2015.10.27 

オペラなのに予習不要? 行ったその日に楽しめる新しい『フィガロの結婚』


野田秀樹 オペラ「フィガロの結婚」
舞台写真 提供:東京芸術劇場
2015年10月22日東京芸術劇場公演より
photo:Hikaru.☆

野田秀樹×井上道義『フィガロの結婚』待望の秋季ツアー開幕!

今年5月26日を皮切りに始まり、夏のオペラ界と演劇界に旋風を巻き起こした野田秀樹演出×井上道義指揮『フィガロの結婚~庭師は見た!~』待望の秋季ツアーが10月22日東京芸術劇場にて幕を開けた。

野田秀樹が『フィガロの結婚』を演出する!それだけで食指を延ばしたくなる話、指揮も井上道義だって!?
これはいかねばなるまい!

そんな思いで伺った今回の舞台。追加公演、満員の観客。幕のないコンサートホールの舞台に立つ金色の柱。長い竿がクロスしている。いったいこれから何が始まるのか?よく観ると幕開け前から舞台で掃除している人がいる。ナイロン100℃の廣川三憲が演じる庭師・アントニ男である。

演劇っぽさ満点の舞台にわくわくしながら幕開きを待つ。現れる井上道義。アントニ男が舞台設定と時代設定について語る。時は黒船来航時代、場所は長崎。
話はなんのことはない男と女のお話だと流暢に語った廣川の言葉に続いて、井上道義の指揮で軽快な序曲が始まる。




 

オペラなのに予習が要らないわかりやすさ!

野田秀樹 オペラ「フィガロの結婚」
舞台写真 提供:東京芸術劇場
2015年10月22日東京芸術劇場公演より
photo:Hikaru.☆

柱の上からにょきっと現れるいかつい服を身に付けた伯爵、美しい伯爵夫人、奇抜な衣裳の小姓・ケルビーノ。

声楽・演技アンサンブルが有形無形の形を作り、我々観客を「フィガロの結婚」の世界に導いていく。

「フィガロの結婚」は登場人物も多く、筋立てを理解するだけでも一苦労な作品である。しかし、今回貴族階級は異国人として従来のイタリア語を話す。市民階級は日本人として、日本語を話し、日本的な立ち振舞いをする。

ぐっと心は市民階級である主人公フィガ郎やスザ女寄りになる。逆にイタリア語を話す伯爵たちは観客にとって異質な存在として認識される。それだけで話のわかりやすさがぐんとあがる。

貴族と市民、お互いの常識が食い違うことで起きる悲喜劇こそ、この物語の本質であることに気づかされるのだ。

 

オペラを観る前には予習をしよう!なんていうくらい、オペラを観るためには事前知識が必要になる。しかし、そのハードルを野田秀樹は意図も簡単に(ホントは簡単じゃないだろうけど)クリアしてしまったのだ。おそらく、フィガロの結婚を初めて見た人にも物語は十分理解できたであろう。

日本語でオペラを上演されることはままあれども、日本語を話す必然性について音楽も歌手もアンサンブルも一丸となって取り組んだプロジェクトとしては、恐らく類を見ないオペラプロダクションであったと思う。野田秀樹ならでは言葉遊びも字幕や曲間の台詞には健在で、野田秀樹ならではの発想がそれを可能にしたのであろう。また歌手たちもよくそれに応えていた。

 

アンサンブルの妙! 生き生きと描かれた庶民の姿

野田秀樹 オペラ「フィガロの結婚」
舞台写真 提供:東京芸術劇場
2015年10月22日東京芸術劇場公演より
photo:Hikaru.☆

主人公・フィガ郎を演じる大山大輔はよく通る日本語と歌舞伎の動きなども取り入れたコミカルな演技が冴えた。その花嫁・スザ女を演じる小林沙羅は素晴らしい歌唱とともに可愛らしさの中に日本のおっかさん的な強さをあわせ持った女性を見事に演じきっていた。

