舞台「サメと泳ぐ」田中哲司、田中圭 撮影:引地信彦

田中哲司、田中圭ら実力派俳優が映画界の裏側を濃密な人間ドラマで描く!『サメと泳ぐ』観劇レビュー

舞台「サメと泳ぐ」田中哲司、田中圭 撮影:引地信彦
舞台「サメと泳ぐ」田中哲司、田中圭 撮影:引地信彦

田中哲司、田中圭ら実力派俳優が映画界の裏側を濃密な人間ドラマで描く!『サメと泳ぐ』観劇レビュー

『サメと泳ぐ』は、1994年に公開されたジョージ・ホアン監督・脚本の映画『ザ・プロデューサー』を舞台化した作品。ホアン監督自身がハリウッドでの実体験に着想を得て書き下ろされたと言われています。
日本初演となる本作では千葉哲也氏の演出のもと、映画界の裏側の人間ドラマが濃密に、そして洗練された舞台装置、照明、効果的な音楽と共にスタイリッシュに描かれていきます。

映画界の大物プロデューサーでパワハラ上司を演じるのは、舞台ではもちろん、テレビドラマや映画でも名バイプレーヤーとして活躍する田中哲司さん、その部下である脚本家志望の新人社員を、この春多くの視聴者の心を掴み大旋風を巻き起こしたテレビドラマ『おっさんずラブ』で(筆者も「毎日が土曜日ならいいのに…!」と思うくらいドはまりし、すっかり“OL民”と化しました)改めてその高い演技力が注目された田中圭さんが演じます。

舞台「サメと泳ぐ」田中哲司、田中圭 撮影:引地信彦
舞台「サメと泳ぐ」田中哲司、田中圭 撮影:引地信彦

舞台はハリウッドの大手映画製作会社。脚本家志望の青年・ガイ(田中圭)が初出勤する場面から始まります。リュックを背負いおどおどとした姿からは、まだ社会の荒波に揉まれる前の純朴さが感じられます。
オフィスで待っていたのは、やり手の大物プロデユーサー、バディ・アッカーマン(田中哲司)。「彼の元で働いたアシスタントは皆出世する」と言われるほどの人物です。

初対面から、バディはガイに容赦がありません。「教えてやる。お前の考えに価値はない。お前の感情に意味はない。お前は俺の利益を守り、俺に仕えるために生きている」。ガイの個人としての尊厳は一切無視、絶対服従を要求します。
突然「カス!」と罵声を浴びせられたり、頭上から物を落とされたりと(今、こんなことが実際に会社で行われたら大問題ですが)ひたすら理不尽な扱いに耐える毎日のガイ。
バディはこうして言葉だけで綴ると絵に描いたような“ドSパワハラ上司”ですが、田中哲司さんのバディは恐ろしいけれどどこか憎めないファニーな一面が人間味を感じさせ、クスっと笑ってしまうようなシーンも。
そしてその突然キレだし、行動が読めないバディに対して抜群の“受け”の芝居で魅せる田中圭さんのガイ。お二人の緊迫感の中にもユーモアがあるやり取りは見応えたっぷりです!

そんな鬼上司に振り回される日々を送るガイですが、苦しいことばかりではございません。
新作を売り込みに来た映画プロデューサー・ドーン(野波麻帆)と出会い、恋に落ちます。
ドーンはバディが「ミス・ゴージャス」と呼ぶほど、バリキャリのオーラを放った美人プロデューサー。ガイからしてみれば、ちょっと「無理め」な格上女性です。

舞台「サメと泳ぐ」田中圭、野波麻帆 撮影:引地信彦
舞台「サメと泳ぐ」田中圭、野波麻帆 撮影:引地信彦

初めてガイとドーンがバーでデートするシーンは、二人の距離がグッと縮まる、とても印象的な場面。
ドーンは言います。「私はいい映画を作りたいだけ」。
“自分で意思決定ができること”を望むドーンの姿は、働く女性の立場としても共感する部分があります。(この世の決定権は、だいたいおじさんが握っていますから!)
ドーンになぜハリウッドに来たのか問われたガイが、「大切な思い出は全部映画と繋がっているんだ」と、映画と共に歩んできた幼少期、学生時代を、まるで映画に恋をした少年のように語るガイの姿には、ドーンでなくとも魅了されること請け合いです。

二幕になると、ガイは下ろしていた前髪も上げ、スーツも上等なものを着用。この業界の中で順調に出世街道を歩んでいることがわかります。(それにしても、田中圭さんのスーツ姿の美しさよ…!今日本で一番スーツを魅力的に見せる身体を持った俳優であると断言したい。AOKIでも洋服の青山でもコナカでもどこでもいいからとにかく田中さんをイメージモデルにすぐさま起用して!!)

公私共にドーンとの関係も良好に進んでいたガイに、バディがドーンの企画を奪うため、ガイを利用しようと企むところからそれぞれの関係の歯車が狂い、何が本当で何が嘘なのか、見極めんとばかりに観客は三人の言動に引き込まれていきます。
狡猾に他人の手柄を奪おうとするバディ、愛情と策略の間で揺れているように見えるドーン、二人の間で疑心暗鬼になるガイ――。
三人の“本心”は、可視化できそうでできない、観る者に委ねられる部分もあり、様々な想像を掻き立てられるのがこの作品の魅力でもあります。

舞台「サメと泳ぐ」 撮影:引地信彦
舞台「サメと泳ぐ」 撮影:引地信彦

出世、成功を巡り、それぞれの登場人物が自分なりの哲学でサバイブしていく様は、社会人に突き刺さる台詞も多く、観終わったあとにはタイトルの意味が皮肉にもずしりとくるような感覚に。
本作で描かれているのは一昔前のハリウッドの世界ですが、昨年には、ハリウッドの映画プロデューサーによるセクハラ被害から発生した「#Me Too」運動が世界的に広がりを見せ、やっと女性たちが声を上げられるようになり、多くの問題が表面化しました。女性が安全に社会で活躍していけるためにも、この問題から描かれるハリウッドの世界も見てみたい、と個人的に感じました。

果たしてガイは、この世界でどう泳いでいくのか――。
終盤では、バディ、ガイ、ドーンの三人を巡る衝撃的な展開が待っているのですが、その“驚き”はぜひ、劇場で体感していただきたいと思います。

東京公演はすでに千秋楽を迎えましたが、公演はこれから、仙台、兵庫、福岡、愛媛、広島と続いていきます。(詳細のスケジュールは公式サイトをご覧ください)
この秋大注目の本作、どうぞお見逃しなく!

(文:古内かほ

公演情報

舞台「サメと泳ぐ」

【原作】ジョージ・ホアン 上演台本:マイケル・レスリー
【演出】千葉哲也
【翻訳】徐賀世子

【出演】
田中哲司 田中圭 野波麻帆
石田佳央 伊藤公一 小山あずさ
千葉哲也

2018年9月1日(土)~9日(日)/東京・世田谷パブリックシアター
2018年9月11日(火)/仙台・電力ホール
2018年9月14日(金)~17日(月・祝)/兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2018年9月28日(金)/愛媛・松山市総合コミュニティセンター キャメリアホール
2018年10月4日(木)/広島・JMSアステールプラザ大ホール

公式サイト
舞台「サメと泳ぐ」

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