愛と憎しみが導く、人生の分岐点。ミュージカル『二都物語』観劇レビュー

ミュージカル『二都物語』

文豪チャールズ・ディケンズ不朽の名作『二都物語』。
物語の舞台となるのは、フランス革命の真っ只中にあるフランスとイギリス。ミュージカルがお好きな方は、フランス革命にはだいぶ詳しいのではないかと思いますが、この『二都物語』が描き出すのもその、“貴族階級” VS. “市民階級” が残虐なまでに激しかった時代であり、闘争の最中で懸命に生きた民衆達の物語です。
※パンフレット記載範囲内のストーリーが含まれます。まっさらな気持ちで観劇したい方は、そっと閉じてください。


ミュージカル『二都物語』


ミュージカル『二都物語』

物語は、フランスのバスティーユ監獄に17年もの間投獄されていたドクター・マネット(福井晶一)が、居酒屋を営むドファルジュ夫妻(橋本さとし、未来優希)に保護されていると知った娘のルーシー(潤花)が迎えに行く、という場面から始まります。
そもそもこのドクター・マネットがなぜ投獄されたのかという理由も、フランス革命期の混乱と異常さが煮詰まったような理不尽にもほどがある内容なのですが、それは物語後半に明かされることなので、控えます。


ミュージカル『二都物語』

ルーシーは、自らが暮らすロンドンへ父と帰ることを決意。その帰路でフランスの亡命貴族チャールズ・ダーニー(浦井健治)と出会いますが、彼もまた、ルーシーの目の前で突然スパイの濡れ衣を着せられて逮捕されてしまいます。

そのピンチを救ったのは、ロンドンで弁護士事務所を開いていたシドニー・カートン。登場早々、ちゃんとダーニーを助けてくれるのか心配になるほど、お酒に酔っています(苦笑)。


ミュージカル『二都物語』
※シドニー・カートン(井上芳雄さん)です。


ミュージカル『二都物語』
※起きて、カートン!

…でも大丈夫!(?) いろいろありまして、ダーニーは無事に無罪放免。カートンは、「良かったね☆ 感謝してるなら酒奢ってよ!」ということで、行きつけの酒場を紹介してくれます(おい!)。この時点でカートンとダーニー、2人の歩んできた道の違いが明確に現れているのですが、物語の行く末を知っているとまだカワイイもの。フランス革命によって歪められた社会情勢の中、2人の運命はさらに違う道へと進んでいきます。


ミュージカル『二都物語』


ミュージカル『二都物語』
※この場面で、カートンは「手持ちの札で出たとこ勝負の人生」だと語り、ダーニーが「人間は己の運命を変えることができる。そうは思わないのか?」と問いかけているんですよね。いやぁ…(頭抱え)。観劇後に思い出すと結構胸が痛くなりませんか…。

カートンとダーニー、そしてルーシーは、この事件をきっかけに親交を深め、やがてカートンとダーニーの両方がルーシーに対して好意を抱くようになります。
こういう図らずもヒロインを奪い合う構図になってしまった物語を観るたびに私が学ぶのは、「やっぱり大事なのは積極性なのだな」ということ。豪快に思えたカートンは、実はかなりピュアで、密かな優しさを持って見守る姿勢を大切にするタイプ。私達観客は、優しさゆえの奥手感だとわかりますが、ルーシーは、「カートン、ギャップ萌え!」となるはずもなく…。


ミュージカル『二都物語』
※中の人が井上芳雄さんだとしても見たことないくらいの、この笑顔! ルーシーには、こんなに無邪気で可愛い笑顔を見せるカートンに胸がキュッとなります。あぁ…(頭抱え)。


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※プロポーズの仕方が紳士的なダーニー。しかも、ルーシーに会う前に、父親のドクター・マネットの承諾は得ています。素晴らしい。

一方の爽やか系亡命貴族ダーニーは、描かれていない場面でもかなりのアプローチしていたのだろうとわかる、積極性の高さが見えるタイプ。もしかしたらダーニーとルーシーは一目惚れだったのかもしれないけれども、結婚を申し込むまでにはいろいろと尽くしてきたのだろうというのは、ルーシーの幸せそうな顔を見ればわかります。


ミュージカル『二都物語』

2人の思いを知り、身を引くカートン。しかしそこから数年後、ダーニーが昔の使用人の危機を救うために祖国フランスに戻り、フランス革命により蜂起した民衆達に捕らえられてしまいます。再び裁判にかけられたダーニーの運命と、ダーニーとルーシーの幸せを願うカートンが決心した衝撃的な結末とは…。


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ミュージカル『二都物語』

ルーシー・マネットを演じるのは、2023年に宝塚歌劇団を退団し、本作が退団後初のミュージカル出演となる潤花さん。潤さんの魅力は“底知れぬ純粋さ”だと、個人的には思っているのですが、今回はその魅力が役と見事にマッチしていると感じました。誰にでも平等に優しく接する女性ゆえに感情の色が見えづらく、演じ方も難しい役だと思いますが、観ていて共感もできるルーシーだったように思います。
そしてこれも個人的な意見ですが、宝塚にいた時よりも、セリフの言い回しの癖のようなものが薄くなり、柔らかな声がより洗練されたなと思いましたし、歌も相当練習をされたのだろうと感じました。これからのご活躍も、楽しみです。


