2018.8.27  33

金井成大が新たな一面を見せる!船上で描かれる「命のやり取り」に揺さぶら れる、舞台『クジラの歌』観劇レビュー


劇団BDPアカデミー公演 ミュージカル「彼女たち」

舞台「クジラの唄」
tetsutaro produce vol.4「クジラの歌」
 

金井成大が新たな一面を見せる!船上で描かれる「命のやり取り」に揺さぶられる、舞台『クジラの歌』観劇レビュー

 
『クジラの歌』は2013年に初演、2015年に再演と居酒屋ベースボールで上演されてきたえのもとぐりむ作の人気作品で、今回はTetsutaro produce vol.4として上演される。今回の上演のために改稿した脚本を、えのもとと共に活動し、初演から出演し続けてきた新里哲太郎が演出を務めることでも話題を集めている作品だ。

緊迫したシージャックシーンに息を呑む

舞台「クジラの唄」
tetsutaro produce vol.4「クジラの歌」

事件は船上の密室で起きる。
クジラを見に行くフェリーで突如シージャック犯のグループに監禁される乗客たち。この船が3日後、沖縄に着いた時に全員処刑する、と宣告される。
「残された3日間」を与えられた乗客たちは、何を考え、どう生きるのか。それぞれの客室で、乗客たちの人生模様がスリリングに描かれていく。

 

 

(以下、内容に触れているため、ネタバレが気になる方はお気をつけ下さい。)

ここに集まった乗客は、実はただ偶然乗り合わせたわけではない。集まったのは、“自殺志願者サイト”を見てツアーに応募した者たちだったのだ。
事業に失敗し、一家離散となり生きる目的を失った中年男性、自傷癖のある少女、人を殺めてしまったヤクザの青年のカップルなど、それぞれに追い詰められた事情を抱えながらこの船に乗り込んだことが明かされていく。

一方で、乗客に様々な人生があるように、シージャック犯たちにもまたこの“事件”を企てた大きな事情があった。
企画の首謀者である青年の瀬美(金井成大)は、不治の病に侵され、自分の死期が近いことを悟っている。そんな彼は、ミュージシャンを目指すバンドマンだった。
闘病生活を送っていた中で、瀬美は真心(飛鳥凛)という女性と恋に落ちる。彼女もまた、治る見込みのない病魔と闘っていた。
耳が不自由な真心は、うまく音程が取れない。音を外しながら童謡の「海」を歌う真心の姿を見た瀬美は、一緒に歌いながら、またギターを弾きながら彼女と一緒に正しい音を探っていく。二人が交流を重ね、徐々に距離が縮まっていく姿が丁寧に描かれるシーンは美しく印象的だ。

 
舞台「クジラの唄」
tetsutaro produce vol.4「クジラの歌」

しかし真心は、先のない人生に悲観し、自死という道を選択してしまう。
残された瀬美は絶望の中で考える。命とは何か。なぜ、生きたいのに生きられない人間がいる一方で、自ら命を絶つ者がいるのか。

 
「生きたくても生きられない者」として、自分ができることは何か――。

 
瀬美はバンド仲間と医師である妹たちに支えられながら、まさに“命掛け”でこのシージャックを実行したのだ。

我々観客は、荒々しく狂暴犯を演じる彼らと、“素”の彼らの状態の両方を目撃することになる。そのギャップに混乱しつつも、いつの間にか彼らの“任務”が遂行されることを固唾を飲んで見守っていた。

 

個性豊かな俳優陣にも注目

舞台「クジラの唄」
tetsutaro produce vol.4「クジラの歌」

物語のテーマは切実な重さがあるが、随所に笑いが散りばめられているところも本作の魅力。
瀬美のバンド仲間かつ親友である鳴海を演じる安達健太郎は、さすが芸人だけあって、アドリブの場面でも客席を沸かせる。その軽妙な大阪弁も心地よく、舞台上で独自の魅力を放ちながらもしっかりと脇を支える姿が印象的だ。

また、本作の演出も担当している新里哲太郎が演じる弐汰璃というキャラクターも、重苦しい空気をパッと明るくする、人間味に溢れた魅力的な人物。本人同様、沖縄出身という役でもあり、船上で繰り広げられる酒盛りのシーンではカチャーシーのような動きで場面を盛り上げる。
そして弐汰璃が劇中、沖縄戦争で多くの命が犠牲になったことを語る場面では、沖縄の言葉で語られるからこその“言葉の重み”があり、命の尊さを改めて感じ入るシーンだった。

 
舞台「クジラの唄」
tetsutaro produce vol.4「クジラの歌」

終盤、“魂の叫び”とも言える、瀬美を演じる金井成大の迫真に迫る演技が胸を打つ。ボロボロになりながらも自らの生き方で命の重さ、今の社会の在り方を全身全霊で問う瀬美と、全エネルギーを注ぎ命を削りながら舞台の上に立つ役者の生き方がどこか重なり、まさに「生」を感じさせられる場面だった。

また、この作品で金井は初めて歌とギターの演奏にも挑戦。役者として果敢にチャレンジしていく姿にも注目だ。

瀬美が命を懸けて行ったシージャック、そこからまた新たに命が吹き込まれた登場人物それぞれの人生。
観終わったあとはきっと、「自分にとって大切なものは何か。何を大事にして生きていきたいのか」――、というシンプルな問いが深く残るはずだ。

本作は下北沢 Geki地下Libertyにて、9月2日まで上演。
命のやり取りを描いた船の旅に、ぜひとも乗船してほしい。
 

 
(文:古内かほ)

 
このレビューを書いたのは

古内かほ
ふるうち かほ|ライター。小劇場からミュージカルまで、幅広く舞台鑑賞をしています。自分なりに舞台芸術の魅力を伝えていけたらと思っています。

 

 

 

公演情報

Tetsutaro produce 舞台「クジラの歌」

脚本: えのもとぐりむ
演出: 新里哲太郎

出演:
金井成大 飛鳥凛
塩口量平 安達健太郎 風間庸平 藤沢玲花 和地つかさ 橘希 松本雅宏 小林成宇 神田聖司 実巳 折田潤 新里哲太郎 他

2018年8月22日(水)~9月2日 (日)/東京・下北沢GEKI地下リバティ

公式サイト
Tetsutaro produce 舞台「クジラの歌」

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