
【インタビュー】赤坂芸術祭2025メイン公演『血は立ったまま眠っている』中屋敷法仁(演出)
東京・赤坂サカス広場に設けられた象徴的な「紫テント」を舞台に、多種多様なアートや芸能の発表の場を創出することをテーマに掲げる「赤坂芸術祭2025」が10月5日(日)にスタート。
メイン公演は、寺山修司の初期作を劇団「柿喰う客」の主宰・中屋敷法仁が演出する『血は立ったまま眠っている』。開幕直前の中屋敷にインタビューし、作品に込める思いや、稽古場での役者達の生き様、観客へのメッセージなどを語ってもらった。(敬称略)
令和の時代に言葉をどう扱うか
――まずは「赤坂芸術祭2025」という取り組みについて、どのような感想をお持ちですか。
今回、紫テントという特殊な環境で上演が出来ることを非常に嬉しく思っています。かつてテントでのお芝居というのは若者達の支持を得たり、時代に影響を与える力を持っていたりしたんですれども、現代では場所や時間の影響でなかなかテントでのお芝居というものが身近ではなくなってしまっているので、こうして赤坂サカスにテントが建っていている景色というのは、すごく嬉しいなと思います。
――紫テントでの上演に寺山修司の初期作である『血は立ったまま眠っている』を選ばれた理由をお聞かせください。
『血は立ったまま眠っている』という作品は寺山修司さんの作品の中でも一番攻撃力が強いといいますか、切れ味が鋭い戯曲だなと思うんです。だからこそ、今回私達がテントの中に閉じこもるのではなく、“テントの中から発信していく”のにふさわしいみずみずしさがあるなと感じたので、選ばせていただきました。
――SNSが活発化した現代でも「言葉は凶器になる」と痛切に感じることがありますが、中屋敷さんが感じるこの作品のメッセージ性や、現代を生きるお客様にどのようなことを感じ取ってほしいなどありますでしょうか。
令和の時代で、劇作家や詩人など、言葉を使う職業はすごくハイリスクだなと感じています。もちろん職業ではなくても、現代においては言葉を扱うこと自体がリスキーで、ものを言わないほうがむしろ安全に暮らせるんじゃないかとすら感じることが多々あって。でもそれだけだと、世の中は良い方向にいかないと思うので、寺山さんのように、言葉の力で、詩の力で、時代を調和させる必要があると思います。
『血は立ったまま眠っている』は1960年代に書かれている戯曲ですけれど、決してその当時の世の中を表しているのではなく、その時代にいた若者達の溢れるエネルギーだとか、世の中に対する虚しさとか、様々なものがない交ぜになっている作品だと思っています。世の中が良いとか悪いとかではなく、「こんな世の中で私達はどういうふうに言葉を残していこうか」ということを考えるきっかけになってくれたらいいなと思っています。
――紫テントという特殊な空間での上演に対して、演出面でこだわっていることなどはありますか。
僕が主宰をしている柿喰う客という劇団も非常に言葉が好きな劇団なんですけれども、やはり大事なのは、言葉と身体と空間ですよね。この関係性を問うていくというのがミッションかなと思っています。単純に朗読をするわけではないので、言葉がまさしく“血”のように、役者の身体にどう流れていくのか。そして、その役者達がどういう空間をつくっていくのか、ということをひとつずつ積み重ねていきたいと思っております。「テントだからこんな演出を」というより、まずは言葉、身体、空間というプロセスをしっかりとつないでいくことを実直にやっていきたいですね。
――寺山修司の戯曲にふさわしいようなみずみずしい出演者が揃っていますが、お稽古場の雰囲気はいかがでしたか。
稽古に入る前は寺山修司という大作家や60年代の時代感など、いろいろなものを背負わないといけないというプレッシャーが皆にあったと思うんですけど、稽古初日でその空気感がすべて変わった気がしています。「“寺山さんと”戦う」というよりは、「寺山さんの言葉を使って“僕達は”どこに届けるか」みたいに主語が変わっていった感じですかね。そういう主体性を持った強い問題意識と、軽やかなエンターテインメント精神を持った素敵なメンバーが揃っていると思います。
――役者の皆さまには、具体的にどのような演出をされたのでしょうか。
この作品を扱うにあたって一番危険なのは、これが詩であるというところなんですよね。意味は?とか、意図は?とかいうことを考えれば考える程どんどん目減りしていってしまうものなので、良い意味で解釈をしすぎず、パッと受けた印象から言葉のイメージを膨らませていくことが大切なのかなと。さらに寺山さんのバックボーンとか時代背景とかまで考え出すと答えがどんどん狭くなっていってしまうんですけど、それは本来詩が持っている可能性を狭めてしまう行為だと思うんです。なので、稽古場で解釈できない言葉というのはむしろいろいろなバリエーションが膨らむものであり、逆を言えばそれは俳優がもともと持っている記憶やイマジネーションを圧倒的に超えてしまうんですね。超えてしまうというのは非常に怖いことだけれど、自分の手に負えないくらいの言葉を抱えることを楽しんでいくしかないといいますか。日常生活では自分で責任を負える範囲の言葉しか話せないけれども、俳優が劇場空間で、さらにもっと宇宙まで言葉を届けるくらいの力を発揮するためには、もっともっとイメージを膨らませる必要がある。なので稽古期間は、「理解できない」のではなくて、「理解を超えた先にある論理的なところに飛んでいく」ための時間だったように感じます。
――今回は日替わりで、外部から個性豊かなゲストの方が出演されますね。
そうですね。戯曲を読んだ時に、「子供」というキャラクターの立ち位置が不思議だなと思いまして、これは座組ではなくて外部から入って来るキャラクターにしたいなと思ったんです。今回、「街の人達」というのは柿喰う客のメンバーで構成されているのですが、それは、雑多な街の人達だけれどもどこか同じ村の匂いがするメンバーにしたいということでキャスティングしました。どちらも、作品をより鮮やかにしてくれる要素だと感じています。
――最後に、観にいらっしゃるお客様にメッセージをお願いいたします!
寺山さんは、一見完成しているものや、固まっているものに対して、軽やかな反抗みたいなものを語り続けていた人のような気がします。『血は立ったまま眠っている』も演劇文化のいちコンテンツではありますけど、これを観ることで皆さまの人生に新しい風穴が開いたら良いなと思いますし、観に来ていただいた方には、ぜひ健やかな気持ちになってもらえたら嬉しいなと思っています!
公演の詳細は公式サイトで!
https://www.gorch-brothers.jp/chi_nemu2025
文:越前葵
赤坂芸術祭2025
『血は立ったまま眠っている』
【作】寺山修司
【演出】中屋敷法仁
【出演】
押田 岳 武子直輝 川崎愛香里
大村わたる 原田理央 長尾友里花 福井 夏
蓮井佑麻 中嶋海央 佐々木穂高 田中 廉
山中啓伍 浦谷賢充
<ゲスト>
10月5日(日)/16日(木)18:30公演 中屋敷法仁(劇団「柿喰う客」)
10月6日(月)18:30公演 三納みなみ
10月8日(水)18:30公演 小御門優一郎(ノーミーツ)
10月10日(金)18:30公演 淺場万矢(Office8次元)
10月11日(土)14:00/18:30公演 吉井翔子(Office8次元)
10月12日(日)/13日(月祝)18:30公演 安里勇哉(TOKYO流星群)
10月14日(火)18:30公演 多和田任益(梅棒)
10月15日(水)18:30公演 田中朝陽
【日程】
2025年10月5日(日)〜16日(木) / 赤坂サカス広場 特設紫テント