それが唯一無二な『ノンレムの窓』の魅力です。

舞台でもショートショートの形式は変わらず、約1時間半の間に4作が舞台上で繰り広げられます。休憩がないため、少し長く感じるお客様もいらっしゃるかもしれませんが、テンポよく繰り広げられる物語のお陰で特別長いと感じることはないと思います。お芝居を見慣れていない方にもオススメです!

 

クスリと笑える瞬間が積み重なり爆笑へ…

4作を少しご紹介します。まずは、既に映像になっている作品から3作。『夕暮れ時の葛藤』『代行社会』『匿う男』です。

『夕暮れ時の葛藤』は夕方にスーパーに並んでいた男(風間俊介)は列ができている2つのレジのうち、待ち人が短い列に並びます。しかし、長い列のレジがサクサクと進み、そちらのレジに移るか葛藤をはじめます。更には自分の後ろに並んだ人まで移動し…と年代を問わず覚えがありそうなシチュエーション。

※(風間さん。揺れ動く表情が素敵です。何やら緊迫していそう…)

葛藤する男を演じている風間さんは多数の作品に出演しながら、朝の情報番組でもコメンテーターを務めた正にお茶の間に愛される俳優。知名度もさることながら等身大の姿がファンに愛されています。だからこそ、この身近なあるあるの題材で真面目に葛藤する姿に親近感を覚えてしまいます。揺れ動く表情に要注目です。

『代行社会』はタイトルから風刺的な香りがする作品。風間さん演じる山崎真司はプロの代行業者のベテラン社員です。ある日、常連のクライアントからプロポーズの代行依頼を受けます。10年前に依頼主の告白代行をしていた山崎は気合を入れて、プロポーズ現場に行きます。そこで待っていたのは…

※(じろうさんと風間さん。何やら奇妙な一幕…)

昨今、本当に代行が多いですよね。特にインパクトが強いのは退職代行。SNSでもよく見かけます。間違いなく良し悪しがあって、それは個々人で判断しなければならないのですが、そういった時代の潮流に乗っているものを敏感に察知して脚本に落とし込む安部さんのアンテナはすごいなぁと感心してしまいます。この作品は風間さんとじろう(シソンヌ)さんの掛け合いが非常に面白いです。演出もですが、じろうさんの細かな所作に笑ってしまうかもしれません。

既存の作品からは最後に『匿う男』が演じられました。私はこの作品が一番好きです。

中野(じろう)という男がいつもの日常と変わらず家でコンビニ弁当を食べていると、切羽詰まった様子の女性、真央(与田祐希)が匿ってほしい!と突然家に訪ねてきます。警察に追われているという彼女に対して、中野は…

※(じろうさんと与田さん。コミカルなじろうさんの動きの片鱗が!)

この作品は特に男性にウケること間違いなし。じろうさん演じる中野の本音と建前が男性にとって覚えがあるものばかりで現実にほぼないシチュエーションなのに思わず感情移入してしまいます。流石はバカリズムさんの脚本です。また、じろうさんの雰囲気とお芝居がうまくリアリティがあります。舞台を観ていて、そのキャラクターのバックグラウンドが何となく想像できる感覚は私にとってあまり出会えるものではなく、それだけ説得力がありました。

また、今回は舞台の性質上あらすじにも詳しいことは書けません。ただ言えるのは台本も秀逸で面白いです。特に私は「情報を制限する」ということの面白さを感じました。隠されると見たくなる、という人間に起こる現象を巧みに利用した作品で風呂敷を広げようと思えば広げることができるこの作品をあえてショートに収めること。その際に小出しにする情報の精査が素晴らしいなと思いました。

期待の新作も…もちろん、あります!

今回は『バラエティ葬』という新作もあります。

※(キャストも勢揃いの1枚!既視感のある景色にそぐわない表情が気になりますね)

本作はシナリオもまた楽しむ一つの鍵となっているため、残念ながら新作のあらすじを書くことは出来ません。しかし、非常に面白い作品でした。タイトルから薄っすらと内容が浮かぶと思いますが、予想を上回ること間違いなし。是非とも足を運んでみてください。

『ノンレムの窓 2025 冬』も公開が決定!

舞台版から更にドラマの新作の公開も決定しました。

今回は2作公開され、『グラデーション』を主演・山本耕史さん。『トイレットペーパーレース』を主演・西野七瀬さん&浅利陽介さんが務めます。第8弾となり恒例となってきた『ノンレムの窓』。12月21日夜10:30~から日本テレビ系全国ネットで公開です。お見逃しなく!

 

(撮影:阿部章仁 文:田中諒)

 

公演情報

『ノンレムの窓』

【脚本】バカリズム、安部裕之、竹村武司

【演出】内田秀実

【出演】

風間俊介 じろう(シソンヌ)与田祐希

日野友輔 大野泰広 澤田育子 バカリズム(映像出演)

主催・製作:日本テレビ

◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2025年12月7日(日)~12月21日(日)
会場:IMM THEATER (東京・水道橋)

公式サイト:
https://nonrem-stage.jp/

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