
見えないボールが見えてくる。野球の先にある家族の物語|舞台『ナイボー!』観劇レビュー

撮影:加藤春日
舞台『ナイボー!』が、9月30日、東京建物 ぴあ シアターで開幕しました。
本作は、脚本を横山拓也さん、演出を眞鍋卓嗣さんが手掛け、大西風雅さんと岡﨑彪太郎さんがW主演を務める、野球を題材にした青春ドラマ。
観劇前、野球をテーマにした舞台であることも、『ナイボー!』というタイトルも知っていたにもかかわらず、「ナイボー」が「ナイスボール」の略だとまったく気づいていなかったという・・・ちょっと気恥ずかしさを感じながらの観劇となりました。
観劇前に行われた開幕前会見では、10年以上の付き合いがある大西さんと岡﨑さんの仲の良さはもちろん、他のキャストの皆さんとのやり取りからも、家族のような温かいカンパニーの雰囲気が伝わってくる会見でした。
まずは、その開幕前会見の様子からお届けします。
明日初日を迎える今の気持ちをお聞かせください
大西風雅:
緊張しています。緊張の後に楽しい、という良い状態です。
岡﨑彪太郎:
1カ月前から稽古が始まって、本当にあっという間だったなっていうのが最初の印象です。
でも、そういう中でいっぱい頑張ってやってきたので、その成果を出していきたいと思っています。
安達祐実:
お稽古でみんなで頑張って形にしてきたものを、皆様に見ていただけるということで、とてもワクワクしています。
水野美紀:
私は初めての関西弁のセリフの役、初めての野球の監督という役ということで、新しいチャレンジが詰まった役なので、四苦八苦しながら稽古してまいりました。
みんなで一丸となって、丁寧に作り上げてきましたので、今日は皆さんの前でこうしてお芝居できるのがすごく楽しみです。
ヨウスケという役を演じてみて、いかがですか?
大西風雅:
『ナイボー!』が決まったのが、去年だったっけ?
一回ワークショップをやった時に、当て書きみたいな感じで、僕と岡﨑、2人でやったんですけど、2人の関係とかも見抜いてくれているなって思うところがありました。
僕は野球とかやったことがなくて、スポーツもあんまりやったことがないので、そういうところは面白かったです。
あとは、高校生って思春期でもあるし、そういうところがやっぱり自分の実体験とか、自分の感じたことをいっぱい入れたら、いいヨウスケっていう役にはまるかなと思って挑戦していました。
ハルタという役を演じてみて、いかがですか?
岡﨑彪太郎:
当て書きっていうのもあって、すごくやりやすい役ではあったんですけど。
でもその中で、ハルタなりの悩みがあったりとか、それでも明るく振る舞わなければいけないというところもあって。
僕はそこが一番難しく、頑張って表現しないといけないなっていうのを思いながら、日々格闘してます。
カンパニーの雰囲気はいかがでしたか?
安達祐実:
とっても穏やかで、野球部員の子たちが本当に部活っぽい感じっていうか、和気あいあいとしていて、その中でもやっぱり年齢が違ったりするので、なんとなくの先輩後輩感があったりして、それがすごく見ていて微笑ましかったです。
稽古を重ねていくにつれて、みんなが花開いていく感じで、その姿を目の当たりにできたことも、とても素敵な経験でした。
水野美紀:
すごく雰囲気いいですよね。
本当に今、安達さんがおっしゃったように、野球チームの話なので部活みたいに皆さんチーム一丸となっています。
こういう抽象的な舞台なので、ここにないものを浮かび上がらせる。
見えないボールを目で追って、ここに野球の試合のグラウンドの空気感だったり、練習のグラウンドの空気感だったりを立ち上がらせたりとか…ここに家が出現したり。
みんなですごくいろいろ試して、工夫して、アイデアも出し合っていて、野球チームのメンバーがすごく雰囲気を引っ張っていってくれています。
物語の中では、2人の長年培ってきている関係性、つながりっていうのが、役の上でもすごく生きていて、本当に楽しい、素晴らしいお芝居に仕上がっていると思います。
大西風雅:
見抜かれたなと思いました。
もう10年くらいの付き合い?
岡﨑彪太郎:
10年ちょうどぐらい。
大西風雅:
それくらいの付き合いっていう部分もあるので、本当に自然に演技ができる部分もあるし、やっぱり周りの演者さんがそれを支えてくれるっていうか、本当に僕たちが演技しやすいような空間を今回作っていただいています。
ベテラン勢のすごい人たちにいっぱい話を聞いたりして、本当に僕たちは勉強させてもらいながら、成長できる経験だったし、でも僕たちは一応、今回主演っていうところをやらせてもらうので、主演っぽく、背中で語るぐらいの勢いで、という気持ちはあります。
水野美紀:
2人で物語を引っ張ってくれています。
岡﨑彪太郎:
そうですね。
10年やってきているんで、やっぱりやりやすい部分はとても多いですね。
スキンシップを取るような場面であったりとか。
ただ逆に、普段やらへんからこそ、演技でやらないといけないってなった時に、「どうしていいか逆に分からへん」みたいな難しさもあったりとかしました。
大西風雅:
仲良いんで、僕たちも10年ぐらい一緒なんで、熟年夫婦みたいな感じで。
無言でもつらくないんですよね。
岡﨑彪太郎:
ほんまに嫌そうだった(笑)。
この作品の見どころはここだ!というポイントを教えてください。

