バズ・ラーマン監督による名作映画の舞台化である『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』。2018年にボストン、2019年にNYブロードウェイにて公演が上演され、トニー賞最優秀作品賞(ミュージカル部門)をはじめとする10部門を受賞しました。
オペレッタの創始者オッフェンバックから、21世紀の歌姫レディー・ガガの楽曲まで、160年以上にわたるポピュラーミュージック約70曲を使用した、豪華なミュージカル作品です。
日本では、2023年に望海風斗さん・平原綾香さん、井上芳雄さん・甲斐翔真さんを中心としたキャストで上演。日本公演では世界初の試みとして松任谷由実さんを筆頭とする、日本のミュージック界を牽引するアーティストたちによる、歌詞提供も実現しました。
本記事では2024年『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』の記者会見の様子と、望海風斗さんと甲斐翔真さんバージョンのゲネプロの様子をご紹介します。
記者会見
記者会見には、望海風斗さん、平原綾香さん、井上芳雄さん、甲斐翔真さん、橋本さとしさん、松村雄基さん、伊礼彼方さん、Kさんが登壇。
望海さんは、「(初演は)お客様と楽しめるポイントを一緒に作っていった感覚があった」とし、「今年はそれを知った状態でスタートできるのは楽しみだなと思います」とコメント。さらに「とにかく騙されたと思って劇場に来ていただきたい、いいことしかないので」と笑顔でアピールしました。
平原さんは、この1年でオーストラリアとNYで同作を観劇したことを告白。外国版を称えつつ「(海外チームが)日本だけの演出をしてくださっているので、さらに日本だけの公演というのができる気がしているので、とても楽しみにしています」と胸を高鳴らせている様子。
井上さんは「この帝劇でやるのは最後なので寂しいですけれど、夏を思う存分僕たちも楽しく味わいたいですし、お客様と一緒に盛り上がれたらなと思います」とコメント。さらに「ロンドン(で上演中)の『千と千尋(の神隠し)』に負けないように。こっちも日本で頑張ってるぞと(アピールしたい)」と笑いを誘いました。
初演出演後、パリで同作を観劇した甲斐さんは、「五感全て味わってきたので(初演よりも)よりパリの物語を鮮明に届けられるのかな」として、「とっても手ごたえを感じています」と頼もしく発言。
橋本さんは「1年ぶりとはいえ、ずっとやり続けてきたような感じ」と語り、「1年経って体型もグレードアップしまして。人間って成長するものだなと」と自虐発言が飛び出します。さらに「脂身たっぷりのコッテリとしたジドラーをお届けできたら」と笑いを交えて意気込みを語りました。
松村さんは、「(同作を)客席で見ていてとても希望を感じたんですよ」と感想を述べつつ「ぜひ多くの方々に、芝居を見て元気になって、笑顔になって帰っていただきたい」と笑みを浮かべました。
伊礼さんは、「日本のミュージカルで声を上げることはなかなかないけど、僕は声を上げるのも良いんじゃないかと思っていて」として、「この作品が日本に上陸したことで、新しいミュージカルの形が根付いていったらいいなと思う」と意気込みをアピール。
Kさんは「ひょっとして最後かと思うと、ちょっと寂しいんですけれど、思う存分楽しみたいなと思います」とコメントしました。
最強タッグ「望海風斗さん×甲斐翔真さん」
ここからは、ゲネプロの様子をご紹介します!まずは「望海風斗さん×甲斐翔真さん」の組み合わせについて。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
ミュージカル『next to normal』、2023年版『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』、ミュージカル『イザボー』と共演が続くお2人。役としての関係性が変わろうと、お2人のお芝居の相性の良さが変わることはありません。まさに“最強タッグ”!
望海さんは、相手の心を受け止めるお芝居での「悟りの境地」のような表情にいつも心を掴まれます。一方甲斐さんは、心を真っ直ぐに伝えるお芝居の熱量にいつも度肝を抜かれます。これは『イザボー』で、母親役だった望海さんに、息子役の甲斐さんが思いを伝えていたときにも感じたこと。
若いエネルギーが眩しい甲斐さんを、望海さんが男役時代の包容力で受け止める。この構図がお2人の持ち味と相まって、より美しくそして切なく感じるのです。そんなお2人だからこそ、本作でも年上女性と年下男性の本物の恋を、より魅力的にしているのではないでしょうか。
望海さんと甲斐さんならではの「あなたしかいない」という想いの強さが、この物語の大きな軸となり、客席にいた私までその感情に心を揺さぶられ続けた3時間。ただひたすらに、サティーンとクリスチャンの互いを思う姿に胸を打たれました。
主要キャストの印象
望海風斗さん
サティーンは、ド派手な紹介を受けてゴンドラに乗って登場!望海さんの宝塚現役時代を知っている私としては、「『SUPER VOYAGER!』だ!ようこその俺の海へ、だ…」などと、トップスターお披露目公演とリンクしてしまいました(笑)
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
そんなド派手な登場が印象的なサティーンですが、彼女自身は子供の頃から娼婦をしていて、本物の愛を恐れています。それでも前を向いて生きる強い女性。個人的には、望海さんのサティーンの持ち味は“純粋さ”であると思います。娼婦として体を売って生きている女性のはずなのに、その根底に汚れのないピュアな心を感じるのです。それゆえ、彼女がクリスチャンと恋に落ちる展開も違和感がありません。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
デュークとクリスチャンに挟まれて、理性と本能で葛藤するときのサティーンの表情には、「愛する人を守りたい」という健気な想いが揺らめいていて、涙なしには見られませんでした。2幕後半で「彼の音楽を届けたい」と叫ぶように歌う姿はまさに“感情の爆発”。迫力ある歌声はそのままなのに、クリスチャンへの健気な気持ちも痛いほどに伝わります。その表現力の高さに痺れ、ひたすら圧倒されました。望海さんの歌い手としての実力、役者としての表現力の高さは、どの時代のどんな性別の役でも関係ないのだと実感しました。
