大森晴香と申します。演劇プロデューサー・制作・演劇スタジオ十色庵の管理人をしています。縁あって、こちらでコラムを書かせていただくことになりました。
今回は、駆け出しの小劇場制作スタッフの方々、もしくは専任の制作者がいない小規模なカンパニー向けの記事を書いてみたいと思います。
「自由席」なのに「自由じゃない」ことがある問題
観客が自由に座席を選択できる。それが自由席の定義のはずです。ところが、自由席だと聞いていたのに座りたい席に座れなかった、という現象がたまに起こります。
・座りたい席に「関係者席」「予約席」という札が貼ってあって座らせてもらえない
・後ろの方で全体を観たいのに、前から座ることを強く勧められる
・通路寄りの席だと思って座ったら、あとから席を足されて通路寄りではなくなった
…などなど。自分より早く劇場に着いたひとがすでに座っているならともかく、なぜか後から来た人が座りたかったあの席に座っていたりすると、なかなかにストレスな状況です。観る前からちょっといやな気分になっちゃう可能性もあります。
なんで「自由席」なのに自由に選ばせてくれないのか。その事情と解決策を考えていきます。
自由席なのに自由席じゃないときにありがちな事情
よくある事情に、遅れてきたお客さんをスムーズに入れられる席を確保する、いわゆる「遅れ席の確保」というものがあります。出入り口に近く、足元に段差が少なく、ほかのお客さんの視界を横切らずに入れる座席をいくつか残して開演したい。でも、脚の調子が悪かったり、お手洗いが近かったり、終演したらダッシュで帰りたかったり、その席で観劇したい事情を持つお客さんもいるかもしれません。それを「遅れ席だから」と言って移動を促すのはどうなんでしょう。だからと言って、遅れていらした方を入りにくいお席に誘導してもいいかというと、そういうことでもないような…。
「遅れ席」と「観切れ席」
観づらいシーンがあったり、逆に見えてはいけないものが見えてしまうようないわゆる「観切れ席」もあります。席を変えれば観やすくなるのでお客さんも喜んでくださるだろうと思いがちですが、お客さんにはお客さんの意図があってそのお席を選んでいる可能性もあります。「どうしてもお友達と隣の席で観たい」「観切れでもいいから最前列がいい」などなど。
観切れであることを知らせずに観づらい観劇体験を強いてしまうのは避けたいですが、だからと言って意思をもってそのお席を選んだ方に無理にご移動いただくことは、ベターな問題解決と言えるでしょうか。
また、「お席をとっておきたい特別な事情のお客さんがいる」ケースもあります。原則的にはお客さんは全員等しく大切なのですけど、席をとっておかないと客席が混乱したり、お客さんの安全が守れないと判断される場合があるのです。著名な方がお忍びで来場される、みたいなケースがこれで、なんの対策もせずに「自由席」にしてしまったら、ご本人だけでなく周りのお客様も混乱に巻き込まれてしまう危険性があります。ただ、その確保の仕方によっては「特別扱い」が不快感を生み出すケースも。
お客さんとクリエイター、両方の幸せを考える
この問題に限ったことではありませんが、問題解決には想像力が必要だと思っています。
お客さんはどんな動線で客席に入って、どんなふうに視線を動かして、どういう基準でお席を選ぶだろうか。座りたいと思ったお席に座れない、という体験はどんな気持ちを誘発するだろうか。
客席での出来事は、舞台上のひとびとにどんな影響を与えるだろうか。舞台は、照明は、音響は、映像は、どういう目的でどういう効果を狙った設計をしているのか。
なにかしらの問題を解決したいとき、お客さん・クリエイター双方が幸せであるかを追求します。利益がぶつかってしまうこともないわけではありませんが、どちらかのために選んだ行動がもう一方のプラスにもなる、というポジティブな連鎖は不可能ではないはずです。解決のためにほかのスタッフやキャスト、場合によってはお客さんのご協力が必要な場合もあるかもしれません。大事なのは問題解決することであって、必ずしも制作だけで解決する必要はないと思います。
では、具体的にはどうしたらいいのか。私が実践していることは4つあります。
(文:大森晴香)