対して、異国人として登場する伯爵のナターレ・デ・カロリスは日本の風習など知ったことかと傍若無人にふるまい、伯爵夫人のテオドラ・ゲオルギューは端整な歌唱と美しい立ち姿で異国情緒を感じさせた。また、小姓ケルビーノのマルテン・エンゲルチェズはすらりとした長身からは想像できないカウンターテノールの豊かな高音とコケティッシュな演技で不思議な存在感を示した。

そして、なにより魅力的であったのは脇を固める歌手、声楽アンサンブル、演技アンサンブルだ。妻屋、森山、牧川、三浦、コロンというオペラ界で活躍する面々がこれでもかという演技で野田秀樹の世界を表現していたのには感嘆した。異国人に翻弄されながらも強かに生きる長崎庶民の姿が生き生きと描かれていたと思う。
また、声楽・演技アンサンブルが有形無形のものを表現し、素舞台に近い舞台に様々なものを産み出していく姿は、最後まで我々観客の心をつかんで飽きさせなかった。

 

野田版『フィガロの結婚』は新しくオペラを観る人にとってのわかりやすさという一番大きな要素を、とても高い技術で表現した舞台だった。これが日本のオペラの新しいスタンダードになっていく可能性を大いに感じられ、胸を熱くした帰り道であった。

東京芸術劇場での上演は終了。
この後は山形、名取、宮崎、熊本にて上演される。

10月29日(木)山形テルサ
主催:山形市
企画・運営:山形テルサ指定管理者 一般財団法人山形市都市振興公社

11月1日(日)名取市文化会館 大ホール
主催:公益財団法人名取市文化振興財団

11月8日(日)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)
主催:公益財団法人宮崎県立芸術劇場

11月14日(土)熊本県立劇場 演劇ホール
主催:公益財団法人熊本県立劇場

歌劇『フィガロの結婚』 ~庭師は見た!~ 公式サイト

(文:平岡基 観劇日:2015年10月22日 夜公演)

 シェアする

 ツイート

 シェアする


公演情報

全国共同制作プロジェクト
東京芸術劇場シアターオペラvol.9
モーツァルト/歌劇『フィガロの結婚』~庭師は見た!~ 新演出
(全4幕・字幕付 原語&一部日本語上演)
東京芸術劇場コンサートホール 2015年10月22日、24日、25日

【指揮・総監督】井上道義
【演出】野田秀樹
【出演】
アルマヴィーヴァ伯爵:ナターレ・デ・カロリス
伯爵夫人:テオドラ・ゲオルギュー
スザ女(スザンナ):小林沙羅
フィガ郎(フィガロ):大山大輔
ケルビーノ:マルテン・エンゲルチェズ
マルチェ里奈(マルチェリーナ):森山京子
バルト郎(ドン・バルトロ):森雅史(春期)、妻屋秀和(秋期)
走り男(バジリオ):牧川修一
狂っちゃ男(クルツィオ):三浦大喜
バルバ里奈(バルバリーナ):コロン・えりか
庭師アントニ男(アントニオ):廣川三憲

【合唱】金沢フィガロ・クワイヤー(金沢)、新国立劇場合唱団(西宮・高松・川崎・東京)、山形オペラ協会合唱団(山形)、宮崎県立芸術劇場コーラスアンサンブル(宮崎)、熊本フィガロ・クワイヤー(熊本)
【声楽アンサンブル】佐藤泰子、宮田早苗、西本会里、増田 弓、新後閑 大介、平本英一、千葉裕一、東 玄彦
【演劇アンサンブル】河内大和(春期)川原田樹、菊沢将憲、近藤彩香、佐々木富貴子、佐藤悠玄(秋期)、長尾純子、永田恵実、野口卓磨
【管弦楽】オーケストラ・アンサンブル金沢(金沢、大阪)、兵庫芸術文化センター管弦楽団(西宮、高松)、東京交響楽団(川崎)、読売日本交響楽団(東京)、山形交響楽団(山形、名取)、九州交響楽団(宮崎、熊本)
【チェンバロ、コレペティトゥール】服部容子