甲斐翔真さん
甲斐さん演じるクリスチャンも、望海さん同様“純粋さ”が際立っているように思います。だからこそ、2人は惹かれ合った。体目当ての男性たちを相手にしてきたサティーンが心に押し込めていた純粋さが、クリスチャンの純粋さと共鳴した…そう感じたのです。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
若さが眩しい爽やかな男性かつ、母性本能をくすぐる不器用な人物としてクリスチャンを作り上げた甲斐さん。彼の屈折していない真っ直ぐな性格は、サティーンにとって新鮮だったのではないでしょうか?サティーンの心のパズルの唯一欠けていた所にぴたりとはまるような甲斐さんのお芝居は、運命の人という印象を強く与えました。
突然恋に落ちる展開でも、その流れが必然だと思えるほどに自然。甲斐さんのストレートなお芝居があったからこそ、より本作の純愛度が高まったように感じました。
松村雄基さん
幕開きから煌びやかな衣装に身を包んだショースターたちと共に登場する、松村さん演じるジドラー。「Welcome To The Moulin Rouge!」の楽曲に合わせて、コミカルに客席を巻き込みながら、物語を展開していきます。日本のミュージカルにはあまり見られない客席からの歓声が心地よく、思わず体がのってしまいます。
サティーンと共にムーラン・ルージュを守るために奔走する人間味ある姿と、ショーで見せる表情の違いも魅力的です。各場面でしっかり笑いを取りつつ、サティーンへの愛情も垣間見えるお芝居には心打たれました。
上川一哉さん
密かにサティーンを想いつつ、クリスチャンの後押しをするロートレック。彼はクリスチャンの良き理解者でもあります。また“芸術”に対する思いの強さ、デュークへの敵対心も的確に表現されていました。
仲間や愛する人への優しい人柄と、芸の世界を邪魔する者へ怒りをぶつける姿は対極にあります。それでも一貫性のある人物に見えたのは、上川さんの繊細なお芝居あればこそだと感じました。
伊礼彼方さん
伊礼さんはこの作品のダークな部分を一手に引き受け、嫌味たっぷりにデュークを演じています。望海さん・甲斐さんの純粋さと相反して、お金への執着や独占欲の強さが醜く、その黒さがかえって心地よいほど。
「デュークからは逃げられない」と感じれば感じるほど、サティーンとクリスチャンの場面はより刹那的で愛おしくなります。2人の関係性をより深くする“キーパーソン”としての存在感が素晴らしかったです。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
またサティーンとの場面は色っぽさもあり、歌声の艶が素晴らしいので、ダークなポジションでありながら「格好良い」と思わざるを得ない魅力がありました。
アトラクションのような圧倒的に舞台セット
本作の見どころは、なんといっても舞台セットの華やかさ!劇場に入った瞬間から、真っ赤に染まったステージがお出迎えしてくれます。上手にはエレファント、下手には風車のセットが常設されており、舞台中央には「MOULIN ROUGE」の文字が!劇場中がムーランルージュの世界そのもので胸が高鳴ります。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
通常のミュージカルよりも料金は高いのですが、それも納得のド派手な演出に、まるでアトラクションに乗っているような高揚感を覚えます。ライトの使い方やセットの転換、衣装の華やかさで、本当に“パリのキャバレー”に来たような感覚に陥りました。
美しいメロディーで満たされる作品
本作には、ポピュラーミュージック約70曲が使用されています。エルトン・ジョンやビートルズ、マドンナ、レディー・ガガなど、洋楽を代表する歌手たちの楽曲が作品を見事に彩り、楽曲が変わるごとに客席全体の熱量が高まっていくのを感じました。
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
個人的に特に印象的だったのは、エルトン・ジョンの楽曲「Your Song」。サティーンとクリスチャンが恋に落ちるときに使用され、その後大切なシーンでこの楽曲が流れます。時に情熱的に、時に切なく…。2人が求めたのは、真実の愛、そして自由。2人のハーモニーとメロディーが、2人の切実な願いをより強く深く心に届けてくれるので、聴いているだけで胸が熱くなります。
豪華絢爛な舞台セット、華やかな楽曲、高いレベルで熱演を繰り広げるキャスト陣の『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』の世界を、ぜひ劇場で感じてみてください!
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
『ムーラン・ルージュ! ザ・ミュージカル』2023年公演より 写真提供:東宝演劇部
本作は8月7日(水)まで東京・帝国劇場にて、9月28日(土)まで梅田芸術劇場メインホールにて上演されます。
詳細は公式サイトで。
https://www.tohostage.com/moulinmusical_japan/index.html
(文:山本萌絵)
2024年『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』
【演出】アレックス・ティンバース
【音楽監督・オーケストレーション・編曲】ジャスティン・リーバイン
【振付】ソニア・タイエ
【出演】望海風斗/平原綾香 井上芳雄/甲斐翔真
橋本さとし/松村雄基 伊礼彼方/K 上野哲也/上川一哉
中井智彦/中河内雅貴 加賀 楓/藤森蓮華
菅谷真理恵/鈴木瑛美子 磯部杏莉/MARIA-E 大音智海/シュート・チェン 他
2024年9月14日(土)~28日(土)/大阪・梅田芸術劇場メインホール
公式サイト
https://www.tohostage.com/moulinmusical_japan/index.html
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