ミュージカル『二都物語』

チャールズ・ダーニーを演じるのは、浦井健治さん。まず驚いたのは、12年前からの続投とは思えないほどのビジュアルのキラキラ感。むしろ年々若返ってすらいるような気がするのが、本当に恐ろしい方です。潤花さんとの並びも美しくて、私が側近だったら、「今すぐ画家を呼んで描かせろ。後世に残せ」と絶対に言いたいと思いました。


ミュージカル『二都物語』
※画角的に難しかったですが、とてつもなく正面から観たかった家族の画。ルーシーのあたたかい笑顔から、幸せさが伝わってきます。

ダーニーには、今回の再演からソロ曲(『♪もう一度だけ』)が追加されています。ルーシーへの想いを歌ったバラードなのですが、悲痛な歌詞に、浦井さんのあたたかみのある声が合わさって浸透力がすごい。ぜひ劇場でお聞きください。


ミュージカル『二都物語』


ミュージカル『二都物語』

シドニー・カートンを演じるのは、井上芳雄さん。浦井さんと同様に12年前からの続投。変わらぬ瑞々しさと、増した存在感で、カートンという人間の生き様により深みが出たように感じました。何より井上さんが演じるカートンは、可愛いとカッコイイの計測器が壊れるのではないかと思うくらい飛び抜けているんですよね。人生に絶望し、引け目があるからこそ恋心は隠しながら、ルーシーやダーニー、2人の娘に愛情深く接する。そしてその愛が行き着く先が、潔いというか、カッコよすぎるというか…。劇場を出る頃に、カートンへの感情が迷子になった方、多々いると思います。本当に最高の続投、ありがとうございます。

その他のキャスト、ドクター・マネット役の福井晶一さんも今回大迫力のソロ曲が追加されたので語りたいですし、ドファルジュ役・橋本さとしさんも哀愁を増して続投ですし、未来優希さんが演じるマダム・ドファルジュの過去も壮絶すぎて語りたいし、魅力的な人物すべてを紹介したくなるけれども、長くなる一方なのでやめておきます。ぜひ劇場に会いに行ってほしいです。


ミュージカル『二都物語』


ミュージカル『二都物語』

文豪チャールズ・ディケンズ不朽の名作『二都物語』。
恐怖心や怒りを蓄えた人間が集団になると、個を哀れむ力が失われ、狂気と化す。その残酷さを如実に表し、人は何のために生きるのか、幸せとは何なのか、人生の価値は何によって決まるのかなど、様々な問いかけを与えてくれる本作。
どんな気分で観劇に来ても、帰るときはきっと、強く地面を踏みしめて未来を歩んでいこうと思える作品だと思います。穏やかな笑顔のカートンに、背中を押されながら。


ミュージカル『二都物語』

本作は、東京・明治座で上演されたのち、大阪、愛知、福岡でも上演されます。
詳細は公式サイトで!
https://www.tohostage.com/ataleoftwocities/

(撮影・文:越前葵

公演情報

ミュージカル『二都物語』

【脚本・作詞・作曲】ジル・サントリエロ
【追加音楽】フランク・ワイルドホーン
【原作】チャールズ・ディケンズ(「オリバー・ツイスト」「クリスマス・キャロル」)

【翻訳・演出】鵜山仁

【出演】
シドニー・カートン:井上芳雄
チャールズ・ダーニー:浦井健治
ルーシー・マネット:潤花

マダム・ドファルジュ:未来優希
エヴレモンド侯爵:岡幸二郎
バーサッド:福井貴一
ジェリー・クランチャー:宮川浩

ドファルジュ:橋本さとし
ドクター・マネット:福井晶一

ジャービス・ロリー:原康義
ミス・プロス:塩田朋子
弁護士ストライバー:原慎一郎

荒田至法 榎本成志 奥山寛 河野顕斗 後藤晋彦 砂塚健斗 田中秀哉 常住富大 福永悠二 丸山泰右 山名孝幸 横沢健司 彩花まり 石原絵理 岩﨑亜希子 音道あいり 樺島麻美 北川理恵 島田彩 原広実 玲実くれあ

大村つばき 齋藤菜夏 高木郁 若杉葉奈
張浩一 松坂岳樹
(五十音順)

【東京公演】2025年5月7日(水)~31日(木)/明治座
【大阪公演】2025年6月7日(土)~12日(木)/梅田芸術劇場メインホール
【愛知公演】2025年6月21日(土)~29日(日)/御園座
【福岡公演】2025年7月5日(土)~13日(日)/博多座

公式サイト
https://www.tohostage.com/ataleoftwocities/

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