撮影:加藤春日
大西風雅:
もちろん全部いいんですけど、僕個人はやっぱり今回、野球の話でももちろんあるんですけど、家族の話だと思っています。
安達さんと一緒にやるシーンがあるんですけど、そこが結構、見る人、見る世代によって感じ方が全然違うやろうなっていう作品だと思っています。
親の世代が見たら違う涙が出るやろうし、子どもが見たら「お母さん、こんな気持ちなんや」って気づいたり、なんかそういうところがすごい面白いと思うので、その親子のシーンを僕は注目してほしいですね。
岡﨑彪太郎:
野球が題材で、キャッチボールをする場面があるんですけど、そのキャッチボールがいろんな組み合わせがあって、そのキャッチボールがただのキャッチボールじゃなくて、キャッチボールというやり取りをしながら、会話だったりとか、その感情を出していたりとか、そういうのも感じていただけたら嬉しいなと思っています。
安達祐実:
野球の場面もたくさん出てきますし、私もキャッチボールをする場面があって、キャッチボールの練習とかもやらせていただきました。
息子には息子の苦悩があったり、母も子育てをしていく上で葛藤があったり、水野さん演じる監督も、監督として時を経ていくという物語になっています。
みんながみんな、最初いたところからちょっと一歩踏み出すとか、少し成長していったりとか、心が豊かになっていったりとか、そういう物語だなって思っていて、挫折もするけど、再生もする。
そういうお話なので、それぞれの目線で楽しく、そして感動しながら見ていただける作品になっていると思います。
水野美紀:
私は、これは家族の愛と、野球を通した高校球児の2人の友情。
ここのドラマが本当にじんわり胸に響いてきて。
私、何回稽古で見ていても、鼻にツーンとくるというか。
そんなシーンがいくつもあるので、本当にじんわり心に、ほっこり響く。
人間ドラマが見どころです。
W主演として、稽古中の座長らしいエピソードがあれば教えてください
大西風雅:
しまくりやな。(笑)
さっきも言ったけど、背中で語るみたいな感じ。
来るだけで空気感が変わる、みたいな。
岡﨑彪太郎:
自分で言う?
大西風雅:
コタちゃんはわからないんですけど、僕は、そういうつもりではいました。
岡﨑彪太郎:
なるほど!まーそっか。
僕は、誰よりも真剣に、真面目に取り組もうと思いながら
大西風雅:
当たり前や(笑)
岡﨑彪太郎:
ほぼ最年少やから・・
大西風雅:
皆さん、僕たちもやるつもりでいるんですけど、
差し入れをめっちゃしてくださって、稽古場からめっちゃ食べ物があって、お菓子ばっかり食べてたら、水野さんが身体のことを心配してくださって、東京のお母さんやなって思いました。
水野美紀:
ちょちょちょちょちょ、、(笑)座長らしいことをしたかって・・
大西風雅:
それで言うと、まだないです。
(一同爆笑)
今からなので、楽しみにしていてください。
岡﨑彪太郎:
今からです。
大西風雅:
すみません。今からです(笑)。
司会:
楽しみです。ありがとうございます。
最後に楽しみにしているお客様へのメッセージをお願いします
大西風雅:
『ナイボー!』の舞台が始まりますけども、野球もあり、家族愛もあり。
笑えるし、泣けるし、この1個の作品で、これだけいろんな感情になれる舞台は珍しいし、お得やなと思います。
心を動かされる作品ってすごく素敵だなと思いますし、今回はそういう作品になっています。
ぜひ劇場に足を運んで、この空気感を味わっていただきたいなと思います。
よろしくお願いします。
岡﨑彪太郎:
やっぱり舞台は生ものなので、その空気感があったりとか、お客さんの反応とかもすごい楽しみです。
約1カ月間、稽古をみっちりして、僕たちキャストもスタッフさんも一丸となって、この作品に向き合ってきたので、その成果をぜひお見せできたらなと思います。
ありがとうございました。

