これぞWキャストの醍醐味! 柿澤勇人&佐藤隆紀 主演 ミュージカル『ジキル&ハイド』観劇レビュー

ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『ジキル博士とハイド氏』を原作として、人間の持つ“光と影”、そして“表と裏”を描き出すミュージカル『ジキル&ハイド』。
2001年の日本初演以降、再演を重ねる度に高い評価を得てきた本作が、美術や振付などを一新させ、新たなキャストも加えて待望の再演!
初めて観る人には、心臓を突き刺すような強烈な体験を。過去に観たことがある人には、闇の奥底へ吸い込まれるような危険ないざないを。哀しくも美しい狂気が今、覚醒するー。

物語の舞台は19世紀後半のロンドン。心を病んでしまった父を元の状態に戻したいという強い思いを抱えた医師のヘンリー・ジキルは、「完全な善意をもってすれば、人間の中に秘められた完全な悪意を消し去ることができる」という持論の元、人格を操るひとつの薬を開発する。
精神病院の理事会にて効果を知るために実際の人間を使用した“人体実験”を希望するが、「神に対する冒涜だ」と批判の嵐。無残に突っぱねられてしまう。
そこでジキルは、自らを実験台として捧げることを決意。しかしその結果、ジキルの中に眠っていた“悪意の人格=エドワード・ハイド”が現れてしまい、残虐な事件を繰り返していく。

というのが本作の【あらすじ】ではありますが、初見の方は特になるべくまっさらな状態で観たほうが劇場で“目撃”することへのドキドキが増すと思うので、導入はこのあたりで。とにかく「衝撃に備えろ!!」とだけ、お伝えしておきます。

タイトルロールでもあるジキル&ハイドを演じるのは、2023年にも同役を演じた柿澤勇人さんと、今回この難役に初めて挑む佐藤隆紀さん。

柿澤さんが演じるジキルは、見るからに優秀そうな威厳を放っている人物。しかしその威厳の制御がどうも不器用で、薬の実験をまるで理解しようとしない理事会の面々に対して喧嘩腰で論破しようとしてしまうところに、最初からだいぶ危うさが漂う印象。
かと思えば、婚約者であるエマに対して見せる顔は愛情を求める子供のようなあどけなさがあり、そのギャップが魅力的だなと感じました。

一方、佐藤さんが演じるジキルは、真面目さの奥に隠しきれない優しさを放つ人物。ゆえに理事会の面々から少しなめられているような、「こいつは強く言えば抑え込める」と思われてしまってるような感じがして、見ていて苦しかったです。
エマに対してもとても誠実。このまま起承転結とか無視してもらって大丈夫なので、幸せになってくれませんかね…と、願ってしまうほど輝いて見えました。

そしておふたりのハイドへのアプローチが全く違って面白い! これぞWキャストの醍醐味!

柿澤ハイドは言動のすべてが狂暴! 「声優が交代したのか?」と驚いたほど、声色までチェンジするのも本当に怖い。あれはジキルを知る人々の視界に入ったとしても、まさか同一人物だとは思わなかったであろう説得力が強すぎます。これまで様々な柿澤さんの爆発を見て来ましたけれど、理性のネジがぶっ飛んだのちの“触れたら感電死”しそうなハイドの恐怖感はトップクラスでした。

佐藤ハイドは、わかりやすく例えれば『美女と野獣』のビースト。そもそもの髪型が、柿澤さんが短髪なのに対して、佐藤さんはロング髪のポニーテールで、ハイドになると髪を下す姿に野獣感があるのですが、特筆すべきは声! ふんわりとした声色から、獣のように低くダークに変貌。佐藤ジキルのような優しい雰囲気の人の中にも、あれほど衝撃的な悪意が潜んでいるのかと思うと、もう人間なんてやめたくなります。
抑え込んでいたストレスが爆発するって、怖いですね。


※同じ回を観劇していたライターさん達に、「柿澤さんのハイドは色気が凄すぎて、カメラのレンズが曇りそう。大丈夫?」と心配されました(笑)。


※理性が解き放たれた積極的な感じと、元の優しさが見え隠れするソフトタッチな感じが混在しているのがある意味官能的。


※今回は手も注目ポイント。ジキルは右利き。


※ハイドは左利き。交代人格ごとに利き手が変わることは実際にもあるらしいです。脳の働きって不思議ですよね。

名曲「♪時が来た」や、『ジキル&ハイド』を象徴する善と悪の大乱闘曲「♪対決」の魅せ方や凄みもそれぞれの個性が出ていて鳥肌ものでした。チャンスがあるならば、絶対に劇場で浴びないと後悔すると思います。

ハイドが夜の街で出会う娼婦のルーシー役は、2023年公演から続投の真彩希帆さんと新キャストの和希そらさん。

真彩さんは、少女のような無邪気さの中に、娼婦として生きる覚悟や色香を感じるルーシーを華やかに体現。薬の実験について悩むジキルに“ひらめき”の種を与えられたのだと喜び、同時にジキルの表面にある“光”に心惹かれていくルーシーが可愛くて儚くて、思い出しただけで胸が締め付けられます。