歌劇『フィガロの結婚』 ~庭師は見た!~ 公式サイト

最近の記事

ミュージカル ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド
長谷川寧が演出 ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』2024年2月に帝国劇場で上演
ブロードウェイ・ミュージカル『トッツィー』
山崎育三郎がドロシー・マイケルズ役で出演 ブロードウェイ・ミュージカル『トッツィー』2024年1月から日生劇場ほかで上演
GANMI×宝塚歌劇OG DANCE LIVE『2STEP』
客席も立って騒いで GANMI×宝塚歌劇OG DANCE LIVE『2STEP』に沸き立つ会場/東京公演が開幕
公演中 05月26日(金) 〜 06月04日(日)
東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』
人気演目 5年振りの再演 東京芸術劇場 Presents 木ノ下歌舞伎『勧進帳』9月1日から東京芸術劇場 シアターイーストほか各地で上演
公演日程 09月01日(金) 〜 11月05日(日)
『俺たちのBANG!!! ~大劇場を占拠せよ~』
芝居と迫力のパフォーマンスで劇場を席巻!少年忍者・初単独公演『俺たちのBANG!!! ~大劇場を占拠せよ~』観劇レビュー
公演中 05月06日(土) 〜 06月17日(土)
『BACKBEAT』撮影:岡千里
戸塚祥太、加藤和樹らが出演 ビートルズ創成期の青春物語を描いた『BACKBEAT』東京公演が5月24日(水)に東京建物 Brillia HALLで開幕
公演終了 04月23日(日) 〜 05月31日(水)
ゲキ×シネ『薔薇とサムライ2 -海賊女王の帰還-』8月4日(金)から映画館で全国公開
古田新太・天海祐希 ゲキ×シネ『薔薇とサムライ2−海賊女王の帰還−』8月4日(金)から映画館で全国公開/この冬 Blu-rayが発売
演劇グッズ専門店「観劇三昧ラボ」
演劇グッズ専門店『観劇三昧ラボ』が5月13日(土)から下北沢でオープン
骸骨ストリッパー『RAIKA』
【予告動画あり】脚本・NON STYLE 石田明 歌とダンスとアクション満載の超古代マンガ活劇! 骸骨ストリッパー『RAIKA』5月25日(木)から新宿・スペース・ゼロで上演
公演終了 05月25日(木) 〜 05月28日(日)
CCCreation Presents舞台『桜姫東文章』
欲望と裏切り、悪意と偶然が狂い咲く! 三浦涼介、鳥越裕貴、平野良らの出演舞台『桜姫東文章』が5月3日にスペース・ゼロで開幕/上演は5月10日まで
公演終了 05月03日(水) 〜 05月10日(水)
KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』
翼を捨てた元天使が人間を救う戦いに挑む 福田悠太主演 KOKAMI@network vol.19 『ウィングレス(wingless)ー翼を持たぬ天使ー』がサザンシアターで開幕
公演終了 05月01日(月) 〜 05月28日(日)
パフォーマンスユニットTWT『SANADA XI』
真田十勇士を描いた青春群像時代劇に荒井敦史、黒澤美澪奈、水原ゆき、丸山敦史らが参加 パフォーマンスユニットTWT『SANADA XI』6月9日から吉祥寺シアターで上演
もうすぐ 06月09日(金) 〜 06月18日(日)
劇団チャリT企画「Wの非劇」チラシ画像
スキャンダルに揺れる芸能事務所を舞台に複雑な人間模様を描いた痛快悲喜劇 劇団チャリT企画『Wの非劇』下北沢 駅前劇場にて5月17日から上演
公演終了 05月17日(水) 〜 05月21日(日)
せたがやこどもプロジェクト2023『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』
「子どもたちに劇場空間を存分に感じてほしい」18歳以下の観客を無料招待/せたがやこどもプロジェクト2023『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』8月11日から世田谷パブリックシアターで上演
公演日程 08月11日(金) 〜 08月20日(日)
左から演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)、鳥越裕貴、井坂郁巳
脚本・加納幸和(花組芝居)、演出・丸尾丸一郎(劇団鹿殺し) 原作・鶴屋南北 舞台『桜姫東文章』 丸尾丸一郎・鳥越裕貴・井坂郁巳インタビュー