撮影:加藤春日
見えないボールが見えてくる。印象的なキャッチボールから始まる物語
幕が開くと同時に、「ナイボー!」の声が響きます。
そして始まるのは、父親とヨウスケ、二人のキャッチボール。
舞台上にボールはありません。それでも、本当に二人の間をボールが行き来しているかのように、その情景が目に浮かんできます。
『ナイボー!』は、そんな印象的なシーンから始まります。
舞台はとてもシンプルです。
盆が回ることでさまざまな場所や時間が表現され、そこに音の演出が加わることで、グラウンドや家など、それぞれの場面の景色が自然と浮かんできます。
実際にそこにないものが、俳優たちの動きや視線によって見えてきます。
開幕前会見で水野美紀さんが、「見えないボールを目で追って、野球の試合や練習のグラウンドの空気感を立ち上がらせる」と話していましたが、まさにその言葉通りでした。
関西弁で繰り広げられる会話も、どこかホッとするような空気があり、この作品の温かさをより引き出しているように感じます。
野球の物語。
でも、その奥にあるのは「誰の夢なのか」という問い
物語の中心となるのは、中学時代にバッテリーを組んでいたヨウスケとハルタ。
ヨウスケは、父親であり野球チームの監督でもあった大きな存在を突然失い、心を閉ざしてしまいます。
ただ、彼が抱えているものは「父親を失った悲しみ」だけではないように感じました。
父親とは自分にとってどんな存在だったのか。
監督とは。
自分は本当に野球をやりたいのか。
野球は好き。でも、何のためにやっているのか。
父の死をきっかけに、それまで考える必要がなかったさまざまな問いが、一気にヨウスケの前に現れたようにも見えました。
その絡まってしまった思いが、仲間や母親、周囲の大人たちとの関わりの中で、少しずつ解きほぐされていきます。
一見すると、野球部を舞台にした青春物語。
でも開幕前会見で、大西風雅さんが「僕は家族の話だと思っている」と話していたことにも、観劇後はとても納得しました。
描かれているのは野球ですが、その奥にあるテーマはもっと広いように感じます。

撮影:加藤春日
「これは本当に自分のやりたいこと?」子どもにも親にも投げかけられる問い
ヨウスケの場合は、父親を突然失ったことによって、その問いが表面に現れました。
でも、同じような思いを抱えている子どもは、意外と少なくないのかもしれないとふと感じました。
親の期待を受けながら一生懸命取り組んできた。
自分でも好きだと思っている。
でも、ある時ふと、「自分が本当にやりたかったことなんだろうか?」と立ち止まる。
舞台を観ながら、そんなことを考える人もいるのではないでしょうか。
そして、この問いは子どもだけに向けられたものではありません。
親の立場から観ると、また違うものが見えてきます。
自分たちができなかったことを、子どもには経験させてあげたい。
自分がした後悔を、子どもにはさせたくない。
きっと、それは子どもを思う気持ちから生まれているものだと思います。
でも、その思いが強くなることで、知らないうちに子どもの選択肢を狭めてはいないだろうか。
自分の望みや願いを、子どもに託してはいないだろうか。
ヨウスケと家族の姿を観ながら、そんな問いも浮かびました。

