
モーリー・イェストン×藤田俊太郎が紡ぐ、世界初演ミュージカル『ISSA in Paris』観劇レビュー

撮影:岡千里
モーリー・イェストン×藤田俊太郎の世界初演ミュージカル『ISSA in Paris』が開幕!
『ナイン』『タイタニック』でトニー賞を2度受賞したミュージカル界の巨匠、モーリー・イェストンが原案・作詞・作曲を手掛けた完全オリジナルミュージカル『ISSA in Paris』が、1月10日(土)日生劇場で幕を開けました。この作品は、江戸時代の俳人・小林一茶の「空白の10年間」に焦点を当て、現代と過去を交錯させながら描かれる壮大な物語。
本作品を観劇してきたレビューをお届けします。
一茶とフランス革命の交差点――観劇前の期待と戸惑い
今回の観劇前に簡単にストーリーをチェックしましたが、江戸時代の俳人・小林一茶がフランス革命とどう結びつくのか、正直に言えば、まったく想像がつきませんでした。一茶が俳人であることはもちろん知っていましたが、「空白の10年間」をテーマにした物語と聞き、どのような展開になるのか興味津々でした。
実際に観劇してみると、一茶と現代のシンガーソングライターであるISSA(海人)の2人の軸を追いかけながら進む物語に、時折混乱しつつも、時間が経つにつれて徐々に理解が深まっていく感覚がありました。
この「じわじわと物語の理解が深まる」体験は、生の舞台ならではの感覚でもあり、非常に面白く感じました。

撮影:岡千里
小林一茶の空白の10年間を大胆に解釈した物語
先に簡単に小林一茶について触れておきたいと思います。
小林一茶は江戸時代後期に活躍した俳人で、庶民の心を詠んだことで知られています。1763年農家の長男として生まれ、わずか3歳の頃に母がなくなります。その後継母が来ますが、異母兄弟が生れると次第にイジメられるようになり、15歳で江戸に奉公に出されてしまいます。その後、10年間その消息は不明のままとなっています。
ミュージカル『ISSA in Paris』では、この「空白の10年間」に注目し、一茶の研究家である海人の母親の「その期間、鎖国の日本をひそかに抜け出してパリへ行っていた」という仮説をベースに、物語が展開していきます。
海人は、母親が著名な一茶研究者であることから「親の七光り」と揶揄され、曲作りに行き詰まっていました。母親は海人が子供のころから一茶の研究に熱中しており、母親に対してはあまり良い感情を持っていませんでした。そんな中、母親から「パリでの研究に同行してほしい」と誘われるも、母親の人生に巻き込まれるのはもう嫌だ!と同行することを断ります。しかし、母親がパリで急逝したことを知り、パリへ向かうことになります。そこで出会った女性ルイーズ(潤花)との交流を通じて、最初は閉ざしていた海人の心を動かし、物語は大きく進行していきます。
一方、過去の物語は、母親が残したレポートの中で書かれている仮説が、一茶の物語として表現されています。
幼少期から俳句の才能を持ちながらも、異国への憧れを抱く一茶は、長崎に出入りするオランダ商船に潜り込み、鎖国中の日本を抜け出してパリに辿り着きます。そこで出会った女性テレーズとの関係を通じて、革命運動に巻き込まれながら、一茶の物語も動き出します。
現代と過去、2つの時代が交錯しながら進む物語は、舞台のセットをガラッと替えながら構成され、家族や自分らしさをテーマに、観客に深い問いを投げかけます。

撮影:岡千里
和の世界観と現代リズムの融合:物語の幕開け
劇場に入ると、まず目を引くのが一茶の俳句の数々。
「露の世は 露の世ながら さりながら」といった句が最初に詠まれ、和の世界観に引き込まれます。しかし、物語が始まると一転、現代の軽快なリズムが響き渡ります。
主人公の海人が歌う「TALK TALK TOKYO」は、リズミカルな曲調とダンスが印象的で、レーザーを使用したライブシーンの様な演出が冒頭から観客の心を一気に掴みます。「TALK TALK TOKYO」は、劇中で何度か登場しますが韻が心地よく、思わずつい口ずさんでしまうほど印象に残るナンバーとなっています。
見事な舞台転換とオーケストラの存在感
舞台演出も目を見張るものがあります。場面転換のたびにセットが大きく変化し、時代や場所ごとの空気感を的確に表現しています。パネルのような装置がまるでテトリスのように動きながら短冊、本棚や建物・・と場面を切り替える様子は、スムーズで物語の流れを止めることがありません。
また、時代に合わせて衣装が変化していることも、異なる時代を表現しながらも混乱せずに舞台に集中できたポイントの一つになっています。
さらに、舞台奥上段に配置されたオーケストラも注目ポイント。通常は舞台下に位置するオーケストラピットが上部にあることで、演奏者たちの姿を視覚的にも楽しむことができます。
ただ、姿が見えるのは、冒頭のシーンとカーテンコール(その前にもあったかな?)とチャンスは少ないので、お見逃しなく!

