脚本・加納幸和(花組芝居)、演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し) 原作・鶴屋南北 舞台『桜姫東文章』 丸尾丸一郎・鳥越裕貴・井坂郁巳インタビュー
左から演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)、鳥越裕貴、井坂郁巳
鬼才・四世鶴屋南北による名戯曲『桜姫東文章』をオールメンズキャストで、原作の全場を上演、しかも同じ脚本、同じキャストで「狂い咲き」「乱れ散り」と題された2バージョンを交互上演する意欲作、舞台『桜姫東文章』が、5月3日(水)より、こくみん共済coopホール/スペース・ゼロで上演される。
本作の演出を担う丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)と、盗賊の釣鐘権助を演じる鳥越裕貴、悪党の入間悪五郎を演じる井阪郁巳が、『桜姫東文章』を語り合った。
鶴屋南北×加納幸和(花組芝居)×丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)の組み合わせは、2016年『絵本合法衢』、2018年『東海道四谷怪談』に続いて、今回の『桜姫東文章』が三度目のタッグとなる。
『桜姫東文章』は、父と弟を殺害され、お家を取り潰された上に、顔も名前も知らぬ男に弄ばれ、しかしその男を慕い続ける17歳の桜姫と、あらゆる悪事に手を染めて、金に執着する盗賊の権助、稚児との心中を図って生き残り、桜姫にその稚児の姿を重ねて執着する僧の清玄の3人を中心に、欲望と裏切り、悪意と偶然が折り重なりながらドラマチックな物語が展開していく。
4月中旬、稽古が始まって一週間、8時間の長丁場の稽古を終えた3人が、歌舞伎演目として名高い『桜姫東文章』の魅力や難しさ、舞台に向けての意気込みなどをたっぷり語った。(以下、3名とも名字で表記、敬称略)
丸尾丸一郎 写真:小松陽祐
――演出の丸尾さんは、この『桜姫東文章』という演目をどう捉えていますか。
丸尾 演出家としては、この『桜姫東文章』を上演する意味がしっかりしていないと、演じる役者の方向性も、観るお客さんの視点も定まらないと思い、芯となるものを必死に探すところから始めました。それで、歌舞伎の模倣をするのではなく、この歌舞伎のテキストを使って、「現代劇をつくる」ことに取り組みました。
そういう芯を据えることで、役者は「テキストに頼らない演技」にこだわることができるし、お客さんは「テキストを超えた想像力の向こう側」に連れて行けるはずです。
稽古を始めて一週間で、ラストまで通しで立ち稽古をして、仮の段取りがついていますが、どこに着地するのか誰も分からないからこそ、たどり着いたときの景色が面白い可能性が高まります。その着地点が作品の面白さになると信じています。
――今の丸尾さんの話を聞いて、悪党の入間悪五郎を演じる井阪さんはいかがですか。
井阪 自分の俳優人生には縁がなかったジャンルの演目で、『桜姫東文章』はまさに挑戦です。ここを乗り越えられたら俳優として大きくなれると踏み込みましたが、いざ稽古に入ると、丸尾さんの中にある明確なものを自分も一緒に探しつつ、まだ全然見えていません。
丸尾さんは「テキストに頼らない」とおっしゃいましたが、現代劇なら相手役のせりふを聞いていれば、そこまで深く読み込まなくても演じられることが多いですが、今回は相手役の言葉に反応できず、自分の中に入ってこなくて、自分のせりふに追われるという、普段の芝居と比べて、ドンッと一つ下から始まっている感じがしてすごく苦戦しています。
――盗賊の釣鐘権助を演じる鳥越さんはいかがですか。
鳥越 僕は本日の8時間の稽古を舐めておりました。「進んで40ページぐらいかな?」と思っていたら、70ページぐらい進んで、でも稽古していると楽しいんです。演出の丸尾さんの船に乗って、この脚本をもっと深く深く読んで、いろいろ出せるように早くなりたいと思いました。
歌舞伎は、2016年の『絵本合法衢』に出演したとき、普段の芝居では言えないせりふ回しが気持ちよすぎて、快感でした。『桜姫東文章』はとても分かりやすい転落劇で、お客さんにもすぐ理解してもらえると思います。
鳥越裕貴
井阪 丸尾さんとは、他の作品でご一緒したことがありますが、役者を常に成長させてくれる演出家ですね。でも今回は、自分史上最大級の分厚い壁とぶつかっている状態です。
――丸尾さんは伝統的な歌舞伎をどういう風に見ていますか。
丸尾 最初に観た演目が、市川海老蔵(現・團十郎)の『義経千本桜』で、海老蔵さんから放たれるエネルギーというか、舞台と客席の距離を感じなかったのを覚えています。エンターテインメントとしての面白さはもちろんですが、“放ち方と引き方のさじ加減”とか“動かない美”などを感じましたね。現代劇の役者はまず「動け、動け」から始まりますが、動かない美しさもあるし、役者が年齢を重ねていくと、動かないことの先にあるのが歌舞伎だなと思います。
井阪 今回『桜姫東文章』を演じるにあたって歌舞伎のDVDを観ましたが、すごく美しくて、衣裳も華やかで、「江戸時代からこういう演劇があるのか」と感動しました。せりふは聞き入ってしまうし、役者の表情や目の動きが細かくて、歌舞伎に興味を持ち始めました。
『桜姫東文章』あらすじ
男色の関係に陥り、愛した白菊丸との心中事件を起こすも一人生き残ってしまった清玄。
17年後、出会った美しき桜姫を白菊丸の生まれ変わりと信じる。
しかし桜姫は自らを犯した権助の子を産み落とし忘れられずにいた。