和希さんは、夜の顔はクールビューティー、昼の顔は乙女らしいピュアさがのぞく可憐さがあるルーシー。とても素直だけれども、言動の端々に知性も感じられる。ほんの少し環境が違っていれば娼婦以外の仕事も出来ていたのではないかと思ってしまった時、ハイドが抱いたような上流階級への八つ当たり心が私の中にもメラメラと湧き上がってくる感覚になりました。「この人なら」とジキルに希望を見出した瞳の美しさたるや。


※並べて気がつきましたが、真彩さんと和希さんで服のデザインが微妙に違うのですね。大人っぽさと純真さが、それぞれ引き立っていて素敵です。

ゲネプロで拝見したのは、柿澤さん×真彩さんペア、佐藤さん×和希さんペアだったのですが、シャッフルされたら「なぜルーシーはジキルに惹かれたのか」の見え方がだいぶ変わりそうで、想像だけでかなり楽しいです。
勝手な予想ですが、真彩ルーシーは佐藤ジキルの「今まで感じたことのないぬくもり」に感動して惹かれそうですし、和希ルーシーは柿澤ジキルに「前世(宝塚歌劇団での男役)の記憶も疼いて」“危うさ”にさえ惹かれていそうで良いなぁと思っています。だいぶメタな考えですが…(笑)。

本作のもうひとりのヒロイン、ジキルの婚約者・エマ役は、こちらも2023年公演から続投のDream Amiさんと新キャストの唯月ふうかさん。

Dream Amiさんは、ジキルを柔らかく包み込み、ハイドとなっても彼を信じ続ける、芯の強い女性像を豊かに表現。前回公演からさらにミュージカル歌唱の美しさにも磨きがかかっていて、エマが持っている真っすぐな“善”でならジキルを救えるのではないかという望みを託したくなる気持ちも増したような気がしました。

唯月さんのエマからは、ジキルにあたたかく寄り添い、誰よりも真剣に彼の“理解者”になろうと努力する健気さが伝わって来て、とても胸打たれました。「本当に今回が初出演ですか?」と疑ってしまったくらい、唯月さんの清楚な魅力が役にぴったりハマっていましたし、爽やかかつドラマチックな歌声とこの作品の世界観との親和性の高さに驚かされっぱなしでした。

「ジキル」と「ハイド」
現実世界を生きる私達も、多少なりとも「善」と「悪」のグラデーションをその時々でコントロールして生きていることを考えると、「人格を操る薬」の恐ろしさはさておいて、共感できてしまう部分も多い物語だと思います。

今回は、演出面においても“光”と“影”のコントラストがくっきりと、視覚的にもわかりやすいように強調されたライティングなどが印象的でした。同情、愛情、友情…その想いを誰が抱え、誰に向けられているのか。心の機微がより鮮明に見えるようになったことで、目の前で紡がれるリアルな人間達の生き様に、心をグサグサと刺されるような没入感が強くなったように思いました。
世の中素晴らしいミュージカルは数あれど、「人生で一度は観ておいたほうが良い作品は?」と聞かれたら、個人的にはこの『ジキル&ハイド』は5本の指に入る名作だと思っています。何の回し者でもありませんが、もし観に行こうか迷ってこの記事を読んでくださっている方がいるならば、今こそ背中を押せたら嬉しいです。
(※以前より多少控えめにはなっていますが、流血や銃声が苦手な方は注意)

本作は、東京・東京国際フォーラム ホールCで上演されたのち、大阪、福岡、愛知、山形でも上演されます。
詳細は公式サイトで!
https://horipro-stage.jp/stage/jekyllandhyde2026/

(撮影・文:越前葵

公演情報

ミュージカル『ジキル&ハイド』

【原作】R.L.スティーヴンソン
【音楽】フランク・ワイルドホーン
【脚本・詞】レスリー・ブリカッス
【演出】山田和也
【上演台本・詞】髙平哲郎

【出演】
ヘンリー・ジキル/エドワード・ハイド:柿澤勇人 佐藤隆紀(LE VELVETS)(Wキャスト)
ルーシー・ハリス:真彩希帆 和希そら(Wキャスト)
エマ・カルー:Dream Ami 唯月ふうか(Wキャスト)
ジョン・アターソン:竪山隼太
サイモン・ストライド:章平
執事 プール:佐藤 誓
ダンヴァース・カルー卿:栗原英雄

川口竜也 百々義則(劇団四季) 鎌田誠樹 三木麻衣子 川島大典
彩橋みゆ 池谷祐子 岡 施孜 上條 駿 川口大地 木村つかさ
熊野義貴* 藤田宏樹 藤本真凜* 真記子 町屋美咲 松永トモカ(五十音順 *スウィング)

【東京公演】2026年3月15日(日)〜3月29日(日)/東京国際フォーラム ホール C
【大阪公演】2026年4月3日(金)~6日(月)/梅田芸術劇場メインホール
【福岡公演】2026年4月11日(土)~12日(日)/福岡市民ホール 大ホール
【愛知公演】2026年4月18日(土)~19日(日)/愛知県芸術劇場 大ホール
【山形公演】2026年4月25日(土)~26日(日)/やまぎん県民ホール

公式サイト
https://horipro-stage.jp/stage/jekyllandhyde2026/

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