撮影:岡千里
キャスト陣の圧巻のパフォーマンス
本作で特筆すべきは、キャスト陣の圧倒的な歌とダンスのパフォーマンスです。
海宝直人さんの力強くも澄んだ歌声は、主人公・海人の葛藤や成長を見事に表現し、観客の心を揺さぶります。海人自身の心の変化と、一茶の物語を俯瞰して見ながらも揺れ動かされる様を見事に表現しています。
一方、潤花さん演じるルイーズは、元宝塚娘役トップスターらしい華やかさと、しなやかで美しいダンスが印象的です。彼女の歌声は聴く者を包み込むような力強さと優しさに満ちており、舞台に彩りを添えると共に、海人を向かうべき方向に導いていくきっかけを作ってくれています。
また、岡宮来夢さん演じる一茶も、若き俳人の内なる情熱や異国への憧れを繊細かつ力強く表現しています。豊原江理佳さんが演じたテレーズとの出会いによって、革命運動に巻き込まれながら一茶自身も積極的に関わっていく誠実さや正義感を見事に表現されていました。
豊原江理佳さんは、女優としての華やかさと革命を先導する女性リーダーの姿を見事に表現されていいました。女性らしくも力強い歌声も注目のポイントです。
そして、忘れてはいけないのがISSAと一茶のデュエットです。二人の奏でるハーモニーはとても心地よい響きとなっていますので、ぜひ劇場で確かめて欲しいです。
言葉の力と普遍的なテーマ
本作の根底に流れているテーマは、「言葉の力」と「自分らしさ」があると感じました。
劇中では、現代のデモの様子が描かれるシーンもあり、何かに立ち向かう姿勢は過去だけでなく現代にも通じることであると考えさせられます。
また、ルイーズのダンススクールに通うレミーとの出会いは、海人が、自分の歌が人々に勇気を与えていたことに気づく重要な場面であり、物語の鍵となるシーンでもあります。
俳句という日本の伝統的な表現形式を軸に、差別や分断に対して声を上げることの大切さ、そして自由や権利を自らの力で勝ち取ることの価値が歌やダンスを通じて力強く表現されています。現代の若者と江戸時代の俳人が時代を超えて様々な人々と出会いながら、自分自身と向き合い、家族との関係性や自分の居場所を探しつつ成長していく姿は、多くの観客に共感を与えることでしょう。

撮影:岡千里
「観るたびに広がる世界」―複数回の観劇で深まる魅力
『ISSA in Paris』は、一度観ただけでは全貌をすべて掴むのが難しいと私は感じてしまいました。物語の背景やテーマ、キャラクターの細やかな感情表現は、観るたびに新たな発見がありそうです。特に、ストーリーの軸となる一茶とISSAの対比をじっくり追うことで、物語がさらに奥深く感じられるでしょう。
この作品は、1回目の観劇で感じた戸惑いや驚き、そしてじわじわと理解が深まる感覚を楽しみつつ、2回目以降ではより深いテーマや演出の細部に目を向けることで、さらなる感動を得られる作品だと感じました。
ぜひ、観劇を重ねることで広がる『ISSA in Paris』の世界を体験してみてください。

撮影:岡千里
最後に:観劇前の情報収集は必要?迷う楽しみ方
本作に限らず、作品を観る際には、事前にどれだけ情報を入れるべきか迷うことがあります。個人的には、もし複数回観劇する機会があるのであれば、1回目は「真っ白な心」で観たいというのが本音です。何も予備知識がない状態で作品に触れたとき、自分がどう感じるのかを大切にしたいという思いが強いからです。
一方で、物語の背景やテーマを事前に把握しておくことで、より深い理解が得られるとも感じています。本作であれば、小林一茶の生涯やフランス革命について多少の知識があると、背景の理解が進み、物語の魅力をさらに堪能できるのではないかと感じました。
(文:松坂柚希)
『ISSA in Paris』
原案・作詞・作曲 モーリー・イェストン
脚本・訳詞 高橋知伽江
演出 藤田俊太郎
出演
海人(ISSA):海宝直人
小林一茶: 岡宮来夢
ルイーズ: 潤 花
テレーズ: 豊原江理佳
中河内雅貴・染谷洸太[Wキャスト]
彩吹真央・藤咲みどり[Wキャスト]
内田未来
阿部 裕
森山大輔、塚本 直
井上真由子、岡田治己、尾関晃輔、加藤翔多郎、黒川賢也、木暮真一郎、
斎藤准一郎、渋谷茉樹、島田隆誠、根岸みゆ、般若愛実、引間文香、
深瀬友梨、古川隼大、武者真由、森 加織、大村真佑*、森田有希*
(五十音順)*オンステージスウィング
中井理人・星 駿成・見﨑歩誠(トリプルキャスト)
◻︎公演日程
【東京公演】
公演日程:2026年1月10日~30日
会場:日生劇場
【大阪公演】
公演日程:2026年2月7日~15日
会場:梅田芸術劇場メインホール
【愛知公演】
公演日程:2月21日(土)~25日(水)
会場:御園座
□公式サイト
梅田芸術劇場:ISSA in Paris

