家族愛の金字塔・ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』観劇レビュー!

写真提供/東宝演劇部

不朽の名作ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』ついに開幕!

2025年3月6日、ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』のゲネプロが、明治座にて行われました。

本作は、1964年にブロードウェイで初演され、トニー賞ミュージカル部門の最優秀作品賞、脚本賞、作曲賞など、7つの賞を獲得したミュージカルです。

日本では、1967年に東京・帝国劇場にて初演されて以降、何度も再演を重ねており、多くの人に愛されています。主演・テヴィエ役は、森繁久彌さん、上條恒彦さん、西田敏行さん、市村正親さんが務めてきました。

2025年版では、2004年から6回主演を務めた市村正親さんが続投するということで、ますます期待が寄せられています!

本記事では、そんなテヴィエの化身・市村正親さん率いるミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』のゲネプロの様子をお伝えしますので、ぜひ観劇時の参考にしてください!

あらすじ

舞台は1905年、帝政ロシア時代のアナテフカという寒村。

酪農業を営むお人好しで働き者のユダヤ人・テヴィエ(市村正親さん)は、妻のゴールデ(鳳 蘭さん)と5人の娘たちと貧しくも幸せな日々を送っていました。

長女のツァイテル(美弥るりかさん)、次女のホーデル(唯月ふうかさん)、三女のチャヴァ(大森未来衣さん)は、自分たちの結婚についての話題で持ち切り!しかし、ユダヤには厳格な戒律と“しきたり”があり、両親の祝福が無ければ結婚は許されません。

ツァイテルは仕立屋のモーテルと愛し合っているにもかかわらず、金持ちで肉屋のラザールとの結婚話が勝手に進んでしまいます。次女や三女も、立場上許されない形の“愛”を育み始めていました。そんななか、テヴィエ一家には革命の足音が近づいてきて…

各出演者について

まずは、主要キャスト(テヴィエ一家)について詳しくご紹介します。

市村正親さん

主演テヴィエを演じるのは市村正親さん。

登場から貫禄と迫力、そして舞台を楽しむ空気感が舞台上に溢れています。公式サイトに「お人好しで働き者」「信心深くて、楽天家」と書かれていますが、まさにその通り!いつも神に祈りを捧げながらも、日々を楽しく生きている様子が伝わってきます。

写真提供/東宝演劇部

しかし、ユダヤ人のしきたりから外れた結婚を望む娘を、威厳を持って叱る信仰心の強さや、遠くへ旅立つ娘を抱きしめるときの父性もまた、テヴィエの魅力。市村さんは、そんなテヴィエのギャップを、人間味あふれるお芝居で表現していました。

鳳蘭さん

テヴィエの妻ゴールデを演じるのは鳳蘭さん。

さすがは元宝塚の男役トップスター!立ち姿からあふれ出る威厳に思わず惚れ惚れ。肝っ玉母ちゃんという役どころを、お茶目に格好良く演じていました。

市村さんとの掛け合いは、息ピッタリで微笑ましく、25年連れ添った夫婦そのもの。

写真提供/東宝演劇部

一方、切ない場面では、涙を流して力強く両手を合わせて祈る姿に、こちらも心揺さぶられました。

美弥るりかさん

宝塚現役時代は、キザな男役や中性的な役が多く、魅惑的な印象があった美弥さん。しかし、本作ではピュアで真っ直ぐな女性・ツァイテルに大変身!

写真提供/東宝演劇部

一歩控えた女性でありながら、恋人・モーテルを強く愛していることが分かるのは、デュエットソングなどで、常にモーテルを見つめているから。個人的には、宝塚の娘役のようなお芝居だなぁと思ったり…。

写真提供/東宝演劇部

モーテルだけでなく、ラザールにも好かれる役どころなので、“モテる”役とも言えますが、「モテて当然!」という可憐なお芝居でした。

唯月ふうかさん

頭が良い女性・ホーデルを演じるのは、唯月ふうかさん。透き通る美しい歌声と活舌の良さに、数々の大作ミュージカルに出演している一流女優の安定感を感じました。

写真提供/東宝演劇部

愛らしい顔立ちですが、意志の強さを感じさせる物言いや、凛とした立ち姿が印象的。革命を志す男子学生が、彼女にほれ込むのも納得です。

印象的だったのは父との別れの場面。唇を震わせながらも笑顔を崩さないホーデル。ここにも彼女の強さが滲んでいて…そんなホーデル“らしさ”に泣かされます。お芝居の細かな作り込みに、心の中で拍手喝采でした。