撮影:加藤春日
明るく振る舞うハルタ。対照的な二人だからこそ見えてくるもの
一方、ハルタにも彼自身の物語があります。
いつも明るく振る舞うハルタですが、ハルタも家庭に何か事情を抱えていることがうかがえます。
しかし、友達の前ではそれをほとんど見せません。
ヨウスケとハルタ、2人とも表面に現れている問題は、それぞれ野球部の中で起きていること。
でも、この作品が描いているのは、その出来事だけではなく、その奥にある二人の感情なのだと思います。
子どもたちだけではない。夢を託す大人、距離を置いて見る大人
関わってくる大人たちの存在も印象的でした。
ヨウスケとハルタの関係に重なるように描かれているのが、ヨウスケの父親と、宇野祥平さん演じる強豪校の監督との関係です。
かつて二人で果たせなかった夢。
そして、ヨウスケの父親が果たせなかった夢。
その思いも抱えながら、監督はヨウスケの力になろうとします。
一方、対照的な存在として印象に残ったのが、水野美紀さん演じる新進気鋭の女性監督です。
感情で選手を見るのではなく、数字やデータから判断し、効率的で無駄のない野球を目指します。
常に一歩引いたところから、客観的に選手を見る存在。
ショートカットの水野さんも格好よく、スッと立っているだけでも監督としての強さを感じました。
タイプのまったく異なる大人たちが登場することで、「子どもにどう関わるのか」という部分にも、いろいろな見方が生まれるように感じます。

撮影:加藤春日
安達祐実さん演じる母親に感じた、静かな強さ
安達祐実さんが演じるのは、ヨウスケの母親です。
野球が生活の中心にある夫とヨウスケを、少し離れたところから見守ってきた存在です。
夫の死後も、ただ悲しみに暮れる母親として描かれるのではなく、むしろそこには女性として、母としての芯の強さを感じました。
そして、開幕前会見でも話題になっていたのがキャッチボールのシーン。
詳しいことはここでは控えますが、ぜひ注目してほしい場面の一つです。
ちょっと可愛らしいので、そこもぜひ劇場でご確認ください。

撮影:加藤春日
10年来の二人だから生まれる、ヨウスケとハルタの空気感
ヨウスケとハルタを演じる大西風雅さんと岡﨑彪太郎さんは、実際にも約10年来の付き合い。
開幕前会見では、自分たちの関係を「熟年夫婦みたい」と表現していました。
その長い関係性は、舞台上の二人にも自然に表れているように感じます。
いつもべったり一緒にいるわけではない。
何も話さなくても成立する時間がある。
でも、お互いのことは分かっている。
ヨウスケとハルタの関係にも、言葉で説明しすぎないそんな空気がありました。
二人だけでなく、作品全体にもどこか温かさを感じるのは、このカンパニーの雰囲気も影響していると感じます。

撮影:加藤春日
誰を中心に観るかで、見えてくる物語が変わる
『ナイボー!』は、誰を中心に観るか、どの関係を切り取るかによって、さまざまな見方ができる舞台だと思います。
ヨウスケの成長として観る。
ハルタとの友情として観る。
親子の物語として観る。
夢を託す大人の物語として観る。
あるいは、「自分にとって、本当にやりたいこととは何だろう」と考えながら観る。
同じ舞台でも、自分が今どの立場にいるかによって、響くところが変わるのかもしれません。
野球を題材にしていますが、野球に詳しくなくても、その奥にある人間関係や気持ちを追いながら楽しむことができる作品です。
そして、実際にボールを使う場面は一部だけですが、観ているうちに、舞台上をボールが飛び交っているように見えてくる感じがします。
冒頭で見えた「見えないボール」は、その後もこの作品の中をずっと飛び続けているように感じました。
ヨウスケとハルタ、そして彼らを取り巻く大人たちが作り出す温かな空気とともに、ぜひ劇場でその“ボール”を追いかけてみてください。
(文:松坂柚希)
舞台『ナイボー!』
脚本:横山拓也
演出:眞鍋卓嗣
出演:
大西風雅
岡﨑彪太郎
安達祐実
水野美紀
宇野祥平
山内圭哉
【東京公演】
2026年9月30日(水)~10月18日(日)
東京建物 ぴあ シアター
【大阪公演】
2026年10月22日(木)~10月25日(日)
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
公式サイト:
https://niceball-stage.com/