やがて権助と桜姫が再び出会い、姫の大胆な行動により三人は因果の渦に飲み込まれ流転と破滅、複雑怪奇な怒涛の人生が幕を開ける。
――今回は同じ脚本、同じキャストで「狂い咲き」と「乱れ散り」の2バージョンを交互上演するのも見どころですが、どうしてこういう設定になったのですか。丸尾
『桜姫東文章』を具象的に表現するというより、現代の忖度(そんたく)にあふれた世の中ではなく、感情や欲望のギリギリのところで生きている人を考えたときに浮かんだのが、「地下水道の世界」の絵です。
「狂い咲き」はルーマニアのマンホールタウンの設定で、日本なのか海外なのか、未来なのか過去なのかもわからない退廃した世界で、僧の清玄は教会の神父です。もう一つの「乱れ散り」は、パッと思い浮かんだのが浅草のヤクザ者。
演出家は、「衣裳と、役者と共有する世界」を変えればできると、簡単に言っていますが(笑)、役者たちがどう反応していくのか、お客さんには2バージョン観ていただきたいですね。
井阪 昨日衣裳打ち合わせをしましたが、黒幕の悪党の悪五郎は全身白スーツ。背筋が伸びますね。自分で言うのもアレなんですが、自分の人柄の良さをガラッと変えないと入り込めないのが悪五郎で、『桜姫東文章』は役者として自分を捨ててさらけ出して、役に入り込むところまでもっていきたい。共演者から、「悪役を乗り越えたときの快感がある」と聞いて、そこまで行かないと悪五郎は成立しないなと。「桜姫、権助、清玄の3人を食え」と言われているので、挑戦させてもらっています。
井坂郁巳
――権助は左腕に“桜と釣鐘の刺青”がありますが、どうしますか。
鳥越 彫り物、入れましょう! 「狂い咲き」のルーマニアも、「乱れ散り」の浅草ヤクザも、衣裳を着て、物語の空気感や演者の関係性を丁寧に作っていったら、自分(権助)の居場所がつかめるかなと思います。ただ、演ろうと思えばいかようにでもできるとも思うし、演じるには役としての核がないとブレるし、丸尾さんは難しいことをやりはりますよね(笑)。
井阪 2バージョンで正直、壁がより分厚くなりましたが、衣裳が変わるだけで、役柄の情報は違うので、鳥越さんの言うとおり、核を作っていけば、浅草バージョンも見つかる気がします。
丸尾 役者は、一つの感情の繋がりが見つかったら、ジャケットを替えるようなイメージで、もう一つの物語を作っていけるだろうし、演出では歌舞伎の武士道などを削(そ)いで、現代感覚に落とし込んでいければと思います、歌舞伎の見せ場の見得(みえ)など、演出で遊べそうなところを探りながらブラッシュアップを重ねてこうと思います。
――桜姫を演じる三浦涼介さんと清玄を演じる平野良さんはいかがですか。
鳥越 三浦さんは先輩なんですが、振り回したいな(笑)と思いますね。平野さんはあまり悩んでいる姿を見たことがないんですが、今回は清玄を探っているのを見ていると、芝居って面白いなと思いますね。
――では、『桜姫東文章』の見どころを教えてください。丸尾
三浦君の桜姫、平野君の清玄、鳥越君の権助の三人三様で、稽古によって、この人たちのチカラを良い空間に乗せられたら面白いものができると、稽古初日から毎日手応えを感じています。まだ分からない場所に行こうとしている途中ですが、僕たちが挑戦する意義のある演目だと思います。
――今回の『桜姫東文章』では、歌舞伎でも上演されることの少ない「三幕 押上植木屋の場 郡治兵衛内の場」も見どころです。
丸尾 桜姫、清玄、権助は出てこない幕ですが、この3人と関わる人たちがいて、その人たちの物語を二幕と四幕の間にはさむことは、四幕以降の桜姫や清玄の運命に対しての重心がグッとかかってくるのを観て感じると思います。
井阪 今回は、僕が見たい景色まで行けたときに、作品も良くなるのがイコールなので、自分にとっては新たなモノを得られる作品になり、お客さんにとっては歌舞伎との距離を僕を通じて近くなるきっかけになると思います。皆さんの期待に応えられるように飛び越えていくので、安心して観に来てほしいです。
鳥越 自分が大好きな先輩2人がメインで、僕がそこに入ったときに「隙あらば食うぞ!」という暴れ方ができたら、作品がグングン動いてくるのかなと思います。演出や脚本はもちろん、照明や音響、衣裳の力も借りて、丁寧にお芝居を演じられたらいいなと思っています。
丸尾 今回の『桜姫東文章』は歌もあるし、衣裳も力が入っていて、新しい感覚の芝居になるはずです。どうぞご期待ください。
CCCreation Presents 舞台『桜姫東文章』
本作は5月3日(水)からこくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロで上演される。
詳細は公式サイトで。
https://www.cccreation.co.jp/stage/sakurahime/
(文:梶井誠)
CCCreation Presents 舞台『桜姫東文章』
【原作】鶴屋南北
【作】加納幸和(花組芝居)
【演出】丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
【出演】
三浦涼介 鳥越裕貴 平野良
桑野晃輔 井阪郁巳 野口準 平賀勇成 永澤洋(花組芝居)
高木稟 秋葉陽司(花組芝居)
2023年5月3日(水)~5月10日(日)/東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
公式サイト
https://www.cccreation.co.jp/stage/sakurahime/
チケット(カンフェティ)
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=71842&