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大森未来衣さん

まだまだ少女のようなあどけなさを残しつつ、駆け落ちするほどの真っ直ぐさを秘めたチャヴァ。

写真提供/東宝演劇部

大森さんの柔らかさとピュアさが、チャヴァにマッチして、まさに“可愛いの権化”!ミュージカル「イザボー」のイザベル役では眼光の鋭さが印象的だったので、空気感の違いに戸惑うほど。個人的には、透き通る声質に今後の可能性を感じ、今後も舞台でたくさん拝見したいと思いました。

当然ながら、そのほかも粒ぞろいの役者ばかり!気弱さで優しいしがない仕立て屋・モーテル(上口耕平さん)、若々しい意志の強さが眩しい学生・パーチック(内藤大希さん)、不器用ながらまっすぐで誠実なロシア人青年・フョートカ(神田恭兵さん)が、3人娘と観客の私の心を華麗に搔っ攫いました。(笑)

写真提供/東宝演劇部

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作品の魅力①ユダヤ人の慣習を覗ける

本作の魅力のひとつが、ユダヤ人の文化やしきたりを感じられるところ。休息日などの馴染みのない文化や、男女は結婚するまで目を合わせたり触れ合ったりしてはいけないという慣習などが、作中にたくさん登場します。

写真提供/東宝演劇部

揺らぎのない信仰心とユダヤ式の伝統の中で育ったテヴィエにとって、この閉鎖的な伝統は疑いようのない正しいもの。だからこそ、“自由な愛”や“自由な生き方”を求める、娘世代への違和感はさぞ大きかったのでしょう。これは当時のユダヤ人に限った話ではなく、現代にも通じる価値観の差異といえます。

そんななか、パーチックが「男女で踊るのはおかしいことではない」と訴えたことで、ユダヤ人が男女でダンスを踊り出す場面を見て、「歴史はこうやって少しずつ変化してくのか」としみじみ。それと同時に「変化(革命)を起こすには、彼らにとっての“当たり前”を覆さなければならないのか」と実感。世界の縮図・歴史の紡がれ方をリアルに感じました。

写真提供/東宝演劇部

作品の魅力②楽曲の面白さとメッセージ性の強さ

メッセージは重く大きなものですが、楽曲には哀愁だけでなくユーモアもあるところが本作の魅力。東欧系ユダヤ人の民族音楽を取り入れたナンバーで、世界観に没入できます。

調べてみたところ、東欧系ユダヤ人が奏でる音楽は“クレズマー”と呼ばれているとのこと。知らなかった…。

そう。クレズマーの独特な音色が、日本人の私に“ユダヤの世界を知らない”と感じさせるのです。逆を言えば、価値観や住む世界の違いを実感すればするほど、“同じ”であるところも浮き彫りになる。彼らと私の共通点は、家族や友人への愛のかたち。

どの時代でも、どんな人種でも、人への愛情は同じである。この作品のキャッチコピー「世界は変わっても、家族の絆は変わらない」という言葉の意味を噛み締める3時間でした。

写真提供/東宝演劇部

写真提供/東宝演劇部

世界中で愛される名作ミュージカルをぜひ劇場で!

本作は3月29日(土)まで明治座にて上演されています。
詳細は公式サイトで。
https://www.tohostage.com/yane/index.html

(文:山本萌絵

公演情報

ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』

【台本】ジョセフ・スタイン
【音楽】ジェリー・ボック
【作詞】シェルドン・ハーニック
【オリジナルプロダクション演出・振付】ジェローム・ロビンス
【翻訳】倉橋 健
【訳詞】滝弘太郎・若谷和子
【日本版振付】真島茂樹
【日本版演出】寺﨑秀臣
【製作】東宝

【出演】市村正親/鳳 蘭
美弥るりか/唯月ふうか/大森未来衣
上口耕平/内藤大希/神田恭兵/今井清隆 ほか
 

2025年3月7日(金)~3月29日(土)/明治座

公式サイト
https://www.tohostage.com/yane/index.html

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