公演終了 05月03日(水) 〜 05月10日(水)
キノG-7公演no.5『満ちる』
映画監督の父と娘の愛憎を描く 竹内銃一郎の演劇企画 キノG-7公演no.5『満ちる』5月11日からTHEATRE E9 KYOTOにて上演
公演終了 05月11日(木) 〜 05月15日(月)
舞台『GISKE-ギスケ-』
日産コンツェルン総帥・鮎川義介の激動の生涯を描く 舞台『GISKE-ギスケ- アルプス山脈の見果てぬ夢』5月18日から恵比寿・シアター・アルファ東京で上演
公演終了 05月18日(木) 〜 05月22日(月)
『エンジェルス・イン・アメリカ』撮影: 宮川舞子
舞台『エンジェルス・イン・アメリカ』第一部「ミレニアム迫る」が新国立劇場 小劇場で開幕
公演中 04月18日(火) 〜 06月10日(土)
『関西演劇祭2023』
11月に大阪で開催される つながる演劇祭『関西演劇祭2023』 出演団体の二次募集が開始/締め切りは5月8日
帝国劇場『Endless SHOCK Eternal』
世界でも類を見ない2作同時上演に挑む 作・構成・演出・主演 堂本光一『Endless SHOCK』『Endless SHOCK -Eternal-』が帝国劇場で上演中
公演終了 04月09日(日) 〜 05月31日(水)
『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』
18年間の集大成!Snow Man主演・演出の舞台『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』観劇レビュー
公演終了 04月08日(土) 〜 04月30日(日)
リーディング音楽劇『ジャングル大帝』
福田悠太、辰巳雄大、越岡裕貴、松崎祐介がレオ役で出演 リーディング音楽劇『ジャングル大帝』6月4日、5日に東京建物 Brillia HALLで上演
もうすぐ 06月04日(日) 〜 06月05日(月)
『ドクター皆川~手術成功5秒前~』
皆川猿時×荒川良々の最強タッグ! 生と死の重みがまったくない医療コメディ『ドクター皆川~手術成功5秒前~』10月12日(木)から本多劇場で上演
公演日程 10月12日(木) 〜 10月29日(日)
『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』
9人の汗の結晶 ― Snow Man初演出『滝沢歌舞伎ZERO FINAL』開幕/4月19日からはライブビューイングも
公演終了 04月08日(土) 〜 04月30日(日)
劇団☆新感線『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』ポスタービジュアル
特典映像は三宅健らのキャスト座談会! 劇団☆新感線『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』Blu-rayが11月28日に発売/4月13日から予約受付スタート
公演終了 03月10日(金) 〜 05月01日(月)
俳優に“相手に反応する”ということを一番に求めたい 演出家鈴木裕美による俳優のためのワークショップ
俳優に“相手に反応する”ということを一番に求めたい 演出家・鈴木裕美による俳優のためのワークショップ/エントリーの締切は4月16日(日)
公演終了 05月06日(土) 〜 05月14日(日)
ミュージカル『サンキュー・ベリー・ストロベリー』撮影:SCOPE/齋藤清貴
真弓孟之 舞台初主演ミュージカル『サンキュー・ベリー・ストロベリー』4月5日に東京芸術劇場シアターイーストで開幕
公演終了 04月05日(水) 〜 04月30日(日)
歌舞伎町劇場が2023年10月にオープン
次世代型の大衆演劇場・歌舞伎町劇場が2023年10月にオープン 豪華劇団がそろい踏み公演ラインナップが明らかに
オペラ「アイーダ」(c)田中亜紀
数々の舞台衣裳を目の前で楽しめる 初台アート・ロフト『時空をこえて-Across Time and Space-展』が4月5日から新国立劇場オープンスペースで無料開催
公演中 04月05日(水) 〜 08月31日(木)
舞台『ブレイキング・ザ・コード』
亀田佳明、水田航生、岡本玲らが出演 稲葉賀恵 演出舞台『ブレイキング・ザ・コード』が4月1日(土)にシアタートラムで開幕/上演は23日(日)まで
公演終了 04月01日(土) 〜 04月23日(日)

 ≫もっと見る
 

編集部ピックアップ!

エントレがおすすめする他の舞台



Copyright 2023 Village Inc.